「俺にだって好きな人くらいいますよ!」
「「「はぁっ!?」」」



いつもの部屋、いつもの時間、いつものメンバーで仕事をしていた生徒会役員共。
今日も今日とて下ネタが乱舞していた。
さて、今日のお題は…
「時にアリア、いつかの見合いの話なんだが、あれ以降そのテの話題は上がらないのか?」
「う〜ん、特にないわね。あの時は出島さんのおかげで白紙になったんだけど、『今は結婚する気はありません』ってお父様に直談判したら、『そうか』で済まされたわ」
「そうなのか」
「よかったじゃないですか先輩」
「今時政略結婚なんてナンセンスです」
「ありがとう2人とも」
聞けば、本当に見合い程度で済ませるつもりだったらしく、元から交際や結婚などは考えていなかったそうだ。
七条先輩のお父さん曰く、『女子校に通っていて男性に免疫のないであろう娘を何とかしたかった』だけらしい。なんて人騒がせな。
「でも、ゴメンね津田君」
「何がですか?」
「折角彼氏役として練習してもらったのに、結局別方向から解決しちゃったし…」
「ああ。気にしないでください。穏便に解決したなら何よりじゃないですか」
出島さんのおかげで彼氏役の出番もなくなった。
まあ、もったいないと言えばもったいないが、俺程度が先輩に釣り合うとは正直思っていない。大体俺は…
「残念だったわね。あわよくば、そのまま七条先輩と付き合えたかもしれないのに」
「な、何言ってるんだよ!」
「もう津田君ったら♪性欲満載なんだから♪」
「それを言うなら下心だ。まあ男の下半身は節操無しというからな」
「うわぁ…」
「引かないでくれ萩村ー!」



身体だけでなく、椅子ごと津田から遠ざかる萩村。まさかここで下ネタトークが来るとは思っていなかった。
「ハッハッハ!しかし結婚相手か…アリアは、どんな男と結婚したいと思う?」
「そうね…う〜ん…実は、これと言って特にこだわりはないのよね」
「そうなのか?」
「いずれは結婚したいとは思ってるのよ?ただ今は嫌だなってだけ」
「そうなんですか」
そもそも俺達はまだ高校生だ。法律上は、先輩は(会長や萩村もだが)もう結婚できる年齢だが、高校生で夫婦になりたいなんていう人は少ないだろう(居ないとは言わないが)。
「強いて言うなら若い方がいいわね。ほら、夜の性活って重要でしょ?『性の不一致で離婚』なんて状況は避けたいのよね〜」
「そうだな。互いの性癖はちゃんと理解し合わなければ、夫婦性活は成り立たんだろう。重要なことだ」
さっきから『せいかつ』の『せい』の字が違うような気がするのは気のせいかね?
「シノちゃんはどんな人が好み?」
「そうだな…公私共々私を支えてくれる男性がいいな」
「あらあら。理想は高いわね〜?」
同感だった。会長は本当に何でも出来る。まあ欠点(すぐ下ネタに走る)もあるが、大抵のことをそつなくこなしてしまえるのだ。
その会長を公私にわたって補佐するのは、よほどの人間でなければ不可能だろう。俺には到底無理だな。



「夫婦というのは互いに助け合わねばならん。そしてお互いを思いやらねばならない。そう、例え残業で疲たとしても、毎晩の性交渉を疎かにするような男は勘弁だな」
「そうね。大事なことよね?」
なぜこの二人は一々こんな言い回しをするのだろうか?下ネタを挟まなければ会話できない病にでもかかってるのか?
「なあ萩村、ちょっとジュース買いに行っていいかな?」
「却下。あんた暫く戻ってこない気でしょう?」
チッ!バレたか!
「萩村はどうだ?」
「ふぇっ!?」
突然話を振られてうろたえる萩村。
「スズちゃんはどんな男の人が好み?やっぱり小さい子が好きじゃないとダメなのかしら?」
「ロリコンは犯罪だ!いや、しかし萩村の場合はいいのか?」
「あらあら?ちゃんと入るの?」
「何がですか!?」
前の話でヒートアップしているのか、マシンガントークが収まらない先輩二人。
「いかんぞ萩村。ちゃんと入り口を解しておかないと裂けてしまうぞ。まずは体格に合ったものから順に太さをだな」



「その口閉じろー!!」
「あらあら。それとも無理やりこじ開けられるのが好きなのかしら?案外スズちゃんもMなのね♪」
「人なんだと思ってるんですか!!」
『女三人寄れば姦しい』という諺(?)を身を持って知った俺である。
っていうか、身のやり場がない。普段からガールズトークに晒されてはいるが、こういう時に男ってのは肩身が狭いものである。
「私なんかより津田はどうなのよ?」
「ぅげっ!」
ここで俺に振るか!?
「アンタは好きな女の子とかいるの?」
「ふむ。やはり男からの視点も欲しいところだな」
「そうね〜…参考までに聞かせてくれると嬉しいわね?」
何をニヤニヤしてるんだこの女子(おなご)3人は。
「…まさか萩村から話を振られるとは思わなかったよ…実は―――」
「やっぱり胸が大きくないとダメなのか!?」
「そんなことはないわよね?むしろ、スズちゃんみたいにちっちゃい子がいいのかしら?」
「変態」






「だから少しは人の話を聞いてください!俺にだって好きな人くらいいますよ!」



「「「はぁっ!?」」」
「あっ!」
しまった。俺としたことが…
ヒートアップしていた思考が急速に冷えていく。女子三人が呆然と俺を見つめていた。
「…すいません。失言でした」
「ほぉぅ…津田がなぁ…」
「へ〜、そ〜なんだ〜…ふ〜ん…」
「あらあら?うふふふふふふふふふ♪」
がっくりと首を垂れる俺。なんて迂闊な…
視線を戻すと、何やら怪しい笑顔を浮かべる3人がいた。
「…忘れてください…ってのは無理ですよね」
「…安心しろ。無理に聞こうとは思わない…だが一つだけ確認させてくれ。その女性は我が校の生徒か?」
何かを期待するような、何かに怯えるような目で俺を伺う会長。
「いえ、別の高校です。年は一つ上で」
恐らく永久に手は届かないのだろうが、それでも俺が彼女を想うのは自由だ…と思いたい。
「そ、そうか…はっ!?勘違いするなよ!?校則に『校内恋愛禁止』とあるからな!生徒会役員ともあろう者が、自ら校則を破るわけにはいかない、ただそれを確認したかっただけなんだぞ!?」



「そ、そうよね!恋愛は自由だものね!誰を好きになろうと、それは本人の意思次第よね!?」
「…ま、まぁがんばりなさいよ…お、応援ぐらいはしてあげるわ…」
「ありがとうございます会長。七条先輩と萩村も」
その後は微妙な雰囲気で、会話も最低限のまま終了した。



「あっはっはっはっはっは!!」
「笑うな!!」
夕食後、生徒会室での一件をコトミに話したら大爆笑された。
「それはタカ兄が悪いよ。まさかあの人達の前でカミングアウトするなんて」
「言うな。解ってる」
頭を抱える俺。
「それにしても、タカ兄も諦めが悪いというかなんというか…そんなにカナミお姉ちゃんのこと好きなの?」
「いいだろ別に…」
城嶋カナミ。俺の父さんの妹の旦那の姉の子。血縁はないが、親戚筋に当たる女性だ。
子供の頃、叔父と叔母の家に遊びに行った時に知り合い、お兄さんのシンジさん共々、今でも電話やメールなどでやり取りする間柄である。
「でもタカ兄、カナミお姉ちゃんは…」
「解ってる…解ってるさ…」
カナミさんは、既につき合っている男性がいる。ぶっちゃけると、彼女の兄である城嶋シンジさんだ。



当初は兄妹で恋愛なんてどうかと思ったのだが、心底幸せそうに笑う二人を見て、俺はキレイスッパリ諦めた。
まあ、それとカナミさんが好きだという気持ちは別物なわけで…
「さすがにシンジお兄ちゃんにカナミお姉ちゃんを下さいとは言えないよね?」
「昔はともかく今はなぁ…」
シンジさんが高校を卒業するまでは、付きまとってくるカナミさんに辟易していたそうだが、今はむしろ、カナミさん以外の女性は考えられないそうだ。
その心境の変化をたずねてみたところ、

『お酒の力って怖いよな…』

との返答をいただいた。一体ナニがあった?
「それはそうと、明日からメッチャからかわれるんだろうな…欝だ」
「私でよければ、いつでもタカ兄を慰めてあげるよ?心も身体もね♪」
「心はともかく身体は勘弁してください」
俺は速攻で妹に土下座した。




一方その頃

〜七条家・アリアの部屋〜
「それにしても驚いちゃったね?」
「ああ。まさか津田にな…」
パジャマ姿のシノと、ネグリジェのアリアが向き合っていた。
「どんな女性(ヒト)なんだろうね…」
「そうだな…」
いつもなら夜遅くまで和気藹々と話しをしているのだが、この日は会話もそこそこに、それぞれ布団へともぐっていった。

〜萩村家・スズの部屋〜
「津田…」
部屋着で机に向かっているスズ。ノートを開いてはいるものの、白紙に近い状態だ。
「津田…」
呆然と遠くを見詰めるような瞳…
「津田…」
ミシリ、と右手のシャープペンシルが軋んだ。

このページへのコメント

迂闊な一言は後が怖い

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Posted by 名無し 2012年12月20日(木) 10:09:52 返信

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