私は叶ミホ。いたいけな16歳の女子高生です。

出番が少ないので、地味に思われるかもしれないですけど、実は連載が始まってからフルネームが出たのは3番目に早いという息の長いキャラです。
城島先輩への想いはそのころからつのる一方なんですが、未だに報われないんです……。
でも、今日は違います。
なんと、先輩と二人きりでデート的なことをするんです!
今回は「親戚の高校生にプレゼントを贈りたいけど、何が喜ばれるか分からないので一緒に買い物に付き合ってください。というか、そのまま付き合ってください!」作戦です。
この作戦の概要を小宮山先生に話して、先生のほうから先輩にそれとなく話を振ってもらったんです。やさしい先輩は二つ返事で了解してくれたそうです。さすが先輩!
思えばこれまで、ドジッ娘をアピールしたり、マフラーを編んだり、ラブレターを書いたりしてきました。すべての失敗も、きっと今日のためにあったんです。
今日は気合いがみなぎってますよ。勝負下着も穿いてるし、準備万端。絶対に先輩をメロメロにしてみせます!
というわけで、私は今とある繁華街にいます。待ち合わせの時間が近いから、そろそろ先輩が来るかなー。
おっ、後ろからそれっぽい気配と匂いが……。
「叶さん」
ブシュ――――――――!!!!!!!
「大丈夫!? いきなり噴水のように鼻血出してるけど!?」
「だっ、大丈夫です。今日は多い日なので」
(やっぱりこの子はカナミと同じ人種だ……)
心配そうな瞳で先輩が見つめてくれています! つかみはバッチリですね!
「はい。ティッシュあるから、使っていいよ」
「先輩。(ティッシュを鼻へ)挿入してください……」
「そのネタ、前も言ってたよね?」
うーん、これは失敗だったかも。ちょっと焦っちゃいました。



「先輩。私の乳首……じゃなくて、首を叩いてください。もしよければ、乳首でもいいですけど」
(俺ってそういうキャラ認識なのかな……。カナミが変なこと言いふらしてなきゃいいが)
先輩が私の後ろに回って、そっと首を叩いてくれます。心地よい痛み。また何かに目覚めちゃいそう。
「止まりました。ありがとうございます」
「もし、体調が優れないならすこし休もうか?」
「そうですね。では、お言葉に甘えて。あそこに休憩2時間で6千円のホテルが――」
「さて、すぐ買い物に行こう」
先輩って照れ屋さんですよね……。
ゆっくりと歩き出す先輩のすこし後ろを、私も寄り添うように歩きます。
「ところでさ、叶さん」
「はい」
「ずいぶん早く来てたよね。俺も十五分くらい前に着いちゃって、さすがにまだいないかなと思ってたから驚いたよ。いつからいたの?」
「5時間前からです」
「そんなに!? この暑い中を!?」
「はい。先輩のためなら、これくらい平気です。でも、もう下着までビショビショです」
「それは汗で、だよね?」
「はい。どちらにしろ、この後濡れちゃう予定なので、同じですよね」
「同意を求めないで」
 ふと、道路脇に目をやると、自動販売機がありました。
「先輩。暑くてのどが渇きませんか?」
「たしかに。何か飲む?」
「私のラブジュースはどうですか?」
「おっ、ちょうど自販機がそこに」
先輩ってシャイですよね……。



先輩が自販機のそばまで行き、カバンからおそらく財布を取り出そうとしてます。
ここで作戦ナンバー1「1巻のリベンジ! 落とした小銭を拾おうとして、指先が触れあうときめきシチュエーション」を発動します!
ジュースを買おうとする先輩目がけて、うっかり転んでしまう私。
こぼれる小銭。触れ合う指と指。気まずそうに見つめ合う二人。そして……禁断の領域へ。
うん。これならイケます。というか、もうイッちゃいそうです。
先輩が財布を取り出す瞬間に狙いを定めます。
……よし、今だ!
「便利な世の中になったよね。携帯をかざすだけで、一瞬で買えるんだから」
「…………」
文明の利器のバカ……。1巻発売当時はそんなの無かったのに……。 
「何がいい?」
「……えっと、ビタミンウォーターをお願いします」
せめて、この後のことを考えて体力をつけておこう。
「ありがとうございます。休日に無理やり付き合ってもらってるのに、色々すいません」
「気にしなくていいよ。ちょっとここで休もうか」
コーラを買った先輩と、しばしの休憩タイムです。
「親戚って高校生の男だっけ? どんな人なの?」
あっ、そういえば、その設定を全然考えてなかった……。
どうしよう……黙っていたら不審に思われちゃうから、先輩のことを話してごまかそう。



