264 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-01/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 03:59:13 ID:MzuLCShk
265 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-02/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:00:22 ID:MzuLCShk
266 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-03/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:01:09 ID:MzuLCShk
267 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-04/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:01:53 ID:MzuLCShk
268 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-05/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:02:40 ID:MzuLCShk
269 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-06/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:03:16 ID:MzuLCShk
270 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-07/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:04:03 ID:MzuLCShk
271 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-08/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:04:34 ID:MzuLCShk
272 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-09/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:05:15 ID:MzuLCShk
273 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-10/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:06:56 ID:MzuLCShk
274 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-11/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:07:43 ID:MzuLCShk
275 名前:熱き彗星の魔導師たち 29-12/12 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/06/16(火) 04:08:16 ID:MzuLCShk

 ズズン……ズズズズ……
 ユーノとウェンディが艦橋に通じる扉をくぐった途端、激しい振動が『ゆりかご』を揺
さぶった。ユーノは一瞬つんのめりかける。
「今の振動は!?」
 2人は険しい表情で周囲を見渡す。ユーノが反射的に言った。
「うわっ!? なんっスかこれは」
 2人が艦橋に入ると、床が抜けて大穴が開いていた。ウェンディが素っ頓狂な声を出す。
「アリサ……また無茶やったね?」
「るさいわよ」
 その穴の下から浮遊魔法で上昇して来たアリサは、ユーノにそう言われて、空中を直立
の姿勢で漂うようにしながら、不機嫌そうに言う。
「ヴィヴィオ!」
 なのはの声に、3人はその聞こえてきた方を見た。

熱き彗星の魔導師たち〜Lyrical Violence + StrikerS〜
 PHASE-29:A sacred king is two persons(後編)

「うあぁぁぁぁっ!!」
 先程よりは弱まったが、ヴィヴィオからの波状的な魔力放出は続いている。
「ヴィヴィオ!」
 なのはがそれに接近しようと試みているが、ピンク色のシールドが魔力の波とぶつかっ
て激しく火花を散らしている。
「ヴィヴィオ!?」
 ウェンディが素っ頓狂な声を出し、ユーノと共にその姿を凝視した。
「暴走してるの?」
「フネの動力とリンカーコアがリンクさせられてる、ヴィヴィオ本人にも制御できないみ
たい」
 ユーノの問いかけに答えたのはフェイトだった。なのはをアシストするように、張られ
た『聖王の鎧』に向けて、貫通は出来ないことを承知でフォトンランサーを放ち続けてい
る。
「せめて、A.M.F.が完全に解除できれば……」
「出来ないんスか?」
「艦の制御系がベルカ式だから、私達には難しい……っ」
 魔力放射の波が迫り、フェイトは射撃を中断してシールドを張る。
『Round Guarder』
 ユーノがヴィヴィオに向かってアリサの前に出る。緑のラウンド型シールドを展開し、
魔力放射の波を遮る。
「ベルカ式……レンかシグナムを引っ張ってくるんだった……」
 ユーノの背後からヴィヴィオを見つめつつ、アリサは自分の判断を悔いるように言った。
「苦労してるみてーだな」
 アリサやウェンディ達のさらに後方で、その場にいる人間に聞き覚えのある、だが、そ
の理由がわからない声が聞こえてきた。
「ヴィータ!?」
 声の主を振り返って、アリサが目を真ん円くして声を上げる。
「アンタ、どーしてここに」
「け、留守を守れなかった予備隊々長が存在意義なんかあっかよ」
 ヴィータははき捨てるように言った。
「そういう問題じゃないと思うけど」
 ユーノはシールドを這ったまま、ヴィータを軽く振り返って、苦笑した。
「どうせ降格処分待ちの身だしな、おめーらだけじゃ心配だから追っかけてきたんだ」
 ふてくされた様な表情のまま、ヴィータは歩いてウェンディとすれ違い、アリサの傍ら
まで来た。
「もっとも偉そうな事は言えねー、ついさっきまで対空射撃破れなくて外をうろちょろし
てただけだからな。それが止んだんでやっと取り付けた。それに」
 不愉快そうな表情のまま、愚痴るように言ってから、
「その子が連れ去られた責任ぐらいは、とらなきゃなんねーだろ」
 と、真摯な目でヴィヴィオに視線を向け、そう言った。
『Ein Operationssystem wird gerufen』
 グラーフアイゼンのシステムボイスが告げる。ヴィータの足元に真紅の、古代ベルカ式
の魔法陣が出現し、駆動する。
 そのヴィータを取り囲むようにして、先程までクアットロの周囲に出現していたものと
同じ、パイプオルガンのそれを思わせる非実体コンソールが現れた。
「…………」
 コンソールに手を伸ばし、キーに指を滑らせる。
「ヴィータちゃん!」
 なのはがヴィヴィオと凌ぎ合いながら、焦れたような声を出す。
「急かすな、本来こー言うのはあたしの得意分野じゃねーんだ」
 声を荒げて言い返しつつも、ヴィータ自身も焦ったような表情になりつつ、操作を続け
る。
 だが────
「ちっ」
 やがて、ヴィータは毒つくように舌打ちした。
「どうしたのよ」
 アリサが軽く驚いたように問いただす。
「ヴィヴィオを離すことは出来る、ここはスカリエッティが後からいじくった部分だろー
から、外部から干渉できる」
 ヴィータは、少し焦ったような忌々しそうな表情でそう言った。
「だったら、早く……」
「話を最後まで聞け!」
 急かすアリサに、ヴィータは怒鳴り返した。
「本来のフネの制御システムは、聖王の権限じゃねーと制御を受付けねー、つまり、既に
実行されてる命令をキャンセルできねーんだよ!」
「え、じゃ、じゃあ、ヴィヴィオを切り離したら……止められない?」
 ヴィータの言葉に、アリサの表情が引きつった。まるで口元は笑ったかのように見える。

