最終更新:ID:MVrtgpfFow 2008年06月29日(日) 12:51:51履歴
梅雨がまだまだうっとおしい六月末の某日。
小久保邸には五人の若い女性が集っていた。
もはやいちいち誰とか説明する必要もないだろうが、そこを敢えて言うと、
濱中アイ、天野ミサキ、若田部アヤナ、的山リンコ、中村リョーコの面々である。
マサヒコたちが中学を卒業して二年、
マサヒコとリンコは同じ高校に通うことになったが、ミサキは別の進学校、アヤナは父の都合で渡米、
アイは卒業研究と就職活動、リョーコは社会人一年目……と、
家庭教師時代とは異なりそれぞれ離れた時間が多い生活になるかと思いきや、
もともとミサキはマサヒコの隣人で、何より彼氏と彼女の関係、
アヤナは一年であっさり戻ってきて、アイの卒論と就活も早目に蹴りがつき、
リョーコはリョーコで何だかんだ言いつつこの年下連と縁を切るつもりなんざなし。
で、結局は仲良し関係を変えず変わらず続けている状態なのだった。
「では、さっそく会議を始めましょう」
「はい、中村先生しつもーん」
「早速のその意気や良し。で、何? リン」
「今日は小久保君の誕生日プレゼントを皆で決める会議なんですよね」
マサヒコの誕生日は七月一日。
今日から目と鼻の先で、プレゼントを用意するのにちんたらしている暇はない。
「そうよ」
「じゃあ、何で小久保君の家で話し合いをするんですか?」
濱中アイと中村リョーコは、未だにマサヒコたちから先生と呼ばれている。
家庭教師と教え子の関係は中学卒業と同時に解消されており、
小学校の教師であるアイはともかくとして(まだ産休職員の代替で臨職扱いだが)、
リョーコは業界大手のいつつば銀行に勤めているので、先生呼ばわりは本来はおかしいところっちゃおかしいところ。
が、三つ子の魂ではないが、それならそれで「濱中さん」「アイさん」「中村さん」「リョーコさん」と呼び方を急に変えるのも、
ちょっと微妙な話だったりするのもまた事実ではある。
呼ぶ方もしっくりこないし、何より呼ばれる方もこそばゆくて落ち着かないということもあり、
結果、旧来のまま「濱中先生」「アイ先生」「中村先生」「お姉さま」といった呼び方が続いている次第なのだ。
「答は簡単、私のマンションでは出来ないからです」
「何でですか」
「酒瓶と未洗濯の下着とアダルトグッズが散乱しているから」
昨日もセイジで遊んでね、と腕を組み頷きながら言うリョーコ。
まったくもって自慢出来ることではないが、それを悪びれもせずに堂々と理由にするところは彼女らしいかもしれない。
「じゃあアイ先生のところは」
「ごめんね、あのね、昨日ゴキブリが出てね」
曰く、バルサン中。
「アヤナちゃんの家は」
「……今、兄さんの彼女が来てるから。父と母に会いに」
曰く、結婚前の重要な面接(?)中。
「ミサキちゃん……」
「え? そ、その、私は別に……。わ、私の部屋でも良かったんだけれど」
曰く、展開に流され中。
「んー、で、私の家は皆の家から遠い、と」
的山邸はポツンと離れた距離にあり、集まるのに不適。
で、結論としては。
「ま、そういうことでマサの家が一番都合がいいのよ」
小久保邸は集合場所。
これもまた、以前から変わることないお約束である。
「さ、ちゃっちゃと話を進めるわよ。早くしないとマサが帰ってきちゃうから」
部屋の主であるマサヒコは現在外出中である。
母に命じられ、駅前のデパートまでお買い物に出かけているのだ。
このポイントは、マサヒコ本人がいないのに部屋に女性陣を勝手に上げちゃう母ってどうなのよ……ではない。
息子が女の子に囲まれている状況が楽しくて仕方ない母がちょっと策を弄しちゃいました、というところにある。
すなわち、息子の部屋で会議をさせるべく、わざわざ当の息子を追い出したということ。
息子がいたらいたでおもしろい展開にはなるだろうが、
どうしても突っ込み兼ストッパーになってしまい話が佳境に入る前に切れてしまうのだ。
それでは盗み聞きの楽しみが薄れてしまう。
「で、さっそく本題なんだけど」
「プレゼントのことですか」
「そうそう。結論に飛んじゃうと、もう一つしかないでしょ」
「? PS3ですか」
尋ねるミサキ。
前々からプレイステーション3が欲しいと何度かマサヒコが口にしており、
瞬時に「マサヒコが欲しいもの」と言えばこれくらいしか思い浮かばない。
「違うわよ、んなもん自分の小遣いで買わせなさい」
「じゃあ、何ですか?」
ミサキを筆頭に、アイ、アヤナ、リンコの頭上には見えないハテナマークが浮遊。
リョーコはそんな四人をニヤリと笑いつつ見回すと、胸を張って言い放つ。
「決まってるでしょ。カラダよカラダ」
「カラダ……? 清涼飲料水ですか」
「はいボケないボケない。つまり肉体よ肉体!」
「……」
「はいあきれないあきれない。若く瑞々しい乙女の肢体をこう、首にリボンでも巻いてプレゼントに」
「……あのう」
「マサの目の前に四人一列に並んで、誰から味見する? なんて」
「すいませんけど」
「恋人にプラスして自由にしていい処女が三人なんて男にとっちゃ超ド級のプレゼント……」
「いい加減にして下さい!」
リョーコの暴走、それに怒るミサキ、急ぎ足の展開についていけないアイ、
わかってるのかわかってないのかほよよんとした表情のリンコ、
突っ込みたいのに相手がリョーコだからそれがなかなか出来ずに赤面して黙り込むアヤナ。
