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【動画】MH DEFENSE「How good China Latest Version of the Z-20 helicopter」Z-20Fの解説動画


Z-20F対潜哨戒ヘリコプター (直昇20F)は、2018年12月に試作機が初飛行[1]した中国海軍最新の対潜ヘリであり、今後の中国海軍の主力艦載ヘリの地位を占めるとみられる重要な機体。基本設計を共有する艦載輸送ヘリコプターとしてZ-20Jも並行して開発が進んでいる[1]。

Z-20Fの設計のベースとなったのは、アメリカ軍のUH-60「ブラックホーク」の民間型であるS-70-2汎用ヘリコプターに強い影響を受けて開発された中国陸軍航空隊向けのZ-20輸送ヘリコプターである[2]。アメリカで、UH-60をベースにしてSH-60に発展させたのと同じ手法が、Z-20Fの開発においても実施されることになったのである[2]。

ここで、中国海軍にとってのZ-20Fがどのような立ち位置にあるのかについて触れる。

Z-20は、陸軍航空隊のヘリコプターの空白地帯となっていた10t級の汎用輸送ヘリというジャンルを充当するために開発された経緯があるが、海軍にとってのZ-20Fも同様の役割を果たす存在であった[2]。

中国海軍の艦載対潜哨戒ヘリコプターは、(大型で航空母艦以外の搭載が難しいZ-18を除くと)フランスから技術導入して国産化した小型ヘリであるZ-9C/Dと、1990年代以降にロシアから輸入した中型ヘリのKa-28に二分される[2]。しかし、Z-9C/Dは小型機としての制約から搭載機器が制限され、その対潜作戦能力や航続距離は十分とは言い難いものであった。一方、Ka-28の方は旧東側を代表する対潜哨戒ヘリでありZ-9C/Dとは異なり相応の機体サイズを確保していたが、開発時期の問題から装備やセンサーの旧式化が進んでおり、何よりも供給を外国に依存していることから増勢には限度があった。

中国海軍の外洋海軍化にとってネックの一つとなっているのが対潜哨戒能力の向上であり、そのためには現状のアンバランスな対潜哨戒ヘリコプター戦力の改善は避けられない課題であった。海軍では、この両者を一機種で更新し得る国産の10t級の中型対潜哨戒ヘリコプターを欲しており、Z-20Fはそれを具現化する存在となったのである[2]。

【機体設計】
Z-20Fは基本的な設計は陸軍航空隊向けのZ-20を踏襲している部分が多いが、艦載化に伴う変更箇所が多々見られる。

まず、機体に施された変更箇所について記述する。艦載化に当たって、陸上基地より面積の制約の大きい艦艇での運用に適合させるため、メインローターとテイルローターにそれぞれ折り畳み機構が追加された[2][3]。折り畳み機構は電動化されており、30〜40秒と短時間での展開・収納が可能[3]。

さらに、テイルブーム自体も左側に折りたたんで全長を短縮する機能が付与され、それに合わせ、Z-20ではテイルブーム後端に配置されていた尾輪が、テイルブーム直前の胴体下部中央に配置換えされた[2][3]。これは艦載化に当たってテイルブームを左側に折りたたんで駐機中の機体長を節約するための措置で、原型のSH-60の配置を取り入れたものであった。メインローターとテイルブームを折りたたんだ状態のZ-20Fの全長は12.5mと、小型機であるZ-9C/Dの全長11.5mと大差ないサイズとなり、折り畳み機構の効果の高さを実証するものとなっている[2]。水平尾翼についてもZ-20では長方形だったものが、折りたたむ際の干渉を防ぐため、後縁の中央部に凹みを付けた形に変更された[3]。尾輪配置を変更したのは艦艇で運用する上でもう一つのメリットが存在した。尾輪を前進させたことにより、主脚と尾輪の間の長さは原型のZ-20の約半分となる5.5mにまで減少[2]。これは限られた面積のヘリコプター甲板に着艦する上で無視できない利点となる。テイルブームの設計も見直されており、全長が短縮されると共に胴体とのつなぎ目の段差もZ-20よりなだらかにされている[2][3]。

洋上運用を前提とするZ-20Fでは、緊急時の不時着水を考慮する必要があり、着水時の水没を遅らせるため胴体下部の四箇所にエアバックを内蔵し、必要な際にはそれを展開して浮力の確保を図る[3]。テイルブーム基部下面には事故の際に用いるビーコンを搭載しており、緊急時には無線信号を発信して救助を要請する[3]。

