最終更新:ID:BnR2Wm8y6g 2008年06月08日(日) 12:11:08履歴
飯田シホ、如月カルナ、有銘ユーリ。
今をときめくアイドルユニット、『トリプルブッキング』のメンバーだ。
偶然に偶然が重なった、奇跡のような結成からはや三年、実力もめきめきとつけ、
テレビにラジオ、雑誌と引っ張りだこの存在にまで上り詰めた。
三年という歳月は、アイドルとしてのあり方、見せ方を進歩させただけではない。
何せ彼女らは花の十代、外見の成長ぶりも目覚しいものがあった。
最年少だったユーリは、一番変わる年頃だけに特に顕著だ。
さなぎが蝶に、という表現があるが、まさにそれに当てはまる。
幼さと将来性の同居、とでも表現すればよいだろうか。
ふくらみはじめの胸、なだらかになりつつある体つき、時折見せる大人びた表情。
成長過程の真っ只中、ローティーンの魅力というやつだ。
一部の熱狂的なファンが多くついているのも頷けよう。
カルナはメンバーの中で最年長であり、TB結成時には既に身体的に充分に発育していた。
だが、身体の発達が終わりを迎える時こそが、女性の真の成熟のスタート。
視線にしても笑顔にしても、挙措のひとつひとつが、「大人の女性」になっていくのだ。
こちらは落ち着きと艶の同居と言えるだろう。
シホはと言えば、その中間にあってややワリを喰ってしまった感は否めない。
とは言っても、元々愛嬌があり、元気と勢いがウリである彼女にとってはあまり問題ではない。
ふくよかな、つまりグラマーな身体つきとは縁が無いが、
スレンダーなボディはいかにも健康的で、また別の意味でグラビア映えする。
度胸満点の性格もスター向きだ。
噛み癖は一向に直らないものの、それさえもチャームポイントに変えてしまう一種独特の図々しさ。
場の流れを一瞬にして持っていってしまう空気ブレイカーっぷり。
ミスしようともトチろうとも、くよくよせずに常に前向きに考えるそのポジティブシンキングの度合い。
一歩間違えばバッシングの対象になってしまうそれらも、彼女は全て包み込み、魅力に変えてしまう。
美しさ、可愛らしさ、演技力や歌唱力で彼女たちを上回るアイドルはたくさんいる。
が、彼女たちにしか出せない魅力、いや、魔力というのは確実に存在する。
おそらく、一人ひとりが単品で売り出されていたら、その『魔力』は眠ったままだっただろう。
ユニットで活動することで、彼女たちは一層輝くことが出来る。
そう、トリプルブッキングはまさに奇跡のアイドルユニットなのだ。
「はー、疲れた疲れた」
「えらく時間がかかっちゃったね」
「それもこれも、シホが台詞を何度も間違えたせいだけれど」
時間は夜の九時を少し回ったあたり、テレビ局はこの時間も忙しい。
タレントから各スタッフまで、色々な番組のために走りまわっている。
TBが今日、このテレビ局に来たのは、あるバラエティ番組の収録があったためだ。
スタジオの中での撮影のため、タレントがおのおのの役目をキチンと果たせば数時間で終わるはずだった。
TBをはじめ、全てのタレントが揃ったのが午後の二時、
そして実際に収録がスタートしたのがそれから一時間後の午後三時。
終了予定は夜七時、特にアクション的にも難しい番組ではなかったのだが……。
途中、シホが何度も噛んでしまい、結局時間は大幅にオーバー、
撮り直しの連続で二時間の超過になってしまったのだった。
「うー、あれは私を陥れる罠だ! 早口言葉のコーナーなんて!」
「事前にちゃんと説明を受けたでしょう。練習をしっかりしてこなかった貴女が悪いのよ」
「私とカルナちゃんはキチンと出来たもんねぇ」
一度や二度の失敗ならば、笑いのシーンとして放送で使えるので問題はない。
だが、五度、六度七度、そして十度を越すとさすがに現場が笑えなくなってくる。
当人のシホはますます焦ってくるし、周りのタレントはだれてくるし。
「貴女は将来女優を目指してるんでしょう? 早くその癖を直しなさい」
「くーっ、一足先にドラマデビューしたからってそんな偉そうな口をー」
「シホちゃん、それってヒガミだよ。それにカルナちゃんのドラマデビューだってたったワンシーンじゃない」
「それでもちゃんとエンドクレジットに名前が載った! ああ羨ましい!」
「……主人公が通う学園の女生徒、台詞は僅か、初回の後は最終回以外に出番無し。それでも羨ましい?」
「うまやらしい!」
テレビ局の玄関ホールに響くシホの叫び声。
その大きさと言葉に、周囲のタレントやテレビ関係者がギョッとしてTBの方を見る。
「シホ、恥ずかしいから大きな声出さないで」
「何よう、これからもっと恥ずかしむむむむ」
シホの口を、カルナとユーリが慌てて塞いだ。
そのドタバタっぷりに、さらに三人に周囲の視線が集中する。
「すいません、すぐ退出しますんで」
「ごめんなさーい」
愛想笑いを振りまきつつ、二人はシホを引き摺るようにエレベーターへと乗り込む。
