290 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 01/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:19:17 ID:BAVCoV5s
291 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 02/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:19:52 ID:BAVCoV5s
292 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 03/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:20:22 ID:BAVCoV5s
293 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 04/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:21:02 ID:BAVCoV5s
294 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 05/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:21:45 ID:BAVCoV5s
295 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 06/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:22:20 ID:BAVCoV5s
296 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 07/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:22:55 ID:BAVCoV5s
297 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 08/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:23:37 ID:BAVCoV5s
298 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 09/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:24:08 ID:BAVCoV5s
299 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 10/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:24:45 ID:BAVCoV5s
300 名前:熱き彗星の魔導師たち 28 11/11 ◆kd.2f.1cKc [sage] 投稿日:2009/04/19(日) 19:25:15 ID:BAVCoV5s

『Flash move』
 マギーの身体が鋭角に進路を変えながら、天井の低い通路の空間を駆け抜ける。
「Ala Strada」
 青い軌道が延び、空中を機動するマギーの進路と交錯する。
「!」
『Wheel protection』
 ガツン!
 先行していたマギーが、エラ・ストラーダの伸びる進路に硬度の高いシールドを生み出
した。
 青い魔力が火花を散らし、魔力で編まれる道がそこで途切れる。
「!」
『Phantom blazer』
 エラ・ストラーダを途切れさせ、WS-Fを構えるマギーの目前にスバルが迫った時、バー
ミリオンの強力な魔力弾がスバルの至る空間を薙いだ。
「あっ!」
 だが、スバルは直前で軽く跳躍すると、天井を蹴って加速力を増しながら、マギーに迫
る。
『Axel stinger』
 ドンッ
 ほぼゼロ距離からの射撃の閃光が、スバルを一瞬覆う。
「やった!?」
「まだ!」
 期待混じりに覗き込むティアナだが、マギーが即答える。
 中腰で立った状態からのホバリング機動で、マギーはティアナの隣に移動し、そこでド
リフトするように向きを変えて、ティアナと共にスバルに魔力弾を撃ち込んだ方を向く。
 果たして爆煙が晴れたとき、その中からスバルは平然と姿を現した。
「あたしが咄嗟に放ったぐらいじゃ効かない、フェイトやなのはぐらいの出力じゃないと
……」
「接近戦は危険、射撃もチャージ無しじゃ効かない、こっちの利点は頭数ぐらいね」
 険しい表情で、スバルを見据えたまま、ティアナは言う。そのティアナの姿を見て、マ
ギーは軽く驚いたように目を円くした。
 そうしている間にも、スバルは体勢を整えて飛び掛ってくる。
「振り回すわよ!」
『Axel fin』
「了解!」
『Flash move』
 スバルの攻撃が撃ちこまれる位置を基準に、再び2人は二手に分かれた。

熱き彗星の魔導師たち〜Lyrical Violence + StrikerS〜
 PHASE-28:A sacred king is two persons(前編)

『それでは聖王陛下、その愚か者達の始末はお任せいたしますわ』
 語感は優しげに、しかし故に酷薄さを感じさせるクアットロの声が響く。
「何を」
 アリサが怒鳴り、フェイトと共に真っ先に体勢を立て直し、構える。
