『あれ、三葉じゃねーか?』

生徒会役員での会議が終わり、タカトシが教室に忘れ物を取りに戻ると、そこには部活終わりのムツミがいた。

『タカトシくんも今帰り?』

普段のように気軽にタカトシに声をかけるムツミ。

『あぁ、"も"って事は三葉もこれから帰りか。』

『そうだよ。一緒に帰る?』

『あぁ、そうするかな。』

そう言ってタカトシは忘れ物を回収するとムツミを待ち、教室を後にした。

………………………………

『しかし、柔道部の活動は活発だな。早くも対外試合が決まるだなんてなぁ。』

『まぁね、頑張った甲斐があるってもんだよ。でも、みんな気合いが入るのはいいんだけど、練習が確実にハードになってるね。おかげでヘトヘトだよ。』

口ではヘトヘトなどと言いながら元気に笑うムツミ。

『しかも、まだまだ暑いから練習後の汗くささといったらすごいよ。』

『あぁ、わかるわかる。俺も昔から運動部だったから夏は更衣室すごかったもんな。でも、男と違ってそんな気にするほどじゃ無くないか?』

汗くさいなどと言われてもそんな風には一切感じないタカトシは思ったまま口にする。

『もう〜!デリカシー無いよタカトシくん!女の子だもん、ちゃんとシャワー浴びてから制服着るよ。』

『あぁ、それもそうか。』

自分の発言の軽率さに反省するタカトシ。

『まったく、まだまだ女の子の扱い方は下手くそだね。これだけ女の子に囲まれてるっていうのに。』

『ははは、面目ない。』

苦笑しながらタカトシは謝罪する。

『まぁ、でもそういう感じじゃなきゃここまで仲良くはなれなかったかな。』

デリカシーが無い等と一瞬はしかめっ面を作ったものの、次の瞬間にはまた笑顔で普段通りの元気印の女の子に戻るムツミ。
対してタカトシは。

『なんだよ、それ。』

あまり面白くはない。褒められてないところ、そこが良いところみたいな言われ方をされても、その心持ちは微妙である。

『ん〜、だって女子校が共学化したようなところに通っといて、全然ガツガツしてないし。逆にそんなだったら仲良くなる前にひいてたね。未だに男子で友達ランクなのなんてタカトシくんぐらいだよ?』

『そうなのか?』

ムツミの性格から言って、男子と話が出来ないなどと言うことは決してない。
しかしながら、どこかで線引きはしていて、タカトシは友人の方のラインへと入るらしい。とタカトシは推察する。

『そうだよ。中にはいるんだろうけど、私が見た感じじゃみんなやっぱりどこか色目使ってるね。
あと、そういう奴らを気にして妙に気合いいれちゃう女の子も私は苦手。』

うへ〜などと舌を出しながらそんなことを言うムツミ。
部活後だというのになんとも元気である。

『う〜ん。俺の場合生徒会のメンツもあんなだし、女の子のパワフルさに押され気味なだけなんだけどな。』

苦笑するタカトシ。

『あらそう?でも、そんなんじゃ、彼女出来ないぞ?せっかくより取り見取りなのに。』

そんなタカトシになんとも無いようにムツミは言葉を返す。

『わかった、じゃあ、私がタカトシ君とデートして少しはその苦手イメージを払拭してあげよう。』

『ええっ!?』

思わぬムツミの発言にタカトシは素っ頓狂な声をあげる。

『良いから良いから!!…なんて、本音を言ってしまえば友達同士遊び行かない?ってだけなんだけどね。』

『なんだよ、びっくりしたよ。』

『う〜ん、やっぱりタカトシ君はまだまだね。普通ここ、それでもデートには変わりないんじゃ?なんてドキドキするところだよ?』

『そういうもんなのか?』

タカトシの返事にムツミは盛大な溜息で返す。

『まぁ、いいや。詳細やなんかはまた後日って事で。私こっちだから。また明日タカトシくん!!』

やっぱり最後まで元気印なムツミだった。

………………………………

『お〜い、タカトシくーん!!』

時は流れて日曜日。
そんな放課後の翌日、社交辞令等ではなく、ホントにムツミはタカトシを誘った。
いわく『今週末から公開の映画のペアチケットがあるから一緒に見に行こう。』とのことで、
『実は前から持ってて、誰と行こうか悩んでたし、昨日あんなこと言った手前、タカトシくんと行くことにするよ。』とも付け加えていた。