「……お願いだから気取られるような危険発言しないで」
「ご、ゴメン」
シホは素直に謝った。
「バレたらエライことになっちゃうよ」
「まったくだわ」
誰も乗り込んでこないことを確認すると、カルナは地下一階のボタンを押した。
地下一階には駐車場がある。そこで、彼女たちのマネージャーが待っている。
三人をマンションへと送っていくために。
現在、三人は分かれて暮らしている。
シホとユーリは自宅で、カルナは高校入学から生活しているマンションで。
コンサートやレコーディングなどの大きな仕事がある時のみ、三人暮らしのあのマンションを使っている。
丁度、講談ホールでのコンサートまで三週間をきっており、今日はそこに帰ることになっている。
そして、明日は久々の三人揃っての英気を養うための完全オフ。
人気が出てきた今となっては、実に貴重な休暇だ。
「おーい、ヒロくーん!」
エレベーターを降りるとすぐに、TBのマネージャーである井戸田ヒロキが車を回して待っていた。
シホは荷物を放り出すと、ダッシュしてヒロキに飛びつく。
「わ、わわわ!」
「さあ帰ろう、今すぐ帰ろう!」
「何がすぐ帰ろう、だ! 遅くなったのはシホちゃんのせいだろう!」
まるで子猫のように、ヒロキにピッタリとくっつくシホ。
それを見て、ユーリとカルナもヒロキの側へと近寄った。
「……帰りましょう、井戸田さん」
「帰ろう、お兄ちゃん」
側からみれば、仲の良いアイドルとそのマネージャーという構図だ。
しかし勘のいい人ならば、四人の間に単なる仲の良さ以上のものを感じ取っただろう。
「うふふ」
「ふふっ」
「……ふふ」
「いや、あはは……」
明日は完全オフ。
しかし、彼女たちが帰るのは三人暮らしのマンションであって、それぞれの家ではない。
理由はコンサートに備えるため。
だが、理由はそれだけではない。
飯田シホ、如月カルナ、有銘ユーリ、そして井戸田ヒロキ。
四人には、ひた隠しにしている事実がある。
それは、アイドルとマネージャーにあるまじきこと。
四人の関係。
それは、単なるアイドルとマネージャーの範囲に収まるものではない。
四人の関係。
それは―――深い愛に基づいた肉体関係。
◆ ◆
都内某所にあるマンション。
防音及び警備設備が整っており、芸能人や作家などが多く入居している、知る人ぞ知るマンションだ。
その一室で、四人の男女は服を着たまま身体を密着させている。
その部屋の表札には、こう書かれている。
『飯田 如月 有銘 TB』と。
「ヒロ君……」
「ああ、井戸田さん……」
「お兄ちゃん」
「ん……」
ヒロキは、三人が求めるままに、キスを何度も交わす。
その回数に比例して、シホたちの表情はトロリと蕩けていく。
「ヒロ君、もっとぉ」
「シホちゃん……」
シホとヒロキ、長めの口づけ。
二人に、カルナとユーリが羨望の眼差しを向ける。
ヒロキにかまって欲しいのは、カルナとユーリも同じだ。
「井戸田さん、私にも……」
やや鼻にかかるような声を出しつつ、カルナはヒロキの上着のボタンをひとつずつ外していく。
その声と表情は、普段の彼女からはとても想像がつかないものだ。
テレビの前の視聴者にも、両親にも、聖光女学院のクラスメイトにも、見せたことのない媚態。
「お兄ちゃあん……」
ユーリもまた、同じように甘えた声で呼びかける。
カルナの動きと連動して、ネクタイを解いていく。
その艶っぽさは、13歳の少女にはとても見えない。
いっぱしの『女』になっている。
「ちょ……待って、今日は長居出来ないんだって」
ヒロキの言葉に、悲しそうな目になるシホ、カルナ、ユーリの三人。
「ごめんね、皆」
三人はお休み。
だが、ヒロキは違う。
マネージャーである彼は、ある意味TBよりも忙しいのだ。
テレビ局やCM制作会社、グラビア撮影の打ち合わせ、
インタビューの事前セッティング等々、やるべきことはたくさんある。
「じゃ、すぐ帰っちゃうの?」
放したくない、とばかりにユーリがヒロキの首に抱きつく。
そんな彼女の頭を、ヒロキは優しく掌で撫でる。
「……うん。今から事務所に帰って社長や三瀬さんと話をしないと」
「つまんない、せっかく一緒に夜を過ごせるかと思って帰るのをこっちのマンションにしたのに」
「コンサートのことで緊急に話し合う必要があるんだよ」
「うう、そうなんだ……」
「シホ、ユーリ、我侭言わないで。井戸田さんは私達のために頑張ってくれているんだから」
ひきとめようとするシホとユーリを、カルナはたしなめる。
だが、彼女とて寂しい気持ちに変わりはない。
口ではそう言っていても、心はヒロキを欲している。
ヒロキのシャツを脱がそうとしたのは、その表れだ。
「ね、ヒロ君……すぐ行かなきゃならないの?」
「え、う、うん。社長たちをこれ以上待たせるわけにはいかないし」
「三人に一回ずつで三分、てわけにはいかない?」