『Stinger blade, Burst shot』
「たっ」
 WS-Fと同軸に発生した、6発の剣をかたどった魔力弾がほとばしる。
『Protection, Dual exercise』
 スバルはシールドを張ると、魔力弾の防御をそれに任せ、構わずに突っ込んでくる。
 着弾で魔力弾を構成する魔力素がベクトルを失う、その際にエネルギーを解放しながら
可視状態の霧になって視界を遮る。
『Flash move』
「そこぉっ!」
『Phantom Blazer』
 素早くマギーが後ろに下がると、相対的に入れ替わったティアナが強力な射撃を放った。
「やった!?」
「ティアナ、上!」
「えっ!?」
 一瞬、ティアナが気を緩ませかけると、その背後からマギーの叫ぶような声が聞こえて
きた。
 反射的に見上げると、跳躍の勢いで天井に脚を着け、膝を折って勢いを溜めているかの
ような、スバルの姿があった。
『Flash move』
「ぐっ」
『Protection, tri』
 ガキィィンッ
 ティアナが一瞬覚悟を決めかけたとき、正に紙一重のタイミングでマギーがそこに割り
込む。
 赤紫のシールドは三重で出現し、スバルの拳を受け止めた。リボルバーナックルとシー
ルドが凌ぎ合い、激しく火花が散る。
 その時、リボルバーナックルを纏ったスバルの拳が、その像がぶれるように振動した。
「! くっ!」
 ビキィッ
 不気味な音を立てて、WS-Fの全体に亀裂が走る。
 だが、マギーは退かず、そのままスバルの拳をシールドで受け止め続ける。
『ティアナ、今のうちに!』
『えっ!?』
 マギーは念話でティアナに言う。
 ビシィッ!
 スバルの拳の圧力が強まる。WS-Fの損傷が目に見えて酷くなる。
『Load Cartridge』
 クロスミラージュのシステムボイス。
「スバルぅぅっ」
 ヒュンッ
 ティアナの声が、スバルのさらに頭上から飛び掛ってくる。
「リングバインド!」
 スバルが反射的に身を退きかけた瞬間、マギーはシールドを解除して姿勢を引くと、WS
  • Fを介さずにバインドをかけた。スバルの両手両足首を、魔力光の枷が縛る。
『Phantom blazer』
 バーミリオンの閃光が、今度こそスバルを真芯で捉えた。
 そのまま、潰されるようにスバルは床面に叩きつけられる。
 ティアナが床に着地する。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
 荒い息を整えるようにしつつ、即座にスバルとマギーの方を振り返った。
『Memory syntax error. Referring to the registry is impossible. System shutdown』
 ボロボロに、朽ちたようになったWS-Fは、時折異様な抑揚になりながらシステムボイ
スでそう告げると、コアから輝きを失い、そのまま沈黙した。
「っ……」
 マギーは僅かに前に出て、その場で膝を追ってかがむと、スバルに手をかざした。
 マギーの足元で魔力光が魔法陣を描いて駆動する。マギーのかざされた手が、鈍く魔力
光を放った。
「よかった……生命反応はまだある。戦闘機人って頑丈なのね」
 胸を撫で下ろすようにしてそう言いつつ、立ち上がってティアナを見た。
「ティアナ」
 しかし、ティアナの表情は晴れない。
「マギー、それ……」
 ティアナはマギーに近づくと、それを指差した。
 それはマギーの右手に握られている、無残な姿のWS-F。
「ああ……そうね、こうなっちゃうとちょっと修理は無理かな。使える部品はあるだろう
けど、主フレームから交換しないと」
 マギーは僅かに苦笑して、そう言った。
「でも……確か、お父さんの形見だって……言ってなかった?」
 ティアナは哀しげな表情で言う。
「え? あ、まぁ、そうなんだけど、元々はどこにでも売ってる量産品だし、レイジング
ハートみたいに代わりがないってわけじゃないから……」
 ティアナの態度に、マギーは気圧されたような苦笑を浮かべつつ、言った。
「…………そう……」
 ティアナはどこか納得しきれない様子で、歯切れ悪く言った。
「それより、早くアリサたちと合流……」
 ティアナの表情を気にはしつつも、マギーはそう言いかけて、
「あ、でもスバルをこのままにしておくわけにはいかないな……」
 と、気がついてスバルを見る。
「ええ……」
 ティアナも頷き、スバルを見る。
「まぁこのくらいは……レビテーション」
 マギーの足元に魔法陣が駆動したかと思うと、倒れているスバルの下にフリスビーのよ
うな魔力光の板が出現し、スバルをやわらかく持ち上げた。
「私は後から行くわ。ティアナは先に行って」
「え? だけど……」
 マギーが言うが、ティアナは困惑気な表情になって、躊躇うような声を出す。
「大丈夫、ガジェットぐらいならデバイス無しでも何とかなるし」
 マギーは微笑みながら言いつつ、
「それに、どうせアリサ達が根こそぎ潰してったでしょ」
 と、悪戯っぽく苦笑した。
「そうね……」
 まだ浮かない表情をしつつ、ティアナは構成の返事をする。
 半ば振り切るように、ティアナはアリサ達の突入して行った方向に向かって駆け出しか
けて、一瞬立ち止まって振り返る。
「ごめんね、スバル」
 スバルを見て小さく言うと、改めて駆け出していった。
「…………ティア……」
「えっ!?」
 ティアナの姿を見送っていたマギーだが、小さなかすれるような声を、しかし確かに聞
きつけて、驚いて目を円くして、スバルを見た。
 機能停止の仮死状態。だがマギーは今、確かにスバルの声を聞いた。
 一方、ティアナは聞こえたのかそうではないのか、前に進む。
『Fryer fin』
 バリアジャケットのシューズからバーミリオンの、魔力光の羽が出現する。通路に対し
て追従飛行で奥に向かう。通路にはガジェットの残骸が散乱していた。