『ごめん、待った?』

やや出遅れたのであろう、ムツミは若干息を切らせながらタカトシのもとへと駆け寄ってくる。
その恰好は水色のタンクトップにミニスカート。足元はサンダル。しかしながらそこまでヒールは高くなく、ムツミの動きを妨げるようなものではない。

まだまだ暑い9月も上旬ならば、みんながしてるような薄着でムツミはタカトシの前に現れた。

『ん〜、まぁ、少しな。』

『はい、減点ね。』

『何故に!?っつか、減点されると何が!?』

『前に言ったでしょ?デートだって。女の子に第一声でかける気の利いた言葉の一つぐらいあるでしょ?』

そんな事を言うムツミに合わせるようにポニーテールもピョコピョコと揺れている。
そんなムツミを見た後、タカトシは

『三葉の私服初めて見たけど似合ってるな。』

何気なく言う。別にムツミの先程の発言に答えたわけではない。
ムツミの性格を表すような変に飾り気のない服装。しかしながら普段は決して見ることの無い露出した肌。
柔道で鍛えた身体はすらっとしていて、そんな露出感もいやらしいものとはせず、動き易そうな軽装として活発なイメージのムツミとよくマッチしていた。

『でしょ〜!!』

改めて嬉しそうに笑うムツミ。
どこまでも引っ張られて行くような活発さを今日も振り撒くムツミに先導されながら2人は歩き出す。

………………………………

2人がみた映画は王道も王道、ベタもベタといわざるを得ないような恋愛物で、
1人の少年に恋する少女を軸とし、周りの人物はコミカルに描かれる。
そんななかで少女をライバル視している別の少女が留学間際に主人公の少女を後押しする形で2人は結ばれる。
ハッピーエンドまっしぐらな今時なかなかお目にかかれない、しかしながらやはり言い現すなら王道でベタ。
そんな所が話題を呼び、ヒット間違い無しと言われているものである。

『いや〜、面白かったねぇ〜。』

かなりの上機嫌、普段通りのニコニコ顔でムツミを先頭に2人は映画館を後にする。

『ん〜、面白かったんだけど、何回かツッコミをいれかけちまった。なんか、男の主人公と境遇が似てた気がするんだけど、気のせいか?』

『そう?そんなこと、微塵も感じなかったけどなぁ…』

タカトシの発言にムツミはやや考えているような顔をする。

『まぁ、良いじゃない?それより、お腹すかない?』

『あぁ、確かに。』

朝一で映画館に飛び込み、上映を見ていた為、時刻はちょうど昼頃。
良い具合に腹も空きだす時刻である。
もともと朝一で映画を見に行くということで、昼ご飯も一緒に食べるのも規定事項。
ムツミの提案に2つ返事でタカトシが答えると2人は近くのファーストフード店へ向かっていく。

………………………………

『しかし…』

『ん?どうしたの?』

『いや、よく食べるなと…』

3個目のハンバーガーに手をかけるムツミをみながらタカトシは言う。
ちなみにムツミのトレイにはもう一つハンバーガーのストックとポテトにジュースが乗っている。

『スポーツマンだもん、むしろこれぐらい食べないと。』

反論さえ出来ない清々しいムツミの答えにタカトシはこの話題を続けられなくなる。
そうすると必然的に話題は映画の方へ向かう。

『さっきの映画さ、前評判通りだったな。』

『それは良い意味で?それとも悪い意味で?』

『もちろん良い意味だよ。その点誘ってくれた三葉には感謝だな。しかし、恋愛映画なんて彼氏とかと見に行った方が良かったんじゃねえの?』

軽く礼を述べた後、タカトシは思ったままを口にする。

『ん〜。大丈夫だよ。言ったでしょ、デートだって?嫌いな人とはデートしないもん。』

『ちょっ、三葉!?』

やや頬を紅く染めながら言うムツミにタカトシは思わずドキッとしてしまう。

『……………』

そのまま、2人の間に沈黙が降りる。

『………………プッ』

ムツミが先に沈黙を破る。

『アハハハハ、真顔になりすぎだよ、タカトシくん!!』

『なんだよ、笑うなよ。』

『だって、可笑しいんだもん!!でも、少しは前進したって事で良いのかな?』

『ああ、降参だよ、降参。完全に意識しちまったよ。』

ヨッシャッ!!などとガッツポーズをしながらムツミは笑う。

『なぁ、ところで、三葉さっきの?』

そんなムツミにタカトシが問う。

『あぁ、嫌いな人とはデートしないって話?もちろん、本音だよ。』

簡潔に答えムツミはまた笑う。

『じゃあ、それって…』

『さぁ〜、どうでしょー?』

タカトシの質問をムツミははぐらかす。
すっかり手玉に取られ面白くない様子のタカトシを見ながら『可笑しい〜』等とまた声をだして笑いながらムツミはハンバーガーを平らげていった。

