俺の名は、豊田セイジ。平凡な中学教師だ。二十歳代、独身。

世間は盆休みに入り、顧問を務めるサッカー部もさすがにこの時期は活動を停
止する。ようやく俺も休みを満喫できるわけだ。そんなわけで久々に実家に戻
り、日頃の疲れを癒していた。

何もしなくて良い、のんびりとした一日。午後は蝉の声を聞きながら昼寝、夕
方はキンキンに冷えたビールを飲みながら、スポーツ中継を見る。なんという
幸せ。昔は夏になれば、都心や海に繰り出して遊びに明け暮れたが、そういう
のはもう卒業したぜ。退屈で平穏な日々万歳!

俺はこの幸せな休日が続くことを願っていたが、世の中、望み通りになること
は少ない。悪意ある運命が、携帯の着信音となって俺の元に訪れた。

「もしもし、豊田です」
「あ〜〜セイジ。あんた今ヒマ?ヒマな筈よね」
こっちの都合はお構いなしか。

「あん?私の知らない予定を入れてるわけ」
いいえ、なにも予定はありません。

「OK、今から私のところへ集合ね。
 ビール2パックと、適当にツマミも持ってきて。
 あー、発泡酒は却下。」
イエッサー、集合ということは他にも誰か来るのでありますか?

「アイはもう来てるわ。あんたも急いでくるのよ!」
了解であります。

さらば幸福な休日!
俺は天を仰いで嘆息を漏らすと、出かける準備にとりかかった。
リョーコめ、まったくとんでもない女だ。傍若無人、顎で人をこき使う。
こんな女とどうして付き合いを続けているのか、自分でもわからん。


「遅い。イエローカード!」
「あ、こんばんは。豊田先生」

コンビニの袋を両手に抱えて、顎でドアの呼び鈴を押すと、中から女性二名が
出迎えてくれた。一人は俺の不幸の元凶である「中村リョーコ」もう一人は、
リョーコの友人で「濱中アイ」さん。リョーコと異なり、善良でちょっと天然
の入った娘だ。どうしてこんな素直な良い娘がリョーコとつるんでいるのかわ
からない。濱中さん、友達は選んだほうが良いよ。

「なに、その目はなにか言いたそうね?」
リョーコ様、なにもありませんです、ハイ。

「豊田先生、荷物をお持ちしますね」
濱中さん、ありがとう。俺は左手に持っていたツマミ入りの袋を手渡した。

「アイ、先生付けなんて必要ないわ。私の奴隷なんだから呼び捨てでいいの」
ちょ。

「セイジ、ほら」
リョーコはそういって手を突き出た。えーと、何?

「荷物、よこしなさい!」
俺の右手からビールの入ったコンビニ袋がひったくられた。
やれやれ。


部屋に上がると、リビングのテーブルの上には、すでにグラスと大皿に盛った
枝豆が用意されていた。なんだ、つまみは不要だったのでは?そういう気持ち
を込めて視線を枝豆からリョーコに向けると、あいつは目でキッチンの方を指
し示した。そこにはいそいそと料理を盛り付けている濱中さんがいた。盛り付
け作業と同時に、いくつかは彼女の口元に消えているようだった。なるほど、
そういうことか。

リョーコの話では、濱中さんは三年連続で大学祭フードファイト女王の栄冠を
勝ち取ったらしい。他にも様々な大食伝説があるが、その話はまたの機会に。

「アイ、こっちいらっしゃい。始めるわよ」
「は〜〜〜い」
「俺、料理を運ぶの手伝いますよ」
「あ、お願いします」

狭いキッチンスペースは、二人入るとほぼ満員だ。俺が屈んで料理の皿に手を
伸ばすのと、皿を俺に手渡そうと濱中さんが振り向いたのがほぼ同時だったた
め、俺たちはびっくりするほど近い距離で顔を合わせることになった。

「あ」「きゃ」

狭いために身動きができず、しばし硬直。互いの瞳を見つめあうこと数秒。
彼女の頬がみるみるうちに紅潮してゆく、なにか言葉を発しようと半開きにな
った唇がなんとも艶かしい。エロゲなら、もう完全にフラグ立ったね。まあ、
現実は厳しいわけだが。

「セ・イ・ジ…」
背後から迫るリョーコの声。怖ぇ〜〜

「あんた、アイに何かしたらコロスわよ」
何もシマセンって。

「何かしようと思ってもコロス」
思ってもイマセン(ちょっと嘘)

「嘘ついてもコロス。正直に白状しなさい」
ごめん、ちょっとドキドキしました。

「そう、、、やっぱりコロス」
どうあってもコロスのかよ!

「許して欲しければ、今まで以上に私に奉仕するのよ。いいわね」
落とし所はそこか!
あ、いえ不満はありません。奉仕しますデス(トホホ)


「さて料理の準備も整ったし、そろそろ始めるわよ」
「はい、先輩」
えーと、俺は今日の集まりの趣旨を分かっていないのだが。

「セイジ。お盆といえばアレでしょ」
「アレって何だよ」
「ヒントをあげる。蝋燭を百本使うアレよ」
「百本、、、そんなに垂らされたら低温火傷で死んじまう」
「バカ、蝋燭プレイじゃないわよ」
「?」
「お盆といえば怪談。百物語よ」
「ああ百物語ね、、ってここでやるのか」
「そうよ」
「あれは、もっと雰囲気出る場所じゃないと盛り上がらないだろ」
「いいのよ、今夜は大人の怪談だから」
「どういう意味だ?」
「今夜の百物語のテーマは、ずばり恐怖の性体験よ!」
「はぁ?」「えぇ!」
「さあ、エロコワイ話を存分に語り合うわよ」

リョーコ様、すでにノリノリである。
こういう生き生きした姿は、昔のリョーコからは想像できないな。
リョーコを変えたのは、多分、あいつの教え子達と濱中さんだ。
その濱中さんに視線を向けると、彼女はエロ話と聞いて、恥じらいと好奇心が
混ざった微妙な表情を浮かべていた。やっぱり女の子はこういう反応が普通だ
よな、日頃リョーコの毒気に当てられている俺は新鮮な感動を覚えたね。

「さあ、セイジ。この蝋燭を立てて灯をつけるのよ」
リョーコは、引き出しから赤い蝋燭を10本ほど取り出すと、俺に手渡した。
おい、やっぱりプレイ用の蝋燭じゃねーか!

「話がつまらなかったら、罰として蝋燭攻めね。」
…結局そうなるのか。やれやれ。

その晩は、リョーコの嘘八百のエロトーク独演会となった。
濱中さんは、性体験など語れるはずもなく、罰杯を飲まされ続けた。
俺の話はリョーコから合格点を貰えず、罰としてエロくて、とても過酷な
奉仕作業をさせられたのだが、酔い潰れた濱中さんは知る由も無かった。

(END)

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