それをリョーコに質問したならば、鏡を見ろ、そんなありがたい答えが頂戴できること請け合いだ。
「ミサキだって揉んであげればすぐに大きくなるよ、それよりもサービスはもう終わり、いい? これで貸し借りはなしだかんね?」
 はて? 何か貸したものはあっただろうか?
 マサヒコはクエスチョンマークを盛大に頭の上に浮遊させる。
 中村リョーコ先生は下ネタには鋭いのに、こういうことにはとんと鈍い生徒に、しかしそこが好感が持てる生徒に微笑で答えた。
「ミサキのカワイイ乳首をゴチになったから、アヤナのオッパイ触らせてあげたの、おわかり? ではそんなわけで九回戦――――」
 こういうのも義理堅いというべきなのかどうかは(そもそもミサキとアヤナの身体だし)、非常に意見が分かれるところではあるが、
散々にゅむにゅむ、否、全然にゅむにゅむし足りない手を振り上げて
「ジャ〜〜〜〜ンケ〜〜〜〜ン、ポンッ!!」
 フライング気味に叫んじゃってるマサヒコには、その是非を問う資格は勿論ない。あるわきゃない。
「よしっ!!」
 もう臆面もなくガッポーズを取っちゃてるんだから、うん、そりゃまぁあるわきゃない。
 勝敗はいうまでもなく、パーとグーでマサヒコの勝利。
 ミサキのお尻にぴたりと密着している勃起の硬度が、またドクンドクンと血液を収束させて増していった。
 そろそろ釘が打てるかもしれない。
「ははっ 気合入ってんねマサヒコ、思春期のオッパイパワーを舐めてたよ、それじゃ勝者の権利を堪能してちょうだい」
 アヤナのシャツの裾が、予想通りではあるが、やはりそろりそろりと、マサヒコを煽るように捲くられていく。
 まずは白いオナカがチラリと覗いて、なんだか可愛らしく感じてしまうオヘソを通り、そこで一旦ぴたりとリョーコの手が止まった。
「………………………………………」
 マサヒコは無言でリョーコを見る。
「おっとと、睨むな睨むな、せっかちは女の子に嫌われるよ」
 さっきからリョーコは酒の杯はすすんでいるが、各種取り揃えたおつまみには一切手をつけてない。
 酒の肴は完全に目の前の、いちいち反応してくれる童貞少年だった。


「仕方ないなぁ…………ちょっとだけよン♪」
 舞台の幔幕みたいに、ゆっくりゆっくりとシャツの裾が捲られ、たがまたすぐに、ぴたりとリョーコの手の動きは止まったりする。
 しかしそれで、マサヒコがリョーコを睨むかというと、全然まったくそんなことはなかった。
“ごくん……”
 まだ目立たない喉仏が、生唾を呑み込んで大きく上下する。
 柔らかい肉がその箇所に集中しているだろうことは、下半分を見せていただいただけでも、それが誰の目であっても一目瞭然だった。
 ふっくらとした二つの大きな肉まんが、食べて、と誘っているような、そんなあって欲しい幻聴にマサヒコは襲われる。
 そして頃合と見たのか、リョーコが手の動きを再開すると、それはとてつもなく可憐な姿を現した。
 食い合わせとしては苺大福があるのだから、こんなのも当然ありだろう。腹を壊そうがなんだろが男、もとい漢なら喰うね。マジで。
 肉まんの上にはちょこんと、甘そうなサクランボが鎮座していた。
「………………………………………」
 ふらふらと吸い寄せられるようにマサヒコは、間抜けに口唇を開いてサクランボへと顔を近づけていく――――のを、
“バシッ!!”
「ぶぐっ!?」
 リョーコに琴欧州ばりの見事な張り手で押し返されてしまう。
「乙女の清らかなサクランボは、そんなに安かないんですよお客さん、味見がしたかったら、もうちっと勝ってくださいよ」
 場末の温泉街にいる呼び込みのように、でへへっ、とちょっとだけ赤くなった鼻を撫でるマサヒコを見ながら、リョーコはいまにも
笑い出しそうである。
 そしてそんな風にお姉さまの酒の肴にされてるマサヒコはといえば、
「………………………………………」
 てことはつまり勝ち続ければ、サクランボの味が愉しめるということなんだろうか?
 チラッとだけ見た幼馴染のものよりも、弱冠色素の濃い紅いサクランボを魅つめながら、そんなことをメチャメチャ真剣に考えてた。
「さてと、やっぱしここは区切りの十回戦だから、勝っときたいよね」
 右手をリョーコが振り上げる。
 それを見て、区切りどころか全部勝ちたいマサヒコも、ゆっくりとおもむろに右手を振り上げた。
 乾坤一擲の大一番。
「ジャ〜〜〜〜ンケ〜〜〜〜ン――――」
 二人の手が同時に振り下ろされる。
 マサヒコの目が一瞬、ギラリ、と光ったのをリョーコは確かに見た。


