こんな夢を見た。


 その時、シンジはむしゃくしゃしていた。つまらないことがいくつか重なり──朝は
宿題を忘れて小宮山先生に説教され、昼は緒方先生には服装について重箱の隅をつつく
ような注意をされ、挙句の果てに夕方には、ズボンのチャックが開いていたためマナカ
に散々からかわれ──それぞれはまったく大したことではないのだが、小さなことが積
み重なり、散々な気分で高校の門を出たところだったのだ。
 そこへ、シナをつくって誘うような視線をぶつけながら、栗色のロングヘアを風に
たなびかせた可愛らしい女の子が声をかけてきたのだった。
「千円で私を抱きません?」

 普段のシンジなら、軽くスルーしたろう。おまけにこの娘──名前は知らないが──
には以前、階段の上からフライングボディアタックを食い、全治一週間の怪我を負わさ
れたことがある。君子危うきに近寄らず、だ。
 だがこのときのシンジの心理状態は君子どころか、まともではなかったのだ。

(──飲む打つ買うは男の甲斐性と言うし、こういうときは買うのもいいかもな──)

 こっそり財布を確かめると、一万円札が一枚。
「細かいのがないんだけど、いいかな?」
「えっ……あ、はい……お釣りはまた今度でよければ……」
 その娘、叶ミホのほうがびっくりしてしまった。下駄箱ラブレター作戦、階段上から
のドジッ娘アピール・フライングボディアタック作戦、図書室での書庫からシャワー作
戦をはじめ、あれだけあの手この手でアタックしてみて効果がなかったのに、いきなり
体の関係をOKされたのだから無理もない。

 といってもあたりは住宅地で、ホテルなどない。城島家には妹のカナミがいるという
ことで、二人は叶家でプレイすることになった。叶家の共働きの両親はもうしばらくは
帰ってこない。
「お邪魔します……」
 ミホの家に上がりこみつつ、今更ながらシンジは少々後悔していた。見ず知らず──
でもないが──の女の子との援助交際、それも同じ高校の後輩とエッチというのは、後
腐れがないとは限らないし、第一、違法行為である。
 だが、ミホの部屋のベッドの上に腰を落ちつけ、隣にミホが座ったとたん、そんな思
考はどこかへ飛んでしまった。



(かっ……可愛い……)
 思わずシンジが見とれるほど、改めて眺めるミホは美しかった。
 しっとりと栗色に輝く豊かな髪の毛は見事なまでにストレートで、一本の枝毛もない。
ほっそりした指先は一つ一つの爪の隅々まで丁寧にマニキュアがなされている。控えめ
な化粧はあくまでも自然に素材を生かし、健康な肌の色を強調していた。睫毛も眉毛も
綺麗に整えられ、形のよい二重のまぶたに囲われたこれも栗色の瞳は、はかなげに潤ん
でシンジを見つめている。
 ミホの体は隅から隅まで手入れが行き届き、いかにもマメに美容に気を使っているの
がはっきり伺えた。この体をこれから裸に剥いて肌を合わせると思うと、シンジは鼓動
が高鳴るの抑えようもなかった。

「城島……先輩」
 一方のミホも、もう頭が真っ白になりそうだった。ずっと長いこと想いを寄せていた
男性が、すぐ隣に腰かけ、自分を抱いてくれようとしている。あとは、このときのため
に磨いてきた性技を──小宮山とマリアに教わった点が不安ではあったが──生かし、
誠心誠意、奉仕するだけだった。
「え、えーと……まず、なんて呼べばいいかな」
「ミホ……です。叶ミホです」
「ミホちゃんね。それじゃ……いいかい?」
 そっと腕を体に回されただけで、ミホの頭はオーバーヒートした。
「……せんぱ……い……」
「むっ、むぐ……」
 シンジが驚いたことに、ミホのほうからシンジに強引に唇を合わせてきた。勢いのま
まに自分よりはるかに大柄なシンジをベッドに押し倒すと、柔らかな舌をシンジのそれ
に絡み合わせる。粘膜と粘膜が濃厚に密着しては離れるうち、二人の唾液が混ざりあい、
ぴちゃぴちゃと淫靡な音を響かせた。
 シンジもまた、熱烈な先制攻撃を受けて一気に気分が盛り上がった。ようやく口が
離れた隙に、遅れをとるまいとミホの胸に手を伸ばす。
「ああ……先輩……」
 制服の上から強引に揉みしだく荒々しい手のひらを、ミホは目を閉じて受け止めた。
 やがて、シンジがミホの制服のボタンを外しはじめる。ミホもまた顔を赤らめながら
も、ひるまずにシンジのボタンに手を伸ばす。みるみるうちに、二人は互いに素肌を
晒していった。