ストッパー役のマサヒコがいないとこうなります、という典型的な流れになっている。
「そ、そんなこと出来るわけないですし、しません!」
「あらどうして?」
「どうしてもこうしてもです! 常識的に考えて!」
語気荒いミサキだが、リョーコにはその心底が透けて見えている。
常識に照らし合わせて、という立場で反論してくるミサキだが、結局は恋人であるマサヒコに他の女性が近づくのが許せないのだ。
嫉妬と言ってしまえばそれまでなのだが、
アイ、アヤナ、リンコのマサヒコに対する感情が「異性の友人」と一言でまとめるには、
あまりに曖昧なままであるのがミサキの中では無視出来ない問題となってしまっている。
アイはショタコン疑惑、リンコは天然で性意識の壁が低いという危険性がそれぞれあり、何より女の直感的にアヤナがどうにも怪しいわけで。
ただでさえ日中別々の高校に通っていて側で目を光らせられないのに、
その上本来なら安全牌であるはずの親友がマサヒコに本気になったら……と、
友情とはまた違った次元で、ミサキにしてみれば気が気でないところ。
それで、そんなミサキの「恋する乙女の心の動き」は、
色事について百戦錬磨なリョーコにゃわかりやす過ぎる程にバレバレなのだった。
「ミサキはああ言ってるけど、あんた達はどうなの?」
ここでリョーコ、反対意見に真っ向から立ち向かわず、
一旦別人に話を振って場の雰囲気を泥沼な方向へと持って行くという戦法に出た。
これで振った面子も一斉に歩調を合わせて敵対してきたら作戦失敗なのだが、もちろん中村リョーコはそんな見通しの甘い迂闊な人間ではない。
アイたちの性格と思考を見越しているからこそ打てる、狡猾にして勝率の高いカケヒキなのだ。
「わ、わっわた、私もそんなこと出来ません」
アイは反対するものの半ばパニクる。
「な、何で小久保君何かにそ、そ、そんなことを、してあげなけりゃならないんですか!」
アヤナも同様で、こちらはパニクるというより慌てると言った方が適切か。
「えー、じゃあ小久保君のセックスフレンドになれってことですかあ? うーん……」
リンコは論点が完全にズレた答を返す。
「リ、リ、リンちゃん! 何考え込んでるの?」
リンコに反射的にミサキが突っ込む。
もうこうなると完全にペースはリョーコのもの。
ミサキもアイもアヤナもリンコも、ミキサーでかき混ぜられる果物の如しだ。
どういったジュースが出来上がるかは、それはミキサーたるリョーコの思惑次第。
「ミサキ……あんた将来、看護師になりたいって言ってたわね」
「へ?」
リョーコ、二の矢を放つ。
突如まったく違う方向に話題を振って相手をさらに惑わせる、これぞ彼女の常套手段。
もちろんまったくの無暗撃ちではない、ちゃんと意図あってのものである。
「そ、それがどうかしたっていうんですか」
「ううん、あのね……オトコって奴はね、コスチュームプレイに誰しも弱いのよ」
「は?」
「ナースなんてその中でも上位に来るのよねぇ、例外なく。マサヒコも多分そうじゃないかなー、なんて」
「え、え、え?」
「そうねえ、設定は……マサが医者でアンタが新人看護師で―――」
「天野君……君はいけない子だな。聖なる医療の場でこんなに淫らに濡れるなんて」
「あ……あ、そ、それは、それは小久保先生が……」
天野ミサキは今年の春にこの小久保病院に就職した新人看護師。
中学時代に見た医療番組の影響でこの道を目指し、見事夢を叶えることが出来た。
彼女の前途は明るかった。
いや、明るいはずだった。
「さあ、いつものようにおねだりして、ゆっくりと腰を下ろしてみて」
「は、い……。小久保先生の、マサヒコ先生の太いお注射を、私に突き刺して下さい……!」
小久保病院の跡取り息子、マサヒコ。
端正な顔立ちで若い看護師連から人気があり、ミサキも勤めて初日から仄かな想いを彼に寄せていた。
「あ、あっ……す、ごいで、す……!」
「いやらしいな天野君……ミサキは。もう根本まで飲み込んだ」
「はぁ、はぁ……」
ミサキがマサヒコから声をかけられたのは、出会って一か月が経った頃。
ミサキが一人、夜の資料室でカルテを直していた時だった。
「大変だね、手伝おうか」と優しい口調で言われ、ミサキは一気にのぼせあがってしまった。
「ここは今はたまたま使ってないとはいえれっきとした病室なのに、ミサキは恥ずかしくないのかい」
「言わないで、言わないで下さい……! あ、んんっ、き、気持ちいいよぉ……!」
その後も事あるごとに会話を重ねるようになり、
もともと異性に関しては純過ぎる程に純なミサキは完全にマサヒコの虜となった。
そして。
「くっ……ミサキ、どこに出してほしい?」
「あ、あっ……! ダメ、服は、看護服はダメ……まだ、仕事が……外は、ダメです……! ああっ!」
「それじゃ、中がいい?」
「はぁ、あああん……! ダメ、それもダメぇ、にん、しんしちゃう……!」
カーテンから差し込む月明かりに照らされて、
天野ミサキはベッドの上、マサヒコの上で腰を振っている。
ナース服のままで。
「大丈夫……くぅっ、ここは病院だ、堕ろすことなんて簡単に出来る」
「ダメ、そんなのダメ、ダメぇ! ああっ、私は、私はぁ……ダメっ、いく、イッちゃうよぉ!」
マサヒコが舐めろと言ったらミサキは舐める。
飲めと言ったら飲む。
中出しを求められたら応じる。
今のミサキは、完全にマサヒコの奴隷だった。
「よし……出す、ぞ……っ!」
「あ、あ、あああーっ!」
ミサキはマサヒコを愛している。