「ポンッ!!」
 出した手はグーとチョキ。勝敗が決しガクリと力なく肩を落としたのは、
「…………あんたさぁ、なんの為に目なんか光らせたわけ?」
「…………気のせいでしょ…………おれそんな人間辞めなきゃいけないような、びっくりな特技はないですよ」
 マサヒコである。
「まぁいいや、じゃあマサヒコの手で、幼馴染のちょっぴしだけど成長して女の子になった身体を、じっくりと拝ませて貰おうかな」
 その言い回しにマサヒコは俯いていた顔を上げ、そしてそのまますぐに、腕の中にいる少女に視線を下ろした。
 すやすやと安心しきって、気持ち良さそうな寝息を立ててる。
 いまになってやっとこさマサヒコは気づいた。勝っても負けても、参加することに意義があることに。スポーツマンシップ万歳。
 そんなわけのわからんことを考えながら、わしっ、と力一杯ミサキのシャツの裾を掴むとそろそろと捲り上げ――――ようとはした。
 リョーコがさっきアヤナのシャツを捲ったときのように、余裕を持って、がっついてるのを見透かされぬようゆっくり捲ろうとしたが、
思春期の男の子にそんなことが出来るわけもない。
 気持ちを表すみたいに勢い込んで、一気にマサヒコは幼馴染のシャツを捲り上げてしまう。
「………………………………………」
 そしてマサヒコは声を失った。
 手で覆ったらすっぽりと隠れてしまうような小さなふくらみ、その頂でツンとその身を尖らせている乳首に魅入る。
 アヤナと比べてやはりミサキは、どちらかといえば色素が薄い方なのかもしれない。
 その淡い桜色の乳首はふるふると儚げに震えて、男の保護欲と嗜虐心、相反しているはずの二つの感情を同時に刺激してくる。
「微乳は美乳…………なんちって」
 いよいよ酔いがお脳の方にも回ってきたんだろう。
 そうじゃなきゃ言えない、言ってはいけないリョーコのハイブロウなギャグのおかげで、マサヒコはちょっとだけ冷静になれた。
 そのカッカッカッカッと熱くなりまくっていた体温を下げてくれたリョーコは、見るとマサヒコのズボンをなんだかガサゴソしている。
「記念に撮ってあげるよ」
 言って後ろのポッケから携帯を取り出すと、リョーコはカメラモードにして構えた。
「えっ!?」
“カシャッ”
 マサヒコがなにかを言う前に、シャッターを切る小気味いい音がする。
「はい、顔は写してないけど、絶対に人には見られないようにね、この画像はあんただけが見れる、最高の夜のオカズだよ」
 渡された携帯の画面にはしっかりと、乳首を硬くしこらせているのまでもはっきりわかる、小さく可憐なふくらみが鮮明に写っていた。


