「んッ…はああッ……あはぁッ、いいの……いい、シンジ君」
「……ナツミの中、いつもより……あつッ……くて、すごく…俺も良いよ…」
"ずちゅっ、ずううぷッ"
「あん……そ……そこぉ…っ、気持ちいいよぉ」
普段のしっかりもので優等生で通っているナツミの顔が、すっかり淫らに歪んでいる。
その表情はシンジが今までAVで見慣れていた、ツクリモノめいたものではなく……
生身の女性の、牝としての匂い立つような色気に充ち満ちていた。
「可愛い……ナツミの、エッチな声、顔……全部、俺、好き」
快感のあまり、言葉もとぎれとぎれになってしまうシンジ。
"ちゅ"
そしてシンジはナツミと唇を重ね、
"くぷ…"
舌を、彼女の口内に差し入れてお互いの舌を絡めるように吸った。
「しッ……ひんりッ……ふん、んぷっ…、ふぁ……」
うっとりと、そのキスに身を任せるナツミ。シンジは、彼女の唇を貪りながら……
"きゅっ…こりっ、くに…"
両手の指先で、ナツミの小粒な乳首をつまみ、嬲った。
「ぷあッ……シンジ君、ダメ……そこ、ああ……」
「……ナツミ、俺、うっ…もう……でちゃッ」
「あんッ……あ、いっちゃう、の…わた…しも…ッ、イっ…ちゃッ、くあぁぁッ!」
シンジとナツミのカラダがほぼ同時にびくびくっ、と跳ね、ふたりは……達した。
「あ……あったかいよ、シンジ君の……コンドーム越しでも……あったかい…」
「……ナツミのも、すごく気持いいよ……俺のを、包んでくれてるみたいな……」
ふたりは、満足げに見つめ合うと……
"ちゅ"
微笑み、再びキスを交わした。

「へへ、最初は部屋でするのあんな嫌がってたのに……最近はすごい乱れるよな、ナツミ?
もしかしてナツミさ、カナミに聞かれてるかもしれない、って思うと余計に燃えるんじゃない?」
「そ、そんなことないよッ!……もう、シンジ君のバカッ!」
真っ赤な顔をして、抗議するナツミだが、シンジは満足げにその顔を見つめている。
「さては図星だな?はは、じゃあ今度はマジでカナミのいるときに……」
「嫌!絶対嫌!もう……う、うわあああん!」
恥ずかしさから、泣き出したナツミが全力で枕をシンジに投げつけた。
"ぼすッ"
「!痛てッ!じょ、冗談だって!ナツミ、俺が悪かった……痛て!もう投げんなって!」
一発目の枕は見事顔面にストライクが決まり、続いて手当たり次第にベッド周辺にあるものを
ナツミが投げ始めた。彼女の驚異の動体視力と怪力ゆえ、それは素晴らしいコントロールと
重さの乗ったスピードでシンジに襲いかかり、シンジはひたすら謝るほかなかったのであった――

シンジとナツミは、あの夏休み最後の日に結ばれてから恋人同士として付き合うようになった。
初めてのセックスは、シンジには予想を遙かに超えた快感を与え、
ナツミには恋人・シンジへの愛情と性への好奇心を育む、めくるめく体験だったが……
ふたりとも受験生という立場のため、あえてそれに溺れることは自制していた。
なにより受験を控え、アルバイトもできない懐具合の厳しい高校生にとって、
ホテル代金というのは結構な出費であり……財政事情からも、非常に難しいのであった。
AV鑑賞においては露出ものやアオカンものも守備範囲内であったシンジも、
さすがに現実では自分の恋人にそれを強要するわけにもいかず――というか、
初体験がアオカンだったので、ノリでナツミにそれを提案したら泣きながら殴られたということもあり、
セックスをするのはカナミが城島家を留守にするとき、という暗黙の了解がふたりの間にできていた。
今日はカナミが友人達と遊びにでかける日であり、ふたりは思う存分愛し合うことができたのだった。