そう、心の底から。
マサヒコが他のナースにも手を出している事実を知らずに。
この患者がおらずいつも空き室になっている病室で、毎晩違うナースを抱いている事実を知らずに。
「―――とか、何とか」
「なっななななな、何を言ってるんですかっ!」
リンゴやイチゴもかくや、と思われる程に顔を赤くし、ミサキは怒鳴る。
しかし彼女は気づいていない、既にリョーコの術中にはまってしまっていることを。
リョーコのエロ話を区切りの良いところまで聞いてしまっているのがその証拠でもある。
所詮、こっち方面ではミサキはリョーコに勝ち目などない。
「だ、だいたいそれじゃコスプレとかいうレベルじゃないと思います!」
「んー?」
「な、なりきりじゃなくて何かもう完全にそのものじゃないですか!」
ミサキのツッコミはある意味正しい。
正しいが、悲しい程に無力である。
「ねぇミサキ」
「もう、知りません!」
「怒ってるけど、アンタは一度も考えたことがないの?」
「え?」
「ナースプレイはともかくとして、マサの子供が欲しいと思ったことは、さ」
「なっ!?」
リョーコ、倶梨伽羅峠の火牛の如く一気呵成の責め、いやもとい攻め。
動揺を誘ったところに急所を突いてトドメを刺す、まさに悪女の面目躍如と言えようか。
「マサちゃんの子、ども……?」
「いい、アンタはこの面子の中では勝ち組なのよ? 彼氏がいて」
「……で、でも、まだ私もマサちゃんも高校生で」
まだ高校生、とか口走っている時点で完璧に陥落しているわけだが、最早ミサキはリョーコマジックの檻の中。
過去に何度もひっかかり、いい加減耐性も出来そうなものだが、やはりミサキの本質は夢見がちな乙女であるということか。
「もう処女じゃないんでしょ? ほら、前回マサに抱かれたのはいつ? その時のことを思い出してみなさい」
「……」
「恋人へのプレゼントが妊娠の報告なんて素敵と思わない?」
さらばミサキ、妄想の園へ。
頬を染め、ブツブツと愛しい彼氏の名前を呟く今の彼女に聖光女学院で五指に入る秀才の面影はない。
「お、お姉さま! こ、こ、高校生でに、に、妊娠なんて不潔です! 風紀が乱れてます!」
「そうですよ先輩! 家族計画です! 子づくりは計画的に!」
アヤナとアイの遅すぎる自己主張。
もちろんこんなもん、焼け石に水、暖簾に腕押し。
リョーコにしてみりゃこのタイミングで二人がつっかかってくるのもお見通しである。
「アヤナ」
「は、はいっ!?」
「アンタは保育士になりたいんだっけ?」
「え、な、なりたいと言うか、子供が好きなので……」
「じゃあシチュエーションは決まりね。アンタの保育園でマサの子供を預かっていて」
「ちょ、ちょっとお姉さま!?」
「迎えに来たマサを倉庫に連れ込んでかねてからの想いを遂げる、と」
若田部アヤナは薄暗い倉庫の中、四つん這いの格好で無心に腰を振っていた。
彼女の背後には、一人の男性が覆いかぶさっており、これもまた同じように腰を動かしている。
所謂、後背位のセックスだ。
「ああっ、小久保君、小久保くぅん!」
「わかた、べ……!」
「いや、いやいやっ……! アヤナって、アヤナって呼んでくれなきゃイヤ……!」
若田部アヤナと小久保マサヒコ。
二人は中学時代、同じ学校に通っていた。
間に何人か挟み、色々あったがまず異性同士としては仲が良かった方であろう。
やがて中学卒業と同時にマサヒコは幼馴染と交際を始め、
アヤナはアヤナで両親の事情でアメリカへと移住、接点は無くなった。
「やばい……もう出そうだ」
「あんっ、あっ、中に、中に……欲しいよ、小久保くんっ」
涎を垂らして懇願するアヤナ。
彼女の前髪や頬には、つい十分前にマサヒコがしたたかに撃ち放った精液がまだこびりついている。
舌と乳房で奉仕をした結果だった。
「でも、今日は……くっ、ヤバイんじゃないのか」
「うん、うんっ、でも、でも欲しい、小久保君の精子、精液、子種が、欲しいっ!」
二人が再開したのはまったくの偶然だった。
アメリカから帰国後、アヤナは東大進学を強制する父に逆らって家を飛び出し、
かねてからの希望であった保育士になるべく短大へと入学。
無事資格を取得し、密かな母の援助もあってこの保育園へと就職した。
「だけど、くっ、やっぱりダメだ、デキちゃうだろ……っ」
「ううん、欲しいの、小久保君の赤ちゃん欲しいの!」
「わ、若田部っ」
「ごめんなさい、あんっ、あま……ミサキ……!」
小久保マサヒコの妻、小久保ミサキ。
旧姓天野ミサキは、アヤナの中学時代からの親友にしてライバルな関係だ。
「ごめんね、ごめんね、でも、私、わたしぃ……」
アヤナは薄暗い虚空に向かって謝り続ける。
それはマサヒコへの、ミサキへの、そしてこの保育園に通っている一人の小さな女の子へのもの。
そう、マサヒコとミサキの子への。
「好きなの、どうしようもないくらい、小久保君が好きなの……ぉ!」
満開の桜の下、マサヒコが娘を連れて入園式に現れた時、アヤナは言葉を失うくらいに驚いた。
学生結婚、娘の誕生、そしてミサキが病気で入院という顛末をマサヒコの口から直に聞いた時、彼女の心の奥に再び炎が灯った。
マサヒコへの、かつてひた隠しにしていた愛の炎が。
「……ダメだ、外に出すよ若田部」
「どうして、どうして……!」
「俺はこれ以上、ミサキを、娘を裏切れない……!」
妻が入院中で男の欲望を吐きだす機会がなかったマサヒコ。
ミサキ不在で心に自制をかけることが出来なかったアヤナ。
