新春、一月二日。
小久保家にはマサヒコ一家の他アイ、リョーコの家庭教師コンビに加え同級生のリンコが集結していた。
ちなみに、ミサキとアヤナは家族旅行で遠出をしているので参加は物理的に不可能だった。
「…せめて三箇日を過ぎてからでも良かったのでは?」
そうボヤくマサヒコをリョーコは一喝
「何甘ったれた事言ってんのよ。受験生に三箇日も何も有ったもんじゃないわ。
気を抜くのは元旦だけにしなさい。」
おお、何だかすごく真っ当な事言ってる。周りが感服しているにも関わらず
「それとアッチの方でもヌクのは元旦ね。新年初オナニーを……」
「ええい、黙れ黙れ。」
折角みんなが抱いた尊敬の念を秒速で粉砕する中村女史の遣り取りを経て、
マサヒコ達は新年初授業に望む事となった。


それから2時間弱、授業は続いた。少し休憩する事となりマサヒコはTVのスイッチを入れた。

「東栄大学の唐川が現在3位。その後ろ10秒差で4位の中庸大学、鍛冶屋が追っています。」
画面には雪の舞う山をロングティーシャツとランパン、それに肩から襷を掛けて走る選手が映っていた。

「ああ、そういえば今日は箱根駅伝でしたね。東栄大って強いんですか?」
マサヒコが画面を見ながら尋ねた。
「うーん、シード権は取ってるけど優勝は未だないんじゃないかな。出場も戦後からって話だし。」
アイは自分の大学に関しての質問にやや曖昧に答えた。
「そうなんですか。…うわ、この選手速いなぁ。アフリカからの留学生か。」
TVでは胸に「帝政館大学」と記されたユニフォームを纏った焦茶色の肌の選手が6位に浮上するシーンを映し出していた。
「黒人さんは速いですね〜。小久保君は走るより出すのが早いのかな?」
「なんだか腹立たしいセリフだな。それに字が間違ってる気がするぞ。」
出版社の植字担当の社員レベルで天然同級生のボケにツッコむマサヒコ。もはや職人の領域に入ってきているようだ。
「流石に日本人とは格が違うわね。持久力なんて雲泥の差だもの。夜の方では持久力に加えてナニの大きさにも…」
「健全なスポーツをなんていう眼で見てるんだアンタは…」
マサヒコは呆れながらサラっとつっこんだ。
「そういえば英稜高校も都大路に出てたよね。」
リンコは唐突に会話に加わった。都大路とは去年クリスマスイブに京都で開催された全国高校駅伝の事だ。
「ああ、男子が英稜で、女子が聖光女学院だったな。」
「へえ、聖光がねぇ…私の頃なんか走るより精液を迸らせていたのにねえ…」
「シャラップ!アンタはその発想しかできないのかよ。大体、先生もマラソンで賞を貰ったんでしょう?」
駅伝論議に熱が入っていたのか、やや力が入ったツッコミを繰り出すマサヒコ。
「って言っても東が丘の校内マラソンの話よ?」
「わたしマラソン苦手です。イッたあとみたいに疲れるし脚がバイブみたいに震えちゃうし…」
「お前の比喩は悉く間違ってる。」
クールダウンしながらマサヒコは再びTVに目を移した。芦ノ湖のゴールに関東学連選抜が飛び込んで来た。東栄大は5位。帝政館大は2位だった。
「でも駅伝って面白いですよね。追いつかれて追い越して色んなドラマがあって…」
いつの間にか餅を頬張りながらアイがしみじみとまとめた。しかしそのままでは終わらないのが氏家ワールド。
「そうね、駅弁もいいもんよ。突き上げられて腰振って色んな体位を……って無視かよ!」
新年早々のボケラッシュに、マサヒコ閉口。

こうして、いつもの雰囲気で受験シーズンの正念場3ヶ月が幕を開けた。

  〜君達の青春に咲き誇れ、煌めく満願の桜
        どうか祈る、君達の歩む道に一点の後悔の無き事を〜

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