最終更新:ID:Pp1tQmDH2g 2008年06月07日(土) 20:56:56履歴
―とあるアパートの一室。そこで一組のカップルが、テーブルを境に向かい合っていた。
彼女の年の頃はまだ二十歳前と言った所だろうか、ずいぶんと深刻そうな顔である。
しばしの沈黙のあと、まずは彼女の方が重い口を開いた。
「…できちゃったの」
「……は?」
彼女の突然の衝撃告白を受けて、彼氏の身体が硬直する。
「だから、ね。最近…“アレ”が来てないのよ」
現代の既婚男の数割がおそらく体験しているであろう、この展開。
まあ大抵の場合、男はまずうろたえるもので。彼もどうやらその例外ではなさそうである。
「ひ、避妊はちゃんとしてたよな…」
「んと…でも…時期的にもバッチリ合ってるし…
あの日コンドームに穴が開いてなかったとは言い切れない…かも」
「??なんで??」
「ほら…ずっと前にさ、ふざけてコンドームの耐久実験やったじゃない?伸ばしたり楊枝でつついたり…
それをずっと捨てるの忘れてて、“あの日”に使っちゃったの…かも」
「………」
―そう言えば…そんなことが確かにあったな―と彼は思い返す。
彼女の口から告げられたその事実にまた黙りこくってしまう彼。
そして部屋の中がしんと静まり返る。
しかし今度の静寂は、彼によってすぐに途切れることになった。
「―結婚しよう」
「…え?」
意を決して発せられた彼の言葉。今度は彼女がその身を固くする。
「だから…結婚だよ!」
「えっ?えっ…まさか、本気?」
「ああ。確かにまだ俺の稼ぎは少ないけど…
君と子供を養っていける自信はある」
「え?え?本当に…私でいいの?」
彼女の問いに自信を持って彼は答える。
「当たり前だろ。絶対に…幸せにするからな」
「――くん…ありがとう。
…でもね」
「―なーんてね!!ドッキリでしたーっ!!」
「あっ…そうか!今日はエイプリルフール…」
「あはは、すっかり騙されてやんのー」
「う、うるさいな…しょうがないだろ、心当たりはあったんだし…」
―そう、今日は4月1日。
ウソつきの祭典、エイプリルフールである。
「あーもう、すっかり騙された…」
恥ずかしそうに頭を掻く彼に、彼女はくすりと笑いかける。
「へへ、演技うまかったでしょ?
ま、妊娠ってのはウソだから。安心していいからね♪」
「…いや。もう決めたよ」
「―え?」
笑っている彼女にそう告げると、彼の顔が一際真剣な表情へと変わる。
「『結婚しよう』って気持ちは…ウソじゃない」
「え?え?え?」
思わぬ彼の切り返しに戸惑いを隠せない彼女。
「…本当に?本気なの?」
「ああ、前からずっと言おうと思ってた。このまま宙ぶらりんのままじゃ…いけないってさ。
―改めて言うよ。結婚しよう」
「――くん…」
彼女の目に涙が潤んだその直後、彼の顔が少しにやっと笑う。
「じゃ…せっかくだから“妊娠”も本当のことにしちゃおっか!」
「え?ちょっと…待って」
「いや、待たない」
「ご、ごめん!ウソついたのは謝るからぁ!」
「いや、許さない」
うろたえる彼女の唇を彼の唇が塞ぎ、そのまま身体を前へと押し倒す。
初めは抵抗していた様子の彼女の口から甘い声が漏れ出したのは、
それから間もなくのことだった。
こうして幸せなカップルの夜は更けていくのだった―
「―とまあ、これが父さんと私の馴れ初めで…
マサヒコ、アンタを仕込んだのもこの時なのよ♪」
「…うそつけ」
―2007年4月1日、小久保家のリビングにて。
ノリノリでそんな与太話をする母を、じっと冷めた目で見つめる息子。
せっかくの日曜の午後にこんな下らない話を聞かされるとは―
―とでも言いたげである。
まあそんなマサヒコの気持ちが分っているのか分っていないのか。
マサヒコの母はそのまま話を続ける。
「だからあ、ホントよ、ホント。ウソなんてついてないって♪
…でさあ、アンタもこんな感じでミサキちゃんと子供でも仕込んだらぁ?