「それじゃ、どーするって言うのよ!?」
 アリサが、目を見開いた表情で焦ったように言った。
「アルカンシェルの波状射撃をかければ破壊できないことはない……けど」
 ユーノが、ヴィータに向かって身を乗り出しかけた姿勢のアリサの傍らに寄り、険しい
表情で言う。
「そんなことやったら、ミッドチルダの星そのものがなくなっちゃうわよ!」
 ただでさえ(人類が居住可能な)惑星の大気圏内で使用するには威力が過剰な上、レリッ
クの装荷された動力炉を対消滅破壊させようものなら、どれだけの破壊力が放出されるか
わからない。下手をすれば惑星諸共消滅させることになりかねない。
「もうひとつは、大型の次元巡航艦で体当たりさせて墜落させる……」
「それだって、これだけの物が落下したら、地上の被害は免れないでしょ?」
 ユーノが苦い顔のまま言うと、アリサが即座にそう反論した。
 ユーノは引きつりかけた険しい表情で頷いてから、
「それに、今の管理局の、所詮武装警備用を主目的にした巡航艦を体当たりさせたところ
で、破壊できる保証はない、暴走を誘発するかもしれない」
 と、重々しく言った。
「それじゃ駄目じゃない!」
 アリサは食って掛かるように声を荒げた。
「でも……あとは方法は……」
 ユーノが困り果てたように呟いた時、
「ヴィータさん!」
 それまで沈黙していた声が、大きく張り上げられた。
「ベルカ聖王家の人間なら、止める事が出来るんですね?」
「え……あ、ああ、基本の条件はそう言う事だと思うけど……」
 突然声をかけられたヴィータは、面食らって驚いたように目を円くしながら答える。
「ちょっとギンガ、アンタまさか……」
 アリサが信じられないといったように、息を呑む。
 ギンガは大して深刻そうでもない顔で、しっかりと俯く。
「ヴィヴィオはリンカーコアをスカリエッティに干渉されて、自分の意思で制御できない
……でも、そうでない聖王胚の人間なら」
「待って、アリシアが言ってただろう、スカリエッティがヴィヴィオの魔力資質を弄って、
なのはの魔力を吸収させたのはこのフネを制御させる為なんだよ!?」
 ユーノが、やはり驚いたような表情で、反射的にギンガの方に手を伸ばしながら言う。
「君の魔力資質は決して小さい部類じゃないけど、けど……」
 ユーノが言った。
 ユーノと同じように、隣に立つアリサが目を見開いた不安げな表情でギンガに視線を向
けている。