ともに弱い人間だったと言ってしまえばそれまでなのだろう。
二人は、保育園のお迎えの時間に密かに裏の倉庫で逢引を重ねる仲になった。
「ゴメンな、若田部……」
「ううん、私こそゴメンね、小久保君……」
マサヒコとミサキの子は、大好きな先生と大好きな父の爛れた関係を知らずに部屋で迎えを待っている。
そう、今も―――
「とか、なーんとか」
「ありえませんッッッ!」
アヤナ、完全に声が裏返っている。
パニックを通り越して頭の回路がショート寸前になっていることが良くわかる。
得てして自立心の強い自信家は予想外過ぎる出来事には脆いものなのだ。
「なんなんなんでわたわた私とこくこく小久保君がそんそんそんな関係に」
「落ち着きなさいアヤナ」
「だいたいたいありええないですす。小久保君と天野さんがもし結婚したなら私がそれを知らないわけが」
ミサキは勉強上でのアヤナの倒すべき(?)ライバルだが、同時に大切な親友でもある。
仮にアヤナがアメリカから何年も日本に帰れなかったとしても、それでもメールで連絡を取り合うくらいはするはずの仲だ。
「ふふん、アヤナ」
「なな、何です?」
「アンタ、マサとミサキが結ばれることに抵抗はないわけ?」
「へっ!?」
渡米直前、マサヒコに対する微妙な気持ちはふっ切った。
アヤナはそう信じていた。
信じ込もうとしていた。
ミサキだけはそれを心の奥で疑問視していたが、
少なくともマサヒコをはじめアイやリンコはアヤナがマサヒコへ恋心らしきものを抱いていることに気づいてはいなかった。
が、ぎっちょんちょん。
これもリョーコはあっさりと見抜いていたのだった。
ミサキとマサヒコの仲をアヤナが認めたつもりで認めていなかったのを。
「アヤナ、あんたはマサヒコを欲しいと思ったことが、本当に一度もなかったの?」
「私は、でもそんな……小久保君を、私は……」
アヤナ、落ちる。
認めることは妥協すること、それはすなわち心が弱いということ。
そんな自分を決して許すことが出来ないプライドの持ち主だからこそ、こういう誘導尋問にはからっきしである。
「私は、でも、でも、でも」
「恋は奪いとるもの。そういう見方もあるわよ」
「待ーって下さいせんぱーい!」
「んっ、何よアイ」
「それ以上はダメです! マサヒコ君とミサキちゃんの仲を裂くようなことはー!」
アイの言葉に、リョーコはにんまりと微笑んだ。
アイが自分を止めてくるとしたら、多分こんな言い方をしてくるだろうと踏んでいたからだ。
「アイ!」
「はいっ!?」
「アンタは教師、ならば王道路線で行くべきね。教師と教え子の禁断の恋路!」
「えええええええええええ」
「ついでにリン!」
「ふえ!?」
「アンタはファッションデザイナー志望だったっけ……ま、それとは関係なくアンタはスク水で野外プレイ!」
「何か風邪ひきそうですケド」
小久保マサヒコへの誕生日プレゼントを何にするか。
その緊急会議は着地点が見えないまま限りなく空へと上昇中。
リョーコが仕切るとたいていは議論の向う先が見えなくなるものだが。
「よし! じゃあ教師とロリっ子と3Pで。いや、いっそ5Pか? Pだけにプレゼントということで」
今回のこれは極めつけかもしれなかった。
暴走のバッケンレコードがひたすら伸びていく―――
「……ホント、楽しい子たちねえ」
さて。
やはりというか何と言うかマサヒコ母、ドアの向こうでバッチリ盗み聞き。
彼女にしてみてもこれが目的でマサヒコを追い出したわけだから、見事目的達成と言えた。
「しかしリョーコちゃん、最初からプレゼントの話をする気なかったんじゃないかしらね」
類は友を呼ぶとか、天才は天才を知るとか何とか。
性格構造に似たところが多々あるだけに、リョーコの暴走が計画的なものに思えてきた母なのだった。
「だけど、どうも若田部アヤナちゃんもウチの子に気があるみたいね」
まったく誰に似たのやら、と胡坐かきつつ首筋をポリポリとかくマサヒコ母。
お行儀悪いが、さすがに立って聞き耳をたてるのはしんどいうということか。
座布団があったら良かったのだろうが、それはさすがに無いものねだりであろう。
「まだまだ波乱があるかも、これは」
立場的に、マサヒコ母はミサキを応援はしている。
小さな頃からミサキがずっとマサヒコを好いていてくれたことも承知しているし、
二人が付き合い始めて無事に男女の仲になれたことも感づいている。
出来れば、息子にはこのままミサキと結ばれて欲しいとも思っている。
しかし、自身の過去の経験から、マサヒコ母は知っている。
恋愛というのはどう転ぶかわからない……ということを。
328 名前: ピンキリ ◆UsBfe3iKus [sage] 投稿日: 2008/06/29(日) 03:23:19 ID:cP3wAZLo
「ふふん、半分冗談のつもりだったけど、もしかしたら案外タイムリーな買い物だったかもしれないわね」
ニヤリと笑うと、マサヒコ母はズズズとすすった。
本来ならミサキたちにふるまうはずだった、氷が溶けてすっかりぬるくなってしまった麦茶を。
そして思った。
今頃マサヒコ怒ってるだろうか、それとも途方にくれているだろうか。
「さて、我が息子はどうするか?」
買い物のメモを持たせて駅前のデパートへとマサヒコを行かせたわけだが、
ボックスティッシュやら蚊取り線香やらの商品名が並んだそのメモの一番最後に、彼女はこう書いたのだった。
『誕生日プレゼントとしてコンドーム一年分』と。
F I N
小久保邸には五人の若い女性が集っていた。
もはやいちいち誰とか説明する必要もないだろうが、そこを敢えて言うと、
濱中アイ、天野ミサキ、若田部アヤナ、的山リンコ、中村リョーコの面々である。
マサヒコたちが中学を卒業して二年、
マサヒコとリンコは同じ高校に通うことになったが、ミサキは別の進学校、アヤナは父の都合で渡米、
アイは卒業研究と就職活動、リョーコは社会人一年目……と、
家庭教師時代とは異なりそれぞれ離れた時間が多い生活になるかと思いきや、
もともとミサキはマサヒコの隣人で、何より彼氏と彼女の関係、
アヤナは一年であっさり戻ってきて、アイの卒論と就活も早目に蹴りがつき、
リョーコはリョーコで何だかんだ言いつつこの年下連と縁を切るつもりなんざなし。
で、結局は仲良し関係を変えず変わらず続けている状態なのだった。
「では、さっそく会議を始めましょう」
「はい、中村先生しつもーん」
「早速のその意気や良し。で、何? リン」
「今日は小久保君の誕生日プレゼントを皆で決める会議なんですよね」
マサヒコの誕生日は七月一日。
今日から目と鼻の先で、プレゼントを用意するのにちんたらしている暇はない。
「そうよ」
「じゃあ、何で小久保君の家で話し合いをするんですか?」
濱中アイと中村リョーコは、未だにマサヒコたちから先生と呼ばれている。
家庭教師と教え子の関係は中学卒業と同時に解消されており、
小学校の教師であるアイはともかくとして(まだ産休職員の代替で臨職扱いだが)、
リョーコは業界大手のいつつば銀行に勤めているので、先生呼ばわりは本来はおかしいところっちゃおかしいところ。
が、三つ子の魂ではないが、それならそれで「濱中さん」「アイさん」「中村さん」「リョーコさん」と呼び方を急に変えるのも、
ちょっと微妙な話だったりするのもまた事実ではある。
呼ぶ方もしっくりこないし、何より呼ばれる方もこそばゆくて落ち着かないということもあり、
結果、旧来のまま「濱中先生」「アイ先生」「中村先生」「お姉さま」といった呼び方が続いている次第なのだ。
「答は簡単、私のマンションでは出来ないからです」
「何でですか」
「酒瓶と未洗濯の下着とアダルトグッズが散乱しているから」
昨日もセイジで遊んでね、と腕を組み頷きながら言うリョーコ。
まったくもって自慢出来ることではないが、それを悪びれもせずに堂々と理由にするところは彼女らしいかもしれない。
「じゃあアイ先生のところは」
「ごめんね、あのね、昨日ゴキブリが出てね」
曰く、バルサン中。
「アヤナちゃんの家は」
「……今、兄さんの彼女が来てるから。父と母に会いに」
曰く、結婚前の重要な面接(?)中。
「ミサキちゃん……」
「え? そ、その、私は別に……。わ、私の部屋でも良かったんだけれど」
曰く、展開に流され中。
「んー、で、私の家は皆の家から遠い、と」
的山邸はポツンと離れた距離にあり、集まるのに不適。
で、結論としては。
「ま、そういうことでマサの家が一番都合がいいのよ」
小久保邸は集合場所。
これもまた、以前から変わることないお約束である。
「さ、ちゃっちゃと話を進めるわよ。早くしないとマサが帰ってきちゃうから」
部屋の主であるマサヒコは現在外出中である。
母に命じられ、駅前のデパートまでお買い物に出かけているのだ。
このポイントは、マサヒコ本人がいないのに部屋に女性陣を勝手に上げちゃう母ってどうなのよ……ではない。
息子が女の子に囲まれている状況が楽しくて仕方ない母がちょっと策を弄しちゃいました、というところにある。
すなわち、息子の部屋で会議をさせるべく、わざわざ当の息子を追い出したということ。
息子がいたらいたでおもしろい展開にはなるだろうが、
どうしても突っ込み兼ストッパーになってしまい話が佳境に入る前に切れてしまうのだ。
それでは盗み聞きの楽しみが薄れてしまう。
「で、さっそく本題なんだけど」
「プレゼントのことですか」
「そうそう。結論に飛んじゃうと、もう一つしかないでしょ」
「? PS3ですか」
尋ねるミサキ。
前々からプレイステーション3が欲しいと何度かマサヒコが口にしており、
瞬時に「マサヒコが欲しいもの」と言えばこれくらいしか思い浮かばない。
「違うわよ、んなもん自分の小遣いで買わせなさい」
「じゃあ、何ですか?」
ミサキを筆頭に、アイ、アヤナ、リンコの頭上には見えないハテナマークが浮遊。
リョーコはそんな四人をニヤリと笑いつつ見回すと、胸を張って言い放つ。
「決まってるでしょ。カラダよカラダ」
「カラダ……? 清涼飲料水ですか」
「はいボケないボケない。つまり肉体よ肉体!」
「……」
「はいあきれないあきれない。若く瑞々しい乙女の肢体をこう、首にリボンでも巻いてプレゼントに」
「……あのう」
「マサの目の前に四人一列に並んで、誰から味見する? なんて」
「すいませんけど」
「恋人にプラスして自由にしていい処女が三人なんて男にとっちゃ超ド級のプレゼント……」
「いい加減にして下さい!」
リョーコの暴走、それに怒るミサキ、急ぎ足の展開についていけないアイ、
わかってるのかわかってないのかほよよんとした表情のリンコ、
突っ込みたいのに相手がリョーコだからそれがなかなか出来ずに赤面して黙り込むアヤナ。
ストッパー役のマサヒコがいないとこうなります、という典型的な流れになっている。
「そ、そんなこと出来るわけないですし、しません!」
「あらどうして?」
「どうしてもこうしてもです! 常識的に考えて!」
語気荒いミサキだが、リョーコにはその心底が透けて見えている。
常識に照らし合わせて、という立場で反論してくるミサキだが、結局は恋人であるマサヒコに他の女性が近づくのが許せないのだ。
嫉妬と言ってしまえばそれまでなのだが、
アイ、アヤナ、リンコのマサヒコに対する感情が「異性の友人」と一言でまとめるには、
あまりに曖昧なままであるのがミサキの中では無視出来ない問題となってしまっている。
アイはショタコン疑惑、リンコは天然で性意識の壁が低いという危険性がそれぞれあり、何より女の直感的にアヤナがどうにも怪しいわけで。
ただでさえ日中別々の高校に通っていて側で目を光らせられないのに、
その上本来なら安全牌であるはずの親友がマサヒコに本気になったら……と、
友情とはまた違った次元で、ミサキにしてみれば気が気でないところ。
それで、そんなミサキの「恋する乙女の心の動き」は、
色事について百戦錬磨なリョーコにゃわかりやす過ぎる程にバレバレなのだった。
「ミサキはああ言ってるけど、あんた達はどうなの?」
ここでリョーコ、反対意見に真っ向から立ち向かわず、
一旦別人に話を振って場の雰囲気を泥沼な方向へと持って行くという戦法に出た。
これで振った面子も一斉に歩調を合わせて敵対してきたら作戦失敗なのだが、もちろん中村リョーコはそんな見通しの甘い迂闊な人間ではない。
アイたちの性格と思考を見越しているからこそ打てる、狡猾にして勝率の高いカケヒキなのだ。
「わ、わっわた、私もそんなこと出来ません」
アイは反対するものの半ばパニクる。
「な、何で小久保君何かにそ、そ、そんなことを、してあげなけりゃならないんですか!」
アヤナも同様で、こちらはパニクるというより慌てると言った方が適切か。
「えー、じゃあ小久保君のセックスフレンドになれってことですかあ? うーん……」
リンコは論点が完全にズレた答を返す。
「リ、リ、リンちゃん! 何考え込んでるの?」
リンコに反射的にミサキが突っ込む。
もうこうなると完全にペースはリョーコのもの。
ミサキもアイもアヤナもリンコも、ミキサーでかき混ぜられる果物の如しだ。
どういったジュースが出来上がるかは、それはミキサーたるリョーコの思惑次第。
「ミサキ……あんた将来、看護師になりたいって言ってたわね」
「へ?」
リョーコ、二の矢を放つ。
突如まったく違う方向に話題を振って相手をさらに惑わせる、これぞ彼女の常套手段。
もちろんまったくの無暗撃ちではない、ちゃんと意図あってのものである。
「そ、それがどうかしたっていうんですか」
「ううん、あのね……オトコって奴はね、コスチュームプレイに誰しも弱いのよ」
「は?」
「ナースなんてその中でも上位に来るのよねぇ、例外なく。マサヒコも多分そうじゃないかなー、なんて」
「え、え、え?」
「そうねえ、設定は……マサが医者でアンタが新人看護師で―――」
「天野君……君はいけない子だな。聖なる医療の場でこんなに淫らに濡れるなんて」
「あ……あ、そ、それは、それは小久保先生が……」
天野ミサキは今年の春にこの小久保病院に就職した新人看護師。
中学時代に見た医療番組の影響でこの道を目指し、見事夢を叶えることが出来た。
彼女の前途は明るかった。
いや、明るいはずだった。
「さあ、いつものようにおねだりして、ゆっくりと腰を下ろしてみて」
「は、い……。小久保先生の、マサヒコ先生の太いお注射を、私に突き刺して下さい……!」
小久保病院の跡取り息子、マサヒコ。
端正な顔立ちで若い看護師連から人気があり、ミサキも勤めて初日から仄かな想いを彼に寄せていた。
「あ、あっ……す、ごいで、す……!」
「いやらしいな天野君……ミサキは。もう根本まで飲み込んだ」
「はぁ、はぁ……」
ミサキがマサヒコから声をかけられたのは、出会って一か月が経った頃。
ミサキが一人、夜の資料室でカルテを直していた時だった。
「大変だね、手伝おうか」と優しい口調で言われ、ミサキは一気にのぼせあがってしまった。
「ここは今はたまたま使ってないとはいえれっきとした病室なのに、ミサキは恥ずかしくないのかい」
「言わないで、言わないで下さい……! あ、んんっ、き、気持ちいいよぉ……!」
その後も事あるごとに会話を重ねるようになり、
もともと異性に関しては純過ぎる程に純なミサキは完全にマサヒコの虜となった。
そして。
「くっ……ミサキ、どこに出してほしい?」
「あ、あっ……! ダメ、服は、看護服はダメ……まだ、仕事が……外は、ダメです……! ああっ!」
「それじゃ、中がいい?」
「はぁ、あああん……! ダメ、それもダメぇ、にん、しんしちゃう……!」
カーテンから差し込む月明かりに照らされて、
天野ミサキはベッドの上、マサヒコの上で腰を振っている。
ナース服のままで。
「大丈夫……くぅっ、ここは病院だ、堕ろすことなんて簡単に出来る」
「ダメ、そんなのダメ、ダメぇ! ああっ、私は、私はぁ……ダメっ、いく、イッちゃうよぉ!」
マサヒコが舐めろと言ったらミサキは舐める。
飲めと言ったら飲む。
中出しを求められたら応じる。
今のミサキは、完全にマサヒコの奴隷だった。
「よし……出す、ぞ……っ!」
「あ、あ、あああーっ!」
ミサキはマサヒコを愛している。
そう、心の底から。
マサヒコが他のナースにも手を出している事実を知らずに。