Z-20では胴体両側面に横開き式ドアを配していたが、Z-20Fでは小型化したドアが右側にあるのみで、左側ドアは廃止され、視認用窓が一か所だけ残された[3]。その後方は対潜作戦で用いるソノブイ収納区画とされ20〜25基を収納する[3][4]。ここはソノブイ未搭載時にはほかの部分と同じ外板で覆われる。胴体下部には吊下式ソナーが収納されており、ソノブイと合わせて対潜捜索において用いられる[4]。

【着艦拘束装置の変更】
艦載ヘリコプターは揺れる船体の狭い甲板に着艦する必要があるため、着艦時のリスクを軽減する着艦拘束装置を採用する国も多い。

中国海軍の艦載ヘリコプターで着艦拘束装置を採用しているのはフランスの「ハープーン」システムを搭載するZ-9C/Dが存在するが、Z-20Fはそれとは異なるタイプの着艦拘束装置が採用されている。その形状から、カナダで開発された「ベア・トラップ」システムとの類似性が指摘されている[2]。

着艦拘束装置の変更の原因としては、「ハープーン」システムが4tクラスまでの小型機を対象としたものであり、10t級の中型機であるZ-20Fで用いるには力不足であるためと考えられている[2]。

Z-20Fの着艦拘束装置に関する情報はまだ乏しく。今後のさらなる情報公開が待たれる所。

【エンジン】
Z-20Fのエンジンについての情報は乏しく、搭載エンジンの型式名など詳細は不明。艦載ヘリコプターとして運用されることを想定するのであれば、洋上での使用を前提とした防錆・防塩対策の導入。装備増加に対応した出力強化、長距離飛行を前提としたエンジンの信頼性改善などの措置が盛り込まれると考えられる[3]。

【アビオニクス】
Z-20Fは対潜哨戒を主任務とすることから、アビオニクスについても大きな変更が施されている。Z-20より少し大型化された機首レドームには気象観測レーダーが収納され、その前方にはZ-20には無い光学電子センサーを内蔵した旋回式ターレットが新たに配置された[4]。これは火器管制システムとも連動しており兵器システムの照準や誘導に用いることが出来る[3]。

コクピットの直下には円筒形のレドームが配置されており、この中には海上捜索用レーダーが配置されている。これは潜水艦の潜望鏡のような僅かなレーダー反射も探知可能な優れた探知能力を備えており、Z-20Fの洋上捜索能力の鍵となる存在[2][3][4]。このレーダーは全周探知が可能であり、通常飛行をしながら洋上捜索を行うことが出来る[4]。

後部胴体側面には電子戦用アンテナが配置されている。その直後のテイルブーム基部上方には陸軍のZ-20のものよりも大型化したドームを積んでいる。これは衛星通信用アンテナであると見られている[4]。現在の海戦では各部隊を衛星通信網でリンクして統合運用を行うことが大前提であり、Z-20Fもそれに違わず衛星通信網を活用して作戦を遂行すること裏付ける装備であると見なされている。

Z-20Fでは自己防衛システムについても変更が見られる。Z-20ではレーダー波警告システムとミサイル接近警告システムを搭載していたが、Z-20FではZ-20とは異なる「簡易版」が搭載された[2][3]。これは地上作戦で歩兵による携行地対空ミサイルの脅威への対処が求められるZ-20と、見晴らしの良い海上での運用を想定しているZ-20Fとの相違に起因していると考えられる。

その他、Z-20と変更がない点については本項では割愛する。

【兵装】
対潜哨戒を主任務とするZ-20Fは対潜魚雷や爆雷などの各種兵装の搭載を想定している。兵装は、胴体後部側面に一基ずつ設けられたパイロンと、前部降着装置の上、胴体の中程に装着する着脱式短翼(それぞれ二箇所のパイロンを有する)に、合計六か所の兵装ステーションを有する[3][4]。

対潜作戦の場合、二発の航空魚雷を胴体パイロンに懸架する[3][4]。これまでの中国海軍の艦載対潜ヘリ二本の魚雷を懸架できたのは大型機であるZ-18Fのみで、主力機であるZ-9CとKa-28の魚雷搭載数は1本に留まっていたので、Z-20Fが二本の魚雷を懸架できるのは対潜作戦における選択肢を増やす意義のある改善点である。同じく対潜任務で用いる対潜爆雷の場合は、合計8発を搭載する[3][4]。

水上目標や地上目標の攻撃に際しては、短翌のパイロンを活用して、YJ-9空対艦ミサイル×2、もしくはAKD-10/AKD-9空対地ミサイル×8を用いてスタンドオフ攻撃を行う[3][4]。YJ-9はヘリコプターへの搭載も可能な小型対艦ミサイルで最大射程は15km[5]。AKD-10はZ-10攻撃ヘリコプター用に開発された対戦車用の空対地ミサイルで最大射程は7km。AKD-9はAKD-10の派生型でありZ-10より小型のZ-19攻撃ヘリコプターへの搭載を想定して小型軽量化を図ったもの。

この短翼には、対潜作戦の際に活用する磁気探知装置ポッドを懸架することも想定されている[3]。

【今後の見通し】
Z-20Fは2023年6月現在で4機の試作機の製造が確認されている[1]。

高出力のエンジンに支えられた高いペイロードを生かして、作戦に応じて各種兵器を搭載して多様な任務に投入し得る能力を有しているZ-20Fは、これまでの中国海軍の艦載ヘリになかった能力を備えた機体であり、艦載ヘリの戦力を大きく向上させることは言を待たないだろう。

今後の課題は、Z-20Fの開発完了と部隊配備の進捗状況、そして同機を用いた対潜作戦ノウハウを確立していく事と、建造された多数の水上戦闘艦艇に見合わない定数割れの機数である艦載ヘリコプター保有数[6]を、艦艇の数に対応したものに増勢していく過程に移っていくことになろう。

ここで問題となるのは、これまでの中国海軍の駆逐艦やフリゲイトのヘリコプター甲板は全長がコンパクトなZ-9C/DとKa-28の搭載を前提に設計されているので、そのままだとZ-20Fの運用に支障を来すことになり、甲板面積の拡大や、Z-20Fに対応した新型着艦拘束装置の導入も不可避となる点である。事実、米海軍との合同演習の際に、054A型フリゲイトへの着艦を試みたSH-60が着艦出来なかった事態が発生したことがあり、Z-20Fの着艦に支障を来す可能性を示唆する事例と言える[7]。

近年建造が進んでいる055型駆逐艦052D型駆逐艦後期建造艦054B型フリゲイトはヘリコプター甲板の面積を拡大してZ-20Fの運用に対応しているが、既存艦艇をどのように対応可能にするかが今後の課題となる[8]。

【参考資料】
[1] Chinese Military Aviation「Z-20F/J」http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/he...
[2]银河「鹏翼万里-进入20时代的中国海军舰载直升机」『舰载武器』2020.04/No.335(中国船舶重工集团有限公司)16〜33頁
[3]天一 (製図)「鹏翼万里-进入20时代的中国海军舰载直升机图示」『舰载武器』2020.04/No.335(中国船舶重工集团有限公司)5〜8頁
[4]秦风「可搭载直-20F反潜直升机—浅析054B护卫舰的反潜能力」『兵工科技』2023.18(兵工科技杂志社)25〜34頁
[5]Navy Rcognition.com「Chinese Navy conducts firing test of new YJ-9 anti-ship missile from Z-9D naval helicopter」(2021年4月10日)https://navyrecognition.com/index.php/focus-analys...
[6]荒木雅也「中国海軍総論」『現代中国人民解放軍総覧』(アルゴノーツ社/2023)121〜144頁、143頁
[7]新浪网-新浪军事「我海军4艘054A齐聚亚丁湾 护航10年该舰最可靠耐用」(2018年10月11日)https://mil.news.sina.com.cn/jssd/2018-10-11/doc-i...
[8]温雨「人民海军新护问世-054B型的设计特点与未来任务」『舰载知识』2023.11/No.530(舰载知识杂志社)52〜61頁

【関連項目】
S-70C-2汎用ヘリコプター(中国)
Z-20輸送ヘリコプター(直昇20/神雕-20)(陸軍)
Z-20J輸送ヘリコプター(直昇20J)(海軍)
Z-20K輸送ヘリコプター(直昇20K)(空軍)
中国海軍

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