「……無茶言うな」
どれだけ早漏な男でも、三分のうちに連続して三回など無理だ。
それに、ヒロキはイケても、シホたちが満足出来ないだろう。
「うーん、それじゃ、一回ってのはどう? ジャンケンで決めるからさ」
「いや、それもどうかと」
ヒロキもヤルとなれば、三人を均等に愛してあげたい。
他人から見れば、鬼畜としか思われないだろうが、それはヒロキの偽らざる思いだ。
タレントとマネージャーという一線を越えてから、ヒロキと三人は何度となく身体を重ね合わせた。
だが、三人のうち一人だけというのは、したことがない。
愛を交わす機会が、TBがマンションに泊まっている間しかないというのもあるが、
やはり、残った他の二人を仲間外れにはしたくないのだ。
「やっぱりダメかあ」
「あ、そうだ!」
「どうしたの、ユーリ?」
ユーリが何かを思いついたように、声をあげた。
「えへへ……」
カルナの問いには答えず、ユーリはヒロキのズボンのチャックをジーッと下ろしていく。
「ユ、ユーリちゃん!?」
ヒロキが止める暇も無かった。
ユーリは流れるような動きで、ヒロキのモノを摘みだすと、外気にさらした。
モノはまだ半勃ちの状態だ。
「じゃ、せめてお兄ちゃんだけでも気持ちよくしてあげようよ、皆で」
「……ヒロ君だけでも?」
「それってつまり……」
「うん、日頃のお礼も込めて。本番はまた、次の機会にってことで。ね?」
シホとカルナは、ユーリの言いたいことを理解した。
三人でヒロキに『ご奉仕』してあげよう、というわけだ。
「まま、待って。それはそれで困、はうっ」
ヒロキは思わず背筋を伸ばした。
ユーリがその桜色の可愛らしい唇で、自身のモノにしゃぶりついてきたからだ。
「あ、いきなりサオの部分に行くとは……今日のユーリはえらく抜け駆けが得意なようね」
シホは先を越された気分になり、少しムッとした表情をした。
だが、そのままボケッと見ている程、彼女ものんびり屋さんではない。
ユーリとは逆の方に回り込むと、同じようにヒロキのモノに舌を這わせ始めた。
「はううう!?」
情けない声を出すヒロキ。
しかしその声も、カルナが唇を合わせてきたために出せなくなった。
「む、んー」
「……ふ、む、ん……ちゅ」
舌を巧みに使い、ヒロキの口内をまさぐっていくカルナ。
唾液が、二人の唇の交差点から溢れ、下へと滴り落ちていく。
「く……み、みんな」
アイドルが寄って奉仕してくれる。
まさに、男の夢の極致のひとつと言えるだろう。
しかも、ただのアイドルではない。
今まさに、お茶の間で人気が沸騰しつつある話題のアイドルたちなのだ。
グラビアの水着姿の彼女たちに、いったいどれだけの男どもが欲情しただろう。
ブラウン管の中で歌う彼女たちが持つマイクを、自分のモノに見立ててオナニーした者もいるだろう。
妄想の中で、彼女たちは何度、妄想の主たちに犯されていることだろう。
だが、今ヒロキの目の前で彼女たちがしてくれているのは、
全国のイケない男性ファンが夢にまで望んでいる、まさにそういう行為なのだ。
井戸田ヒロキ、とんでもない果報者である。
神に感謝して済むレベルの話ではない。
「うっ……」
ユーリとシホの唇と舌が、ヒロキを快楽の谷へと落とし込んでいく。
さすがに抜群のテクニックとは言い難いが、
十代の、まだ幼さが残る少女が自分のモノを舐め、咥えてくれているという事実だけで、充分に気持ちが良い。
視覚による快感、こればかりは、いかにヒロキが巨乳のお姉さん好きであっても関係ない。
「ヒロくぅん……」
「お兄ちゃあん……」
「井戸田さぁん……」
カルナも、ヒロキの唇から離れると、『ご奉仕』に加わった。
三人でかわるがわる、まるでソフトクリームを食べる子どものように、
舌先でヒロキのモノを舐め上げていく。
シホの次はユーリ、ユーリの次はカルナ、カルナの次はシホ……という順番に。
ユニットを組んでいる強み、とは言い方がおかしいかもしれないが、それは絶妙な連携だった。
「くぅ、シホちゃん、カルナちゃん、ユーリちゃん……っ!」
もはやヒロキは限界だった。
うなじがピリピリと痺れ、その痺れが背骨を通って下へと降り、腰を、そしてそのさら下へと向かっていく。
「く、ううっ!」
痺れが足先まで到達した時、ヒロキの堤防は決壊した。
多量の飛沫が、モノの先端から放たれ、三人の顔に降り注ぐ。
「あ……」
「出た、ぁ……」
「……ああ」
三人は恍惚とした表情で、ヒロキの精液を顔面に受けた。
汚い、という思いはない。
むしろ、ヒロキが自分たちの奉仕でイッてくれた、その嬉しさ、愛しさの方が大きい。
「は、ふぅ」
「んん、凄い……」
「こんなに、たくさん……」
丁度シホが舌を突き出した瞬間だったので、彼女が最も多くの量を浴びることになった。
鼻先、頬、唇に、べっとりと青白い精液がまとわりつく。
それを、左右からユーリとカルナが顔を寄せ、ペロリと舐め取っていく。