この患者がおらずいつも空き室になっている病室で、毎晩違うナースを抱いている事実を知らずに。
「―――とか、何とか」
「なっななななな、何を言ってるんですかっ!」
リンゴやイチゴもかくや、と思われる程に顔を赤くし、ミサキは怒鳴る。
しかし彼女は気づいていない、既にリョーコの術中にはまってしまっていることを。
リョーコのエロ話を区切りの良いところまで聞いてしまっているのがその証拠でもある。
所詮、こっち方面ではミサキはリョーコに勝ち目などない。
「だ、だいたいそれじゃコスプレとかいうレベルじゃないと思います!」
「んー?」
「な、なりきりじゃなくて何かもう完全にそのものじゃないですか!」
ミサキのツッコミはある意味正しい。
正しいが、悲しい程に無力である。
「ねぇミサキ」
「もう、知りません!」
「怒ってるけど、アンタは一度も考えたことがないの?」
「え?」
「ナースプレイはともかくとして、マサの子供が欲しいと思ったことは、さ」
「なっ!?」
リョーコ、倶梨伽羅峠の火牛の如く一気呵成の責め、いやもとい攻め。
動揺を誘ったところに急所を突いてトドメを刺す、まさに悪女の面目躍如と言えようか。
「マサちゃんの子、ども……?」
「いい、アンタはこの面子の中では勝ち組なのよ? 彼氏がいて」
「……で、でも、まだ私もマサちゃんも高校生で」
まだ高校生、とか口走っている時点で完璧に陥落しているわけだが、最早ミサキはリョーコマジックの檻の中。
過去に何度もひっかかり、いい加減耐性も出来そうなものだが、やはりミサキの本質は夢見がちな乙女であるということか。
「もう処女じゃないんでしょ? ほら、前回マサに抱かれたのはいつ? その時のことを思い出してみなさい」
「……」
「恋人へのプレゼントが妊娠の報告なんて素敵と思わない?」
さらばミサキ、妄想の園へ。
頬を染め、ブツブツと愛しい彼氏の名前を呟く今の彼女に聖光女学院で五指に入る秀才の面影はない。
「お、お姉さま! こ、こ、高校生でに、に、妊娠なんて不潔です! 風紀が乱れてます!」
「そうですよ先輩! 家族計画です! 子づくりは計画的に!」
アヤナとアイの遅すぎる自己主張。
もちろんこんなもん、焼け石に水、暖簾に腕押し。
リョーコにしてみりゃこのタイミングで二人がつっかかってくるのもお見通しである。
「アヤナ」
「は、はいっ!?」
「アンタは保育士になりたいんだっけ?」
「え、な、なりたいと言うか、子供が好きなので……」
「じゃあシチュエーションは決まりね。アンタの保育園でマサの子供を預かっていて」
「ちょ、ちょっとお姉さま!?」
「迎えに来たマサを倉庫に連れ込んでかねてからの想いを遂げる、と」
若田部アヤナは薄暗い倉庫の中、四つん這いの格好で無心に腰を振っていた。
彼女の背後には、一人の男性が覆いかぶさっており、これもまた同じように腰を動かしている。
所謂、後背位のセックスだ。
「ああっ、小久保君、小久保くぅん!」
「わかた、べ……!」
「いや、いやいやっ……! アヤナって、アヤナって呼んでくれなきゃイヤ……!」
若田部アヤナと小久保マサヒコ。
二人は中学時代、同じ学校に通っていた。
間に何人か挟み、色々あったがまず異性同士としては仲が良かった方であろう。
やがて中学卒業と同時にマサヒコは幼馴染と交際を始め、
アヤナはアヤナで両親の事情でアメリカへと移住、接点は無くなった。
「やばい……もう出そうだ」
「あんっ、あっ、中に、中に……欲しいよ、小久保くんっ」
涎を垂らして懇願するアヤナ。
彼女の前髪や頬には、つい十分前にマサヒコがしたたかに撃ち放った精液がまだこびりついている。
舌と乳房で奉仕をした結果だった。
「でも、今日は……くっ、ヤバイんじゃないのか」
「うん、うんっ、でも、でも欲しい、小久保君の精子、精液、子種が、欲しいっ!」
二人が再開したのはまったくの偶然だった。
アメリカから帰国後、アヤナは東大進学を強制する父に逆らって家を飛び出し、
かねてからの希望であった保育士になるべく短大へと入学。
無事資格を取得し、密かな母の援助もあってこの保育園へと就職した。
「だけど、くっ、やっぱりダメだ、デキちゃうだろ……っ」
「ううん、欲しいの、小久保君の赤ちゃん欲しいの!」
「わ、若田部っ」
「ごめんなさい、あんっ、あま……ミサキ……!」
小久保マサヒコの妻、小久保ミサキ。
旧姓天野ミサキは、アヤナの中学時代からの親友にしてライバルな関係だ。
「ごめんね、ごめんね、でも、私、わたしぃ……」
アヤナは薄暗い虚空に向かって謝り続ける。
それはマサヒコへの、ミサキへの、そしてこの保育園に通っている一人の小さな女の子へのもの。
そう、マサヒコとミサキの子への。
「好きなの、どうしようもないくらい、小久保君が好きなの……ぉ!」
満開の桜の下、マサヒコが娘を連れて入園式に現れた時、アヤナは言葉を失うくらいに驚いた。
学生結婚、娘の誕生、そしてミサキが病気で入院という顛末をマサヒコの口から直に聞いた時、彼女の心の奥に再び炎が灯った。
マサヒコへの、かつてひた隠しにしていた愛の炎が。
「……ダメだ、外に出すよ若田部」
「どうして、どうして……!」
「俺はこれ以上、ミサキを、娘を裏切れない……!」
妻が入院中で男の欲望を吐きだす機会がなかったマサヒコ。
ミサキ不在で心に自制をかけることが出来なかったアヤナ。
ともに弱い人間だったと言ってしまえばそれまでなのだろう。
二人は、保育園のお迎えの時間に密かに裏の倉庫で逢引を重ねる仲になった。