 だが、そこへ再び、ヴィヴィオから発された魔力の奔流が無指向性の衝撃波を伴って2
人を襲う。2人は再び壁に叩きつけられた。
「ぐぅっ……」
「こんな……」
 アリサは一瞬視界を失って呻き、フェイトはヴィヴィオを見据えながらも弱々しく声を
出す。
「フェイトちゃん! アリサちゃん!」
 なのはは反射的に悲痛な叫びを上げた後、哀しさと困惑の入り混じった表情でヴィヴィ
オを見る。
「ヴィヴィオ止めて! 悪い事しちゃ駄目!」
「ママ……駄目……っ」
 なのはの悲痛な呼びかけは、ヴィヴィオに届いてはいた。だが────
「止まらない、よぉぅっ!!」
 ビリビリビリビリ……ッ
 激しい衝撃波こそ無かったが、放出される濃密過ぎる魔力の波が、周囲の空気や物体を
物理的に振動させる。
「本人にも制御不可能なんです!」
 なのはの傍らでギンガが言う。
「そんな……」
 なのはが悲痛な声を上げて、絶句する。
「なのはから吸収した魔力だけじゃない……多分この艦の動力と共振して、お互いに高い
魔力が流れあってるんだ」
 フェイトがダメージによる呻き声を混じらせつつ、バルディッシュを構えなおしながら
言った。
 バルディッシュはサイズフォームの状態だったが、A.M.F.の干渉とヴィヴィオの魔力放
出で魔力刀がかき消されていた。
「この艦の動力って、まさか……」
 同様にレイジングハートを構えなおしながら、アリサは息を呑むように言う。すると、
フェイトはその言外の部分を肯定するように頷いた。
「多分、レリック」
 フェイトは、短くそう言った。
「それじゃあ、もしこのフネを破壊するって手を選んだら……」
「大爆発……それも、レリック単体の爆発どころじゃない……」
 A.M.F.のジャマー効果とヴィヴィオの放出魔力で、外との通信はほぼ完全に不可能にな
っている。アリシアやリニスに真偽を調べてもらうことは出来ないが、故に最悪を考えれ
ばそういう事象が想定される。
「ヴィヴィオを離して、停止させるしかない、でも……っ」
『Protection』
『Defenser』
 フェイトが言っている側から、ヴィヴィオから魔力の波が放たれる。
 各々のデバイスが自動的に張ったシールドが、衝撃波を緩和するが、無指向性の魔力自
体がA.M.F.で減衰するシールドに干渉して、浸食する。
「こんなもん、どーやって……」
 アリサの言葉に、弱音が混じった。

「ミッドチルダの狗を倒せ!」
「今こそベルカ復活を狼煙を上げろ!」
 火の手が上がり、もはや戦場以外の何物でもなくなった市街に、暴動参加者達の、アジ
テーションが響く。
「これは……」
「手のつけようが無いわね……」
 クイント率いる第5陸士隊は現場(げんじょう)に駆けつけたが、暴動参加者は既にシン
グルナンバーの精鋭部隊といえど立ち向かえるような数ではなくなっていた。
 加えて、彼らの何人かはクイントにとって見慣れない質量兵器で武装していた。聖王大
戦時の記録を紐解くならばそれはライフル、あるいはマシンガンと呼ばれる代物だろうが、
当時の主要交戦国で製造されたどの形式とも異なり、なおかつミッドチルダ、あるいはベ
ルカの系譜に連なる工業生産品としては見慣れない独特の特徴を持っている。
「第97管理外世界からの密輸品……」
 クイントが呟く。飛行型ガジェット・トルーパーが装備する機関砲は、地球製ではない
かという疑いは以前からあった。だとすれば、彼らの持っている代物の出どこもそうだと
するのはそう不自然なものに感じられない。
「だめね、暴徒をこれ以上刺激しないようにしつつ後退、途中に一般市民がいたら保護、
避難誘導」
「しかし、隊長」
 封鎖用のバリケードを築こうとしていた隊員たちの手が止まる。副官の青年が、躊躇う
ような言葉をクイントにかけた。
「ここを無理に維持しようとしても、双方無駄な犠牲が増えるだけだわ。周辺の陸士部隊々
員にも伝達! 責任は私が二佐の権限を以って取ります」
「了解……しました……」
 第5陸士隊に他の部隊も連動し、北部中央エリア中ほどの封鎖線は開放され、中央エリ
ア北端から東西に伸びるラインまで陸士隊は後退することになる。
「頭数だけでもそろっていれば、せめてスカリエッティの息がかかった連中だけでも排除
できたものを!」
「後の祭りね」
 副官の憤るような言葉に、クイントもやるせなさそうに言った。
「それに、地上部隊が充足されていれば、最初からこんな事態にならなかったかもしれな
いわよ」
「どういう……ことです?」
 クイントの言葉の真意をつかめず、副官の青年は聞き返す。
「彼らのアジテーション、ベルカ系の反体制主義のものだったわよね?」
「え、ええ」
「それなのに、どうして住民同士の衝突や、一般市民への積極的な襲撃がほとんど確認さ
れていないの?」
「え…………?」
 クイントの言葉に、副官は絶句する。
「ここはミッドチルダ、それも首都よ。もちろん北部エリアはベルカ系の住民も多いけど
……それにしたって、異常な光景よね?」
「それは……」
「これは……単なる暴動と片付けられる種の問題じゃないかもしれないわ」
『さすが精鋭陸5の隊長様、なかなか頭がいいねぇ』
 隊員の声ではない。若い女性の声が、クイント達の周囲に響く。だが、その音源が特定
できなかった。
「うわぁっ!」
 近くにいた隊員から悲鳴が上がった。そのすぐ傍らにいた車両が横倒しになる。
「なんだ、なんだ!?」
「うろたえないで!」
 クイントはそう言いつつ、意識を研ぎ澄ます。
 足元を這いずり回るかのような、異質な気配を捉えた。
「そこっ!」
『Knuckle bunker』
 ドグワァッ!