「う、わ」
その光景の何と扇情的なことか。
通常の感覚でいけば、男一人に女三人が奉仕すること自体が有り得ない。
ましてや、相手は売れっ子アイドルで、自分はそのマネージャーなのだ。
しかも、皆いずれも十代の少女たちだ。
なのに、その身体から発散される『女性の気』の何と妖艶さと言ったらない。
「ま、まずい」
ヒロキは必死に自制心を働かせた。
放出して萎えたはずの股間のモノが、また勢いを戻しそうになったからだ。
ムラムラと心臓を焦がす欲情を無理矢理、ヒロキは押さえにかかる。
ここで爆発してしまったら、事務所での話し合いに間に合わない。
何のために、こんな深夜遅くまでレイコたちを待たせているのかわからなくなってしまう。
「えいっ!」
気合一声、ヒロキは強引に性欲を封じ込めた。
そして、その勢いのままに立ち上がる。
「ちょ、ちょっとシャワー借りるわ!」
床に落ちていたYシャツとネクタイを引っつかむと、ヒロキはドタバタと浴室へと駆けていった。
膝までずり下がったズボンが、何ともマヌケだ。
「す、すぐ上がるから! あ、汗を流すだけだから! それで出て行くから!」
そう叫びながら浴室の向こうへと消えていくヒロキ。
そんなヒロキを、三人はやや呆然とした態で見送った。
「……そんなに慌てんでもいいのに」
「ホントなら、まずシャワーを浴びなきゃいけないのは私たちだよね」
「キッチンでタオルを濡らすわ。それでまず顔を拭きましょう。シャワーは井戸田さんが出た後で」
さっきまでの、大人顔負けの淫らさは、すでに三人からは消え去っていた。
いつものシホ、ユーリ、カルナに戻っている。
「うー、あそこまでやったんだから、ヒロ君は狼になってくれてもいいのに」
やや不満顔になるシホ。
その期待は、当然ユーリとカルナにもあった。
話し合いをうっちゃって、今夜一晩相手をしてくれたなら……という思いだ。
しかしその一方で、ヒロキが自制してくれたこともまた嬉しかったりする。
社長との話し合いを優先したということは、つまりはTBの仕事を守ろうとしてくれたのと同じことだ。
アイドルユニットとしてのTBを何より大事に思ってくれているという証だ。
不満だけれども嬉しい、嬉しいけれども不満。
何と贅沢で、そして複雑な乙女心であることか。
「でも、シャワー何て浴びてったら間に合わないんじゃない?」
時計の針はすでに十時半の手前を指している。
ヒロキが何時に話し合いを予定していたのかは知らないが、
明らかにこれはその時間をオーバーしているだろう。
「社長にボコられるんじゃない?」
レイ・プリンセス事務所社長の柏木レイコは、業界の裏も表も知り尽くしている。
女の武器、その使い方も熟知している。
今のところ、レイコは四人の関係について何も言って来ない。
隠し通せている、とは四人は思っていない。間違いなく気づかれている、と考えている。
何も言って来ないのは何か考えがあるためだろうが、言って来ない以上は四人も黙っているしかない。
「シホちゃん、それって怒られるの間違い?」
「……ある意味、間違ってないとは思うけれど」
三人は顔を数秒、顔を見合わせた。
まだ、それぞれの顔にはヒロキの精液の残滓がところどころに付着している。
「ぷっ」
「あはは」
「ふふふ……」
不意におかしくなって、三人は笑った。
自分たちはヒロキを愛している。ヒロキもまた、自分たちを愛してくれている。
アイドルとしても、そして女としても。
確かに、愛の形としてはイビツなのだろう。
三対一という付き合い方は。
自分ひとりだけを見て欲しい、ヒロキを自分だけの物にしたい、そういう思いは当然、心にある。
嫉妬もある。それは、人間である以上、そして女である以上、仕方が無い。
だが、それ以上に、三人はTBというユニットも愛している。
TBがあったからこそ、三人はここまで成長出来た。
シホ、ユーリ、カルナにとって、今はそれだけで充分だった。
充分過ぎる程に、満ち足りていた。
TBは奇跡のアイドルユニット。
イビツだろうと何だろうと関係ない。
それぞれが、深い愛と信頼で結ばれている。
遠くない将来、アイドルとしても女としても、いくつかの辛い選択を強いられることになるのは間違いないだろう。
もっともっと人気が出て、一人ひとりにアイドルとしての価値がさらに加われば、
社長命令でソロ活動に転向する可能性もある。
それに、日本では重婚が認められていない以上、ヒロキとくっつくことが出来るのは唯一人だけだ。
だが、例えそうなったとしても、彼女たちは悔やまない。
いや、悔やんだとしても、すぐにまた前を向いて歩き出すに違いない。
彼女たちの中でTBは永遠の存在であり、ヒロキへの愛もまた不変のものだ。
今の満ち足りた思いがあれば、どんな障害だって乗り越えていける。
それは、すでに確信だ。
そう、トリプルブッキングはまさに奇跡のアイドルユニットなのだ―――
