―2007年5月5日。本日は素晴らしい晴天、絶好のレジャー日和である。

―で、ここはとある郊外の遊園地。
休日を楽しむ多くの家族連れやカップルで溢れるその中に、あの二人もいたわけで。
「―なあに?まさかもうバテたの?」
一人は中村リョーコ。現在の職業はいつつば銀行の職員、そして「セイジのご主人様」。
「ああ…お願いだから休ませて…」
もう一人は豊田セイジ。現在の職業は中学校の教師、そして…「リョーコの奴隷」。
元気が有り余っている感じのリョーコに比べ、セイジは随分とお疲れのご様子で。
リョーコの催促も聞かずに近くのベンチへと座り込んでしまった。

「何よ…ずいぶんと情けないわね」
と少し呆れ顔のリョーコに、セイジはたまらず愚痴をこぼす。
「だってさ…一昨日は買い物、昨日はドライブ、
そして今日は遊園地でデートって…」
連休の後半戦が始まってから、ずっとリョーコに振り回されっ放しのセイジ。
流石に愚痴の一つや二つや三つや四つ…言いたくもなる。
まあリョーコにもセイジの気持ちはある程度分かっているのであろうが…

「ふーん…で?だ・か・ら?」
と、にっこりと満面の笑顔で返すリョーコ。
(ああ、いつもこれだもんな―)
セイジの経験上、彼女がこの手の笑顔を見せる時は
「テメエの意見など完全に無視する」という意思表示である。
もともとセイジも大して期待はしていなかったが、今回も彼女には彼を労わる感情は無いようだ。

―そう、微塵の欠片も。

―そして、おそらく“これからも”…ずっと。

「―まあ、いいじゃないの、セイジ。
これも立派な『家族サービス』なんだからさ♪
さあ、張り切って次行くわよっ!!」
「ああ、そうだな…

…………………

………?………


………堯゚д゚;)ハッ…



……待て、リョーコ」

―と、次のアトラクションへ向かおうとするリョーコを
“何か”に気づいたセイジが引き止める。

「…ん?なに?」
「お前…今…もしかして、ものすごく“重要な事”をさらりと流しやがったな!?」
「はっはっは…やっぱ気づいた?」
「気づくわ!!今の『家族サービス』って何だ!?どういう意味だ!?
もしかして…」
「そ、デキたわよ。アンタとの子供が…ね♪」
と、さらりと言ってのけるリョーコ。
そして…いきなり父親である事を知らされたセイジは呆然とした様子で。
リョーコのワガママにも、突然の呼び出しにも―あらゆる状況に慣れていたはずだったが…
腰が砕けてふらふらとまたベンチに座り込んでしまうセイジ。
「マジすか…」
「いやーマジもマジ、大マジよ♪
怪しいなー、と思って先週医者に行ったらさ…三ヶ月だってさ。
たぶん時期的にバレンタインの時に盛り上がったヤツが原因だと思うけどね♪」
―ああ、そういやそんな事が…あの時は奴隷と女王様プレイだったな…ってそんなことはどうでもいい。
セイジは頭をぶんぶんと振り、手渡されたペットボトルのお茶を一気に飲み干して心を落ち着かせ―
「結婚式はいつにしようかな?

―あ、新婚旅行はもちろん海外ね。

―これから頑張ってよ、お父さん♪」
…とまあ勝手気ままに話を進めるリョーコの言葉は、既にうわの空。
セイジは今後の身の振り方について、ただひたすら頭を抱えるのであった―


「―さ、急いで帰るわよ、セイジ。今日から忙しくなるんだからね」
「ああ、よーく分かってるって…」
機嫌が良いリョーコに急かされながら、閉園時間の迫った遊園地を出るセイジ。
駐車場へと向かうその帰り際、彼はふと後方の遊園地のゲートを見る。
夕日に照らされてすっかり赤く染まったそれは、
「そんなに気を落とすな、また遊びに来なよ」とでもセイジに語りかけている様に見えた。

―確かに、来年か再来年のGWにも、彼らはこの遊園地を訪れる事になるだろう。

―その時はおそらく、家族“三人”で。

(おしまい)

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