「ギンガ、駄目だよ、そんな事したら……スバルが……」
 シールドで、徐々に減衰していく『聖王の鎧』と凌ぎ合いながら、L4Uを構えたなのは
が言う。
「ギンガ、クイントさんやステラも待ってるんだよ、早まっちゃだめだ、ゲンヤさんだっ
て……」
 フェイトも驚いたように振り返り、言った。
「そうっスよ! あたし達と違って、ギンガやスバル達には血の繋がった家族がいるんス
から……」
 続くように、ウェンディがアリサの背後から、切なそうな表情で声を上げる。
「ありがとうございます、でも、これを止められなければ、もっと多くの悲劇が生まれる
のはわかりきっていることです、父も母も、妹達も……だったら、今出来ることを全部し
ておくべき……」
 ギンガはほとんど緊張もなく、笑みさえ浮かべて言った。
「そうですよね、フェイトさん」
 ギンガはフェイトに視線を向け、そう訊ねた。
「それは……うん……だけど……」
 フェイトは頷きつつも、なおも歯切れが悪い。
「みすみす後悔するような思いはもうしたくない、だから今回管理局の仕事お受けになっ
たんですよね、アリサさん?」
「…………」
 アリサは言葉は口にしなかったが、真剣な眼差しでギンガを見つめる。
「それに、駄目かどうかなんて、やってみなきゃ解らないじゃないですか」
「…………」
「これも、貴方の信念ですよね?」
「…………」
 問いつけるようにしてギンガが言うと、アリサは沈黙していたが、やがて抑えきれない
といったように表情を歪ませると、
「ああ、解ったわよ、やるだけやってみなさい。ただ、いざとなっても助けられる保証な
いわよ」
 と、口調ではぶっきらぼうに言った。
「承知の上です」
 ギンガは、笑みさえ浮かべてさらりと言う。
「大体、魔法使い初めていきなりで、今より少しだけしか弱くなかったフェイトとやり
あったアリサが言っても説得力ないよ」
「っ、ユーノ、言うんじゃないの!」
 ユーノが苦笑交じりに呟くと、アリサは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、ユーノに
食って掛かった。
 一方のフェイトも、恥ずかしそうに顔を赤くしている。

