「ねえ、母さん。そろそろ俺、風呂はひとりで入りたいんだけど」
「あらら〜〜〜、タカもとうとう色気づいた?」
「そういうんじゃなくて。友達でも中学生にもなって妹と風呂に入ってる奴なんていないし」
「でもふたり一緒に入ってもらった方がお湯も一回で済むから母さん助かるんだけどな〜〜」
「………そういう問題かよ」
「いいじゃな〜〜い。エコよ、エコ。それにコトミは全然嫌がってないんでしょ?」
「コトミはそうかもしれないけど、俺は」
「兄妹の仲が良いのはいいことよ?さ、夕ご飯の準備があるからあっちいって」
(…………全然心配してないのか、この人は)

「父さん、ちょっといいかな?」
「ん?なんだ、タカトシ」
「コトミの奴がさ、俺と一緒に風呂と入りたがるんだけど、それってやっぱり変だよね?俺はもうひとりで」
「あははは、なんだ、そんなことか。いいじゃないか。兄妹仲が良くて」
「いや、仲が良いとかじゃなくて。もうふたりだと風呂も狭いし」
「…………悪いな、タカトシ。父さんの稼ぎがもう少しあれば、もっと立派な浴室を作ってやれたのに」
「い、いやそういう話でもなくて!」
「う、うう………本当は、父さんだって、毎日母さんと一緒にオフロに入りたいのに………それなのに。
残業続きで帰ると先に寝てるし、その割に給料は上がらないし。………ううう、不況のバカ――!!」
(ダメだ………別の意味で、この人はダメだ)

「お父さんとお母さん、今頃温泉かな?」
「しかし町内会の福引きで当たったからって、ふたりだけで行くかな、フツー」
「いいじゃん。平日限定コースだったんだし、私たちは学校があるし」
「お前って変なとこで聞き分けがあるよな」
「だってお母さん、最近全然旅行とか行ってないって前に愚痴ってたし。
久しぶりに夫婦水入らずってのも良いんじゃない?」
「ん………ま、そうか」
「えへへ、じゃ、私たちもオフロ入ろっか♪タカ兄」
「………コトミ、ちょっとそこに座ってくれ」
「??どうしたの」
「父さんと母さんがいないから、はっきりさせときたいんだけどな。俺はもう中学生だし、
コトミももう小六だよな?そろそろ俺ら、風呂はひとりで入った方が良いと思うんだ」
「え〜〜〜、やだ〜〜〜」
「だいたいお前の同級生の子でもいまだに兄妹と風呂に入ってる子なんていないだろ?」
「そんなことないよ?カナミちゃんは嫌がるお兄ちゃんと無理矢理一緒に入ってるって言ってたし」
「無理矢理だろうが!それにカナミちゃんって例の超ブラコンの子だろ?」
「そうだよ?えへへ、ブラコン同士気が合うんだよね」
「………!?ブラコン同士って、お前」
「良いからオフロはいろ〜〜よ、タカ兄!」
「だ、だからぁ、俺はもう!」
「…………タカ兄、私のこと、嫌いになった?」
「嫌いとか好きとかいう話じゃないだろう!だって………その、お前もう、えっと………あったんだろ?」
「うん、そうだよ」
「なら、やっぱりもう一緒に入るのは」
「分った。でも今日はまだ怖いよ。お父さんもお母さんもいないし。ひとりは寂しいし、怖いよ。
今日で最後にするから、ね?一緒に入ろ?タカ兄」
「………分ってくれれば良いんだけどさ。本当に今日で最後だぞ?」
「うん!わ〜〜い、オフロ、オフロ♪」
「はぁぁぁぁ〜〜〜、本当に分ってんだかな、コイツ?」
「生理がきたってことは………いつでもタカ兄の赤ちゃんを生めるってことなんだよ、私」
「ん?今お前なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないから!行こうよ、タカ兄」
「分ったから、あんま手を引っ張んなよ。まったく………」
呆れたような表情のタカトシは、まだ妹の瞳の底に宿る、妖しい光に気づいていなかった。

END

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