 裸に剥きあげたミホの体は、見事に均整が取れていた。そして見た目もさることなが
ら、この感度はどうだ!
「あっ……あっ……はぁ……」
 適度に熟れた、開発途上を思わせるミホの体は、可愛らしく息づくピンク色の乳首を
指先で転がされるだけで、ピクンピクンと震えた。脇腹を抱き寄せるだけで甘い吐息を
漏らす敏感な体は、どこに触れても、そこの素肌があっという間に桜色に上気させてゆ
く。シンジは調子に乗ってすべすべの肌を撫で回した。
 やがてすっかり全身を上気させたミホは体を起こした。
「……せ、先輩……先輩も……気持ちよくなってください……」
 攻めに回ったミホは献身的だった。シンジの全身にマッサージ風の愛撫を加え、耳た
ぶに吐息を吐きかけ、首筋へはキスの雨を降らせ、全身に唇を滑らせ──ミホは知る限
りの手練手管の限りを尽した。
 そのテクは、さしものシンジも驚くほどだった。なかでも、シンジを仰向けに寝かせ
ておいて彼の胸──たくましいというには少々薄い──に『の』の字を描いて白魚のよ
うな指を滑らせ、可憐な唇でシンジの乳首を吸いながら、もう一方の手のひらでもう
すっかり怒張した男根を優しく愛撫する合わせ技には、シンジもすっかり追い上げられ
てしまった。

「ミホちゃん……俺、もう……我慢できない」
「あっ……」
 たまらなくなったシンジがミホの体を組み敷く。すらりした両脚を割り、その間に腰
を落ち着けたシンジの眼前に、ミホの全てが広がった。
「ああ……恥ずかしい……」
 ミホがあまりの羞恥に両手で顔を覆うのも構わず、蠱惑的な眺めを晒した秘奥にシン
ジはそっと指を忍び込ませてゆく。やはり栗色の陰毛はこれも綺麗に手入れされ、密や
かに息づく花びらを覆い隠すにはあまりに小さい茂みだった。やわやわとデリケートな
花弁のあわい目をあばくと、すでに露をためてテラテラと光る、真っ赤に熟れた襞々が
覗いた。
(あのテクといい、結構、経験は多いのかな……?)
 その色合いにそんなことを思ったシンジだったが、強烈な誘惑の前に、そんな冷静な
思考はあっという間に溶けてしまった。眼前に余すところなくあらわになった女体は、
そっと挿入した指一本ですら、あまりにもきつく締め付けてくる。こみあげてくる欲望
をシンジはなんとかこらえ、指をほんの少し上にずらした。
「いい眺めだ、ミホちゃん……ここはどうかな?」
「あああーっ……」
 敏感な肉芽をつまみ出され、ミホの体が跳ね上がった。ぺろんと皮を剥くと、これも
また赤く熟れた芽が顔を出し、強烈にシンジを誘った。
(……挿れたい!)
 シンジはあっさりと我慢の限界に達した。いささか慌て気味にコンドームを装着する
と、ぐいと腰を落とし、位置を合わせて改めて少女の体に覆いかぶさる。
「ミホちゃん……いくよ……」
「ああ……せんぱ……い……」
 頼りなげに目を閉じ、来るべき挿入を待って体をこわばらせる少女の表情に見とれつ
つ、シンジはゆっくりと腰を押し出す。痛いほどに張り詰め、毒々しく血管を浮かび上
がらせた男根が、ミホの体を貫いていった。
「……せんぱ、い……いたっ……あーっ!」
 奇妙な硬さを持った熱いものが侵入してくる鈍い痛みに、ミホの整った顔がゆがんだ。