 リョーコを見ると惚れちゃいそうに男前な表情で、グッと格好よろしく親指を立ててらっしゃる。
 取っときな。
 マサヒコにはそんな声が聞こえた。
 これが…………これがアイコンタクトなのですか? 目と目で通じ合う、というやつなのですか? 確かにう〜〜〜〜ん色っぽい。
 ならばとそんな静かな歌詞を浮かべながら、マサヒコは目だけでリョーコに想いを伝えてみる。
 するとリョーコは、うんうん、と頷いてからウインクを一つして、アヤナを仰け反らせるみたいにしながら背中を押した。
 ただでさえ大きな乳房が、マサヒコに向かって迫ってくる。
「うおぅ!?」
 ミサキとアヤナ。
 どちらのふくらみが良いかは、それぞれの嗜好によって好みが分かれるところだが、迫力という一点だけならば圧倒的だろう。
 その説明の要らないボリューム満点の圧力に、マサヒコも思わず仰け反ってしまった。
「へいっカメラマン、ショット・プリーズ」
 リョーコに声を掛けられなければ、うわぁ〜〜っと、その迫力に呑まれまくって、アヤナのオッパイを見つめたまま固まってたろう。
 しかしマサヒコはその声にはっとなると、プロ意識に(勝手に)目覚めて携帯を構えた。
 ベストショットを求めて、携帯の画面を食い入るように見る。見る。とにかく見る。ひたすら見る。飽きずに見る。じっと見る。
 そしてわかったことが一つ。
「………………………………………」
 マサヒコはカメラを通してその大きなオッパイを見ながら、まるでエッチなビデオを見ているような感覚になったりした。
 直に自分の目で見た方が勿論良いに決まっているのだが、そういうビデオをあまり見たことのないマサヒコには新鮮な発見である。
 はぁはぁと荒い息で、
“カシャッ”
 とシャッターを押すと、マサヒコはこの日この夜撮った画像を、一生の宝にすると固く心に誓った。
 ミサキとアヤナを早速画像で見比べて見る。
 どちらもセクシーでキュート。どっちが好きなの? そんな感じで甲乙つけがたい。
 わかっているのは自分一人になったならば、マサヒコは細かく画面を大きなふくらみと小さなふくらみで行き来しながら、自家発電に
勤しんでいることだろうことだけである。
 リョーコはそれがわかっているのかいないのか(多分わかってる)“ニッ”と微笑むと、
「そいではではでは…………はりきって十一回戦いっちゃおうか? ジャ〜〜〜〜ンケ〜〜〜〜ン、ポンッ!!」
 新たなる戦いの――――いや、まぁ別にそんな大層なもんではないが、それはそれとして、とりあえず開始を告げた。


「!?」
 互いに出した手はグー。
 ジャンケンをしていれば珍しくもなんともないことではあるが、ここにキテのようやくのあいこに、マサヒコはちょっとびっくりする。
「あいこでしょ!!」
 またしてもあいこ。
「しょっ!! しょっ!! しょっ!! しょっ!! しょっ!! しょっ!! しょっ!! 」
 どうもループに入ってしまったみたいだ。
 動いたら負けるというやつで、手の変えどきが結構難しい。根性の見せどころであり、対戦相手との腹の探り合いだ。
 だから。
「オーケーッ!!」
 そうなったら。マサヒコは指をチョキチョキしている。リョーコに勝てるわけがなかった。
 しかししかしの、だがしかし、小久保さん家のマサヒコくんには、あんまりガッカリといった感じもない。
 マサヒコにはこの素敵なゲームの、仕掛けはもうわかっているのだ。
 勝とうが負けようが、ミサキかアヤナ、どちらかが脱いでくれるという仕掛けは。
 事例に照らし合わせるなら、ここはミサキが脱ぐはめになるんだろう。
 それを思う度にマサヒコの良心はズキズキと痛み、そして更にその奥にあるなにかがドキドキして、トドメに下半身はムラムラした。
「さてと、どうしようかねぇ? このままスカート捲っちゃってもいいんだけど、脱がすだけってのも厭きてきたしなぁ」
「えっ!?」
 今晩はかなりマサヒコは、この驚きを表す声を連発してはいるが、これはその中でも、大きくはないが最上級のものだったろう。
 短いフレーズの中にマサヒコが、色んなものを内包した会心の、そして痛恨の声だった。