………………………………

ファーストフード店を出たあと2人は繁華街を遊び歩く。
ウィンドゥショッピングでムツミがファンシーショップに入ろうとするのをタカトシが同行を嫌がり怒られたり、
何気なく入ったゲームセンター、ダンスゲームで白熱するうちにムツミのパンツが見えかけてタカトシが慌てたり、
そして、そうこうするうちに、ムツミの『なんか運動したくない?』の一言がきっかけとなり2人はバッティングセンターへとやって来た。

『なんていうか、今までの流れはどこへやら、って感じだな。ま、三葉らしいけどな。』

『あー、それどういう意味よ!!』

ムツミのポニーテールが再びピョコピョコと揺れる。

『いや、元気だなと。』

『あ、そういうことか。てっきりボス猿とか言われるかと思ったよ。』

なんて言葉を返しながらムツミはまだまだ元気に笑う。

『私、小学校時代ソフト部だったんだから。』

なんて言葉を残してバッティングケージに向かう。

『っ、きゃあ!!』

派手な悲鳴をあげながらムツミは派手に空振りをする。
それもそのはずで、ムツミの入ったケージは140キロ。
高校球児でもなかなかお目にかからない、投げようものなら快速球などと評される球速。

『おい、三葉、それは流石に無理じゃね?』

ムツミの初球をみたあとで球速に気付いたタカトシが声をかける。

『ううん、大丈夫。』

『いや、キツいだろ…』

ムツミの返答に半ば呆然とするように口にするタカトシ。

『今日は1回だって、情けない姿は見せたくないの。だって、』

ブン!!

次の球も見事に空振りする。ポニーテールも半瞬遅れで空を切る。

『タカトシくんに好きになってもらわなきゃならないんだから!!』

『…!!』

もうそれ以上はタカトシは何も言えなかった。
正確には言えなかった。
突然の告白同然の発言への驚きと、ムツミはどこまで自分のことを思っているのかが頭を占領してしまったからだ。

ブン!!

『…うわ、またダメだし。』

三度、虚しく空を切るムツミのバット。

4回、5回、6回、7回と虚しくも空を切る回数のみがカウントされていく。

『今度こそ…』

もはや、真剣そのものでバットを握り直すムツミ。

ブン!!

『う〜ん、ダメかぁ…』

それでも、空を切るバット。
そこまで真剣なムツミを気付けばタカトシは心の中で応援していた。

最初はただ、同じクラスで話すようになっただけ。
男女比率のおかしい桜才学園に通うようになり、
向こうから話かけて来てくれたムツミとタカトシが打ち解けるのにそこまで時間はかからなかった。
それからムツミの相談を受け、柔道部の設立を生徒会役員として仲介。
生徒会の面々と一緒の場にムツミがいるとその空気の違いがよくわかる。
ベクトルが違うのだ。
前にムツミには女の子のパワフルさに押されてるといった。
確かにパワフルさではムツミも負けない。
ただ、違う。
けして不快ではないパワフルさ。
確かに女の子女の子した可愛さもタカトシは良いと思う。
でも、ムツミの可愛さはこのパワフルとも呼べる快活さ。
そこに居心地の悪さは無くて…

キン!!

今までの"ブン!!"ではなくて小気味良い音が響き渡る。

『惜しい!!』

ムツミは心底悔しそうである。
9球目ムツミのバットは初めてボールに当たった。
だが、しかし結果はファール。

『惜しい!!三葉、もうちょっとだ、頑張れ!!』

気付けばタカトシは口にだして、頑張れと言っていた。

『…!!、うん。』

びっくりしたようなリアクションをした後ムツミは再びバットを構える。

そんなムツミなら受け入れられる。
むしろ受け入れるならムツミが良い。とタカトシは思う。
さっきの告白同然の言葉。そこには告白への強い意志も含まれていた。
ムツミを受け入れる。と決めたタカトシとしては是が非でも頑張ってほしかった。

"キン"