F I N
今をときめくアイドルユニット、『トリプルブッキング』のメンバーだ。
偶然に偶然が重なった、奇跡のような結成からはや三年、実力もめきめきとつけ、
テレビにラジオ、雑誌と引っ張りだこの存在にまで上り詰めた。
三年という歳月は、アイドルとしてのあり方、見せ方を進歩させただけではない。
何せ彼女らは花の十代、外見の成長ぶりも目覚しいものがあった。
最年少だったユーリは、一番変わる年頃だけに特に顕著だ。
さなぎが蝶に、という表現があるが、まさにそれに当てはまる。
幼さと将来性の同居、とでも表現すればよいだろうか。
ふくらみはじめの胸、なだらかになりつつある体つき、時折見せる大人びた表情。
成長過程の真っ只中、ローティーンの魅力というやつだ。
一部の熱狂的なファンが多くついているのも頷けよう。
カルナはメンバーの中で最年長であり、TB結成時には既に身体的に充分に発育していた。
だが、身体の発達が終わりを迎える時こそが、女性の真の成熟のスタート。
視線にしても笑顔にしても、挙措のひとつひとつが、「大人の女性」になっていくのだ。
こちらは落ち着きと艶の同居と言えるだろう。
シホはと言えば、その中間にあってややワリを喰ってしまった感は否めない。
とは言っても、元々愛嬌があり、元気と勢いがウリである彼女にとってはあまり問題ではない。
ふくよかな、つまりグラマーな身体つきとは縁が無いが、
スレンダーなボディはいかにも健康的で、また別の意味でグラビア映えする。
度胸満点の性格もスター向きだ。
噛み癖は一向に直らないものの、それさえもチャームポイントに変えてしまう一種独特の図々しさ。
場の流れを一瞬にして持っていってしまう空気ブレイカーっぷり。
ミスしようともトチろうとも、くよくよせずに常に前向きに考えるそのポジティブシンキングの度合い。
一歩間違えばバッシングの対象になってしまうそれらも、彼女は全て包み込み、魅力に変えてしまう。
美しさ、可愛らしさ、演技力や歌唱力で彼女たちを上回るアイドルはたくさんいる。
が、彼女たちにしか出せない魅力、いや、魔力というのは確実に存在する。
おそらく、一人ひとりが単品で売り出されていたら、その『魔力』は眠ったままだっただろう。
ユニットで活動することで、彼女たちは一層輝くことが出来る。
そう、トリプルブッキングはまさに奇跡のアイドルユニットなのだ。
「はー、疲れた疲れた」
「えらく時間がかかっちゃったね」
「それもこれも、シホが台詞を何度も間違えたせいだけれど」
時間は夜の九時を少し回ったあたり、テレビ局はこの時間も忙しい。
タレントから各スタッフまで、色々な番組のために走りまわっている。
TBが今日、このテレビ局に来たのは、あるバラエティ番組の収録があったためだ。
スタジオの中での撮影のため、タレントがおのおのの役目をキチンと果たせば数時間で終わるはずだった。
TBをはじめ、全てのタレントが揃ったのが午後の二時、
そして実際に収録がスタートしたのがそれから一時間後の午後三時。
終了予定は夜七時、特にアクション的にも難しい番組ではなかったのだが……。
途中、シホが何度も噛んでしまい、結局時間は大幅にオーバー、
撮り直しの連続で二時間の超過になってしまったのだった。
「うー、あれは私を陥れる罠だ! 早口言葉のコーナーなんて!」
「事前にちゃんと説明を受けたでしょう。練習をしっかりしてこなかった貴女が悪いのよ」
「私とカルナちゃんはキチンと出来たもんねぇ」
一度や二度の失敗ならば、笑いのシーンとして放送で使えるので問題はない。
だが、五度、六度七度、そして十度を越すとさすがに現場が笑えなくなってくる。
当人のシホはますます焦ってくるし、周りのタレントはだれてくるし。
「貴女は将来女優を目指してるんでしょう? 早くその癖を直しなさい」
「くーっ、一足先にドラマデビューしたからってそんな偉そうな口をー」
「シホちゃん、それってヒガミだよ。それにカルナちゃんのドラマデビューだってたったワンシーンじゃない」
「それでもちゃんとエンドクレジットに名前が載った! ああ羨ましい!」
「……主人公が通う学園の女生徒、台詞は僅か、初回の後は最終回以外に出番無し。それでも羨ましい?」
「うまやらしい!」
テレビ局の玄関ホールに響くシホの叫び声。
その大きさと言葉に、周囲のタレントやテレビ関係者がギョッとしてTBの方を見る。
「シホ、恥ずかしいから大きな声出さないで」
「何よう、これからもっと恥ずかしむむむむ」
シホの口を、カルナとユーリが慌てて塞いだ。
そのドタバタっぷりに、さらに三人に周囲の視線が集中する。
「すいません、すぐ退出しますんで」
「ごめんなさーい」
愛想笑いを振りまきつつ、二人はシホを引き摺るようにエレベーターへと乗り込む。
「……お願いだから気取られるような危険発言しないで」
「ご、ゴメン」
シホは素直に謝った。