生活費は私たちが援助してあげるからさ♪」
「うるせーうるせーっ!!」
(おしまい)
彼女の年の頃はまだ二十歳前と言った所だろうか、ずいぶんと深刻そうな顔である。
しばしの沈黙のあと、まずは彼女の方が重い口を開いた。
「…できちゃったの」
「……は?」
彼女の突然の衝撃告白を受けて、彼氏の身体が硬直する。
「だから、ね。最近…“アレ”が来てないのよ」
現代の既婚男の数割がおそらく体験しているであろう、この展開。
まあ大抵の場合、男はまずうろたえるもので。彼もどうやらその例外ではなさそうである。
「ひ、避妊はちゃんとしてたよな…」
「んと…でも…時期的にもバッチリ合ってるし…
あの日コンドームに穴が開いてなかったとは言い切れない…かも」
「??なんで??」
「ほら…ずっと前にさ、ふざけてコンドームの耐久実験やったじゃない?伸ばしたり楊枝でつついたり…
それをずっと捨てるの忘れてて、“あの日”に使っちゃったの…かも」
「………」
―そう言えば…そんなことが確かにあったな―と彼は思い返す。
彼女の口から告げられたその事実にまた黙りこくってしまう彼。
そして部屋の中がしんと静まり返る。
しかし今度の静寂は、彼によってすぐに途切れることになった。
「―結婚しよう」
「…え?」
意を決して発せられた彼の言葉。今度は彼女がその身を固くする。
「だから…結婚だよ!」
「えっ?えっ…まさか、本気?」
「ああ。確かにまだ俺の稼ぎは少ないけど…
君と子供を養っていける自信はある」
「え?え?本当に…私でいいの?」
彼女の問いに自信を持って彼は答える。
「当たり前だろ。絶対に…幸せにするからな」
「――くん…ありがとう。
…でもね」
「―なーんてね!!ドッキリでしたーっ!!」
「あっ…そうか!今日はエイプリルフール…」
「あはは、すっかり騙されてやんのー」
「う、うるさいな…しょうがないだろ、心当たりはあったんだし…」
―そう、今日は4月1日。
ウソつきの祭典、エイプリルフールである。
「あーもう、すっかり騙された…」
恥ずかしそうに頭を掻く彼に、彼女はくすりと笑いかける。
「へへ、演技うまかったでしょ?
ま、妊娠ってのはウソだから。安心していいからね♪」
「…いや。もう決めたよ」
「―え?」
笑っている彼女にそう告げると、彼の顔が一際真剣な表情へと変わる。
「『結婚しよう』って気持ちは…ウソじゃない」
「え?え?え?」
思わぬ彼の切り返しに戸惑いを隠せない彼女。
「…本当に?本気なの?」
「ああ、前からずっと言おうと思ってた。このまま宙ぶらりんのままじゃ…いけないってさ。
―改めて言うよ。結婚しよう」
「――くん…」
彼女の目に涙が潤んだその直後、彼の顔が少しにやっと笑う。
「じゃ…せっかくだから“妊娠”も本当のことにしちゃおっか!」
「え?ちょっと…待って」
「いや、待たない」
「ご、ごめん!ウソついたのは謝るからぁ!」
「いや、許さない」
うろたえる彼女の唇を彼の唇が塞ぎ、そのまま身体を前へと押し倒す。
初めは抵抗していた様子の彼女の口から甘い声が漏れ出したのは、
それから間もなくのことだった。
こうして幸せなカップルの夜は更けていくのだった―
「―とまあ、これが父さんと私の馴れ初めで…
マサヒコ、アンタを仕込んだのもこの時なのよ♪」
「…うそつけ」
―2007年4月1日、小久保家のリビングにて。
ノリノリでそんな与太話をする母を、じっと冷めた目で見つめる息子。
せっかくの日曜の午後にこんな下らない話を聞かされるとは―
―とでも言いたげである。
まあそんなマサヒコの気持ちが分っているのか分っていないのか。
マサヒコの母はそのまま話を続ける。
「だからあ、ホントよ、ホント。ウソなんてついてないって♪
…でさあ、アンタもこんな感じでミサキちゃんと子供でも仕込んだらぁ?
生活費は私たちが援助してあげるからさ♪」
「うるせーうるせーっ!!」
(おしまい)
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