 勿論そんなことはリョーコサイドからは、ひたすらどうでもいいことではあるが、マサヒコサイドからしたら心の叫びである。
 これで終わりかもという、不安、を通り越してもう、恐怖といっていい感情が襲い掛かってきていた。
「うん? ふふふっ 安心したまえよ少年、打ち切りはないからさ でもそうだなぁ…………ああ、じゃさ、こんなのはどうかな?」
 そこまで言ってリョーコは勿体つけるように一拍置いて身を乗り出す。マサヒコも引き込まれるように思わず身を乗り出した。
 リョーコとマサヒコ。
 二人の距離が吐息が吹きかかるほどに、唇が触れそうなほどに近くなる。
「あっ!?」
 それに気づいたマサヒコは、顔を慌てて身を引こうとするが、
“グッ……”
 それは出来そうもなかった。いつの間にかマサヒコの首に、リョーコの腕が親しげに廻されている。
“チュッ”
 冷たいメガネのフレームが、チョン、と軽くだがマサヒコの目尻の辺りに触れた。唇にも………………すごく柔らかいものが触れた。
「…………えっ!?」
 考えなくともなにをされたかなど、年頃ならば誰でもわかる。でも年頃だからこそ、それだけでマサヒコの思考は軽く飛んでいた。
「マサヒコ、一応訊いておくけどさぁ、これがファーストキスだったり?」
「いえ………………そんなことは…………全然………………まったく…………ありません…………のだ」
 事の成否はこれだけで十二分。
 そもそもマサヒコにはミサキのような、どこに出しても可愛い幼馴染がいるにもかかわらず、いまだにその距離は出会ったときから
ほぼ変わってないのである。
 こんな神様が用意してくれた絶好のシュチュエーションを活かせないやつが、他にそんなチャンスを作る甲斐性があるわけもない。
「てなわけでさ、これからマサヒコが負けたら、あたしは一つずつマサヒコの初めて貰ってくから、そこんとこよろしく」
 どんなわけだよっ!!
 声には出さずにツッコミを入れながら、マサヒコは自分の初めてを、細かく熱心に数えてみたりしていた。
 わかりきった結論ではあるが、数え出したらきりがない。
「はい、そいじゃ相互理解を深めたところで、十二回戦、ジャ〜〜〜〜ンケ〜〜〜〜ン、ポンッ!!」
 出した手ははチョキとパー。
 ブイサイン。田舎の子供みたいな、テレビカメラを前にしたみたいな、マサヒコ勝利のブイサイン。ブイブイブイ、ビクトリーッ!!


 しかしそれで、いっしし、と嫌らしく笑ったのはリョーコの方だ。
 オーケストラのタクトでも振るうように、指先をフイと上げてから、ツイと下ろして、アヤナのスカートの裾を軽く摘む。
 リョーコはチョイチョイと、マサヒコを反応を窺かのように、からかうかのようにしている。
「捲ったらさ、ここも、マサヒコくらいの歳だったら、一番見たいでしょう女の子の秘密のアソコも……………………撮っちゃう?」
 最後のワードはなぜか、誰も訊いている心配もないのに、なぜかリョーコは小声だった。
 だがその囁くみたいな声は、じんわりと、そして確実にマサヒコの心を、まだ土俵際でギリギリ頑張っているモラルを侵食していく。
 でもまだ、でもまだ往生際悪く頑張ってはいるのだ。
 マサヒコは悪魔の囁きに、少年らしく健気に、そして無駄な抵抗を試みる。
「そこまでいったらもう犯罪では?」
「ここまでやったらもう犯罪だよ?」
 リョーコのカウンター一閃。
 ああそうか…………ああ…………うん、そうだよな…………なるほどそうだよな………………。
 マサヒコのあるかないかの勝負を賭けて、前に出てきたモラルを一刀両断。
 惚れ惚れするような切れ味。
 思春期のどこかある潔癖症な心を、痛みを与えて折るのではなく、妖刀中村リョーコ、本人にもわからぬほど鮮やかに切って捨てた。


