「はー暇だ暇だ。ねーユーリ」
「シホちゃん、大きな声で言うとコトダマが働いてもっと暇になるよ」
「じゃあ、仕事仕事仕事仕事、あー仕事仕事仕事」
「虚しいだけだと思うわ」
「カルナ、冷め過ぎ」
「何だか仕事の方から逃げていきそう、呪文みたいで」
 現在日本は不況である、と言われている。
派遣切り、賃金カット、雇用主は金策に悩み、労働者は現場の人手不足か仕事不足に苦しむ。
資格を持っていても懐が満たされることもなく、あるのはサービス残業と休日出勤のみ、という職場も多い。
 そしてここに、まだ学生ながら金を稼ぐ特殊な身分の少女が三人いる。
「一週間の仕事がグラビアとインタビュー一本ずつってどういうことよ」
「今は番組改編時期で特番が多いから、なかなかテレビやラジオは声がかからないと思う。新曲を出すわけでもないし」
「……アイドルなら特番にこそ呼ばれるべきじゃないかしら」
 レイ・プリンセス芸能事務所に所属する、飯田シホ、有銘ユーリ、如月カルナ。
ユニット名はトリプルブッキング、通称TB。
一年前にひっそりとデビューした彼女達は、当初は当然ながらまったくの無名で軽い扱いだった。
マネージャーの井戸田ヒロキ、社長の柏木レイコの体を張った(文字通り)バックアップを受けつつ、
コツコツと小さな仕事をこなし、半年後に何とかかんとか初めてのCDを発売、
これが奇跡的に結構売れ、ある程度の知名度を獲得し、現在に至っている。
と言っても、「知っている人は知っている、知らない人はやっぱり知らない」といった感じではあるのだが。

 ◆ ◆ ◆

「ヒロくーん、月曜九時とか大河とか、大きい仕事を取ってきてよー」
「無茶言うな」
「じゃあそろそろ新しい曲出そうよー、有名作詞家や作曲家に頼んで」
「だから無茶言うな」
 TBのマネージャー、井戸田ヒロキはこの世界ではまだ青二才である。
大学を卒業後、何の因果か小さな芸能事務所を職場に選んでしまった彼は、
社長のレイコの鶴の一声でいきなりデビュー直後のアイドルユニットを任されることになった。
当初は一人で売り出すはずのところに手違いで三人も候補が集まってしまい、
『トリプルブッキング』と命名されて半ばヤケクソ気味にスタートをきったそのユニットは、
マネージャーの彼を含めて四人のうちズブの素人が三人、唯一の経験者がまだ小学生という構成で、
不安な船出どころか大荒れの大海へ漕ぎ出す泥船、といった感じだった。
「私の野望を成就させるためにはこんなところで足踏みはしていられにゃい」
「どんな内容の野望か知らんが、喋るとすぐに噛む奴が簡単に成し遂げられると思えないけどな」
 いきなり浸水、転覆、沈没の可能性が高かった中、幸いにしてTBは上手く波を捕まえることが出来た。
今の所は、シホが言うように仕事がなかなか増えないという点を除けば、
まだデビューして一年そこらのポッと出アイドルユニットにしては上出来な展開であると言えるだろう。
「大丈夫、あと数年もしゅれば日本はこのシホちゃんの魅力にメロロロになるから」
「また噛んでる噛んでる」
 飯田シホは中学二年になった。
確かに美少女だし、歌唱力も演技力も不足はない。
が、やたらと言葉を噛む、下ネタに遠慮がないという致命的な欠点を二つも持っている。
これらがある以上、野望達成は遥かなる道のり、雲の彼方と言わざるを得ない。
「四月から大手の事務所でデビュー攻勢があるらしいから、気をつけないと私達流されちゃうかも」
 事務用椅子に腰掛け、足をパタパタと前後に揺らしながらユーリが呟く。
今年ようやく小学六年生になった彼女だが、赤ん坊の頃からモデルとしてCMに出ており、
単純な経験年数で言えばレイ・プリンセス芸能事務所に所属するどのタレントよりも長い。
「……どこでそんな話を聞いたの、ユーリ」
「前の事務所、栄光プロの人から」
 それだけに、業界の動きについては社長のレイコに次いで鋭敏で、
芸能界の慣習がどうの、営業の仕方がどうのと、ヒロキは実際彼女に教えられることが多い。
「次の仕事はいつなんですか、井戸田さん」
 カルナが眉をしかめながらヒロキに問う。
これは怒っているのではなく、地顔がそもそもこういった表情なのである。
カメラの前では絶妙なまでに作り笑いをする辺り、家庭事情の複雑さが垣間見える。
もっとも、だからと言って性格が悪いわけでもないのがある意味彼女の魅力の一つなのかもしれない。
「えーと、14日に『週刊ヤングデラックススペシャルマガジン』のグラビア撮影、そして」
「そして?」
「21日に講談テレビのバラエティ番組の収録」
「そして?」
「……28日に王奈ホールの改装記念コンサートにゲスト参加」
「そして?」
「……」
「見事に一週間ごとですね」
「いやまあ、でも間にトレーニングがあるし、それぞれの打ち合わせや顔合わせもあるし……」
 シホもユーリもカルナも学生なので、その意味では土日に仕事が入る方がやり易いと言えばやり易い。
が、売れっ子への長い坂を上り始めた彼女らにとっては、いささかお寒いスケジュールではあった。
「それにしてもまたヤンデレスペルマのグラビア? あそこ、もうこれで三回目じゃない?」
「そう言えばそうね」
 ヤンデレスペルマとはヤングデラックススペシャルマガジンの略で、命名者はシホである。
彼女以外にこの週刊漫画誌をそう呼ぶ者はいない。
主に言葉の響き的な理由で。
「あそこの編集長、なんだか好色そうなオヤジだったよね」
「そんなことなかったと思うけど」
「ちつちつちつ、まだお子様のユーリにはわかんないのよ、あのオヤジオーラが」
「と言うか、チッチッチッくらい普通に言おうよシホちゃん」
「きっと私の魅力ね。この大人の階段を上りはじゅめた青い果実を狙ってるに違いない」
 ユーリのツッコミをシホは無視した。
意図的にスルーしたと言うより、多分耳に届いていなかったのであろう。
脳内の妄想の音の方が大きくて。