 パワーロードナックルから放たれた、魔力を伴った衝撃波が、路面のアスファルトを深
く抉り、砕いた。
「うぁあぁぁっ」
 砕けながら宙を舞うアスファルトと共に、水色の髪の、青い全身スーツに身を包んだ少
女の姿が現れたかと思うと、吹っ飛んで宙を舞った。
「こいつは!」
 副官の声。
 見た目、スバルとほぼ同じ年恰好に見える小柄の少女。だが、その身を包むスーツと、
そのネックガードの“VI”の刻印は────
「スカリエッティ製戦闘機人!?」
「拘束……いえ、保護!」
 クイントは失神して停止したその戦闘機人を確保するよう、部下に命じた。

『Flash move』
「Cavalcata impulso」
 フローターボードの上のウェンディの姿が掻き消え、同時に向かい合うトーレの姿もま
た同じように僅かな残影を残して消える。
 ガキィンッ!
 トーレの魔力刀とアンダウンテッドアイアスが交錯し、激しく火花を散らす。
「成長はもはやドクターの予測すら超えたか」
 トーレは言い、口元で不敵に笑う。
「嬉しかねぇっス!」
 凌ぎあったまま、ウェンディは不愉快そうに言い返す。
「だが、残念だな、デバイスがお前の魔力について行ってないぞ」
「それは!」
 トーレの言葉に、ウェンディは反射的な言葉を残して絶句する。
 アイアスの原型になったアンブロークンイージスは、魔力は弱いとは言えないが一方向
に特化してしまっているユーノのそれを補正して砲撃を可能とするものである。その為そ
の増幅回路は高性能ではあったが、魔導師自身の出力はさほどの大きさを想定していない。
要するにアイアスにとって今のウェンディは過入力なのだ。
 簡易インテリジェントならではの高いオーバーロード耐性があるため、アイアス自身が
致命的ダメージを負う事は無かったが、処理しきれない魔力を攻撃力に加味するには至ら
ない。
 ────そうでなければ、とっくに押し切られている。
 凌ぎ合いを互いに受け流して、ウェンディと交錯しつつ、トーレは言葉には出さずにそ
う言った。
「それでも、あたしにはこいつしか!」
 フローターボードがウェンディを掬い上げる。その次の刹那、トーレの魔力刀がウェン
ディのいた空間を、しかしむなしく宙を斬る。
「ありえないんっスよぉ!」
『Divine buster』
 赤紫の魔力弾がトーレに襲い掛かる。
「っ!」
 咄嗟に、渦巻状のシールドを張ってトーレがそれを凌ぐ。だがひびが入り、魔力弾が相
殺されると同時に駆動が停止して砕け散った。
 ────ウェンディの言っていることも間違ってない……
 一方、その傍らで対峙する2人は、奇しくも同じ事を思っていた。
 ────今の機動も、あのデバイス(アイアス)でなければ出来ない、そうでなかったら
トーレに斬られている。
 脳裏でそう思考しつつも、お互いの視界は相手を捉えて離さない。
 ────トーレの援護をしなければならないが……
 チンクが、僅かにトーレとウェンディに意識を取られた瞬間。
『Ring bind』
「っ!」
 すんでのところで、チンクは急機動を入れる。何も無い空間に、緑の光の枷が突き刺さ
った。
「たぁっ!」
 チンクが、片手につき3本ずつ、計6本のナイフをユーノに向かって投げつけた。
『Protection, Dual exercise』
 緑の光の二重盾が、その行く手を阻む。
 カカカカカカッ
 突き刺さったナイフはすべて爆発し、1枚めの光の盾を砕く。だが、後ろ側の盾にはヒ
ビさえ生じていない。
『Devine buster』
 爆煙の中から、緑の魔力弾がチンクに向かって放たれる。急機動でかわす、掠める。
 ────埒が明かない……
 この時もまた、ユーノとチンクの考えは一致していた。
 ────彼女の火力はバカに出来ない、仕掛けに使うのも可能、そしてトーレには機動
力……一気に封じるとすれば……
 ユーノは脳裏に、過去の戦いの記憶を思い起こす。
