テーブルの上にはビールから焼酎からワインからの各種アルコールと、適当に買ったおつまみが適当に散らかっていた。
 そしてその周りには。
 ヨダレを垂らしながら幸せそうな顔でたまに《うぅ〜〜んもう食べられ…………なくもないかな?》などと寝言を言っているアイ。
 昼間も爆睡していたのにまだまだそれでも夢を見足りない少女リンコ。
 部屋の隅っこで背中を猫みたいに丸めて、小さな身体を更に小さくしながら寝ているミサキ。
 膝枕をされてスヤスヤと心地良さそうな寝息を立てているアヤナ。
 そして。
「あたしのペースについてくるたぁ、マサヒコ中々強いじゃん、アイはこの通りからっきしだし、お姉さんは呑み仲間が出来て嬉しいよ」
 アヤナの頭を撫でながら、マサヒコのコップにドボドボと、上機嫌で気前良くビールの缶を傾けてくるリョーコ。
 それを。
「あの、おれが未成年だって覚えてますか?」
 言いつつも注がれるビールが零れないよう受け止めるマサヒコ。
 中学生ならば充分強い部類だろうが、それでも顔はさすがに赤くなっていて、目はちょっぴし据わっていたりする。
「いやいやいやいや、呑む打つ買う、この三つは若いうちに覚えた方が絶対良いって、おっさんになってからだと性質悪くなるし」
「呑むはまぁ、ん…………ぷはぁ、わかりますけど残りの、打つ買う、てのはなんですか?」
 なみなみとビールが満たしていたコップを、マサヒコは体育会系の新入生飲み会みたいに一気に飲み干すと、リョーコに益々赤くなって
きた顔で質問した。
「マサヒコ、その前にほれっ」
 リョーコはズイッと、空のコップをマサヒコに差し出す。


「注いでもらったら注ぎ返す、これ大人の常識、飲んでる間ずっとやることはないけど、最初の一回はやっときなさい」
「あ、はい」
 いまいち中学生のマサヒコには、飲むときの暗黙のルールを説明されてもピンとこなかったが、きっとそうなんだろうと素直に従って
新しいビールの缶のプルトップを開けて傾けた。
 それをリョーコはマサヒコの飲み方に倣ったのかあてられたのか、アルコール初心者みたいにやはり一気飲みする。
 瞬間。視線がマサヒコから隠れた。
「打つと買う、今日は気分が良いから、特別授業で教えてあげるよ」
 リョーコはゆっくりとコップを戻すと、目元が“ニッ”と笑みの形に歪められている。
 ろくなこと考えてねぇな。
 と。
 マサヒコは酔っていても非常に的確に分析していたが、そんなことはおかまいなしにリョーコは手を振り上げる。
「ジャンケン、ポンッ!!」
 この掛け声が掛かったら咄嗟であっても、日本人の九割は手を出してしまうはずだ。
 マサヒコも勿論出した。
 手はグー。そしてリョーコの出した手はチョキ。
「こういう勝負事が打つ、博打打ちていうのは聞いたことあるでしょ、んであたしの負けかぁ、賭け事だから当然何かを払うんだけど」
“プチ……プチ……”
「中学生相手にお金っていうのもなんだしね、こんなのはどう? 負けた方が脱ぐの、野球拳の説明はいらないよね?」
 いらない。
 このゲームは日本人老若男女の九割九分九厘が、きっときっと絶対知っているはずだ。
 あれだけ単純なルールであれほど盛り上がるゲームは、世界中を見回してみてもそうそうないだろう。知らないはずがないではないか。
 ジャンケンに負けた者が服を脱ぐ。シンプル・イズ・ベストの素晴らしい日本の伝統遊戯だ。
 ジャンケンに負けた者が服を脱ぐ。
 ジャンケンに《負けた者》が《服を脱ぐ》。 
 ジャンケンに《負けた者》が《服を脱ぐ》。
 ジャンケンに《負けた者》が《服を脱ぐ》。というわかりやすいルールのはずだが。