   ―――飯田シホは怯え、震えていた。
  これからどのようなおぞましいことが自身に起こるか、芸能界に身を置く者として、彼女は知っていた。
  「さあ、服を脱いでもらおうか」
   否応なしの強制力を伴う男のダミ声が、鼓膜を通過し、脳の奥底へと響く。
  「まずは、そうだな……下からだ」
   シホの手が男の命令通りに動く。
  そこには、彼女の意思はすでにない。
  逆らいたい。
  が、逆らえない。
  「……」
   パサリ、とスカートが床へと落ちる。
  同時に、シホの両の瞳から溢れた涙が頬と顎を伝って、同じく床へと落ちていく。
  「いいねえ……中学生のまだ熟れてない太股……」
   ペロリ、と男は舌で唇を舐めた。
  それは、獲物を前にした肉食獣の行為そのもの。
  「次はパンティーだ。ふふふ……上を残して下だけ裸、実にそそる……」
   ショーツや下着という表現を使わなかったのは、
  シホに与える影響を考えてのことなのだろう。
  シホの顔が羞恥で歪むのを見て、楽しもうというのだ。
  「ううっ……ひっく……」
   低い嗚咽が、シホの喉から漏れる。
  無論、それが男の情けに届くことはない。
  逆により強い獣性を呼び醒ますだけである。
  「さっさとしろ!」
  「ひいっ!」
  「俺が一声上げれば、TBは業界から干される。それでいいのか?」
   強い男の口調に、シホはショーツにかけていた手を離し、両の肩を抱き抱えてしゃがみ込む。
  そこには、普段の明るい彼女の姿は欠片もない。
  あるのは、男の醜い征服欲によって汚されようとしている、14歳のか弱い身体だけだ。
  「あまり手間をかけさせてくれるな……」
   怒りと、そして性的衝動に塗れた眼をぎょろりと光らせ、男はシホの腰を掴み、引き寄せた。
  「今度のうちの雑誌の巻頭グラビアを飾る大事な身体なんだ、傷をつけたくはない」
  「ひぎいっ!」
   抵抗する間もなく、シホの下半身からショーツが引きちぎられる。
  「もっとも、見えないところなら大丈夫かもしれんがな……」
   男の手が、シホの淡い陰毛の奥へと伸び―――