 それでも何とかいつもの、今風の中学生にありがちな、醒めた表情を保とうとするのだが、上げた顔は頬の筋肉がひくひくしていた。
 これを見てクールというやつはいないだろう。
「開き直りゃいいのに」
 リョーコはそう言うがそれは無理だ。多分人生の中でこの五、六年が、もっとも自分に素直になれない年頃だろうから。
 そのくせ異性に対する好奇心と欲求は、メチャ耐え難いというのだから困りものだ。
 だがまあそれはそれとして。
「運命の十三回戦…………イッてみようか」
 どんな運命が待ってるのか、マサヒコにはわからない。誰にもわからない。
 しかし少年はどんな運命でも、甘んじて受け入れるつもりだった。要は野球拳続行だが、微妙に格好いいっぽい物言いだとこうなる。
「ジャンケン、ポンッ!!」
 出した手はグーとパー。
 ついさっきまでならばマサヒコは、勝とうが負けようが同じことだった。
 でも導入されたばかりの新ルールによって、少しばかり勝負が終わった後の余韻に違うものがある。
「……いきなりか」
「そいじゃ〜〜ねぇ〜〜 マサヒコ、とりあえず〜〜パンツ脱い――ん?」
 最後まで言葉を綴らなくとも、もちろんパンツなんてワードが出てくれば、マサヒコは自分が一体なにを望まれているのかはわかるが、
リョーコは皆まで言わずに途中で切ると、ジーーッと腕の中にいるアヤナを見ていた。
「……そりゃそうか。酔ってるったってなぁ。ここまでされてんだもん……そりゃそうだよなぁ、うんうん」
 一人で頷いて得心いった顔をすると、ゆっくりとアヤナからミサキへと視線を移して、リョーコはキラリンッと目を光らせる。
 人間を辞めなきゃいけないような特技。なにもマサヒコの専売特許ではなかったようだ。
「なるほどなるほど。そっちもか。いい感じで酔ってるとはいえ、こりゃお姉さん、一本取られちゃったよ」
「はぁ?」
「あんたはわかんなくていいの。……どれどれ、そうするとこっちもやっぱり――」
“バサッ”
「濡れてるのかな?」
 さらに目元を鋭く愉しげに細めると、リョーコは何の予備動作もなしに、いきなりミサキのスカートを捲り上げる。
「ぶっ!?」
 悲しい牡の習性に衝き動かされ、反射的に覗こうとした少年を、またしても張り手でブロックしながら、スカートの奥に可憐に息づく、
まだまだ幼さが残るほころびを、リョーコはしげしげと熱心に観察した。


「………………………………………」
 スカートを捲られた瞬間“ぴくりっ”と、少しだけ内腿を揺らしてしまったものの、健気に下手くそな寝たふりを続行するミサキ。
 おそらくは二人とも、最初は本当に寝ていたんだと思う。
 じゃなかったらこんな、睫毛をふるふるとさせている茶髪の少女や、オバケにでも会ったみたいにぎゅっと目を力一杯つぶる少女に。
「このあたしが騙されるわきゃない」
 伊達に女をやってないのだ。
 これからそうなるだろう青い果実に、ラッキーで一本はくれてやっても、気前良く二本もやるほどには甘くない。
 とはいえ中村リョーコは厳しくはあっても、話のわからない女性ではなかった。
 確実に目を覚ましているのに、起きてます、という意思表示をしない恥ずかしがり屋の二人の為に、人肌脱いでやろうと心中決意する。
 うん。
 話はわかるがその解釈には、大いに問題のある人なのだ。
「ほらマサヒコ、あんたは早くパンツを脱ぎなさい。そしてミサキを右側にして寝かしたら、そこに男らしく堂々と勃ちなさい」
「……えっ? すいません、もう一回言ってくれます」
 リョーコの指しているのは部屋のど真ん中。
 ちょうどミサキとアヤナの位置からは、マサヒコのオールヌードを見るには、遮るもののない狙ったようなベストポジションだ。
 もちろん狙ってるだろうけどさ。
「そ・こ」
「……やるんですか? マジで? どうしても?」
 リョーコとデュエルし始めてから、もう彼此どのくらい時間が経っているのか、脳がとっくに麻痺しているマサヒコにはわからない。
 だがこれがマサヒコにとって初めての、己の身体に降りかかる直接的なピンチだった。
 パンツ一丁くらいならば、結構あっさり納得できるが、これ以上となると抵抗の度合いが違う。
「あんた同級生散々剥いといて、まさかいまさら男のくせに、ぼく恥ずかし〜〜〜〜ん、…………とか言わないよね?」
「うっ!?」
 でもそれを言われたら、とてもじゃないが、脱がないわけにはいかなかった。
 よ、よしっ!! お、おれも男だっ!! やったろうじゃん!!
 そんないつかどこかでしたような決意をすると、マサヒコはミサキを指示された通り寝かし、そ・こ、に立ってパンツに手を掛けた。