「なんで…………中村先生の服じゃなくて………………若田部のシャツのボタン外してるんでしょうか?」
「ん? 膝枕してやってる駄賃、マサも同級生の裸の方が興奮するかな、てあたしは気を遣ったんだけど、相手チェンジする?」
 そういう問題じゃない…………んだけども。
 マサヒコは視線を、白くて深くて柔らかそうな谷間から離せない。
 チラッと覗いているブラジャーが、激しく《ナニ》かをマサヒコの《ナニ》かに訴えかけてくる。
「いらないみたいね、それじゃ二回戦、ジャンケン、ポンッ!!」
 またしても咄嗟に出したマサヒコの手はグー。そしてリョーコの手はまたしてもチョキ。
 思わずマサヒコは拳をグッと握り締めて、力強くガッツポーズをしそうになってしまった。
「おおっ!! やるじゃんマサヒコっ!! あんた勝負事意外に強いのかもよ? ギャンブラーの素質があるのかもよ?」
 そして中村リョーコは顔にこそ出ていないが、意外にもう結構酔っているのかもよ? ていったところかな。
 そんなことを考えつつもマサヒコの視線は、ぴたりとアヤナの胸元に、同級生の蒼い色香を放つ谷間に固定されて微動だにしない。
「三回戦、いっとく? お客さん」
「…………ジャンケン、ポンッ!!」
 マサヒコの手はまたまたグー。フィスト好き? リョーコはパー。なんだか後出しクサかったが、小久保マサヒコ三回戦で初黒星だ。
 自分の握り締めた拳を、マサヒコはじっと睨みつけたりする。
「グー…………」
「ささお客さん、お代をいただきましょうか」
「お代?」
「シャツ脱いで」
 言いつつアヤナの髪の毛を梳きながら、にこにことコップを傾ける中村リョーコ。
 対して不機嫌。
「………………………………………」
 な風を装いつつも、マサヒコはいそいそとシャツを脱ぐ。
 成人男性と比べるにはまだまだ百年遅いが、骨格が少しずつがっしりしてきていて、マサヒコの身体には中性的な魅力があった。
 リョーコお姉さま益々ご機嫌。
「いっちゃう? 四回戦」
「…………ジャンケン、ポンッ!!」
 初志貫徹のオトコ。小久保マサヒコ、またまたグー。そしてリョーコはパー。


「はい、どうぞ」
「………………………………………」
 手のひらを晒して催促するリョーコだが、マサヒコはグーを出した格好で固まったままだ。
「おれ今日裸足なんですけど、じゃあお代としては、なにを払ったらいいんでしょうか、中村リョーコ先生」
「ズボン脱いで」
 視線をマサヒコは下に向ける。それはリョーコに言われるまでもなくわかってはいた。払う代価はこれしかないと。でも、
「やっぱ…………脱がなきゃダメですか?」
「ダメ」
 リョーコは無情にもあっさりと一言で撥ねつける。
「いや、でもこれ脱いでるところでみんなに起きられたら、言い訳利きそうにもないんだけど」
「でもここでゲームが終わっちゃったら、も〜〜〜〜ったいないよ〜〜〜〜 こ〜〜〜〜んなイベントも待ってるんだから」
 人差し指と親指。
 長く細い綺麗な二本の指でもってついっと摘むと、リョーコはそろそろと、マサヒコの劣情を煽るみたいにゆっくりと捲くっていく。
 あ、あとちょっとで、パ、パンツが見えちゃうでげすよっ!!
 興奮のあまりマサヒコは心の声ですら変になったが、それも思春期の男の子なら致し方ないだろう。
 短いスカートなのでリョーコがもったいぶってもすぐに、少女の秘密を覆ってるだろう魅惑の布切れが覗けてしまうのだ。しかし、
「はい、サービスはここまで、続きはズボンを脱いだ後で、五回戦を勝てたらね」
 ギリギリ絶妙な、もう少しでも動かしてくれればパンツが見えるというラインで、にやりと笑みを浮かべながらリョーコは手を止める。
 それに真っ赤な真っ赤なむっとした顔で、マサヒコは憮然と立ち上がると――――立ち上がるとズボンを脱ぎはじめた。
 トランクスの前はすでにこんもりと膨らんでいたが、下手に取り繕ったりすると余計に目立つので、素早く脱いで腰を降ろす。
 あきらかにアルコール以外で赤くなっているマサヒコの顔。
 リョーコは満足そうに二度、うんうん、と頷くと右手を高々と振り上げた。
「ジャ〜〜〜〜ンケ〜〜〜〜ン」
「ポ――――ッ!?」
 マサヒコの手はパー。そしてリョーコの手を認識した刹那、マサヒコはその手をすぐに握り締めて、拳を天へと雄々しく突き上げた。
 いまさら明記するまでもないが、一応リョーコの手はグーである。