「……と、いうことになるかもしれない!」
「なるわけないだろ」
 ヒロキは手にしていたクリアファイルを丸めると、シホの後頭部をペチンと叩いた。
「いったーい」
「なんつーこと考えるんだ、あそこの編集長はそんな人じゃない」
 ヤングデラックススペシャルマガジンの編集長は、確かに歳はオヤジと言っていいが、決してそういった性癖の持ち主ではない。
面倒見が良く、編集者や漫画家から慕われている人格者であり、TBをグラビアによく使ってくれるのも、その将来性を見込んでのことである。
マネージャーである井戸田ヒロキは、そこら辺りはよく知っている。
「わかんないよ、もしかしたら私を見ているうちに新しい扉を開いたのかも」
「シホちゃんによって開かれるくらい軽い扉なら、多分他の誰かが蹴破ってるぞ、今までに間違いなく」
「なっ、酷いヒロ君! そんなアソコズッコンを堂々と!」
「悪口雑言な。シホちゃん、時々ワザとやってるだろ」
 飯田シホと井戸田ヒロキ、二人の間には十程の歳の差があるが、どうにもシホはヒロキを年上として敬う気持ちが無い。
ヒロキはヒロキでシホを子供扱い(と言うか、彼にとってTBの三人は皆子供である)するものの、
彼の根が真面目なためかそれとも大人の態度を取るにはまだまだ経験が足りていないのか、結局上手く捌ききれていなかったりする。
「それにさ、講談テレビも信用ならない」
「また何を言いだすのやら」
「バラエティって『しわ寄せの拘束』でしょ、土曜収録ってことは」
「『幸せの法則』な。それが?」
「あそこのチーフディレクター、絶対ロリコン」
「……何故わかる」
「臭いで」
「耳鼻科行ってこい、一度」
「あの縁の太い眼鏡! 薄い唇! 顎だけに伸びた無精髭! 色褪せたソフトジーンズ! ロリコンにまちゅがいない!」
「どういう方程式だ。つうか全国の同じ条件に当てはまる人に謝れ、土下座で謝れ、全力で謝れ」
 とどのつまり仲が良い、と言えたりするのかもしれない。
シホとヒロキは。


  「いひひひい、いいねえいいねえ、これだよ、まだ乳臭さが残る女の子の身体……」
  「いやああ、もうやめてええ」
  「やめないよ、やめてたまるもんか」
   有銘ユーリは床に組み敷かれていた。
  男の獰猛な手によって。
  「助けて、お兄ちゃん! 助けてシホちゃん!」
  「いひひひ、無駄だよ、呼んでも誰も来るわけない」
   歌番組の収録の後、テレビ局から一旦は出たユーリだったが、
  忘れ物をしたので再び楽屋に取りに戻った。
  その時にマネージャーの井戸田ヒロキも一緒に付いていくと言ったのだが、
  すぐに戻るからとユーリはそれを断った。
  それが、ユーリにとって悪夢の始まりだった。
  「膨らみ始めた胸……肉のついてないお尻……」
  「いやあああ」
   楽屋から出た直後のことだった。
  エレベーターに乗ろうとしたユーリの腕がもの凄い力で引っ張られたのは。
  「前から目をつけていたんだ、君には」
   人気のない小道具室に引きずり込まれ、押し倒され、そして服を剥かれ。
  「やめて、やめて下さいっ」
  「だからやめないってば。なあに、おとなしくしていればすぐ済むよ」
  「いやあっ」
   幼さの残るユーリの身体を、今まさに蹂躙せんとしているのは、
  かつて一緒に仕事をした、とある番組のディレクターだった。
  その時は至って普通の態度で、身の危険を感じるようなことは無かったのだが。
  「いいねえ、実にいい。小学五年生や六年生辺りの女の子は実に」
  「あうっ、あっ、そ、そんなとこ噛まないでっ」
  「中学生なんてもうババアだよ。いひひ、いひひ」
   まさか、目をつけられていたとは。
  「やっと君が僕のものになる。嬉しくてたまらないよ」
   すでに、ユーリの身体を覆っている布は切れっぱしの一つもない。
  脱がされ、破られして、無残に床に散らばっている。
  「さあ、君の身体に僕を刻みこんであげるよ」
  「ダメッ、イヤッ、いやああ」
   薄暗い天井に、ユーリの悲鳴が反射する。
  助けは、来ない―――