「バレたらエライことになっちゃうよ」
「まったくだわ」
誰も乗り込んでこないことを確認すると、カルナは地下一階のボタンを押した。
地下一階には駐車場がある。そこで、彼女たちのマネージャーが待っている。
三人をマンションへと送っていくために。
現在、三人は分かれて暮らしている。
シホとユーリは自宅で、カルナは高校入学から生活しているマンションで。
コンサートやレコーディングなどの大きな仕事がある時のみ、三人暮らしのあのマンションを使っている。
丁度、講談ホールでのコンサートまで三週間をきっており、今日はそこに帰ることになっている。
そして、明日は久々の三人揃っての英気を養うための完全オフ。
人気が出てきた今となっては、実に貴重な休暇だ。
「おーい、ヒロくーん!」
エレベーターを降りるとすぐに、TBのマネージャーである井戸田ヒロキが車を回して待っていた。
シホは荷物を放り出すと、ダッシュしてヒロキに飛びつく。
「わ、わわわ!」
「さあ帰ろう、今すぐ帰ろう!」
「何がすぐ帰ろう、だ! 遅くなったのはシホちゃんのせいだろう!」
まるで子猫のように、ヒロキにピッタリとくっつくシホ。
それを見て、ユーリとカルナもヒロキの側へと近寄った。
「……帰りましょう、井戸田さん」
「帰ろう、お兄ちゃん」
側からみれば、仲の良いアイドルとそのマネージャーという構図だ。
しかし勘のいい人ならば、四人の間に単なる仲の良さ以上のものを感じ取っただろう。
「うふふ」
「ふふっ」
「……ふふ」
「いや、あはは……」
明日は完全オフ。
しかし、彼女たちが帰るのは三人暮らしのマンションであって、それぞれの家ではない。
理由はコンサートに備えるため。
だが、理由はそれだけではない。
飯田シホ、如月カルナ、有銘ユーリ、そして井戸田ヒロキ。
四人には、ひた隠しにしている事実がある。
それは、アイドルとマネージャーにあるまじきこと。
四人の関係。
それは、単なるアイドルとマネージャーの範囲に収まるものではない。
四人の関係。
それは―――深い愛に基づいた肉体関係。
◆ ◆
都内某所にあるマンション。
防音及び警備設備が整っており、芸能人や作家などが多く入居している、知る人ぞ知るマンションだ。
その一室で、四人の男女は服を着たまま身体を密着させている。
その部屋の表札には、こう書かれている。
『飯田 如月 有銘 TB』と。
「ヒロ君……」
「ああ、井戸田さん……」
「お兄ちゃん」
「ん……」
ヒロキは、三人が求めるままに、キスを何度も交わす。
その回数に比例して、シホたちの表情はトロリと蕩けていく。
「ヒロ君、もっとぉ」
「シホちゃん……」
シホとヒロキ、長めの口づけ。
二人に、カルナとユーリが羨望の眼差しを向ける。
ヒロキにかまって欲しいのは、カルナとユーリも同じだ。
「井戸田さん、私にも……」
やや鼻にかかるような声を出しつつ、カルナはヒロキの上着のボタンをひとつずつ外していく。
その声と表情は、普段の彼女からはとても想像がつかないものだ。
テレビの前の視聴者にも、両親にも、聖光女学院のクラスメイトにも、見せたことのない媚態。
「お兄ちゃあん……」
ユーリもまた、同じように甘えた声で呼びかける。
カルナの動きと連動して、ネクタイを解いていく。
その艶っぽさは、13歳の少女にはとても見えない。
いっぱしの『女』になっている。
「ちょ……待って、今日は長居出来ないんだって」
ヒロキの言葉に、悲しそうな目になるシホ、カルナ、ユーリの三人。
「ごめんね、皆」
三人はお休み。
だが、ヒロキは違う。
マネージャーである彼は、ある意味TBよりも忙しいのだ。
テレビ局やCM制作会社、グラビア撮影の打ち合わせ、
インタビューの事前セッティング等々、やるべきことはたくさんある。
「じゃ、すぐ帰っちゃうの?」
放したくない、とばかりにユーリがヒロキの首に抱きつく。
そんな彼女の頭を、ヒロキは優しく掌で撫でる。
「……うん。今から事務所に帰って社長や三瀬さんと話をしないと」
「つまんない、せっかく一緒に夜を過ごせるかと思って帰るのをこっちのマンションにしたのに」
「コンサートのことで緊急に話し合う必要があるんだよ」
「うう、そうなんだ……」
「シホ、ユーリ、我侭言わないで。井戸田さんは私達のために頑張ってくれているんだから」
ひきとめようとするシホとユーリを、カルナはたしなめる。
だが、彼女とて寂しい気持ちに変わりはない。
口ではそう言っていても、心はヒロキを欲している。
ヒロキのシャツを脱がそうとしたのは、その表れだ。
「ね、ヒロ君……すぐ行かなきゃならないの?」
「え、う、うん。社長たちをこれ以上待たせるわけにはいかないし」
「三人に一回ずつで三分、てわけにはいかない?」
「……無茶言うな」
どれだけ早漏な男でも、三分のうちに連続して三回など無理だ。
それに、ヒロキはイケても、シホたちが満足出来ないだろう。