「ありゃりゃりゃりゃ、負けちゃったかぁ、いや〜〜〜〜マサヒコくん、きみはほんとに強いわ〜〜〜〜…………というわけで」
“グッ”
 負けたのになぜか喜々とした表情でマサヒコの手を取ると、リョーコはスカートの端っこを握らせた。
 まぁ、マサヒコもリョーコに誘導されている形を、建前を取りながらも、その指先は率先してアヤナのスカートを握っている。
「イツ・ア・ショ〜〜タ〜〜イム それじゃマサヒコ…………はりきってどう〜〜〜〜ぞ」
 リョーコの悪乗りしまくりの声を合図にして、はぁはぁと息を荒くしているマサヒコの手が、ゆっくりゆっくりと同級生のスカートを
捲り上げていった。
「…………あっ!?」
 マサヒコの視界が白一色に染まる。
 お膳立てはすでにリョーコの手によって為されていたので、布キレがマサヒコの目に触れるのは、実際はとてつもなく容易だった。
 しかしマサヒコの胸中にはなにかを成し遂げたような達成感が、じんわりとスポンジに染み込むみたいに満たしていく。
 中学生が身に付けるにしては、ちょっと小洒落たデザインのパンツを目にして、大袈裟ではなくマサヒコは泣きそうになってしまった。
「マサヒコ、あんたの頬が濡れてるように見えるのは…………あたしの気のせい?」
 てか泣いてた。
 同級生のスカートを捲りながら、パンツ一丁で涙する男の子。
 彼の名誉の為に言っておくが、勿論マサヒコは普段はこんなんじゃない。
 マサヒコはいま完全に酔っている。初めてアルコールを口にしたんだから、まぁこうなるのもしょうかたない。
 つまりはちょっとご乱心気味なのである。
 それもこれもあれも全部酒の所為だっ!! ごめんな若田部…………おれ、おれ本当はこんなことしたくはないんだじょっ!!
 清く正しくしょぼい駄目人間の第一歩だった。
「う、うぅ〜〜〜〜ん お姉さま…………むにゃむにゃ…………」
「あっ!? あ〜〜〜〜あ!? あ〜〜〜〜……あ〜〜〜〜〜〜」
 こちらもキャラどおりの正しい寝言を言いながら、むずがるようにアヤナが軽く身体をくねらせる。
 お尻が身体の動きに合わせてもぞもぞ動き、マサヒコに意味不明な声を出させた。普段はこんな子じゃないんです。
 パンツがよれて細く褌、というところまではいってはいないが、わかりやすく言えばアヤナはハミケツしていた。
 男が女の子をカワイイな、と感じる魅力的な瞬間は人それぞれあるとは思うが、水着やブルマのハミケツを指を入れて直すあの仕草。
 あの仕草がトップクラスなのは疑いようがないだろう。
 マサヒコもやはりそうだ。
 水泳の授業などでは、クール、というより無関心キャラで通ってるのに、ザ・ワールドが発動したみたいに時間が止まってしまう。