「ゴメンな……ナツミ、俺、調子に乗っちゃって……」
「ううん……私もちょっとやりすぎた。ゴメンね、シンジ君……」
ちょっとした痴話ゲンカも終わり、ナツミと仲直りしたシンジは彼女を家まで送ってあげていた。
§


顔面そこかしこに結構な傷があるのは、まあ何も言うまい。
「ふう……でも、もうそろそろだね、受験……」
「うん。ナツミのおかげで俺、前回の模試結構良かったからな……ありがとう」
実は最近、ナツミの指導のもと猛勉強をした結果、成績急上昇中のシンジ。
彼女の内助の功に、素直に感謝するのであった。
「そんなことないよ…最近シンジ君、頑張ってるもん。ふふ……ねえ、シンジ君?」
「?なに?」
「一緒の大学…行けるといいね?」
「ああ……ってそのためにはまだまだ頑張らないとダメだけどな……」
「もし一緒の大学だったら……私……」
「?」
「同棲とか……してみたいな」
「え!?」
「昔から憧れてたんだ。好きな人と暮らすのって……ふふ、そしたら今よりずっと一緒にいられるよね?」
(というより、今よりずっとたくさん……デキるってことだよな?)
……頭の中はそれだけか、シンジ。
「……?あ、今シンジ君、いやらしいこと考えてた!」
「!ちちち、違うって!そんなこと……」
「もう、エロいんだから〜〜〜。ふふ…でも、ちょっとくらいなら…イイよ?」
「………マジで?」
ふたりはそんな甘い会話を楽しみながら歩き、そろそろ今岡邸が見えようとしていた。
「……ここでいいよ、シンジ君」
「ん……ああ。じゃあな、ナツミ」
「うん……えっと……シンジ君?」
「?なに?ナツミ」
ナツミは、キョロキョロと周りを見渡すと……
"ちゅッ"
シンジの頬に、キスをした。
「?な、ナツミ?」
「へへ……さよならのキス。次のさよならのキスは、シンジ君がする番だからね?」
「……って順番なの?」
「そ・う!今私が決めたからね?じゃ、また明日ね、シンジ君!」
照れたのを隠すようにシンジから顔をそむけると、ナツミは急いで家へと帰っていった。
「………振り回されてるかなあ、俺……」
そう呟いたあと、シンジは今岡邸をしばらく眺め……くるり、と踵を返して家路につこうとした、そのとき。
「ばいば〜〜〜い!!!シンジ君!」
「え?」
振り返ると、ナツミが二階の窓から顔を出して自分に向かって手を振っていた。
「な、ナツミ!おい、声でかいって……」
慌てるシンジだったが、ナツミはそんな彼を見ると、笑いながらぺろり、と舌を出して窓を閉め、
カーテンを引いて自分の部屋に隠れてしまっていた。
「……やっぱり振り回されてる、よなあ……」
ちっとも深刻そうでない、幸せそうなニヤケ顔のまま、シンジは再び家路についた。

「ただいま……お〜〜〜い、カナミ?メシは今日遅くてもいいからな……」
城島邸につくと、鍵は既に開いていた。カナミが先に帰ってきたと思ったシンジは、
妹のことを思いやってキッチンに向かった……のだが。
「………」
そこでは、後ろ姿のまま……黙々と、料理にいそしむ妹の姿があった。
「聞こえなかった?カナミ、今日はそんなメシはすぐじゃなくても……お前も疲れてるだろうし……」
「なにか言った?お兄ちゃん?」
「………カ、カナミ?」
振り返ったカナミは――笑顔で、シンジを見ていた。しかしそれは――凍ったような、笑顔だった。
たとえばカナミそっくりの笑顔の人形を作り、その面を切り取って貼り付けたような…そんな笑顔だった。
「もうすぐ……夕食出来るから、そこで待ってて?」
§