 ────あの手か……でも、僕に可能か? ペアがウェンディで……
「いや、やる」
「!?」
 ユーノが不意に口に出した為、チンクは身構えた。
『ウェンディ、一旦間合いを取って引っ張って』
 ユーノは念話でウェンディに言う。
『どうするっスか!?』
『アリサが過去に使った技、相手の機動力と火力を逆手に取る!』
 同時に、ユーノも間合いを取りながら、再びリングバインドをチンクめがけて放つ。
 チンクはそれをかわすと、狙いをつけるためにユーノに迫った。
『かかった! いける!』
『こっちもっス!』
 フローターボードごと後退しかけたウェンディに、トーレは間合いを離されんと詰め寄
る。トーレの魔力刀をウェンディのシールドが防ぎ、火花を散らす。
『今だ!』
『OKっス』
『Flash move』
 ウェンディはフローターボードを蹴り、ユーノと同時に急機動を取る。
『Protection』
『Dual exercise』
 イージスとアイアスのシステムボイスが重なる。
 高速機動でウェンディに詰め寄るトーレは、目前に現れたシールドに魔力刀をぶつける。
 次の瞬間、そのトーレの視界を、爆煙が遮った。
「何!」
 トーレが声を上げたとき、至近からチンクがまったく同じ声を発したのが聞こえた。
『Chain bind』
「しまった!」
 チンクが声を上げるが、遅い。緑の光の鎖が彼女を絡め取る。
 そして、爆煙が遮っていた視界が晴れたとき、そのすぐ目前に、同じように緑のチェー
ンバインドに絡め取られたトーレの姿があった。
「なっ」
「に……!?」
「貰ったーっス!」
 トーレとチンクが状況を完全に把握するより早く、ウェンディの声が響く。
『Dual buster canon』
 アイアスのシステムボイスと共に、ウェンディの左手に構えられた、オリジナル・ライ
ディングボードとの両方の射撃端子を使って放たれた強力な射撃が、トーレとチンクに向
かって迸る。
「くぅっ!」
 トーレは咄嗟にシールドを張ったが、瞬時に砕かれほとんど意味を成さなかった。閃光
はトーレとチンクをまとめて飲み込んだ。
「はぁ……はぁっ……」
 ウェンディが極度の緊張から、酸素を求めて荒い息をする。
「よし、やった」
 ウェンディの傍らに立つユーノが小さく、しかしはっきりと言う。
 果たして、強力な魔力射撃の残滓による煙が晴れたところに、トーレとチンクは床面に
倒れこんでいた。スーツはところどころ焼け焦げている。
「どう、ウェンディ?」
「今のところは機能停止状態っスけど……トーレは特にヤバいかも知れないっス」
 2人を一瞥して、ウェンディはそう言った。
「でも、後送する方法は無い……」
 ユーノは言いながら、2人を単純なうつ伏せに変えさせる。
『Round guarder, Extend』
 2人を、治療効果のあるドーム型の、緑色の光のバリアが覆った。
「多分、それでしばらくは大丈夫だと思うっス……」
「あとは」
 ユーノはイージスのドラムマガジンを切り離すと、予備のマガジンをセットしながら、
艦橋に続く通路の大きな扉を見る。
「出来るだけ早くカタをつけるしかないね」
 アイアスのリボルバー弾倉を飛び出させ、そこにローダーでカートリッジを装填しなが
ら、ウェンディも頷いた。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ーっ!!」
 ヴィヴィオとの絶叫と共に、何度目かの強力な衝撃波が放たれる。
「今!」
『Braze canon』
 低くかがんだアリサの声と同時に、なのはが大出力の魔力弾を放った。
 A.M.F.の影響で目に見えて減衰しながら、ヴィヴィオの至近で、その彼女の周りに不可
視の球形のバリアがあるように行く手を遮られ、そこで霧散する。
『Photon lancer, Burst shot』
 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!!
 フェイトが12発の電撃を伴った魔力弾を、なのはの射撃を追いかけるように放つ。それ
らもすべて同じようにヴィヴィオの目前で止められる。
 指向性を失った魔力素がしばらく可視のまま辺りを満たし、ヴィヴィオとアリサ達との
視界を遮る。
「行きます!」
『Sonic move』
 ブリッツキャリバーのシステムボイスと共に、飛び出したのはギンガだった。
「だめぇぇぇぇぇぇっ!」
 ヴィヴィオの絶叫と共に、再びその甲冑が纏う魔力が増大する。
 ギンガが一定距離に近付くと、ただの魔力放出だけではなく、明らかに射撃と見える指
向性を持った放射が、ヴィヴィオの甲冑からギンガに向かって放たれる。
 その時、ギンガの瞳が輝く。その色はヴィヴィオとまったく同じ、緑と緋のオッドアイ。
「scudo di imperatore」
 青紫の魔力光が集約すると、A.M.F.で減衰することもなく、実物のそれをかたどった盾
となった。そこにヴィヴィオからの射撃が集中するが、ことごとくを跳ね除ける。
 そらにギンガが前進。なのはやフェイトの魔力光が消えた辺りで、可視のままのギンガ
のシールドが、不可視のヴィヴィオの障壁と接触する。
 バチバチバチバチッ
 虹色の火花を散らしながら、“聖王の鎧”と“聖王の盾”がぶつかり、構成するエネル
ギー同士がしのぎ合い、周囲に衝撃を撒き散らしながら対消滅する。
「行けるの!?」
 なのはがそう言って、飛び出しかけた。
「駄目、ギンガが圧し負ける!」
 フェイトが、反射的に飛び出したなのはに向かって怒鳴るような声を上げる。
『Load cartridge』
 ドンドンッ
 ブリッツキャリバーのCVK-896Bカートリッジシステムが撃発するが、それは僅かに限界
を遅らせたに過ぎなかった。
「くぅっ、ああっ!」
 ブリッツキャリバーの駆動機構のトルクが負け、ギンガが一気に押し返される。
「ギンガ!」
 飛び出したなのははその事態に応じて構え、押し返されてきたギンガの背中を受け止め
た。
「た────!」
『Load cartridge』
 CVK-695Dの、特徴ある低く重い撃発音と共に、アリサの声が響く。
 ギンガとの凌ぎ合いで僅かに弱まったところへ斬り込む。レイジングハートの先端が、
ヴィヴィオの障壁の、ギンガの“盾”と凌ぎ合っていた部分に突きたてられる。
「行ける!?」
『Yes, Divine clasher』
 ドォンッ!