 だからリョーコがパチンッと指を鳴らして、
「時間は動く…………」
 と言ってくれなければ、マサヒコはもうしばらくフリーズ状態だったはずだ。
 呪縛の解けた指先が裾を離し、スカートがパサリと落ちて、再びアヤナのお尻をマサヒコの熱視線から覆い隠す。
“ペチッ”
「痛っ!?」
 無意識にもう一度捲ろうとしたマサヒコの手を、リョーコが軽く叩いて阻止した。
「お客さ〜〜〜〜ん、ルールは守ってもらわないと困りますよ」
 右手を振り上げてる。すでに臨戦態勢だ。そして目は口ほどにものを言う、あれは本当みたいである。
 リョーコのキランと光りを放つメガネ、その奥にある瞳は、愉しくてあたしゃ堪らん、とまったく隠しもせずにそう言っていた。
「六回戦? 六回戦でいいんだよね? オッケー、ジャンケン、ポンッ!!」
 リョーコの手はグー。マサヒコの手は、
「………………………………………」
 じっと見る。未練たらたらでチョキチョキしている二本の指を。
「わたしとしてもこれは非常に言いにくいんだけどさ、そんじゃまぁいこうか? ………………………………………パンツ脱いで」
 もったいぶったわりに、結構あっさり目で言いやがった。
「あの、中村リョーコ先生、ご相談があるんですが、いいでしょうか?」
「言ってみたまえ、訊くだけは訊こうじゃないか、あたしだって血も涙もない鬼じゃないんだからね」
 嘘つけ。
 思いはしたが勿論口に出して言いはしない。マサヒコは最近になって黙るということを覚えた。正しく汚い大人の一歩目。
「どうもおれと若田部、負けたときに公平じゃない気がするんです、シャツ一枚にボタン二個ってのは、ちょとハンデがありすぎます」
「ふむ、なるほど、確かにそりゃそうだ、う〜〜〜〜んしっかしそれは、男の子と女の子の身体じゃなぁ、女の子は全身なんだしさぁ」
 それはそうかもしれない。
 男はシャツを脱いで上半身裸くらいなんでもないが、女の子の場合そこですでに、かなりの高いハードルだろう。
 だがこと勝負という観点だけで見るなら、マサヒコが圧倒的に不利なのもまた間違いがない。
「よしわかった、ならこうしようじゃないか、マサヒコには助っ人を許可しよう、その助っ人の分も服が増えれば公平でしょ?」
「助っ人?」
 自分の提案にきょとんと不思議顔をしたマサヒコに、リョーコはにやにやしながら、その助っ人候補を一人ずつ指差す。


 すなわち、幸せヨダレ顔のアイ・猫丸まりのミサキ・爆睡街道邁進中のリンコ。
「さあ助っ人は誰にする? 選り取りみどりだよ、ちょっとやそっとじゃ目は覚まさないと思うから、決まったら抱きかかえなさい」
「…………なぜ…………抱きかかえなきゃならないのですか?」
「だってそうしないと、脱がしずらいじゃん」
 至極当たり前のようにリョーコは言ったりした。
 わざわざ描写していないが、二人とも相当速いペースでアルコールを摂取している。
 ああそうかぁ、と考えてしまうマサヒコ共々、顔には相変わらず出てないが、かなりリョーコの方も酔いが回ってきたようだった。
「う、うぅ〜〜〜〜ん」
 寝言。それはただの寝言である。でも、
「マサ……ちゃん…………むにゃむにゃ…………」
 これで有無を言わさず決定。
 あまりにもタイミングがいいので一瞬、起きてるのか? とも思ったが、寝返るを打った顔はアイにも負けないヨダレが垂れていた。
 まぁこんな顔も、カワイイといえばカワイイ。
「………………………………………」
 マサヒコは無言で立ち上がると、パンツ一丁の立派なテントを張った姿で、幼馴染にそ〜〜〜〜と注意して近寄っていく。
「………………………………………」
“ちょん…………ちょんちょん…………ちょん……………………”
「う、うぅん、むぅ〜〜、う〜〜〜〜ん」
 顔を覗き込んで頬を突っついても、ミサキに起きる気配はない。
“ちょんちょん…………ちょん……ちょちょん…………ちょん…………ちょんちょん…………”
 しかしミサキの柔らかくぷにぷにとした肌の触感に、マサヒコはつい夢中になって突っつき続けてしまった。
「パートナーが決まったんなら、おいたしてないでさっさとこっちにおいでよ」
 リョーコに声を掛けられなければ、マサヒコは朝まで勃起したまま、ひたすらミサキのほっぺをぷにぷにしていたかもしれない。
 慌てて背中を支えながら、膝の裏に手を入れると、俗に言うお姫様だっこでミサキを抱き上げる。
「おおっ さすがに三本で支えると、パワーの足りないマサヒコでも、安定感バツグンだねぇ」
 人間の手は二本。ミサキの小さくキュートなお尻を支えている一本の、まぁ説明はいらないだろう。必要以上に力が漲ってカチカチだ。