「うーん、それじゃ、一回ってのはどう? ジャンケンで決めるからさ」
「いや、それもどうかと」
ヒロキもヤルとなれば、三人を均等に愛してあげたい。
他人から見れば、鬼畜としか思われないだろうが、それはヒロキの偽らざる思いだ。
タレントとマネージャーという一線を越えてから、ヒロキと三人は何度となく身体を重ね合わせた。
だが、三人のうち一人だけというのは、したことがない。
愛を交わす機会が、TBがマンションに泊まっている間しかないというのもあるが、
やはり、残った他の二人を仲間外れにはしたくないのだ。
「やっぱりダメかあ」
「あ、そうだ!」
「どうしたの、ユーリ?」
ユーリが何かを思いついたように、声をあげた。
「えへへ……」
カルナの問いには答えず、ユーリはヒロキのズボンのチャックをジーッと下ろしていく。
「ユ、ユーリちゃん!?」
ヒロキが止める暇も無かった。
ユーリは流れるような動きで、ヒロキのモノを摘みだすと、外気にさらした。
モノはまだ半勃ちの状態だ。
「じゃ、せめてお兄ちゃんだけでも気持ちよくしてあげようよ、皆で」
「……ヒロ君だけでも?」
「それってつまり……」
「うん、日頃のお礼も込めて。本番はまた、次の機会にってことで。ね?」
シホとカルナは、ユーリの言いたいことを理解した。
三人でヒロキに『ご奉仕』してあげよう、というわけだ。
「まま、待って。それはそれで困、はうっ」
ヒロキは思わず背筋を伸ばした。
ユーリがその桜色の可愛らしい唇で、自身のモノにしゃぶりついてきたからだ。
「あ、いきなりサオの部分に行くとは……今日のユーリはえらく抜け駆けが得意なようね」
シホは先を越された気分になり、少しムッとした表情をした。
だが、そのままボケッと見ている程、彼女ものんびり屋さんではない。
ユーリとは逆の方に回り込むと、同じようにヒロキのモノに舌を這わせ始めた。
「はううう!?」
情けない声を出すヒロキ。
しかしその声も、カルナが唇を合わせてきたために出せなくなった。
「む、んー」
「……ふ、む、ん……ちゅ」
舌を巧みに使い、ヒロキの口内をまさぐっていくカルナ。
唾液が、二人の唇の交差点から溢れ、下へと滴り落ちていく。
「く……み、みんな」
アイドルが寄って奉仕してくれる。
まさに、男の夢の極致のひとつと言えるだろう。
しかも、ただのアイドルではない。
今まさに、お茶の間で人気が沸騰しつつある話題のアイドルたちなのだ。
グラビアの水着姿の彼女たちに、いったいどれだけの男どもが欲情しただろう。
ブラウン管の中で歌う彼女たちが持つマイクを、自分のモノに見立ててオナニーした者もいるだろう。
妄想の中で、彼女たちは何度、妄想の主たちに犯されていることだろう。
だが、今ヒロキの目の前で彼女たちがしてくれているのは、
全国のイケない男性ファンが夢にまで望んでいる、まさにそういう行為なのだ。
井戸田ヒロキ、とんでもない果報者である。
神に感謝して済むレベルの話ではない。
「うっ……」
ユーリとシホの唇と舌が、ヒロキを快楽の谷へと落とし込んでいく。
さすがに抜群のテクニックとは言い難いが、
十代の、まだ幼さが残る少女が自分のモノを舐め、咥えてくれているという事実だけで、充分に気持ちが良い。
視覚による快感、こればかりは、いかにヒロキが巨乳のお姉さん好きであっても関係ない。
「ヒロくぅん……」
「お兄ちゃあん……」
「井戸田さぁん……」
カルナも、ヒロキの唇から離れると、『ご奉仕』に加わった。
三人でかわるがわる、まるでソフトクリームを食べる子どものように、
舌先でヒロキのモノを舐め上げていく。
シホの次はユーリ、ユーリの次はカルナ、カルナの次はシホ……という順番に。
ユニットを組んでいる強み、とは言い方がおかしいかもしれないが、それは絶妙な連携だった。
「くぅ、シホちゃん、カルナちゃん、ユーリちゃん……っ!」
もはやヒロキは限界だった。
うなじがピリピリと痺れ、その痺れが背骨を通って下へと降り、腰を、そしてそのさら下へと向かっていく。
「く、ううっ!」
痺れが足先まで到達した時、ヒロキの堤防は決壊した。
多量の飛沫が、モノの先端から放たれ、三人の顔に降り注ぐ。
「あ……」
「出た、ぁ……」
「……ああ」
三人は恍惚とした表情で、ヒロキの精液を顔面に受けた。
汚い、という思いはない。
むしろ、ヒロキが自分たちの奉仕でイッてくれた、その嬉しさ、愛しさの方が大きい。
「は、ふぅ」
「んん、凄い……」
「こんなに、たくさん……」
丁度シホが舌を突き出した瞬間だったので、彼女が最も多くの量を浴びることになった。
鼻先、頬、唇に、べっとりと青白い精液がまとわりつく。
それを、左右からユーリとカルナが顔を寄せ、ペロリと舐め取っていく。
「う、わ」
その光景の何と扇情的なことか。
通常の感覚でいけば、男一人に女三人が奉仕すること自体が有り得ない。