「背が高くて、やさしくて、たくましくて――」
「うんうん」
「ア○ルが好きなんです」
 危うく先輩がコーラを吹き出しそうになりました。
「ただ、その人には恋人がいるという噂がありまして……」
「恋人?」
「はい。右手が恋人なんです」
 先輩が派手に咳きこみました。
「なっ、何だろう。妙に親近感を感じる……」
「そうですか? だとしたら、先輩が欲しいものを買えば、きっとその子も喜びますね」
 よし! 上手い具合にまとまった!
「というわけで、先輩。何か欲しいものってありますか?」
「俺? うーん、そうだなあ……」
「CD? 本? DVD? それとも、ワ・タ・シ?」
「洋服とか欲しいかな」
先輩って不器用ですよね……。せっかく、可愛らしくウィンクまでしたのになぁ……。
 でも、これくらいでめげちゃう私じゃないです。だてに単行本10巻分も経験を積んでないですよ。
「ファッションなら、この近くにいいお店があります。すごく品ぞろえが豊富なんで、きっと喜びますよ」
「へぇー、どんなお店なの?」
「『大人のコスプレ』ってところで、ナース服からSM女王に至るまで多種多様な――」
「それは喜ぶというより悦ぶための人が行く所じゃないかな」
活字じゃないと伝わりにくいネタです。
でも、ファッションはいいアイディアです。素晴らしいことを思いついちゃいました。ふふふ。



「でしたら、メンズファッションの専門店が近くにありますので、そこがいいと思います」
飲み物を途中まで飲んで、また一緒に歩き出します。
お店に入ると、ブランド物からお手頃な物まで、シャツにジーンズにアクセサリーまで色々と置いてありました。
「親戚の子は、先輩と体型が似てるんです。なので、先輩が試着してぴったりだったら、その子にも合うはずなんです」
「そっか。じゃあ、好きなものがあったら遠慮なく言ってくれていいよ」
「えっと、そしたら早速、あのトランクスをお願いします」
「下着を試着!? しかも上じゃなくて下を!?」
「はい。ぜひ。今すぐ。ここで。有無を言わさず」
「いや、たぶん、その子もシャツやズボンのほうが嬉しいと思うよ」
残念……。先輩が直接アレをつけたトランクスを手に入れられると思ったのに……。
あっ、でも、想像しただけで……。
ブシュ――――――――!!!!!!!
「また!?」
「大丈夫です。下の血はまだ出てませんから」
「何の安心感も得られないよ!」
本日2度目なので、それほど出ずにすぐ止まりました。
「そうしたら、せめてジーンズでお願いします」
「何が“せめて”なのかよく分からないけど……」
先輩がちょっと疲れた様子で首をかしげます。
適当にカッコいいジーンズを選んで、先輩に試着してもらい、それを買いました。先輩のぬくもりがしみ込んだジーンズ……家宝にして、毎日拝みます。
帰り道。すっかり夕焼け色に街は染まっていました。
いよいよ、本日のメインイベントです。



そう! 告白です!
ドキドキして胸が張り裂けそうです。でも、今夜になれば、処女膜が張り裂けるから同じことですよね。
「先輩。今日は本当にありがとうございました」
「いや、俺も何だかんだ楽しかったよ」
「先輩……あの、その」
「ん?」
がんばれ。私。勇気を出して。
「実は、わっ、私、先輩のことが――」
「あっ、お兄さん。こんにちは」
「ああ、アキちゃん。どっか行ってたの?」
「はい。ちょっと買い物してて、その帰りなんですよ。えっと、そちらの方は?」
「ああ、彼女はカナミと同じ委員会にいる――」
「こんなところでにっくきライバルと出くわすなんて……、絶対に負けませんから!」
「叶さん?」
「私がライバル?」
「3Pなんて認めませんから!」
『ええっ!?』 
不思議そうに私を見つめる先輩とライバルを置いて、私は夕焼けに向かって走りだしました。
うぅ……結局、最後はこんな形になっちゃうなんて。
でも、次こそは、努力が報われるようにがんばります!
とりあえず、今日は先輩が身に付けたジーンズをオカズにして、寝ようかな。

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