「…………ヴィータさん、お願いします」
「解った」
 ヴィータもまた、険しい表情のままで言い、キーボードの上を手で滑らせた。
「シールド張れ、ヴィヴィオ自身の制御ができてねぇから、接続切った瞬間放射が来る
ぞ」
 ヴィータの声に、各々がシールドを張って身構える。
『Nervenubertragungssteuersystem wird abgesagt』
 グラーフアイゼンのものではない。『聖王のゆりかご』のシステムボイスが告げ、ヴィ
ヴィオに対する戒めが解けた。
 グゥアァァァッ!!
 その瞬間、虹色の魔力光がかかった、強烈な魔力放射が半壊した艦橋を舐めるように放
たれ、各々のシールドと干渉して火花を散らした。
「ぐ……っ」
 コンソールを操作しているヴィータの正面には、ユーノがラウンドシールドを作り出し
ておのれごと魔力放射から防御する。
「ヴィヴィオ!」
 ヴィヴィオを戒めていた指揮官席──すなわち玉座──から、ヴィヴィオが崩れ落ちる。
咄嗟になのはが飛び出して、床に倒れかけたその小さな身体を抱きとめた。
「ヴィヴィオ……!」
「マ……マ……?」
 ヴィヴィオの名を呼ぶなのはの目に、うっすらと涙が浮かぶ。ヴィヴィオはぐったりと
してなのはに寄りかかってしまいつつ、ぼんやりとした表情でなのはを見つめた。
「もう大丈夫だからね、ヴィヴィオ」
「うん…………」
 一瞬、口元で笑んでしまい、ぎゅっとなのははヴィヴィオを抱き締める。だが、すぐに
はっと我に返ったように顔を上げた。
「ギンガ……」
「大丈夫です……」
 なのはの申し訳なさそうな、困惑気な声に、ギンガは僅かに緊張を滲ませて、言った。
「でも、ギンガって現代ベルカでしょ、操作法大丈夫なの?」
 アリサは単純に疑問に思い、呟くように言った。
「それは大丈夫だろ、精神感応システムの一種だからな、言語や魔術式のフォーマットは
関係ない」
 ヴィータが説明した。
「ギンガ」
 ギンガが玉座に手をかけようとした時、アリサが背後から呼び止めた。
 ギンガが振り返ると、アリサは腰のポーチからカートリッジを数発取り出し、ギンガに
向かって投げて渡した。
 ギンガは僅かに姿勢を崩しただけで、それを難なく受け止める。
「魔力資質の大きさが問題なら、カートリッジ使えば多少は改善されるでしょ」
 アリサはプレーンな表情でギンガを見て、そう言った。
「ええ、ですが、カートリッジなら私も……」
「それはいざって時のとっておきなの。官給の量産品とは質が違うのよ」
 ギンガが不思議そうに言いかけると、アリサは得意そうに、口元で笑ってそう言った。
「とっておき……って……」
「ベルカ式とは相性悪いかも知れないけどね」
 ギンガがなおも呆気に取られたような表情で呟くように言うと、ユーノが照れくさそう
な態度になってそう言った。
「そんな事言ったら、古代ベルカ特化のカートリッジなんてシャマルぐらいしか作れない
じゃない」
 横目でユーノを見てアリサが言う。
「まぁ、そうなんだけどね」
 ギンガはアリサとユーノを交互に見てから、
「ありがとうございます」
 と、深く頭を下げる。
 それから、ギンガはリボルバーナックルのカートリッジシステムの薬室に、アリサから
受け取ったカートリッジを装填した。
 そして、ギンガは振り返り、玉座に手をかける。
「────っ!!」
 ギンガの身体に、ビリッ、としびれる衝撃があったかと思うと、玉座を中心にして、虹
色の魔力光の、古代ベルカ式の魔法陣が現れ、駆動を始める。
『Verbinden Sie Einrichtung. Es uberpruft, dab Systemoperationsautoritat existiert』
「ぐぅっ、うぅぅぅっ……」
 『ゆりかご』の動力がリンカーコアに干渉する、灼熱のような感触が、ギンガにのしか
かる。
「ギンガ!」
 たまらず、と言った様に、なのはがその背後から悲痛な声を上げる。
「だ、大丈夫です」
 脂汗を滲ませつつも強気にそう言って、ギンガは玉座に上がる。
「艦内の全A.M.F.解除……推進器減速、変針右15°、上10°……っ」
 ギンガは虹色の煌きを身体から放ちつつ、口に出して呟きながら、『ゆりかご』に命令
を実行させていく。
 ぐらり、『ゆりかご』の飛行方向が変わるのが、艦橋からでも解った。
『……サ…ユー………ェイト、なのは!』
 A.M.F.が解除されると、早速アリシアからの念話が、ギンガを見守る面々に向かって届
いてきた。
『アリシア? A.M.F.は問題ないわ。「聖王のゆりかご」ももう止まる、止められる』
『それは良かった……』
 アリシアは、胸を撫で下ろすかのようにそう言ってから。
『そこに……ウェンディもいるのよね?』
『なんっスか?』
 スクランブルによる対象限定をやっていなかったらしく、アリシアに自分の名前を出さ
れたウェンディが、直接返事をした。
『ごめん、悪い知らせよ────』

「最悪の想定は避けられたみたいやけど、状況が良くなったとはお世辞にも言えへんね」
 レンは、地上本部に間借りしている仮設オフィスの窓から、クラナガンの街を見下ろし
ている。
 レンはそう言ったものの、暴動を起していた暴徒は明らかに浮き足立ち始めていた。
「さて、はやてちゃん」
 レンが振り返ると、自らの事務机の前で椅子に腰掛け、虚脱しかけていたはやてがいた。
傍らにシグナムが付き従うように立っている。
 呆然としていたはやてだったが、レンに声をかけられると、はっと我に返って顔を向け
た。
「な、なに?」
「ケジメ、つけに行くで」
 レンは険しい表情ではやてに近づくと、はやての右手をとった。
 はやては促されるように立ち上がりつつ、キョトン、とレンを見る。シグナムも似たよ
うな表情をしていた。
「ケジメつけにって……どこへ?」
「決まってるやんか」
 レンは険しい表情のまま、答える。
「聖王教会、や」


前へ 次へ
目次:熱き彗星の魔導師たち
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます