注:陵辱表現あり



 饐えたかび臭い匂いが漂っているとある空き教室にて、一組の男女がいた。
 男のほうは漆黒の髪を腰元まで伸ばしている少女を、イスへと腰かけた自らの股の間へ――床へと直接座ら
せて、露出している自らの男性器へと口唇奉仕をさせている。
 実に傲慢極まりないその姿。
 少女を傅かせその姿を見下ろすままである少年の顔からは、彼がなにを考えているのかそのことを窺うこと
はできなかった。
 「はむンっ、ちゅるる、ぴちゅっるる」
 やや硬度を失ってしまった男根へと舌を這わせ続ける少女、天草シノ。
 ほんの一か月余り前に彼女は自分が奉仕している津田タカトシの手により、貞操を強引に奪われそして今の
今まで身体をタカトシの気が向くままに弄ばれてきた。
 なぜ抵抗することもなくシノはタカトシの言うがままに自由にされてきたのか。
 自らが犯されたおりに撮られてしまった写真をタカトシが握っている。
 タカトシに逆らえばシノがどうなってしまうのか。
 それは火を見るよりも明らかなことだった。
 ましてや桜才学園は共学化したといえど、未だ極端に女子生徒の比率が高い。
 全校生徒憧れのアイドルといっても差し支えない存在であるシノのスキャンダル。
 噂話というものは生き物だという話がある。
 おしゃべり好きな女子高生たちは、こぞってそれを話のネタにすることだろう。
 無責任なねつ造および脚色を繰り返しながら、それは際限なく成長していく。
 当事者たちをも置いて果てしなく。
 そうなってしまったら、シノが桜才にいられようはずがない。それどころか最悪、他県への転居すら強いら
れる。
 そしてシノは生涯にわたってその噂の陰に怯え続けなければならない。
 どこへ行こうとも。
 もっとも、今のシノ本人がそれを気にしているようには見受けられなかった。
 タカトシへと跪いて性的なサービスを強いられているはずなのに、当初は嫌々ながらやらされていたことだ
ったはずなのに。
 今のシノの姿からは到底そう察することができなかった。
 「……ずいぶん上手くなりましたね、会長」
 すっと目を細め相好を崩したタカトシが、自らに奉仕してくれているシノの頭部を撫でていく。それは実に
優しげなものだった。
 「んんっ、き、きみが、ちゅるるん……、そう私を仕込んだのだろう」
 フェラチオは続けつつ、シノが上目づかいにタカトシを見上げる。目元を桜色に染めたシノ。
 それは決して憎き凌辱者を見るものではなかった。
 初めは憎んでいた。それもそのはずだろう。女の尊厳などまったく考慮することなく、ただ男としての欲望
の限り赴くままに犯されたのだ。
 しかも一生の思い出となるはずだった初体験においてだ。
 それは年頃の少女にとって死にも等しい拷問の時間だった。
 事実、その晩は到底寝付くことなどできずに、シノはただただ枕を涙で濡らし続けていた。


 その日を境にしてタカトシはシノを自らの気の向くままに弄んできた。
 放課後だけに限らず、あるいは授業中に呼び出して人気のない場所にて。あるいは早朝の自分たち以外誰も
いない生徒会室にて。
 そして当然のごとく休日もシノを呼び出して、昂ぶりを彼女めがけて放出してきた。
 しかし、シノはあるときに気づいた。
 自分が抵抗をしなければ、タカトシが自身を丁寧に扱ってくれているということに。決して自分勝手なもの
ではなくてシノに眠っていた女の部分を満足させてくれるということを。
 最初は実にバカバカしいことだと思った。強姦をするような男が女を優しく扱うはずなどない埒もないこと
だと、そう即座に否定した。
 だが、タカトシが女慣れしているということは事実で、その技巧も実に堂に入ったものであるということも
また事実であった。
 タカトシはシノのそれ――急速に開花した性に対する欲求――を満たす。
 数えきれないほど犯されたと同時に、絶頂もそれに比例して極めさせられてきた。
 そうなれば、若い身体は実に素直で貪欲だ。
 更なる快楽をもたらしてくれるようにと、男へと気分をよくしてもらうべく熱心に奉仕を重ねていく。
 そうすれば目の前の男が、甘い甘いご褒美を下賜してくれるのだから。
 つまり、シノにとっては無理矢理に犯されたことによって始まった関係なのだということは、もはやどうで
もよくなっていたのだった。

 一方、津田タカトシは現状を冷静に分析していた。
 そしてひとつの結論に至った。
 おそらく、天草シノはもう身も心も自分のものにすることができたのだということを。
 一戦交えたあとの後始末であるフェラを、タカトシがなにも言わずともシノ自らが進んでするようになった
こと。
 抱いているときに見せるその艶めかしいまでの表情。そして憎い凌辱者であったタカトシへと晒してくる女
として満足しきっている顔をみれば、それは造作もなく理解できた。
 つい今しがたもお掃除口唇奉仕を終えて、自らの秘所から溢れてくるタカトシが放った精液とそして愛液の
混合したものを始末しているシノの姿は、実に蕩けきったものだった。
 タカトシは切り出すことにした。
 自分が次に欲しているターゲットをものにすべく、その計画へとシノの助力を頼んでいった。
 
 「…………」
 自分より少し離れて佇むシノの顔からは、彼女がなにをどう考えているのか察することができなかった。
 (大丈夫、この人は断れない。オレの頼みを断れっこない)
 「…………」
 しかしながら沈黙を守るシノという現実を見て、タカトシの背筋に冷たい汗が伝っていく。
 だが、もう話してしまった以上引き返すことなどできない。
 「津田、いくつか確認したいことがある。答えろ」
 有無を言わせないその姿。さきほどまでの情欲に満たされ蕩けきっていた牝ではなく、シノ本来の姿――桜
才生徒会長としての凛とした姿がそこにはあった。
 「ええ、どうぞ。オレが答えられることならなんでも聞いてください」
 決して視線を逸らすことなく、シノの顔をまっすぐに見据えてタカトシは続きを促す。


 「なぜアリアを欲する? 私の身体を差し出すことで、アリアと萩村には手を出さないと約束したはずだが」
 「ええ、そうでしたね。それについては謝らせてもらいます。すみません」
 「……?」
 姿勢を正してすっと頭を下げてきたタカトシに、その真意が読めずシノは訝しげにタカトシを見つめる。
 「なぜ頭を下げる? き、きみは私のことを肉便器だといった。そう見下している女になぜ頭を下げる?」
 そして頭を上げたタカトシはシノへと微笑んでみせた。
 「オレが会長のことを大事に思っているからですよ」
 「……っ!?」
 動揺を見せないようにとシノは懸命に自己を取り繕う。
 「だからきみは私のことを肉便器だといった! それを……それを大事に思っているだと? ふざけるのも大
 概にしろ!!」
 「肉便器云々は言葉の綾というかノリでいったというか。そもそもオレ専用の女といった意味合いで使ったと
 いいますか」
 一歩、タカトシはシノへと足を踏み出す。元よりそう離れていなかったふたりの距離はすぐさま縮まり、タカ
トシは目の前にいる少女へと両の腕を伸ばして抱き寄せた。
 「好きでもない人を抱きたい犯したいと思うような酔狂じゃないですよ、オレは」
 「つ、つまり……?」
 「ええ、会長のことが好きってことですよ」
 「……っ!!」
 嘘ではなく真実だった。
 シノにより半ば以上強制的に入らされた生徒会。本当にイヤであれば適当に理由をつけてさっさとやめてしま
っていたはずだ。
 だが、タカトシはそうしなかった。
 シノあるいはアリアの下で働くことが不快に思うことではなく、どこか面白いところがあるということを早々
と気づくことができた。
 そして彼女らと触れ合ううちに、学園においてトップとナンバーツーの才女であるふたりを欲っするようにな
るまで、さほど時間は掛からなかった。
 「以前のオレなら好き勝手に行動していました。それこそ欲望の赴くままにってとこですかね。断りを入れる
 のが会長への誠意だと感じたから。それと謝らせてもらいました」
 初めは強引に犯すという形となってしまったが、だからこそそれ以降は今に至るまでシノの身体だけでなく心
も手に入れようと苦心し、心を砕いてきたつもりだ。
 タカトシと関係を持つ以前のシノであれば、そんなバカなことが信じられるか下らん詭弁など弄するなと一刀
両断に切り捨てていたことだろう。
 だが、あなたはオレが今まで相手してきた女とは違う特別な存在なのだということを示唆された少女から、頑
なに被り続けていた最後の仮面が徐々に剥がれていく。
 「仮にですよ。オレが七条先輩以外の女の子に手を出したとしたら、会長はどうです?」
 「そ、それは……。いや、アリアだろうが私が知らない誰であろうが、きみの毒牙に掛かるのを黙って見過ご
 すなどと……」
 「七条先輩となら会長は上手くやっていけるはずだと思っているからです。ふたりは親友同士ですからね。
 オレが会長がまったく知らない女の子を会長の目が届かないところで抱いているとしたら、会長、イヤでしょ
 う?」


 「…………」
 確かにタカトシが他の女を犯すなど愉快なことではない。
 それどころか、その女へと関心が移ってシノ自身は捨てられるという結末が待っているかもしれない。
 ここにきてシノは自らの肉体が、タカトシから逃れることができないのだということに気づかされた。そして
また心も同じく。
 タカトシを失うことがどうしようもなく恐怖に感じられてならなかった。
 本来、男という生き物はひとりの女では満足することができないという、以前どこかで聞きかじったことを思
い出した。
 まったく知らない女たちにタカトシを奪われるという危険性を孕むぐらいであれば、自分がよく知るアリアと
タカトシをシェアする形とするのが最良であると頭がそう告げる。
 巻き込む形となってしまうが、親友は自分とどこか似通った面が少なからずあるのをシノはわかっている。
 となれば、アリアもまたタカトシの虜となることだろう。
 ならばなにも問題はあるまい。
 僅かばかり逡巡したあと、シノが切り出した。
 「……いくつか条件がある」
 「オレにできることであればなんでも」
 タカトシの胸を軽く押してシノは離れる。
 「私のことを特別扱いしろとは言わない。だがアリアにもまたそうしないでくれ。その、つまり、アリアにば
 かり夢中にならないでほしい……」
 「ええ、もちろんです。自分の女には平等に接します」
 「……ああ、それならいい。それと」
 タカトシは無言で先を促す。
 「ふ、ふたりきりのときと、これから先アリアと私を一緒に抱くときは……その、私のことは名前で呼んでほ
 しい。会長では……んっ!?」
 顔を薔薇色に染めて俯いていたシノの顎を上げさせ、唇同士を合わせたタカトシ。
 互いの唾液を交換するなどして口づけを堪能したタカトシが、シノを抱きしめたまま耳元で囁く。
 「シノさん、それじゃオレのことも名前で呼んでもらっていいですか?」
 「あ、ああ、わかった。……タカトシ」
 自身の胸へと顔を寄せて甘えてくるシノを優しく抱きしめ、タカトシは確信した。
 これで天草シノは身も心も自分のものにすることができたのだと。


 憂鬱そうな面持ちにて指定された場所へと向かう少女がいた。桜才生徒会書記を務める七条アリアだ。

 昨日のことだった。いつもの生徒会活動を終えて、さああとは帰宅するばかりとなった夕刻。
 一学年下で後輩の津田タカトシから声を掛けられた。
 いわゆる天然なところがあり、また人の感情の機微にやや疎いところがあるアリアにも、タカトシが極度の緊
張状態であることを察することができた。
 それくらいタカトシの表情は硬かった。
 タカトシからの要件は実に簡潔なものだった。

 『相談に乗ってほしいことがあるので、少しお時間をいただけますか』と。
 
 どこか改まったタカトシのその口調にアリアは困惑したものの、お稽古の時間まででいいならと返した。
 不思議に思えてならなかった。普段、相談事とくればタカトシはシノへとしていたはずだった。
 時折、その場に同席することもありはしたものの、あくまでもメインはシノ。
 自分はオマケとしているにすぎないと、アリアはそう解釈していた。
 それがどうしたことなのだろうか。タカトシは親友ではなくて自分を指名してきた。
 そしてシノもスズも下校したことで、ふたりきりとなった生徒会室にて。
 心臓の鼓動が早くなるのを感じていたアリアへとタカトシが話したことは、

 『あなたのことが好きです』

と、まっすぐなまでの告白だった。
 なにを言われたのかすぐさま理解できずにフリーズしてしまったアリアを、タカトシは忍耐強く待った。
 衝撃的だった。
 数瞬置いて我に返ったアリアは思わず『えっ、私?』と、タカトシ以外は自分しかいない室内を動揺の余りき
ょろきょろと見回してしまったほどに衝撃的だった。
 
 『先輩はお金持ちのお嬢様でオレはしがない中流家庭の息子ですから、つり合いが取れていないことは十分に
 理解しています。でももうじき先輩と会長は生徒会から引退していなくなってしまう。そう考えると我慢でき
 なくて……。
 だからそのつまり、オレの彼女……いや、オレを先輩の彼氏にしてください』

 顔面にびっしりと脂汗を浮かべて、まったく余裕のなさそうな様子で告白してくれたタカトシ。
 その彼の姿は、ただただ可愛くて可愛くてしょうがなかった。異性から愛を告げられて気をよくしない人間な
どいない。
 もちろん、アリアもまたそうだった。
 どこか甘酸っぱい空気が立ち込めてきた生徒会室にて、電子メロディー音が流れてきた。自分のものだと気づ
いたアリアは、タカトシへとごめんねと告げて確認する。
 バッグから取り出して端末を開いてみれば、液晶画面に出島さんと表示されていた。
 次いで時刻を確認したところ、出島が校門へと迎えにきている時間であった。
 そろそろ出ないとお稽古に間に合わなくなってしまう。そのため、タカトシに返事は明日まで待ってほしいと
告げて、アリアは慌ただしく生徒会室をあとにした。
 そのため、どこか暗い色の笑みを湛えたタカトシの姿に気づくことはなかった。

 その日の晩。
 お稽古を終えて屋敷に帰ったアリアは悩んでいた。
 タカトシからの告白にどう返事をすればいいのだろうかと。
 女子だけでなく男子をも引いてしまう重量感たっぷりの下ネタを繰り出すアリアではあるが、そういった純


粋な恋愛経験はまったくゼロの状態であった。
 地元だけでなくて全国的にも顔の利く名家のご令嬢。
 しかしながらありがちな箱入り育ちではなく、両親の教育方針もあり小学校・中学校はともに公立校と、それ
なりに異性と接する機会があった。
 だがそれでも、男子生徒および同性が好きな女子生徒がアプローチを掛けてくることは皆無だった。
 迂闊に手を出そうものならアリア本人ではなくて、彼女の実家より裏からどのようなことをされるのかわかっ
たものではないのだから。
 つまり、アリアは人生初の告白を受けてしまったわけで。
 どのようにすればいいのかと煩悶するばかりであった。
 とてもじゃないが冷静ではいられなかった。天蓋付の豪奢なベッドの中央にてふかふかの枕を抱えたアリアは、
タカトシのことを考えてみる。
 タカトシのことをどう思っているのか。
 嫌いではない。いや、どちらかといえば好きなほうだと思う。
 容姿それなり、運動もまたそれなり、そして成績面もそれなり。
 以前、誰かがそうタカトシのことを評していた。
 しかし、生徒会メンバーとしての身内贔屓な面もあるかもしれないが、平均値は十分に超えているとアリアは
考える。
 確かに物足りない面もあり、まだまだ頼りないところもあるにはある。
 それでもそれをタカトシ本人が自覚しており、真摯に取り組んで自分に足りないところを埋めていこう自身を
磨こうと努力するところを、シノとスズだけでなくてアリアも高く評価している。
 異性のことをここまで真剣に考えたことが、はたして今までの人生であっただろうか。
 ぽふっと愛用の枕に顔を埋めるアリア。
 お日様のにおいがした。
 出島を始め多くの使用人たちが毎日掃除を頑張ってくれていることにより、布団だけでなく枕もちゃんと日に
干されている。
 身体がぽかぽかしてくるのを感じていた。寝具からのものだけではない。タカトシからの告白を受けたことを
思い出すとよりそれは顕著となった。
 しかし、実際のところどうなのだろう。
 タカトシのことは好きだ……たぶん。
 ただ告白を受諾し付き合うとすればそう遠くない将来に、男女の契りを交わさなければならない日が来ること
だろう。
 いくら真面目で優しく紳士的なタカトシといえど、そういった性的なことに間違いなく興味があるはずだ。
 だが今の時点では、タカトシのことを肌を重ねあって愛し合いたいと思うまで好きであるとは、またそのレベ
ルに達するまで彼のことを好きになれるかはわからない。
 下ネタを連発するアリアといえど、お年頃の乙女でもあるのだ。
 生涯にただ一度きりの初体験。
 本当に心からこの身を捧げたいと思える相手とそのときを迎えたい。
 ふぅっと景気の悪いため息をひとつついて、そして考えがまとまった。
 津田タカトシはその人ではない。告白は断ろうと。

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