(──ん?) 
 少女の体に暖かく包まれ、陶然となりながらも、シンジは多少の疑問を感じていた。
 挿入の際のはっきりした抵抗感。あれほど積極的だったミホが、挿入したとたんに
マグロ状態になり、シンジにしがみつくことしか出来ずになすがままにされていること。
そしてなにより、呆然としたような、それでいて時折痛みをこらえて顔をしかめるよう
なミホの表情。
(まさか……初めてだったわけじゃ、ないよな……)
 ミホの体はかなり開発されて真っ赤に熟れていたし、第一、援助交際を持ちかけてお
いて処女であるはずもない。
(──遠慮はいらないはずだ──うん)
 疑問を振り払ったシンジは、欲望のままに腰を振り始めた。おのれの分身をきつく
締め上げ、絡み付いてくる肉壷を存分に味わいながら──ゴム越しのために感覚が鈍く
なっているのがもどかしい──思い切り突き込んではこつんと何かに当たる感触を楽し
み、ゆっくりと引いては膣の内壁をこすりあげる。
「あっ……ひっ……う、うあっ……」
 息も絶え絶えになってそれを受け止める、ミホの悲鳴ともあえぎ声ともつかぬ声を最
高のBGMに、シンジはやがて絶頂に達した。
「お、おおっ…ミホちゃん!」
 シンジの体がピンと反り返った。最後の一突きを浴び、ミホもまた体を硬直させる。
その中で膨れ上がった男根が断末魔を迎え、生臭い欲望の汁が大量にコンドームの中に
吐き出された。



 荒い息をついて余韻に浸るシンジの男根が、ずるりとミホの体から抜ける。
「はぁ、ああ……ミホちゃん……素敵だったよ……」
 シンジは自らコンドームを外し、その口を縛った。本当はミホに後始末をして欲し
かったのだが、まだ呆然とした様子の少女は動けそうになかったのだ。

「せんぱ、い……」
 股間に残る鈍い痛みをこらえ、ミホは体を起こした。その双方の頬には、つぶらな二
つの瞳から流れた涙の跡が、くっきりと残っていた。
 破瓜のショックからまだ完全には立ち直れないまま、ミホは、とうとう想いを遂げた
という幸福感と、そしてそれ以上の後悔の念にとらわれていた。
 憧れの城島シンジに抱かれたとはいえ、シンジのミホに対する思いは、ただの援助交
際の相手でしかない。金で体を売る女と認識された今、どう頑張っても恋人になどなれ
るはずもなかった。

 確かに、城島先輩に抱いてもらえたのは嬉しかった、しかし──。
 いったいなぜ、素直に告白できなかったのか? 千円で自分を買えと持ちかけておい
て、実は初めてだったなどと知ったら、先輩はどんな顔をするだろう?
 だが、時間は戻らない。
 ならばせめて、初めてだったとは気づいて欲しくない──。
 ミホは精一杯に平静を装い、座りなおすと、シンジに背中を向け、後始末のために
ティッシュに手を伸ばした。

 だがそこには、ごまかしの利かない証拠が残っていた。
「……え……」
 ミホが座りなおしたあとを見て、シンジは絶句した。薄いピンク色のシーツの上に
くっきりと残っていたのは、鮮やかな赤い血痕。
 それはミホの美しい純潔の証だった。
 もしやとは思っていたが……援助交際を持ちかけてきた女の子が処女とは、いったい
どういうことか?
「ミホちゃん……もしかして、初めて……だったのかい?」
「あ……」
 気づかれた──。
 ミホは何も言えなかった。ミホは突然に襲ってきた猛烈な羞恥にシンジに背中を向け
口をつぐんだまま、股間をティッシュで拭い続ける。
(私は、馬鹿な女……千円で処女を売り、大切な人に尻軽と思われた、馬鹿な女……)
 その瞳からもう一度涙が溢れ、頬を伝った。



(そうか……このコは……)
 確かに、今までのミホに対するシンジの認識は売春婦のそれに近かった。まあ、そも
そものきっかけが「私を千円で買いません?」では、それも当然だ。
 だが、自らが奪った処女の証をはっきりと見せ付けられ、羞恥を含んで股間をぬぐう
ミホの仕草に、その認識は一変した。
 シンジはとうとう、ミホの真情に気づいたのだった。
(……素直に告白したくても出来ない、か……俺にもそんなことがあったな……)
 シンジの心に、かつての甘酸っぱい初恋の思い出が蘇る。だが、すぐさまそれを押し
のけたのは、どこからか心の中に湧き出てきた、目の前の少女への確かな愛しさ。
そしてさらに──押し殺した声ですすり泣く、ミホのたおやかな背中のラインを眺める
うちに、その愛しさをも押しのけて込み上げてきたのは、圧倒的なまでの劣情だった。

 この体を抱きたい……もっと! もっと!!!!