ましてや、相手は売れっ子アイドルで、自分はそのマネージャーなのだ。
しかも、皆いずれも十代の少女たちだ。
なのに、その身体から発散される『女性の気』の何と妖艶さと言ったらない。
「ま、まずい」
ヒロキは必死に自制心を働かせた。
放出して萎えたはずの股間のモノが、また勢いを戻しそうになったからだ。
ムラムラと心臓を焦がす欲情を無理矢理、ヒロキは押さえにかかる。
ここで爆発してしまったら、事務所での話し合いに間に合わない。
何のために、こんな深夜遅くまでレイコたちを待たせているのかわからなくなってしまう。
「えいっ!」
気合一声、ヒロキは強引に性欲を封じ込めた。
そして、その勢いのままに立ち上がる。
「ちょ、ちょっとシャワー借りるわ!」
床に落ちていたYシャツとネクタイを引っつかむと、ヒロキはドタバタと浴室へと駆けていった。
膝までずり下がったズボンが、何ともマヌケだ。
「す、すぐ上がるから! あ、汗を流すだけだから! それで出て行くから!」
そう叫びながら浴室の向こうへと消えていくヒロキ。
そんなヒロキを、三人はやや呆然とした態で見送った。
「……そんなに慌てんでもいいのに」
「ホントなら、まずシャワーを浴びなきゃいけないのは私たちだよね」
「キッチンでタオルを濡らすわ。それでまず顔を拭きましょう。シャワーは井戸田さんが出た後で」
さっきまでの、大人顔負けの淫らさは、すでに三人からは消え去っていた。
いつものシホ、ユーリ、カルナに戻っている。
「うー、あそこまでやったんだから、ヒロ君は狼になってくれてもいいのに」
やや不満顔になるシホ。
その期待は、当然ユーリとカルナにもあった。
話し合いをうっちゃって、今夜一晩相手をしてくれたなら……という思いだ。
しかしその一方で、ヒロキが自制してくれたこともまた嬉しかったりする。
社長との話し合いを優先したということは、つまりはTBの仕事を守ろうとしてくれたのと同じことだ。
アイドルユニットとしてのTBを何より大事に思ってくれているという証だ。
不満だけれども嬉しい、嬉しいけれども不満。
何と贅沢で、そして複雑な乙女心であることか。
「でも、シャワー何て浴びてったら間に合わないんじゃない?」
時計の針はすでに十時半の手前を指している。
ヒロキが何時に話し合いを予定していたのかは知らないが、
明らかにこれはその時間をオーバーしているだろう。
「社長にボコられるんじゃない?」
レイ・プリンセス事務所社長の柏木レイコは、業界の裏も表も知り尽くしている。
女の武器、その使い方も熟知している。
今のところ、レイコは四人の関係について何も言って来ない。
隠し通せている、とは四人は思っていない。間違いなく気づかれている、と考えている。
何も言って来ないのは何か考えがあるためだろうが、言って来ない以上は四人も黙っているしかない。
「シホちゃん、それって怒られるの間違い?」
「……ある意味、間違ってないとは思うけれど」
三人は顔を数秒、顔を見合わせた。
まだ、それぞれの顔にはヒロキの精液の残滓がところどころに付着している。
「ぷっ」
「あはは」
「ふふふ……」
不意におかしくなって、三人は笑った。
自分たちはヒロキを愛している。ヒロキもまた、自分たちを愛してくれている。
アイドルとしても、そして女としても。
確かに、愛の形としてはイビツなのだろう。
三対一という付き合い方は。
自分ひとりだけを見て欲しい、ヒロキを自分だけの物にしたい、そういう思いは当然、心にある。
嫉妬もある。それは、人間である以上、そして女である以上、仕方が無い。
だが、それ以上に、三人はTBというユニットも愛している。
TBがあったからこそ、三人はここまで成長出来た。
シホ、ユーリ、カルナにとって、今はそれだけで充分だった。
充分過ぎる程に、満ち足りていた。
TBは奇跡のアイドルユニット。
イビツだろうと何だろうと関係ない。
それぞれが、深い愛と信頼で結ばれている。
遠くない将来、アイドルとしても女としても、いくつかの辛い選択を強いられることになるのは間違いないだろう。
もっともっと人気が出て、一人ひとりにアイドルとしての価値がさらに加われば、
社長命令でソロ活動に転向する可能性もある。
それに、日本では重婚が認められていない以上、ヒロキとくっつくことが出来るのは唯一人だけだ。
だが、例えそうなったとしても、彼女たちは悔やまない。
いや、悔やんだとしても、すぐにまた前を向いて歩き出すに違いない。
彼女たちの中でTBは永遠の存在であり、ヒロキへの愛もまた不変のものだ。
今の満ち足りた思いがあれば、どんな障害だって乗り越えていける。
それは、すでに確信だ。
そう、トリプルブッキングはまさに奇跡のアイドルユニットなのだ―――
F I N
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