「……やっぱし……どうしてもその……見せないとダメ?」
「ダメ」
 未練がましいマサヒコの言葉を、リョーコは短く簡潔に跳ねつける。
「あんたズバッといきなさいよズバッと。いつまでもウジウジしてたら男を下げるよ。そうは思わない小久保マサヒコくん?」
“バッ!!”
 思った。
 そして思った瞬間に身体は動いて、ズバッと足首までパンツを下げていた。
 リョーコと薄目になってる他二名の視線が、鋭くマサヒコの股間に、ババッと、パンツを下げた勢いにも負けないくらい突き刺さる。
「なぁ〜〜だ立派立派。それだけのもんを持ってるんなら、別に恥ずかしがることないじゃないの。胸を張りたまえ小久保マサヒコくん」
「はぁ……どうも」
 それが人よりたとえ大きかろうが小さかろうが、それで人としての、男としての価値が決まるわけじゃない。
 だがそれでも拘ってしまうのが牡としての悲しい性だ。
 ふいっと赤い顔で目を逸らしてはしまうが、マサヒコもそう言われれば悪い気はしない。
 実際マサヒコの期待と興奮で膨らんでいる勃起のサイズは、中学生平均でいえば可もなく不可もなく、まずまず合格点のものだった。
 きちんと剥けてはいるものの、まだ粘膜の味を知らないピンクの亀頭も、ぴくぴくしている様が中々にプリティである。
 ただ……それはあくまでも、経験豊富なお姉さんの場合であって。
「………………………………………」
 顔は動かさないまま、リョーコは目の端で隣りを見た。
 幼馴染というオイシイ属性を持つ少女の目は、寝たふりをしていることも忘れたように、はっきりと大きく見開いている。
 腕の中にいるアヤナの顔は俯いていて見えないが、身体が微かにではあるが後ろに引いたのは、ばっちりかっちりきっぱり感じられた。
 こちらも少年と同じくで、その蒼い身体に勃起の味を知らない二人の少女には、強烈すぎるインパクトだったようである。
「そいじゃそのまま……オナニーしてみて」
「はい?」
「人前でするの初めてでしょ?」
 当たり前だ。
 そんな特殊な経験をするには、中学生はいくらなんでも早すぎる。――――大人になったからってできるわけじゃないけど。
「こんな可愛い娘が二人も、それもあられもない格好で寝てるんだから、ズリネタには困らないし、第一こんなチャンスそうないよ?」
 当たり前だ。
 こんなチャンスが二度も三度もあったら、毎日毎夜、チンチンが痛くなってもしている中学生男子にはパラダイスである。
 1+2=パラダイスである。


「他に人がいると出来ない恥ずかしがり屋さん、って言うなら、ちょうど肴もないことだし、一時間くらいなら席を外してもいいよ?」
 それだったらあまり抵抗はない。
 オナニーという行為は、それはそれはとてつもなくプライベートなもので、他人に見られるのはメチャメチャ屈辱的だ。
 まあ世の中には、それがいいんじゃないか、という人もいるが、マサヒコにはそういう特殊な趣味は……まだいまのところはない。
「………………………………………」
 しかしそれだと人前でする、という条件をクリアーしてない気がするのだが。
 そんなことをマサヒコが、ラッキーチャンスが手の届くところに転がってる中学生男子が、もちろん自分の口から言い出すわけがない。
「そうそう。それでいいのよ男の子は」
 抱きかかえていたアヤナをそっと、ミサキと線対称に寝かせると、意味深な笑みを浮かべながら、リョーコはゆらりと立ち上がる。
 何だかそこには妙な迫力が、あったりなかったりした。
「そいではあたしは一時間ばかり消えるから。……お姉さんの好意を無駄にしてくれるなよ少年少女達、じゃっ!!」
 足取りはスキップ一歩手前、上機嫌の鼻歌混じりで、リョーコは部屋を出て行く。
「………………………………………」
 でもマサヒコは。
“パタンッ”
 と静かにドアが閉まり、トントンと軽やかに階段を降りていく音がしても、その場から微動だにしなかった。
 全神経を耳へと集中させる。
「………………………………………」
 マサヒコは聴覚には自信があった。
 ED疑惑がどこから出るんだというほど、毎日毎夜プライベートな時間を愉しんでいるわけだが、そういうときに限って図ったように、
母親がこっそりと足音を忍ばせてやってくるが、マサヒコは察知できなかったことはない。
 その鍛えられてる聴覚は、リョーコが完全に家から出たのを確認したが、それでもしばらくは動かなかった。
「………………………………………」
 否、動けなかった。
 意識がどこで切り替わったのかは、マサヒコ本人ですらまったくわからない。
 目がキョトキョトと右に左に、シャツが肌けたたままの乳房に、剥き出しの太股にと、ミサキとアヤナの間を行ったり来たりしていた。

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