「……とかになるかもしれない!」
「ならないってば!」
 ヒロキは先程よりも強く、シホの頭を張った。
押されてシホが前に数歩、たたらを踏む。
「痛い痛い!」
「お前な、その下ネタ方面の発想を少しでも無くさないと、アイドルとしていつか致命的なダメージを負うぞ」
 『幸せの法則』は、ぶっちゃけて言えば視聴者の体験談から「良かった探し」をするトーク中心のバラエティ番組である。
出演者もメイン司会のお笑いタレントを除けば、新人や若手が多く、その人選はチーフディレクターが主に担っている。
つまりは、未来の大物を発掘するのに意欲があるということであり、シホの言うようなロリコン癖は全く無い。
「わかんないよ、普段そういう風に見えない人こそが危ないんだよ」
「危ないんなら今まで何人もそういう目にあってるだろうし、明るみにも出てるだろ」
「あ、いわゆるインモウカイカイそれでおもらし、ってやつ?」
「天網恢恢疎にして漏らさず、だ!」
 シホは夢見る乙女では決してない。
なので、妄想に身を委ねることはしないが、ポンと思いついた下方面の想像を軽く口に乗せてしまう悪癖がある。
14歳という年齢からしても、確かに性に興味があるだろうが、それにしてもシホの場合は方向がおかしいと言えた。
「王奈ホールの合同コンサートもヤバイと思うね、私は」
「もういい加減にしろよ」
「合同ってことは他にも来るんでしょ? 色々と」
「そりゃそうだが……玉金(タマカネ)プロの○○○さんとか」
「あー、あの歌手の。あの人はヤバイ」
「何が」
「あの人は多分レズ、しかも粘着系」


   如月カルナは、胸の上を這う舌の感触におぞ気を覚え、小さく震えた。
  叫びたい、逃げだしたい。
  だが、身体が動かない。
  「いいわ……カルナちゃんの肌……肌理が細かくて」
  「う……くっ……」
  「ごめんね、こんな手段使って。でも、どうしても貴女が欲しくて我慢出来なかったから」
   カルナが指先一つ動かせないのには、理由がある。
  舞台の下見の後で、彼女は紙コップのお茶を渡されて、飲んだ。
  それに入っていたのだ、薬が。
  「貴女がノーマルだっていうのは直感でわかってたけど」
  「……ううっ」
  「それでも、どうしても欲しかったの、貴女が」
   お茶を渡したのは、別の芸能プロダクションに所属する、二十代半ばの女性シンガー。
  TBなんかより遥かに名が売れ、CDを出す度にヒットチャートを賑わせる大物だ。
  「カルナちゃんは知ってたでしょ? 私がオトコに興味が無いって……」
  「……」
  「それで、オンナノコを好きだって」
   芸能界に、ホモやレズと思われている人間は多い。
  それを芸のネタに、つまりテレビに映る表だけの顔にしているタレントがほとんどだが、中には真性もいる。
  今、こうしてカルナの身体に覆いかぶさっている彼女もそうだ。
  「好きよ、カルナちゃん」
  「くう……や、め……」
  「やめてほしい?」
   その問いかけに、首の力を総動員して、頷こうとするカルナ。
  だが、僅かに顎がピクリと揺れただけで、ハッキリとした行為にはならない。
  「そう、やめてほしくないのね……。ふふふ、うふふふ」
   蛇の笑いだ、とカルナは思った。
  「心配しないで、貴女にとっても悪いことじゃないわ。だって気持ち良いことなんですから」
  「う、むっ……」
  「オトコになんか貴女を渡さない、貴女は今日から私のもの……」
   砂糖水に塗れたような、甘く陶酔した声。
  カルナは、自分の中にある芯がゆっくりと溶かされていくのを覚えた―――