 リョーコの前まで来て腰を降ろすと、マサヒコは後ろからミサキを抱きかかえる。
 マサヒコのまだ少年らしく、いまいち頼りない胸板なのに、ミサキは完全に身体を預けて、安心しきって眠っていた。
 ちょっと心が痛かったりなんかして、ごめんなミサキ。
「よ〜〜〜〜し元気に七回戦、いってみようっ!! ジャ〜〜〜〜ンケ〜〜〜〜ン、ポンッ!!」
 リョーコの手はチョキ。マサヒコの手はパー。
 早っ!!
 決して狙ったわけでは、神にでもなんにでも誓っていうが、この結果をマサヒコは狙ったわけではない。
 ないが早速ミサキの助けが必要になってしまった。でもちょっとだけ、ミサキの身体も見たいなぁ、と思ったのは白状しておこう。
「ほれほれマサヒコ、早くミサキのシャツかスカート、どっちか選んで脱がしなさい」
 ミサキのシャツにはボタンがない。それでなくともマサヒコの助っ人なわけだから、やはり男と同じルールで、豪快に脱いでもらうのが
妥当だろう。
 だいたいミサキの胸の大きさじゃ、ボタンを外したところで谷間なんて見えこないし、それじゃ面白くないよな、うん。
 助っ人を快く(?)引き受けてくれたミサキに対して、マサヒコはなんとも失礼なことを考えながら、おもむろにシャツの裾を掴んだ。
 面白くないと評しておきながら、マサヒコの手はパンチドランカーみたいに震えている。そして恐る恐る上げはじめた手を、
「あ、ちょい待ちマサヒコ」
 リョーコの手が掴んで待ったを掛けた。
 なんで止めるんですか? そんな目でマサヒコはリョーコを、睨むというほどではないが、それに近い目つきの視線を送る。
 しかしきっとこんなだから、酔っ払いは嫌われるんだろう。
「女の子をそんないきなしあられもない格好にしたら、可哀想でしょ? だからさ」
 言いつつリョーコはミサキの足首を持って、ぴんと真っ直ぐにのばすと、そのままスゴく自然な動きでスカートの中に手を差し入れた。
 そしてすぐにス――ッと、音が聞こえそうなくらい滑らかに引き抜く。
 掴んだもので軽く撫でるみたいにファサと、リョーコはマサヒコの顔を一瞬だけ触れさせた。
 目の前の視覚に優しい位置まで離して、リョーコはパッとそれを、プリントがわかるように広げてマサヒコに見せてやる。
「ネコさん…………ですか?」
「カワイイねぇ、というわけで、はい、まぁ序盤はこれで我慢しなさい」
 渡された白い物体が、マサヒコの手のひらの上で、クルン、と丸まって小さくなる。ほんのりとそれは温かかった。
 胸が激しくドキドキする。
 マサヒコは下着ドロの気持ちが、このときちょっとだけわかった気がした。


「それでナニを包んですると、いいらしいよン、お姉さんのマメ知識、さ〜〜〜〜てそれではではでは、…………八回戦だぁ!!」
 拳を突き上げハジけてるリョーコと、握った温かい物体を、脱いだズボンのポッケに仕舞おうか迷ってから、渋々と床に置くマサヒコ。
 そんなこんなで八回戦。
「ジャ〜〜〜〜ンケ〜〜〜〜ン、ポンッ!!」
 本当にわざとではないはずなんです。ええ、そんなことが出来る子じゃないはずなんです。
 リョーコの出した手はパー。マサヒコの出した手はグー。サクッと三連敗。わざとじゃないんです。信じてやってください。
「そいじゃブラジャーを…………えへっ マサヒコ脱がしてみる? ていうか脱がせて」
「えっ!?」
 ぬ、脱がせてて、お、おれが、おれがミサキのブ、ブラを脱がすのか? えっ、そ、そんなの、えっ!?
 混乱、というより興奮している頭でマサヒコは、自分の腕の中にいる幼馴染の少女を見る。
 あまり昔と代わり映えしない胸の辺りは、よく見ればシャツにうっすらと、下着のラインが浮かび上がっていた。
 しかしこうしてマジマジと見てみると、さっきは面白くないなどと思っていた胸も、まだ山になりかけな感じがなんだか可愛らしい。
 脱がせろというのなら、いまの心境は望むところだった。
「まずミサキの身体を少し前屈みにして、背中だけシャツを捲くってみ」
 リョーコに指示されたとおりミサキを前屈みにすると、マサヒコは背中の辺りだけシャツを捲り上げた。
 少女の肌の白さと、見慣れないブラのホックが、男の子にはなんとも目に眩しい。
「慣れてなくても見ながらだったら、ブラのホックなんて外すの別に難しくないからさ、マサヒコ、やってみなよ」
「あ、はい」
“カチッ”
 一発で成功。マサヒコ、これで意外に器用だった。後は肩紐のないブラなので、するりとひっぱるだけでノープロブレム。
「おお、重畳重畳、上手い上手い」
 皮肉った響きなどはまったく感じられないリョーコの褒め言葉にも、マサヒコはなにも答えられない。
 抜くとき少しだけチラッと見えた少女の薄い桜色の乳首に、ブラジャーを握り締めながら少年はただただドキドキしていた。
「おっ? カワイイ胸のポッチが浮かんでるじゃん」
“ちょん”
「んッ……」
 ミサキの身体がぴょこんと跳ねる。そしてその舌足らずな声を聴いて、マサヒコの股間もびくんと跳ねた。
 お、おまえ、こ、こんな、こんな女みたいな声、だ、だだ、出せたんですかにょ!!
 幼馴染。
 小さい頃から一緒にいるので、なんでも知っている気になるが、女はある日突然の不意打ちで変わるから、男はびっくりしてしまう。
 マサヒコとミサキの二人も、どうやら例外ではなかった。――――まぁ、いまさらではあるが。


「えへへっ マサヒコ、ミサキちゃんの感度バッチリみたいで良かったね、こういうときに男に生まれりゃ良かったと思うよあたしゃ」
 などとおっさん臭いことを言っている間も
「んぁあッ………くぅんッ……ンあぁッ……はぅッ……んンッ……ああッ………ふぁッ……ひッ……ふぅん……ンンッ…………」
 リョーコは指先はくにゅくにゅと、ミサキの乳首を丁寧に弄い転がすのをやめようとしない。
 そしてまるっきり知らない人みたいな、幼馴染の艶やかな声と蒼い痴態を、マサヒコはミサキの耳に荒い息を当てながら見つめていた。
 何度もいうがこんな、こんな、こんな股間に訴えかけてくるような、ぶっちゃけエロい少女をマサヒコは知らない。
 口唇がだんだんと大きく開いてきて、荒く切なげな吐息が、顔を近づけているマサヒコの唇にも、甘く甘く吹きかけられる。
 なんだか物凄く、
「キスしたくなるでしょ?」
「………………………………………」
 人間ズバリ本音を言い当てられたとき、それも一発で言い当てられれば、取れる選択肢はだいたい誰でも二つくらい。
 ブチギレるか無視するか、マサヒコはとりあえず後者を選んだ。
 前者を選んでもリョーコ相手じゃどうにもならないし、そもそもがいくらなんでもみっともなさすぎる。古臭いけど男のプライド。
「でさぁ、ちょっとミサキの乳首を苛めながら、あたし考えたんだけどね」
「………………………………………」
 どうしてそんなことをしながら他のことを考えられるのか、マサヒコにはわからなかったが、多分誰にもわからないので流しておこう。
「やっぱりこれてもう女の子同士の対戦なんだから、ルールを統一しないと不公平かな、て思うわけよ」
 グー・チョキ・パー。
 その内どれを選んで出すかは、マサヒコとリョーコ、二人の胸先三寸次第だが、まぁ脱ぐのはミサキとアヤナなので、すでにこの二人の
勝負になってるとも、いえないこともない――――かもしれない。
「つうわけでね、アヤナも条件を互角にしようかなと、彼女に尊敬されてるお姉様のわたしは思うわけです、よっと」
 言いながらリョーコは、マサヒコがしているみたいに、寝っころがっているアヤナの身体を起こして、後ろから抱きかかえる。
“プチ……プチ……”
 そしてマサヒコが苦労して外させることに成功したボタンを、リョーコは手早く無下に元に戻していった。
 だがそのまま流れるような動きで、シャツの上からアヤナの背中をポンと叩いた後、素早く手を突っ込みすぐに抜き取る。
「ふ〜〜〜〜ん、パンツもそうだったけど、アヤナの下着のセンスは中々に良いね」
 リョーコが目の前にぶら下げて、シゲシゲと眺めている戦利品。
 これまたパンツと同じ小洒落たデザインのブラが、マサヒコの網膜にもしっかりくっきりクリアーに映っていた。
 しかし中村リョーコの技の切れは、器用なだけで初心者なマサヒコからしたら達人芸である。ちょっとだけ尊敬の眼差しで見たりした。


