雪のちらつく中、2011年の12月25日が終わろうとしている。
「今年は……楽しくなかったな……」
自室で一人、ベッドに横たわってアリアはつぶやく。
つい今しがた帰ってきてそのままの、赤いドレス姿のままで。
今年は三連休で、学生の身分なら喜ばしいはずであった。
七條家と言う、特殊な環境にあっては仇となった。
『連休なのだから、お前も来なさい』
父のその一言でアリアはパーティーに連れ出された。
泊りがけで、三日間。
楽しいはずの三連休は、愛想笑いを振りまくだけの三日間になってしまった。
去年の今ごろは、心の底から笑っていたはずだ。
心許せる仲間と共に。
笑顔で過ごしていたのに。
「一人、か……」
アリアは思う。
彼らは、彼女たちは、楽しんでいただろうか?笑っていたのだろうか?
楽しんでいて欲しい。笑っていて欲しい。
参加できなかったのは自分の都合なのだから。
けれど――

ボスンっと枕に顔を埋める。
「だめだな、わたし……酷いこと考えてる」
けれど。
心の何処かで。
弱い自分が。
汚らしい自分が。
零(こぼ)す。


 ずるいよ……と。


考えまいとすればするほど。
イケナイ感情が溢れ出す。
ぎゅっと目をつぶり、考えないようにしても。
溢れ出す。
醜い、嫉妬。
「……っ!」
ともすれば表に出そうになるその感情を出さないよう、幼子のように丸くなる。
「……」
ポツリとつぶやいた言葉に、答えるものはない。





――コツンッ――

耳に届いたのは、窓を叩く音。
閉ざそうとした心をノックするかのように、コツン、コツンと、何度も窓を叩く。
丸めた身体をほどく。
ベッドから降り、窓際へ。
外の様子を覗い、目を見開く。
「っ!?」
声すら出せず、窓を開く。
出そうとする声は言葉にならず、まるで金魚のようにパクパクと口を開閉するばかりで。
幻かと目をこすってみても、間違いなく彼はそこに居て。
「……」
なにも言えず、ただそこに佇むだけのアリアに、彼が身振りで伝える。

――窓から、離れて――

僅かに木が軋み、枝から落ちる雪。
そして――枝から窓へと飛び移ってきた、彼。
夢中で、抱きついた。
「……」
なにも言えない。
彼も、なにも言わない。
けれど、アリアに伝わってきたことがある。
「……からだ、冷え切ってるよ。ずっと、待っててくれたの?」
彼は笑顔で答え、出島さんの協力のおかげ、とネタばらしをしてくれる。
「そっか……ずっと、待っててくれたんだ」
身体にまわした腕に、ぎゅっと力をこめる。
彼の冷えたからだが、とても、温かい。
閉ざそうとした心は今は全開で。
だから……
「……大好きです…誰よりも……あなたが」
そう言って、口付けた。




夜は、まだ、長い。



END

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