「ミホちゃん……もう一回だ」
「えっ、きゃっ……ああっ……」
 そっと優しく後ろから押し倒すと、少女の均整の取れた体はベッドの上に四つんばい
になった。腰を高く持ち上げさせると、白磁の太ももの間から、破瓜を迎えたばかりの
割れ目がこれ見よがしに覗く。
 まろやかな尻たぶのカーブに目を楽しませつつ、腕を回して細い腰をがっちり固定す
ると、シンジは獣のように後ろからミホを貫いていった。
「あっ、あっ、そんな、あーっ……」
「ミホ……ちゃんっ!」
 表面的には拭き取られたとはいえ、まだ冷めていなかったトロトロに溶けた女の体が、
シンジのそれを再び熱く包み込む。今度はゴムをつけていない──襞々の一枚一枚がき
らめくような生命に満ちて、愛を、歓びを求めてシンジの肉棒に吸い付き、絡みついて
くるようだった。
「おおうっ……気持ちいいよ、ミホちゃん……」
 シンジは少女の体に腕を回し、下向きになったためいやが上にも強調された胸の隆起
に手を伸ばす。柔らかく張り詰めた乳房を思うがままに揉みながら、シンジは突き上げ
てくる本能のままに、ひたすらにミホの体を貪った。
 彼はいつしか、全身から汗を吹き出していた。


「あ、あっ、ああっ……」
 ミホもまた、暴れまわる熱い肉棒を受け止め、いつしか雌の反応を示し始めていた。
 バックスタイルとあって、シンジの顔が見えないのがどこか心もとない──だが、愛
するシンジの燃えたぎる男根に貫かれ、ツンツンと体の芯を突付かれるうちに、先ほど
とは違い、痛みだけではない別の感覚がどこかからともなくにじみ出てきたことに、ミ
ホははっきり気づいていた。

 何度かマリアに悪戯された時にも、性感をかすかに感じたことはあった。だが、これ
に流されてはいけないと自分に言い聞かせ、快感に身を任せることをミホは断固として
拒んだものだった。

 だが今度は違う。
 この感覚に身を任せ、いやむしろ全力でこれを味わうのが女の悦びであるはずだ──。
ミホはこわばる体から力を抜こうと努め、体内で暴威を振るう肉棒に全神経を集中した。
これこそが、愛するシンジの肉体なのだ!
 やがて圧倒的な性感は抗いようのない奔流となり、今やすっかり桜色に上気したミホ
の全身を駆け巡った。
「あ、あ、あーっ!」
「おおうっ……ミホちゃんっ……」
 再びシンジの体が硬直した。最後の一撃とばかり突き込んだ男根から、ピュッピュッ
と熱い想いがほとばしり、ミホの体内にぶちまけられた。
 シンジは再び、ミホの体を心行くまで堪能したのだった。


「ああ……」
 荒い息をつきつつ、ようやくシンジのほうに向き直り、膝を揃えて座ったミホだった
が、まだ全身が痺れたように熱かった。羞恥を含んでぴっちりと閉じた股間から、今度
は白く濁った液体がトロリと垂れてきたのに気づき、ミホは呆然とした。
「はぁ、はぁ……ミホちゃん……大丈夫? ごめん、あんまり素敵だったから……その、
つい……」
 欲望に任せ、ミホの体内に精液をぶちまけてしまったことは事実だ。とりあえずは
謝ったシンジだったが、責任取って、とでも言われたら、どうすればいいだろう?

「あ、は、はいっ……あの、先輩……大丈夫です……」
 ミホはなんといっていいのか分からなかった。反射的に大丈夫と答えてしまったが、
避妊をしてくれなかったことを怒るべきだったのか、妊娠した時のことを聞くか、それ
ともいっそ結婚を迫るべきだったか?
 こんなことは小宮山先生も教えてくれなかった。まあミホ自身、どうしたらシンジに
近づけるかばかりを考えていて、こうなった後のことは考えていなかったので、聞きも
しなかったのだが。
 股間がまだジンジンと疼いているのをぼんやりと感じながら、ごちゃ混ぜの感情を整
理することも出来ず、ミホは潤んだ瞳でシンジを見つめた。が、見つめ返してくるシン
ジの視線に耐えられず、つと目をそらす。
 これだけは確かだった。形はどうあれ、たとえ尻軽女と思われたとしても、ミホは長
いこと空回りしていた思いを遂げ、愛する男性に女にしてもらったのだ。
 それだけで私は幸せだ──。
 ミホはそう自分に言い聞かせた。