再び小気味良い音が響き渡る。
ボールは前方でバウンドする。

『やったー!!』

その直後ムツミが歓喜の声をあげる。
それに合わせてポニーテールも跳ねている。

『やったよ、タカトシくん!!』

『あぁ、やったな。』

今にも飛びつきそうな勢いでバッティングケージから出てきたムツミとタカトシはハイタッチを交わす。


『…何あれ?』

『ラブコメ?さぶ。』

『ハレンチだ…』

そんな2人を終始見ていた3人の女の子の声がムツミとタカトシに聞こえたかどうかは定かではない。

………………………………

『ふぅ〜、楽しかったね。』

『あぁ、今日はサンキュな。』

2人はデートの締めくくりに公園を選んだ。

ただ、まったりとベンチに座り今日一日を振り返り笑いあう。

『ねぇ…』

不意に真剣な面持ちになったムツミ。

『タカトシくんって付き合ってる娘とか居るの?』

今更、ほんとに今更ムツミはわかりきった事を聞く。
それ以前にもう告白同然の発言までしてしまっているのだから当然タカトシはその言葉に含まれている意味も自身の答えもわかっている。

『いないな。三葉は?』

『ううん、私もいないよ。』

そう言って普段通りムツミは快活に笑う。
1日で随分と変わったものだとタカトシは思う。
前はそれがムツミの標準仕様だった。
しかし今では確実にタカトシはその笑顔に惹かれている。

『なぁ、じゃあさ、三葉。』

『ん、なぁに?』

これ以上無いほどタカトシの胸は高鳴っている。

『俺達、付き合わないか?』

『あらあら生徒会役員自ら校則違反?』

からかうようにムツミが言う。

『でも、喜んで。私もタカトシくんのこと好きだから。』

"ぽふっ"

そう言ってムツミはタカトシの肩に自らの頭を預ける。

『………………』

2人の間には緩やかな時間が流れる。
気付けば互いに手を握り、互いに温もりを交換しあう。

何気なくタカトシがムツミの方に視線を向けると視線が交わる。

『汗くさい?』

これでもかってほど潤んだ瞳でムツミはタカトシに聞く。

『いや、良い臭いがする。』

タカトシは答える。

『ん、じゃあ、抱きしめて。』

甘えるようにムツミはタカトシに告げる。

『……………』

無言のままタカトシはムツミを抱き寄せる。
そうすると顔は自然と至近距離になる。

"チュッ"

どちらからともなく目を閉じると2人はキスをまじわした。

………………………………

『ほら、行こっ!!タカトシくん。』

『ちょっ、ムツミ!!』

時は流れて文化祭。
ムツミは元気にポニーテールを揺らしながらタカトシの手をひく。
2人は付き合いだしてから順調な時を刻んでいる。

周囲に対しては"友達"と公言してはいるが、誰もがわかっている。

『まったく、今日もあの2人はラブラブだな。』

『ふふ、嫉妬かしらシノちゃん?』

『だ、誰が!!』

そんなタカトシとムツミを眺めるアリアとシノ。
今では2人は桜才学園の期望。
共学化。それに伴い校内恋愛が禁止された学園内初のカップル。
しかも片方は副会長。
そう遠くない未来、この校則は解禁されるであろう。
そう思いながら2人を見守る生徒は多い。

『友達と公言してるならアレはアウトじゃないか?』

『ふふ、確かにね。』

面白くない顔をシノが見せる時もあるが、2人も見守る側だ。

『ちょっと、浮かれ過ぎだな。後で説教だ!!』

『まあまあ、良いじゃない今日くらい。』

そんなシノをアリアが制する。

『私達が言わなくても、言う人くらいいるわ。それに学園の生徒の希望として、あれは乗り越えなくちゃ行けないしね。』

そう言ってアリアが指を指す。

『こら〜!!そこの2人待ちなさい!!』

風紀委員長の声が響き渡る。

『やばっ、五月蝿いのが来た!!まくよタカトシくん。』

そう言ってムツミはより強くタカトシの手を引く。

『ちょっ、今何て言った!?良いから止まりなさ〜い!!』

一層大きな声が響く。

やれやれ等とタカトシは言いながらもムツミに合わせてペースをあげる。
タカトシの眼前でポニーテールは揺れている。
そんなムツミの引っ張っていく未来の為にも捕まるわけには行かないな等とタカトシは思いながら、2人は駆け抜けていった。

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