「ふぅ〜さぶいわねぇまったく」
私が桜才学園に入学してからもう一年が経ち街行く人々はどこか慌しい雰囲気をしている。
地元の駅前、それほど栄えているわけではないが必要な物は大体手に入る
生徒会の活動に必要な物や欲しい参考書があったので寒い中こうして歩いてきた

いつも利用している書店、目当ての本が棚のかなり上にあり悪戦苦闘する
「どちらの書籍でしょうか?お取りいたしますよ。」
振り返るとこの書店の従業員だろう人が問いかける
「あの一番上の段の左端にある本です」
本を受け取り会計を済ませ先ほどより少し重い足取りで書店を後にする。

「あいつだったらどうしたんだろう・・・あの日みたいにしてくれたのかな」

言葉を紡いだ自身の口から白い息が出た

「寒いし帰ろう」

休日の駅前の雑踏を自宅へ向けて歩き出す。
大通りの信号で対面によく知った顔を見つける。
向こうはまだ自分には気づいてないようだ。
すれ違う時に声をかけてみようと思ったが止めた
別に気が変わったわけではない。
隣に並ぶもう一人のよく知った顔を見つけてしまったからだ


学校ではまず見ない私服姿で並ぶ二人
「津田と・・・会長」
なぜか咄嗟に隠れてしまう。
別に後ろめたいことがあるわけではない
なぜか今見た光景を認めたくなかった。

「何よ、二人とも私に嘘付いて・・・」

実は一人で休日の繁華街に行くのも面白みにかけると思い
生徒会の面々を誘ってみたのだ。
「ごめんねスズちゃん、明日は夕方まで親戚のお宅へお邪魔するのよ」
「すまんな〜萩村、私も明日はちょっと」
「俺もなんだ萩村」
「私が一緒に街に繰り出して若い体を!!!ジュル・・・」
前日の何気ない会話がよみがえる。

倒れそうな足取りで帰宅しすぐさま自室に逃げ込む
「なんで二人とも・・・嘘をついたのよ」
鞄の中から響く鈍い振動音

『新着メール1件 津田タカトシ』

私は内容を見ずにそっと携帯電話の電源を切った。

「私じゃ駄目なのか・・・


「スズ・・・ん・・よ」
「スズったら起きなさい」

気づくと帰宅した時窓から差し込んでいた光は消え部屋の中は暗闇が支配していた。
いつの間にか寝てしまっていたのだろうか
夕食の支度をした母親が起こしに来たようだ
「うん。」
短く返事をして洗面所へ寄りリビングへと行くが食欲はない
昼食をとらず寝てしまったので空腹のはずだが食べる気がおきない
しかし母親に心配をかけたくないと思い早々に食事を済ませ浴室へと行く
浴室の鏡に映る自分の姿は共に生徒会の活動を行っている人間
主に天草シノと七条アリアのそれとはまったくと言っていいほど違っていた

「私も二人みたいに背が高くて体型ももっと・・・」

すぐに叶うはずの無い願いだと気づき口に出すのを止めた

自室に戻ってからも昼間の事ばかり考えていた

いつからだろうか共に活動する同級生だったはずが特別な存在になっていた
いつからだろうかそれまで業務的に参加していた生徒会の活動が楽しくなったのは
もちろん二人との活動が面白みのないものだったわけではない
二人は私の知らない色々な事を教えてくれた
もちろん大半は役に立たない下世話な知識であったがそれは良しとしよう
しかし『彼』と行う生徒会の活動は違う意味での楽しさがあった
活動の内容ではなく共に過ごす時間・空間が楽しいというのが適切な言葉だろうか

「私じゃ駄目なんだ・・・会長の事を見てたんだ・・・」

綺麗に整理整頓された机の上に飾ってる写真ためを見つめつぶやく
七条家の別荘にお邪魔した際撮った何気ない一枚の写真
真っ赤に日焼けした二人が写る写真が唯一『二人だけ』で撮った写真だ

そっと写真たてを伏せると自分も瞼を閉じた


ピンポーン♪

静寂を切り裂くように呼び鈴が鳴る
昼間の事が気になって眠れずにいた私は時計を見る
「まだ0時じゃない・・・誰よ」
おそらく父親が鍵を持たずに仕事に行ったのだろうと思った。
母親が出たが何か玄関で話をしている
会話内容までは分からないが男性と会話をしているくらいは分かった

階段を登ってくる足音に違和感を覚える
二人分の足音が聞こえ不安になる

開けられた自室のドアの外に立つのは母親と
「津田?」
先ほどまで思考を占拠していた張本人の姿があった
「あら起きてたの?津田君が用があるけど携帯がつながらないって来たのよ」
ふと数時間前携帯電話の電源を切った自分の姿を思い出した。
「本当に夜分遅くにお休みのところ大変失礼しました」
「津田君だったらいいのよ♪御持て成しできないけどゆっくりしていってね」
テンプレートな会話を済ませると母親は出て行った


「どうしたのよ?何か用?」
「いや・・・あのさ」
いつもと違いはっきりしない態度にとまどいつつも続ける
「別に用があるなら明日学校で言えばよかったじゃない
 まさか家まで来るとはね」
「今じゃなきゃ駄目なんだ」
「え?」
質問の意味がよく分からなかった
「萩村、今日は何日でしょうか?」
「今日は日付が変わったから4月・・・」
言われるまで忘れていた、今日は自分の誕生日である。
「萩村、誕生日おめでとう」
差し出された手には昼間二人を横断歩道の向こう側で見つけた時に
津田が持っていた袋そのものだった
「だってそれは会長と・・・」
「え?会長?あー萩村近くにいたのか〜」
「だってあんたは会長と付き合ってるんでしょ?違うの?
 ただの友達にそこまでしないでよ。勘違いするでしょ」
言葉に出した時二人の関係を認めてしまったような感覚に陥り気づけば頬を涙がつたっていた

「ただの友達以上に思ってるからこうやってるんだよ
 一番最初におめでとうって伝えたくて・・・。


顔を真っ赤にしながら彼がつぶやいた

「俺さ女の子にプレゼントとかしたこと無かったから会長に付き合ってもらったんだよ
 それに一人で女性向けのお店に入るのもなんか抵抗あったしね。」

一呼吸おいて彼が言った

『萩村の事が・・・』

   〜数年後〜
「えぇ私天草シノが二人に出会った頃新婦は背も低く新郎は大変なロリコンry」
会長は相変わらずの性格だ。
七条先輩は仕事で世界中を飛び回っているらしい。

そして彼の肩の辺りまで背が伸びた自分が隣にいた

あの日背伸びしても届かなかった彼の口に今はちゃんと届く

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