「ど〜も……こんばんわ」

扉を開いたその先にいたのは、スポーツ系を思わせる金色の短い髪に、快活な容姿を見せる少女だった。
勿論、シンジは彼女の正体を知っている。

「アキちゃん」

矢野アキ。シンジの妹・カナミの親友である。

「すみません。シャワー借りたいんですけど……」

「ああ、いいよいい……ッ!!」

何気なく彼女を通そうとした瞬間、アキの破壊的なスタイルが飛び込んでくる。
――雨によって密着し、顕わとなるバスト。

アキも途中で気がついたらしく、頬の紅潮を抑えながら風呂場へと向かった。

彼女にシャワーを提供させている間、突然電話が鳴る。
先程までの恐怖を忘れたわけでもなく、一呼吸してから受話器を取る。

「はい」

『あっ……お兄ちゃん』

声の主は妹のカナミであった。
今日この時ほど、『お兄ちゃん』と呼ばれるのが嬉しかったこともないだろう。

だが彼女の口から出たのは、シンジを救う言葉ではなかった。

『今日は雨すごいから、マナカちゃんトコに泊まるね』

「はぁっ?…ちょっと待――」

瞬間ブツンという音が鳴り、突如周囲は暗闇と化す。
所謂、停電というものだ。

「お兄さん、今のって……」

ドタドタと慌てた様子で、アキが出てくる。
暗くて見えないが、服くらいは着ているだろう。だが、どこか湿っぽい印象も受ける……。

「大丈夫だって。ブレーカーを見てく……」

そう言った途端である。

停電は復旧し、シンジはとんでもないものを目にしてしまう……。

「……!!」

まだドライヤーを効かしていない湿った髪、そして彼女を隠すものはタオル一枚だった。

「……きゃっ」

アキも当然気付き、羞恥心を表出する。
彼女は慌てて脱衣所へ戻ろうとする。

「私、すぐ着てきます……わっ」

狭い場所で駆けた為、カウンターに腰をぶつけてしまう。
そして、彼女は自分を締め付けるものがなくなったことに気付く。

分かりやすく言うとすっぽんぽん――即ち全裸ということである。

「きゃあッ」

恥ずかしさから彼女は身を捩るが、それは全てシンジには――否、雄の目には求愛行動にしか見えなかった。


「アキちゃん!!」


自我が吹き飛んだ瞬間だった。
シンジは気がつくと彼女を背から強く抱きしめていた。

そして左の手が徐々に上昇していく。
強い熱を帯びる腹部から、肉を感じる下胸の境に、そして――

「……あっ」

右の乳房に。

「お兄さん、ちょっと止め――ぐっ」

アキの抵抗を、自らの口を持って塞ぐ。

彼女は、その野性に怯えていたものの、シンジの手が柔らかくなっていくのを感じて目を閉じた。

「んっ……んン――」

雨音をBGMに、二人は静かに唇を絡ませていた。
抱擁が、アキを暖めていた。

――二人に言葉は、いらなかった。


夜は更に深くなり、雨も勢いを増していた。
だがそれは、二人にとって障害となるものではなかった。

「アキちゃん……入れるよ」

カナミの部屋にあったコンドームを装着し、キスで合図を送る。
恥ずかしがるアキは何も言わず、こくりと首を振る。

「――痛ッ!!」

ゆっくりと腰を進めていく中、彼女は静かに振るえていた。
シンジは米神や頬に至るまでの様々な位置にキスをして、緊張を緩めていく。そして――

「ッ――あぁっ……!!入っ……た」

二人は、正しく繋がったのだ。
途端、アキの瞳から涙が伝った。

「おにいさ――シンジさん。これからは……他のコに目移りしないで下さいね」

彼女の笑顔は、眩しかった。
アキは間違いなく、心も裸となりシンジを求めたのだ。

「うん……約束する」

迷うまでもなかった。
先程まで抱えていた不安も、周囲にいる女性陣も――大したことはないように思えた。

「私だけの、シンジさん」

そして二人はもう一度、強く深い口づけを交わした。


同時刻、城島家前

――ピンポーン、ピンポーン

「なんで…なんでいないの?」

そこにいたのはぐっしょりと長髪を濡らした女・叶ミホであった。
告白を決意したのに、何度ベルを鳴らしても反応が見られないのだ。

「ワタシダケノ、センパイ……」

扉の向こうで憧れの人が何をしているかなど、恋する乙女には知る由もなかった。
否、知る必要などない。現実とは常に過酷なものなのだから。


知らない方が、幸せなのだから――。

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