「……とかになったりするかもしたりして!」
「シホちゃん、アホだろ」
 ヒロキはもうシホの頭をはたかなかった。
はたく気すら起こらなかった。
「○○○さん、結婚もして子供もいるだろうが」
 件の女性シンガーは十代半ばでデビューし、神童と騒がれた程の歌唱力の持ち主。
二十歳の時に年上の放送作家と電撃結婚し、その後子供にも恵まれて、
妻、母、歌手の三つをバランス良くこなしている業界でも名うての実力派だ。
「夫と子供はカクレミノってやつで、裏ではレズかもしれないじゃん」
「そんな話、噂でも全然聞いたことないぞ」
「それはヒロ君の後ろの穴が塞がってるからじゃないかなあ」
「耳の穴が塞がってる、な。もういいよ」
 ヒロキは溜め息をついた。
シホの過激な発言にはいい加減慣れつつあるが、それにしても今日は酷い。
勝手な想像にしても、度が過ぎる。
「それにしても何なんだよ、今日のシホちゃんは」
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「……何だい、ユーリちゃん」
「お兄ちゃんが来るまでシホちゃん、これをずっと読んでたから」
 ユーリが差しだしたものを、ヒロキは手に取った。
それは、一冊の雑誌だった。
「……『週刊乱々(らんらん)』?」
 それは、主に成人男子をターゲットとした週刊誌だった。
中身はもちろん、そういった人間が喜ぶような記事で満載である。
「成る程ね」
 そしてヒロキは納得した。
その表紙に、『官能小説大特集』という文字がデカデカと踊っていたからだ。
「道理で描写がやけに具体的だったわけだ」
「言っておきますけど、それを持ってきたのは私でもユーリでもありませんから」
「いや、そりゃわかってるよカルナちゃん」
 この類の雑誌を持ってくる人間は、この事務所では一人しかいない。
小田でも三瀬エリコでも小池マイでもない。
「社長か」
「おそらく」
 芸能人は常に秘密を狙われている。
TBもかつて何度か、密かに雑誌記者につけまわされたことがある。
芸能事務所の社長ともなれば、自分のとこのアイドルに関して何ぞ書かれているかどうかチェックするのも仕事の一つではある。
「しかし、こっちじゃなくて社長室に置いておけばいいのに」
「見事にシホが読みましたね」
「バッチリだね」
 今度は三人、同時に溜め息をついた。
シホなら読まないわけがない。
「何、読んだけど悪い? だって暇じゃない!」
「中学二年生が読むのに適した雑誌とはさすがに言えないな」
「ダメだよ決めつけは、知識は何でも吸収しなきゃ」
「吸収するだけならな。それを撒き散らされたらたまらん」
 ヒロキは週刊乱々をくるっと丸めると、手近なゴミ箱に放り込んだ。
「でもねヒロ君」
「ん?」
「暇だから悪いんだよ、暇じゃなくて仕事があれば読んでない」
「屁理屈もここに極まれり、だな」
 トン、とヒロキはシホの額を人差し指で突いた。
やや苦笑しながら。
「なら、仕事のための準備をしよう」
「え?」
「事務所の下のフロア、今日は誰も使ってないってさ。だから」
「だから?」
「振り付けの練習でもしよう。チェックくらいなら俺も出来るからさ」
「はい、お兄ちゃん」
「はい、わかりました」
 ヒロキに促され、ユーリとカルナが椅子から立ち上がる。
三人を見て、渋々ながらもシホも続く。
「はいはーい、っと」
 本番で目立つのは好きだが、練習はあまり好きではないシホである。
「さ、行こう、時間がもったいないから」
 ネクタイを少し緩めると、ヒロキは歩を進めた。
三人の姫様達のために、ドアを開けてあげるという仕事がまずは待っている。
「だって暇じゃないんだしな、やることが出来たんだから」
 
 デビューして一年、TBはまだまだ暇が多い。
だけど暇ばかりじゃあ、ない―――


  F  I  N

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