「うん? 欲しいの? でもこれアヤナのだから、これだけで我慢しときなさい」
 なにか勘違いされたみたいで、こいこい、とリョーコはマサヒコを手招きすると、素直に近寄ってきた頭にブラをくくりつけたりする。
 マサヒコはクリンと右向け右をして、窓ガラスに自分の姿を映してみた。ミッ〇ーマ〇スの耳が凄くデカい。
「堪能したらちゃんと返すんだよ」
 そりゃそうだろうが、うん、そりゃそうだろうが、マサヒコは窓ガラスに映る自分の姿に、なんだか返すのが惜しくなってきた。
 脳が麻痺してきたのがはっきりわかる。
“パサッ”
「はい、これで二人の条件は一緒ね、オッケー、それじゃそろそろ九回戦いきま…………あっと? そうそうその前に」
 マサヒコが目を閉じてちょっと考え込んでいた間に、リョーコはパンツも刹那のスピードで抜き取っていた。
 床になにげなく放ったパンツにマサヒコの目が奪われると、その隙にリョーコは手を掴んで、ある場所、ある部位に導く。
“ぐにゅん”
「あンッ!?」
 ゴムボール・プリン・ゼリー・スライムなどなど――――――柔らかいとマサヒコが認識しているものがパパッと脳裏に羅列された。
“にゅむ……にゅむ……”
 汗ばんでる手に力を込めると、拍子抜けするくらい簡単に指先は沈んでいく。
 女の子のオッパイはとてもデリケート。そんな先行情報だけは、マサヒコも年頃なので無論持っていた。
 慎重に慎重に、間近で見ている酸いも甘いもとっくに経験積みのリョーコからしたら、可笑しくて可笑しくてしょうがないほど慎重に、
マサヒコはアヤナの大きなオッパイを、リハビリ患者みたいに震えてる手で、ぐにゅぐにゅと揉みに揉み込んでいく。
“にゅむ……むにゅ………にゅむにゅむ……………”
 しかし腕の中に自分に身体を預け、乳首をぴんぴんに勃たせている幼馴染がいるのに、同級生の女の子の大きなふくらみにご執心とは。
「あんた刺されないように注意しなよ、とりあえずバレたときは、シャツの中に週刊誌入れとくの忘れないようにね」
 数々の恋愛、というよりも修羅場を経験してきたリョーコお姉様のありがたいアドバイスは、しかしマサヒコには一切届いてなかった。
“にゅむ……にゅむ……むにゅ………にゅむ…………ぐにゅん………ぽよんぽよん………ぽよんぽよん………ぽよん…………”
 ふくらみを掬い上げるようにして、手のひらに載せると、神妙な顔で何度か跳ねさせてみる
 ずっしりとしてた重さが大変に心地良い。
「マサヒコ…………マサヒコ? お〜〜〜〜い聞いてるか?」
 ああ、なるほど、これならそりゃ肩も凝るよな、オッパイが大きいと苦労するってのは、嘘じゃないんだ…………よかったなミサキ。
 瞳をヤバいくらい爛々と輝かせて、硬く尖らせているアヤナの乳首を凝視しながら、マサヒコは幼馴染の要らぬ心配をしていた。
 こんなときでも人間は、結構どうでもいいことを考えられたりする。
 誰にもわからない難問だと思っていたのに、マサヒコは僅かな時間で自分の手によって解決してみせた。


 まぁ、誰にも自慢できないけど。
“グイッ”
 それは置いといて誰かに耳を引っ張られる。
「聞いてるか〜〜〜〜っ!! 小久保マサヒコく〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
 勿論リョーコに決まっているが、大音声にも少し無我の境地に入りかけていたマサヒコの反応は、
「おっ? あ、な、なに、ちゃんと聞いてるよ、うん、別に若田部のオッパイが大変そうだとか、ミサキは大丈夫とか考えてないよ」
 脳細胞があまり働いてないトンチンカンなものだった。…………どうでもいいが、トンチンカンてなんだろう?

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

どなたでも編集できます