「カ……カナミ?それって……なに?」
そしてカナミの笑顔のあまりの怖さに固まっていたシンジは、
彼女が手でつかんだまま、蠢いている小動物を見てさらに慄然とした。
「うふふ……すっぽん。今日は生きたすっぽんが手に入ったから……」
カナミがすっぽんの鼻先に割り箸を近づけた。それまで首をひっこめていたすっぽんは、
しばし周囲を見渡して警戒していたが……
"かぷッ"
割り箸に、噛みついた。その顎は結構な力らしく、既に割り箸はばきり、と折れ始めている。
「ふふ……イキの良いすっぽん……」
ぞくり、とくるくらい妖しい微笑みをすっぽんに向けると、カナミはぐい、と割り箸を引っ張った。
割り箸と一緒に、それを噛んだままのすっぽんの首がぐにり、と伸びた。
"バサリ"
首が伸びきったところで、間髪入れずにカナミが出刃包丁ですっぽんの首を切り落とした。
ぽとり、とそれが――テーブルの上に、落ちた。
(!!!!!いてッ!)
「亀の頭」が切り落とされるところを目の当たりにして、なぜか自分の股間が
切り落とされるかのような錯覚を覚えたシンジは、思わずそこを押さえていた。
いつの間にか、カナミはコップを手にして頭のなくなったすっぽんの首から滴り落ちる血液を集めている。
「うふふ……すっぽんの血って、精力がつくっていうからあとでお兄ちゃんもたっぷり飲んでね?」
頭を切り離されても、すっぽんの胴体はなおもうねうねと手足を動かしている。
いや、胴体だけでは無かった。食卓の上ではなおも首だけになったすっぽんが目を見開き、
みじろぎしていた。そんな奇怪な風景に、シンジの中の現実感覚が崩れていった。
「…………………は、………は、………い」
今逆らったら、間違いなく自分も………あまりに恐ろしい妄想が、シンジの頭の中に浮かぶ。
「じゃあ……お兄ちゃん……ご飯の準備、お願い」
「は、はいッ!」

今日の城島家の食卓に上ったのは―――
さきほどカナミのさばいた、すっぽんの鍋に牡蠣フライ、ニラレバ炒めにとろろ汁。
(………節操も脈絡もない……ていうか、完全に……精力のみのメニュー……)
正直、食欲など全くなかったシンジだが、砂を噛むような思いで……それらを、平らげていった。
「ふふふ……どう、お兄ちゃん?美味しい?」
「は、はい!美味しいです!」
普段の食卓なら、まだこういったメニューについてのツッコミも可能だったはずのシンジだが、
今日の雰囲気ではなにも言えるはずもなかった。
「では、じゃ〜〜ん!さっきのすっぽんの血を日本酒で割ったすっぽん酒!どうぞ、お兄ちゃん?」
「は、ははははい、いただきます!」
気味の悪い、ややくすんだ赤色の液体。コップに入ったそれを震える手でカナミから受け取るシンジ。
「私も最近少し体調悪いから、いただいちゃおうかな?じゃあ、乾杯!お兄ちゃん」
「か、乾杯……」
表面上はにこやかなカナミだが、目は全く笑っていなかった。
かちん、とお互いのコップの先を合わせると、シンジは覚悟を決めて……
"ぐび………"
その不吉な色をした液体を、一息で飲みほした。
(うえ、まんま血の味だ……)
「ふあ……すごい、生臭いんだね、すっぽんの血って。
うふふ、でも精力がつくって言うからコレでバッチリだよね、お兄ちゃん?」
「そ、そうだな……カナミ……」
生きた心地のしないまま、食事をとり続けるシンジ。そしてようやく全てを平らげた後、
「カナミ?あのさ、後かたづけは俺が……」
「でも……」
「い、いいって。たまにはさ、お前もゆっくりしてろって」
強引にそう言うと、食器洗いを引き受けるシンジ。
「じゃあ……ゴメンね、お兄ちゃん?」
予想外にあっさりと引き下がり、カナミはリビングでテレビを見始めていた。
§

攻守交代 後編

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