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氷炎剣伝説

まだ、ギルドの体制が今よりも整っていなかった時代のこと。
痩せこけた貧しい辺境地の村が出身だという彼女と知り合ったのは、1年ほど前になる。

手先が器用でもない、頭が特別良いわけでもない、ただ人よりも身体が頑丈なだけの
自分が、大量の借金を抱えた村のためにできることを考えていたら、ハンターになっていた。
そう言いつつも、暗さを感じさせない彼女の、強い意志を秘めた薄い水色の瞳に、
わたしは何時だって見惚れたものだ。

「ねえ、聞いて。私、今度1人だけで、あのリオレウスを狩りにいくのよ」

わたしの尽力と彼女の優秀な才能もあってか、下位からほどなくG級ハンターに昇格した
彼女は、ある日そう言ってはしゃいだ。

「リオレウスだって? 1人で大丈夫なのかい」
「もう、私の実力くらい、知ってるでしょう。心配しないで」
「知ってるから、余計に心配なんじゃないか。君はアイテムを使うのが下手糞だからな。
 ほら、この前のグラビモスの時だって、」
「ちょっと、それはもう言わないで!」

わたしの言葉を、彼女は悲鳴のような声で遮った。
先日、彼女と沼地のグラビモスを 狩りにいった際、彼女はあろうことか、
グラビモスの鼻先で肉を焼き始めてしまったのだ。
きっと、ボタンを押し間違えたんだろう。

そんな彼女を狙い、グラビモスが口から炎を揺らめかせるのを見、わたしは心底肝を 冷やしたものだ。
幸いなことに、彼女の位置がややずれていたのと、距離が近すぎたおかげで、生肉ともども
彼女がこんがり肉になる事態は避けられたのだが。

「なら、もう言わない。でも、また君がリオレウスの鼻先で肉でも焼き始めるんじゃない
 かと思うと、」
「もう! 大丈夫だったら!」

べん、と乱暴に机を叩いて立ち上がる彼女を見上げ、少しからかいすぎたかと反省する。
まあまあと彼女をなだめてもう1度座らせると、今度はわたしのほうから話を切り出した。

「だが、丁度良かった。わたしも実は、同じくらいの日に依頼を受けていてね。君がいない
 間、寂しい夕食をせずに済みそうだ」
「ふうん、どこに行くの」
「さて、どこだかね」

はぐらかすわたしに、彼女は顔を顰めた。

「なにそれ、場所も分からずに依頼を受けたの?」
「ははは……獲物がイャンクックだってことは、分かってるよ」
「もう、貴方って、たまに凄く抜けてるわよね。ホットドリンクとクーラードリンク
 よく間違えるし」

先程の仕返しのつもりか、少し前のクエストの話を持ち出そうとする彼女の口を、わたしは慌てて塞いだ。

「しー、それは言わないでおくれよ。ところで、クエストから帰ってからの話なんだけど……」
「なに? 帰ってきたら、私も提案したいことがあるのよ」

そう言って、可愛らしく耳を傾ける彼女の薄い水色の瞳をみつめ、わたしは少しだけ緊張した面持ちで、言った。


「帰ったら…………結婚、し」
「待って!」

わたしの一世一代の告白は、彼女の鋭い声によって遮られてしまった。
呆然とするわたしに、何故か、彼女は酷く怒った顔で、

「なんてこと、言うの!」

と、わたしを叱った。
状況が上手く飲み込めず、ぽかんとした顔をするわたしを睨み付け
(リオレウスだって飛んで逃げそうな迫力だった)、彼女は叫んだ。

「ずるい、私のほうが、先に言う筈だったのに!」
「えっ」

思わず間の抜けた声が出てしまった。
そんなわたしに、彼女は、今度はにっこりと微笑み、

「……狩りから帰ったら、結婚しよっか」

と、言った。
わたしは答えるかわりに、そっと彼女を引き寄せ、柔らかな唇に口付ける……わたしの
レウス一式の鎧が、彼女のレイア一式の鎧とぶつかり、かつんと音を立てた。



「では、今回で貴方も退職ですか。それはおめでとう御座います。寂しくなりますねえ」
「無駄口を叩かないで、さっさと依頼書を回してくれ」

ギルドガードロポス紅のつばをくいっと上げ、にやにやと笑う男の顔を、わたしは
睨み付けた。
懐から芝居がかった仕草で、恭しく羊皮紙を取り出す男の手から取り上げたそれに、
素早く目を通す。

