最終更新:ID:x+fcxmK6Bg 2008年06月01日(日) 00:05:44履歴
ぼんやりと光る街灯の下を、一組の少年少女が歩いていく。
正確に言うと、歩いているのは少年だけで、少女の方は、少年におんぶされている。
「大丈夫、重くない?」
「ん?」
背負っている側の少年の名前は小久保マサヒコ、英稜高校の一年生。
そして、背負われている側の少女の名前は的山リンコ。同じく、英稜の一年生だ。
無論、こんな状態になっているのには、理由がある。
英稜高校の文化祭はその規模が大きいことで近隣では有名だが、
マサヒコとリンコのクラスは、教室を改造してお化け屋敷をすることになっていた。
二人は小道具係で、本番を明後日に控えた今日、学校に残って、突貫で最後の仕上げ作業を行った。
何とか出来上がり、いざ帰宅という段になって、リンコが階段で躓いてこけ、足をくじいてしまった。
幸い保健の先生が残っていたので手当ては何とかなったが、ジンジンとした痛みで自力では歩けそうになく、
結局、リンコはマサヒコに背負われて帰ることになった―――というわけだ。
「ああ、重くないよ」
「……ホント?」
リンコは問い返した。
以前、コンタクトを無くした時、同じようにマサヒコに背負ってもらって家へ帰ったことがあった。
あの時、マサヒコは額から汗を流し、しんどそうに息をついていた。それをリンコは覚えている。
「ゴメンね、小久保君……」
しんどかったはずだろう、当時、マサヒコはまだ本格的な成長期に入る前だったのだから。
さすがに小柄なリンコよりは大きかったが、それでもリンコ一人を軽々と担げる程の体格ではなかった。
「小久保君、おっきくなったね」
「何を突然?」
だが、今はどうだろう。マサヒコはあの時より遥かに身長が伸び、体つきも逞しくなった。
「私はほとんど身長伸びてない……それに貧乳のままだし、ゴメンね、おぶってても面白くないでしょ?」
「お前、結局そこに話が行くのか。ってか、気にするなって」
「小久保君……」
「だって俺たち、友達だろ?」
「……うん、そうだね」
マサヒコの言葉に頷いたリンコだったが、一瞬胸の奥に、かすかな痛みを覚えた。
(あれ、何で私、心臓がチクチクしたんだろ……)
病気だろうか、と一瞬リンコは思ったが、今朝から特に体調が悪かった覚えはない。
「何でだろ……」
「ん? どうした?」
「あ、ううん、何でもない」
リンコはマサヒコの右肩に、左頬を埋めるようにして顔を伏せた。
痛みを、気のせいだと思うことにして。
(小久保君の背中、広くてあったかい……何か、すごく、安心出来る……)
優しい温もりに包まれているような気がして、リンコは一瞬、頭が麻痺したようにぽうっとなった。
そしてそれは、次第に「眠気」へと変わっていった。
(こく……ぼ、く……ん)
人通りが少なくなった商店街の中を、少年が少女をおんぶして歩いていく。
不意に背中に重みを覚えた少年は、
立ち止まると真横の大きなガラスのショーウィンドーケースに、自分達の姿を映してみた。
そして、苦笑しながら、ふぅと溜め息をひとつついた。
背中の少女が、とても幸せそうな顔で目を閉じていたからだ。
やれやれ、と少年は言うと、体を揺すって少女をもう一度背負いなおし、また、足を再び前に進め始めた。
少女が起きていた時より、若干速いペースで。
少年の名前は小久保マサヒコ、英稜高校の一年生。
少女の名前は的山リンコ、同じく英稜高校の一年生で、マサヒコの友達。
マサヒコはリンコを、友達だと思っている。
そして、リンコも、マサヒコのことを友達だと思っている。
リンコは、そう思っている。そう、今は、まだ。
F I N
正確に言うと、歩いているのは少年だけで、少女の方は、少年におんぶされている。
「大丈夫、重くない?」
「ん?」
背負っている側の少年の名前は小久保マサヒコ、英稜高校の一年生。
そして、背負われている側の少女の名前は的山リンコ。同じく、英稜の一年生だ。
無論、こんな状態になっているのには、理由がある。
英稜高校の文化祭はその規模が大きいことで近隣では有名だが、
マサヒコとリンコのクラスは、教室を改造してお化け屋敷をすることになっていた。
二人は小道具係で、本番を明後日に控えた今日、学校に残って、突貫で最後の仕上げ作業を行った。
何とか出来上がり、いざ帰宅という段になって、リンコが階段で躓いてこけ、足をくじいてしまった。
幸い保健の先生が残っていたので手当ては何とかなったが、ジンジンとした痛みで自力では歩けそうになく、
結局、リンコはマサヒコに背負われて帰ることになった―――というわけだ。
「ああ、重くないよ」
「……ホント?」
リンコは問い返した。
以前、コンタクトを無くした時、同じようにマサヒコに背負ってもらって家へ帰ったことがあった。
あの時、マサヒコは額から汗を流し、しんどそうに息をついていた。それをリンコは覚えている。
「ゴメンね、小久保君……」
しんどかったはずだろう、当時、マサヒコはまだ本格的な成長期に入る前だったのだから。
さすがに小柄なリンコよりは大きかったが、それでもリンコ一人を軽々と担げる程の体格ではなかった。
「小久保君、おっきくなったね」
「何を突然?」
だが、今はどうだろう。マサヒコはあの時より遥かに身長が伸び、体つきも逞しくなった。
「私はほとんど身長伸びてない……それに貧乳のままだし、ゴメンね、おぶってても面白くないでしょ?」
「お前、結局そこに話が行くのか。ってか、気にするなって」
「小久保君……」
「だって俺たち、友達だろ?」
「……うん、そうだね」
マサヒコの言葉に頷いたリンコだったが、一瞬胸の奥に、かすかな痛みを覚えた。
(あれ、何で私、心臓がチクチクしたんだろ……)
病気だろうか、と一瞬リンコは思ったが、今朝から特に体調が悪かった覚えはない。
「何でだろ……」
「ん? どうした?」
「あ、ううん、何でもない」
リンコはマサヒコの右肩に、左頬を埋めるようにして顔を伏せた。
痛みを、気のせいだと思うことにして。
(小久保君の背中、広くてあったかい……何か、すごく、安心出来る……)
優しい温もりに包まれているような気がして、リンコは一瞬、頭が麻痺したようにぽうっとなった。
そしてそれは、次第に「眠気」へと変わっていった。
(こく……ぼ、く……ん)
人通りが少なくなった商店街の中を、少年が少女をおんぶして歩いていく。
不意に背中に重みを覚えた少年は、
立ち止まると真横の大きなガラスのショーウィンドーケースに、自分達の姿を映してみた。
そして、苦笑しながら、ふぅと溜め息をひとつついた。
背中の少女が、とても幸せそうな顔で目を閉じていたからだ。
やれやれ、と少年は言うと、体を揺すって少女をもう一度背負いなおし、また、足を再び前に進め始めた。
少女が起きていた時より、若干速いペースで。
少年の名前は小久保マサヒコ、英稜高校の一年生。
少女の名前は的山リンコ、同じく英稜高校の一年生で、マサヒコの友達。
マサヒコはリンコを、友達だと思っている。
そして、リンコも、マサヒコのことを友達だと思っている。
リンコは、そう思っている。そう、今は、まだ。
F I N
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