「ゴメンな、若田部……」
「ううん、私こそゴメンね、小久保君……」
マサヒコとミサキの子は、大好きな先生と大好きな父の爛れた関係を知らずに部屋で迎えを待っている。
そう、今も―――
「とか、なーんとか」
「ありえませんッッッ!」
アヤナ、完全に声が裏返っている。
パニックを通り越して頭の回路がショート寸前になっていることが良くわかる。
得てして自立心の強い自信家は予想外過ぎる出来事には脆いものなのだ。
「なんなんなんでわたわた私とこくこく小久保君がそんそんそんな関係に」
「落ち着きなさいアヤナ」
「だいたいたいありええないですす。小久保君と天野さんがもし結婚したなら私がそれを知らないわけが」
ミサキは勉強上でのアヤナの倒すべき(?)ライバルだが、同時に大切な親友でもある。
仮にアヤナがアメリカから何年も日本に帰れなかったとしても、それでもメールで連絡を取り合うくらいはするはずの仲だ。
「ふふん、アヤナ」
「なな、何です?」
「アンタ、マサとミサキが結ばれることに抵抗はないわけ?」
「へっ!?」
渡米直前、マサヒコに対する微妙な気持ちはふっ切った。
アヤナはそう信じていた。
信じ込もうとしていた。
ミサキだけはそれを心の奥で疑問視していたが、
少なくともマサヒコをはじめアイやリンコはアヤナがマサヒコへ恋心らしきものを抱いていることに気づいてはいなかった。
が、ぎっちょんちょん。
これもリョーコはあっさりと見抜いていたのだった。
ミサキとマサヒコの仲をアヤナが認めたつもりで認めていなかったのを。
「アヤナ、あんたはマサヒコを欲しいと思ったことが、本当に一度もなかったの?」
「私は、でもそんな……小久保君を、私は……」
アヤナ、落ちる。
認めることは妥協すること、それはすなわち心が弱いということ。
そんな自分を決して許すことが出来ないプライドの持ち主だからこそ、こういう誘導尋問にはからっきしである。
「私は、でも、でも、でも」
「恋は奪いとるもの。そういう見方もあるわよ」
「待ーって下さいせんぱーい!」
「んっ、何よアイ」
「それ以上はダメです! マサヒコ君とミサキちゃんの仲を裂くようなことはー!」
アイの言葉に、リョーコはにんまりと微笑んだ。
アイが自分を止めてくるとしたら、多分こんな言い方をしてくるだろうと踏んでいたからだ。
「アイ!」
「はいっ!?」
「アンタは教師、ならば王道路線で行くべきね。教師と教え子の禁断の恋路!」
「えええええええええええ」
「ついでにリン!」
「ふえ!?」
「アンタはファッションデザイナー志望だったっけ……ま、それとは関係なくアンタはスク水で野外プレイ!」
「何か風邪ひきそうですケド」
小久保マサヒコへの誕生日プレゼントを何にするか。
その緊急会議は着地点が見えないまま限りなく空へと上昇中。
リョーコが仕切るとたいていは議論の向う先が見えなくなるものだが。
「よし! じゃあ教師とロリっ子と3Pで。いや、いっそ5Pか? Pだけにプレゼントということで」
今回のこれは極めつけかもしれなかった。
暴走のバッケンレコードがひたすら伸びていく―――
「……ホント、楽しい子たちねえ」
さて。
やはりというか何と言うかマサヒコ母、ドアの向こうでバッチリ盗み聞き。
彼女にしてみてもこれが目的でマサヒコを追い出したわけだから、見事目的達成と言えた。
「しかしリョーコちゃん、最初からプレゼントの話をする気なかったんじゃないかしらね」
類は友を呼ぶとか、天才は天才を知るとか何とか。
性格構造に似たところが多々あるだけに、リョーコの暴走が計画的なものに思えてきた母なのだった。
「だけど、どうも若田部アヤナちゃんもウチの子に気があるみたいね」
まったく誰に似たのやら、と胡坐かきつつ首筋をポリポリとかくマサヒコ母。
お行儀悪いが、さすがに立って聞き耳をたてるのはしんどいうということか。
座布団があったら良かったのだろうが、それはさすがに無いものねだりであろう。
「まだまだ波乱があるかも、これは」
立場的に、マサヒコ母はミサキを応援はしている。
小さな頃からミサキがずっとマサヒコを好いていてくれたことも承知しているし、
二人が付き合い始めて無事に男女の仲になれたことも感づいている。
出来れば、息子にはこのままミサキと結ばれて欲しいとも思っている。
しかし、自身の過去の経験から、マサヒコ母は知っている。
恋愛というのはどう転ぶかわからない……ということを。
328 名前: ピンキリ ◆UsBfe3iKus [sage] 投稿日: 2008/06/29(日) 03:23:19 ID:cP3wAZLo
「ふふん、半分冗談のつもりだったけど、もしかしたら案外タイムリーな買い物だったかもしれないわね」
ニヤリと笑うと、マサヒコ母はズズズとすすった。
本来ならミサキたちにふるまうはずだった、氷が溶けてすっかりぬるくなってしまった麦茶を。
そして思った。
今頃マサヒコ怒ってるだろうか、それとも途方にくれているだろうか。
「さて、我が息子はどうするか?」
買い物のメモを持たせて駅前のデパートへとマサヒコを行かせたわけだが、
ボックスティッシュやら蚊取り線香やらの商品名が並んだそのメモの一番最後に、彼女はこう書いたのだった。
『誕生日プレゼントとしてコンドーム一年分』と。
F I N
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