「森丘で密漁……しかも、イャンクックの雛か」
「悪い奴もいるものですよね。まあ、結構な金になるみたいですし、気持ちは分からない
 でもないですが」

意地悪げに笑う男に顔を顰め、わたしは羊皮紙を懐へとしまい込んだ。

「とにかく、これでわたしはこの仕事から完全に手を引く。もう、関わってくれるなよ」
「ふふふ、退職者を追いかけ回すほど、我々も暇では御座いませんよ。それでは」

そう言って、さっさとわたしの前から立ち去る男の背中を見送り、わたしは溜息を吐いた。
男と色違いの防具を身に付けたわたしは、奴と同じギルドナイトの1人だった――それも、
ギルド上層部から依頼を受け、ギルドや政府関係者が雇った犯罪者のハンターを秘密裏に
始末する、薄汚れた部類の。

犯罪者と言っても、モンスターを殺すのとはわけが違う。
自分と同じ、人間だ。
今までずっと、彼女に打ち明けられないままでいたが、それもじきに終わる。
今回の件が 片付けば、ギルドからまとまった金が出る。
その金で彼女と、彼女の村を救うのだ。なんなら、彼女と一緒に村へ行って、そこで静かに暮らすのも良い。

わたしは、深く深呼吸をした。大丈夫、きっと上手くいく。



「では、今回で貴方も廃業ですか。それはおめでとう御座います。寂しくなりますねえ」
「無駄口を叩かないで、さっさと調査書を渡してちょうだい」

別れた男が、その後誰に会っているかなんて、わたしは想像もしていなかったのだ。

夜の森丘だ。
少今頃は、彼女もリオレウス相手に頑張っていることだろう。
心の中で彼女にエールを送り、わたしはランポスを始末するのに使った、小振りの片手剣をしまった。
土と、少しの獣臭さの漂うここは、大型のモンスターたちの巣に利用されているらしい。
巣には大きな卵2つと、麻酔薬で眠らせたイャンクックの雛が1匹。
親は他の ハンターが引きうけてくれている。

わたしは慎重に自分の足跡を消し、エリアの奥へと身を潜めた。
ここから、雛を狙ってやってきた密漁者を……仕留める。
手にはモンスター用の武器とは明らかに違う、簡素で、飾り気がなく、威力に乏しい
弓矢があった。
王国のほうで多く売られている量産品だ。
ハンターの武器と違って癖がなく、誰が使ったものか分かり辛い……対人間の武器なのだ。

身を潜めてしばらく。
そろそろ身体の節々が痛くなり始めたわたしの耳に、モンスターのものとは違う足音が聞こえた。

「……」

辺りをうかがい、こそこそとイャンクックの巣に近づく人影。
間違いない、密漁者だ!
万が一のことを考え、顔を見られないようギルドガードロポス蒼を深くかぶり、
わたしは弓を構える。
目的の物を見つけたのか、それとも気配を察してか、人影が立ち止った。
そしてわたしは――矢を、引いた!

「――あっ、!?」

狙い違わず密漁者の心臓を捉えたかに見えた矢は、密漁者が持っていた片手剣によって
弾かれてしまった。
なんという失態!
わたしは隠れ場所から躍り出ると、弓矢を投げ捨て、そのまま一直線に密漁者へと走り出す。
シルエットからして、女。装備はゲリョス一式だろうか。
防具の薄い場所を瞬時に
計算し、わたしは片手剣を突き出した!

「ぐ、っ!」

くぐもった声と、水音。
手応えはあった。
最初の弓矢で仕留められなかったのは痛恨のミスだったが、仕方がない。
まだ息のある密漁者に 反撃されないよう、距離を取ろうとしたわたしは、その時信じられないものを見た。
見てしまった。
その、密漁者の……顔は――!

「っが、ぁっ!」

突然、脇腹に焼けるような痛み。
呻き、下を見ると、わたしの腹に突き刺さった、見覚えの ある片手剣が見えた――ああ、これは……。
「……、」

わたしは、密漁者――彼女の肩を掴み、そっと引き離した。
悔し涙に濡れる彼女の顔が、わたしの顔を見るなり凍りつき、それからくしゃりと歪んだ。
わたしも彼女も、なにが起こったのか悟った。
がくりと足から力が抜け、わたしは彼女もろとも地面に崩れ落ちた。
とても疲れていた。

「……わた、し、」
「…………良いんだ……」

最後の力で彼女の髪を撫で、わたしは微笑んだ。
彼女も、微笑み返してくれた。
涙と泥と血に濡れても、彼女はとても美しかった。






「と、ゆーよーな経緯がありまして、2人の小振りの片手剣を改良したのがこの双剣、
 氷炎剣ヴィルマフレア! 舌噛みそうな名前!」
「なんか、呪われてそーな双剣だな……装備したら解除できないとか、ないよな?」
「ねーよ」

ハンターたちで賑わう酒場の片隅で、おニューの双剣のお披露目中である。
けたけたと笑い合う2人のハンターは気が付かなかったが、彼らの後ろの席に座る初老のハンターがぼそりと一言、

「おや、懐かしいですねえ……」

などと呟いたのだった。
2010年07月09日(金) 21:12:46 Modified by wktk2046




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