 うつむくミホにシンジが声をかけた。
「……ミホちゃん」
「は、はい……」
「どうして初めてなのに、援助交際なんかしたのか、どうして君の体がこんなにも敏感
なのか、それは聞かない。ただ……」
「……ただ?」
 ミホは、シンジが詮索してこないのが大いにありがたかった。一人で空回りした挙句、
テンパって売春じみた話を持ちかけた理由など、話したくはなかったし、ましてや、
『敏感なのはマリアに開発されたから』などと言えるはずもない。



「ただ、ミホちゃん……あの、お釣りなんだけど」
 そういえば、お釣りは次の機会に、といったきりだった。それもミホにとってはもう
一度会える口実になるというものだが──愛の行為の後にベッドで話すにしては、あま
りに色気のない話ではないか?
 かすかに口を尖らせながらも、ミホが答える。
「そうでした……明日でいいですか?」 
 シンジは首を横に振った。いぶかしげに見つめるミホの栗色の瞳に見とれながら、シ
ンジはどう持ちかけたものか少し考えた末、口を開いた。
「そうじゃなくて……その、お釣りをもらうんじゃなくてさ」
「……はい……?」
「あの、俺……もっと、もっともっと君を抱きたいんだ。今日二回したから、あと八回、
させてもらえないかな。都合のいいときに連絡するから……」
 ミホの顔がぱっと明るくなった。
「あ、ああ……喜んで……」
 ミホは天にも昇る気持ちで、シンジとメルアドを交換したのだった。


「それじゃ、またね」
 叶邸を辞し、家路に着いたシンジだが、情けないことに足取りがなんとも重い。いか
に若いとはいえ、休憩なしの二連発は想像以上に体力を使ったらしい。
 取り敢えず公園のベンチに座り込んだシンジは、大きく息をついた。若さと成熟を見
事に兼ね備えたミホの体が、ひとりでに脳裏に浮かんでくる──何度でも、いや何十回、
何百回でも、あの体を抱きたい!
 シンジは、心は果てしない欲望に囚われていた。だが、体はぐったりと重い疲労を
感じていた。今はともかく休憩が必要だ。
(──こんなとこで寝たら風邪ひくな──)
 そんなことは分かっていたが、圧倒的な疲労感には勝てない。目を閉じると、彼の意
識はふっと遠のいていった。



「お兄ちゃん、朝だよ〜」
 翌日の朝。階下からのカナミの声に、シンジは目を覚ました。
 またしても、股間にテントを作って。
(……美人だったなあ……)
 いまさらながらに、シンジはそう思う。
 夢の中で見たミホの体は、見事なまでに均整が取れていた。なにより、純潔を保ちな
がらもすっかり性に目覚めているそのアンバランスさが、どこか背徳的な感じがする。
美しい体が小さな悲鳴を上げながらシンジ自身を咥えこんだ、あの瞬間の感動を生々し
く心に描くと、パジャマの中の充血した男根は痛いほどに張りつめた。
(……いかんいかん。今日も学校だ)
 ベッドからのろのろと起きだしたシンジは着替えを始めた。

(あのコは……あのコにはいつも驚かされるが、思ったよりずっと強いんだな……)
 制服に着替えつつ、シンジはそんなことを思う。
 あれだけあの手この手でアタックを続けるのも、毎日体の手入れを欠かさないのにも、
マリアにどんなにいじくられても染まらないのにも、強烈な意志の力が必要なはずだ。
 こればかりは、特に張り詰めた目標もなく、毎日をなんとなく過ごすシンジには全く
ないものだった。
(実はいいコなんだろうが……しかしなあ……あのコのラブレターは、変だからなあ)
 シンジは以前、「体がさみしいの ミホ16歳」とか、「無料」とか題のついた可愛
らしい封筒が下駄に入っていたことを思い出し、苦笑した。

 多分、今日も学校では、ミホは木の陰からシンジを見つめてくるだろう。が、この娘
のことは妄想だけにとどめておいたほうが良さそうだ。

(……強い女の子、か……よし、次は……)

 シンジの夢はまだまだ続きそうだった。



シンジの夢十夜・第八夜 カオル編

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