 アリサの言葉に応じて、レイジングハートはヴィヴィオの障壁に対して、バリア貫きの
加味されたゼロ距離射撃を叩き込んだ。
 ほんの一瞬だが、ヴィヴィオの周囲を取り囲んでいた障壁が消える。
「避けて!」
「えっ!?」
『Fire slash』
 レイジングハートはそれまでA.M.F.の干渉を避けて控えていた斬撃魔力を纏う。アリサ
はヴィヴィオにそう告げながら、上段から大振りに斬りかかった。
 ヴィヴィオは反射的な行動ながら、こともなげにそれを避ける。
「うわ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
 グォォッ
「ぶべっ!」
 ヴィヴィオの魔力放射が戻ると、それに吹っ飛ばされたアリサは今度は顔面から壁につ
っこんだ。
「アリサ! 大丈夫!?」
「これで!」
 フェイトが心配げに声をかけるが、アリサはがばっ、と壁を突き飛ばすように立ち直す。
「準備完了……後は!」

「ほほほほほ……」
 『聖王のゆりかご』、下部CICホール。
 モニターを通じて艦橋の様子を見ていたクアットロが、可笑しそうに笑う。
「さすが聖王陛下、管理局のエース達も形無しなら、出来損ないの“器”も楽勝ですわね
……」
 非実体ディスプレィに映るアリサ達を見下すように言い、笑う。
「お可愛そうに」
 わざとらしい哀しげな表情をとりながら言うと、ゲームを楽しむかのようにくすっと笑
い、
「せめてA.M.F.だけでも解除してあげた方が面白くなるかしら?」
 と、誰が聞くわけでもないのに言った。
 だが、自ら呟いたその言葉に、クアットロの顔色が、突然変貌する。
「A.M.F.……どうして!?」
 そのクアットロの疑問に対する答えは、直後にその背後、やや上方から響いてきた。
「見つけたーっ!!」
 アリサの声が響いた。否────
 クアットロが振り返ると、そこに小アリサ、ローウェルの姿があった。
「そこの直下! 3層下!」
 念話で飛ばすと同時に、ローウェルは口にも出した。
「好都合な場所にいてくれたわね!」
 アリサはにっと笑うと、手早くカートリッジを装填し、尾栓を閉める。
『Load cartridge』
 艦橋は魔力放射を続けるヴィヴィオと、それに対峙する4人の行動で、今だエネルギー
を完全に失っていない魔力素が満ちている。
 A.M.F.は術式と魔力素が結合するのを阻む。だが、術式が直接魔力素と結合してエネル
ギーを科す方式ではない術には、その効力は激減する。
 もっともそう言った術事態が、希少だったが、しかし実際に存在する。
「うぉりゃあぁぁぁぁっ!」
『Star light zapper』
 それこそ過密なほどのスフィアが艦橋に発生すると、炎の流星群となって、艦橋の──
床面に向かって迸る。
 『聖王のゆりかご』は軍艦である。当然、内部構造物もそれなりの強度を持って作られ
ているが、それでも外装の装甲と違い、直接破壊力を受け止めることを前提に造られてい
るわけではない。
 かつて“闇の書の闇”さえ打ち砕いた炎の槍の雨の前に、床は砕け散る。そしてなお、
スフィアは炎の槍と化して降り注いでいく。
「きゃあぁぁっ」
「ちょ、アリサ」
 艦橋の床面は完全に崩壊し、その場に居た者、あった物はそれを成していた構造物の破
片とともに下層へと落下する。なのはが反射的に悲鳴を上げ、フェイトが抗議するような
声を上げた。
「!」
 クアットロの居るホールの天井に、ゴォォォォ……と不気味な音が響く、それは近付い
てくる。
 グワォッ!
「きゃあぁぁっ!」
 天井が崩壊し、破片と共に“降ってきた”。
「ローウェル!」
「オーケー!!」
 アリサの言葉に応え、ローウェルはアキナスの姿になってその左手に収まる。
「切り裂け、ホーンテッドクリムゾン!」
 ビシッ!
 艦橋ほど強力ではなかったが、念のためとこの場に張られていたA.M.F.が、ホーンテッ
ドクリムゾンによって砕かれ、無効化される。
「じょ、冗談じゃないわ!」
 クアットロは不可視の布切れで己を隠すかのように、その場から掻き消えようとする。
だが、一瞬遅かった。
「アンタは! お仕置きよっ!」
『Divine clasher』
 レイジングハートからゼロ距離射撃が迸り、完全に消える直前のクアットロを吹っ飛ば
した。


前へ 次へ
目次:熱き彗星の魔導師たち
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます