「お――い 委員長、花持ってきたぞ」
「ああ ありがとう 綺麗、百合の花ね」
「へー そうなんだ」
「緑化委員でしょ それくらい覚えときなさい」
 こんなどこかでしたような会話をしてマサヒコは教卓の上に花を置くと、近くにあったイスを引いて腰を下ろす。
 ポンポンッと黒板消しを窓際で叩いていたアヤナが振り向いた。
「あら? もしかして小久保くん、今日ヒマ?」
「……うん、よくわかんないけど、急にヒマになった」」 
 本当なら今日は家庭教師の日のはずなのだが、大人の都ご……もとい事情により急遽オフになっている。
 どんな事情かを問いただそうかとも思ったのだが、ガンを飛ばされたのでマサヒコは怖くて聞けなかった。
「なら、今日ちょっと付き合ってもらえる」
「ああ、べつにいいけど」
 普通はこの年頃の男子が女の子からこう言われれば、『それってデートじゃ?』と勘違いしてもよさそうなものだが、男女の機微に
疎いマサヒコは、照れるそぶりすら見せずにあっさり了承した。
 もっとも、誘ったアヤナの方は十分意識しているのか、
「一応言っておくけど、夜店で貰った金魚のエサとかその他諸々買った荷物持ちよ、誤解しな……ゴホゴホッ」
 黒板消しを盛大に叩きながら、取って付けた様な説明口調で捲くし立てる。
 後ろにいるマサヒコからは、アヤナがチョークの白い煙幕に包まれて見えなくなった。
「それはいいけどさ、もっと軽く叩けば?」
 そんなことはアヤナだってわざわざ言われなくてもわかってる。
 でもそうしないと、いくら鈍いマサヒコにもバレてしまうような気がするのだ。頬がうっすらと赤く染まってるのに……。

“ガタンッゴトンッ ガタンッゴトンッ……”
「わざとじゃ……ないよ……」
「……ええ……わかってるわ」
 お互い小声で話しているのだが、はっきりと聞こえる。
 二人の身長はさほど変わらないので、マサヒコが口を開くたびに、アヤナの耳元には息が掛かってくすぐったそうだ。
 なんでこんな意味深な雰囲気で、二人が会話をしているかといえば……。

 乗ったときはまだガラガラだった電車内も、一駅、二駅と通過する内に人でごった返してくる。
 マサヒコも頼りないとはいえ男の子、アヤナを周りの乗客から守ろうと強引に壁際に移動させたのだが、それがどういうわけだか
後ろから抱きつくような形になってしまい、二人はぴとりっと身体をくっつけ合っていた。
 朴念仁のマサヒコも流石にこの体勢はマズいと思ったのか、なんとかしようと壁に手をついて身体を離そうと試みてはいるのだが、
“グググッ……グゥッ……ググッ………カクンッ………”
 フィジカルの弱さを露呈するように、圧力に負けて虚しい腕立てをくり返す。
 それでも珍しく根性を見せて何度もトライして、その数だけマサヒコは現実の壁を味あわされていた。
 まぁもっとも、マサヒコが味わっているのは無力感だけではない。
 身長が変わらないということは、腰の位置もほとんど同じな訳で、結果的にマサヒコは何度も何度もアヤナのお尻の谷間に股間を
擦り付けていた。
 そして身体は生涯で男女問わず一番敏感な時期だろう。本人の意志とは関わりなく、恐ろしい速さで血液をある一点に集めてしまった。
 (げッ!? ヤバい……収まれ収まれ……ほんと収まれ……)
 いくらマサヒコが必死に念じても、この部位だけは従ってはくれない。
 意識すればするほど股間の体積は増していき、マサヒコの願いも虚しく完全に勃起してしまった。
 (……どうしたら……いいんだ?)
 このまま腕立てを続けるべきか、それとも動かずに股間が大人しくなるのを待つべきか? マサヒコが思案してると、
“ぴくんッ……”
 アヤナのお尻が微かに揺れる。
 当たり前だが、アヤナもこの事態には気づいていた。と、ようやくここで冒頭の会話になる訳である。

「あの、すぐ、その、大人しくさせるから」
「……うん」
 アヤナが小さくコクンッと頷く。年齢よりも大人びた顔は耳まで真っ赤で、普段よりも大分幼い印象を与えていた。
 そんなアヤナをガラス越しに眺めながら、マサヒコは待ちの構えに入る。
 これ以上アクションを起こしても無駄なのは、腕立て伏せでイヤというほど思い知らされた。
 (まぁ果報は寝て待て、なんて濱中先生も言ってたしな)
 腕の中にすっぽりとアヤナを抱きかかえながら、心の中ではアイを思い浮かべる。‥‥考えてみればマサヒコはずいぶんと失礼だ。
 アヤナの柳眉が僅かに跳ねる。こういったときの女の子の勘は、男であるマサヒコが思ってるよりもずっと鋭い。
 心の中ではムクムクと対抗心……を装ったなにかが鎌首をもたげていた。
 (どういう了見かしらねぇ、小久保くん……私を無視しようなんて……どんな女か知らないけど、こっちを……私を見なさい!!)
 人はそれを嫉妬というのだが、とにかくカァッとなったアヤナは大胆な行動にでる。
 マサヒコの股間の勃起を中心に、円を描くようにゆっくりと少しずつ、アヤナはお尻を蠢かせた。
「え!?」
 ガラスに映るマサヒコが驚いた顔でアヤナを見る。その視線から逃げるようにアヤナは顔をうつむかせた。
 これ以上は赤くならないと思っていた顔には、さらに羞恥の色が上塗りされる。
 勢いとはいえ中学生の女の子がこんな“ハレンチ”なことをするのは、それこそ顔から火が出るくらいに恥ずかしいはずだ。
 それが心憎からず想っている相手ならばなおさらである。
「ちょ、い、委員長!?なに……」
「いいよ……」
 小さな、それでもすでに覚悟を終了させている声が、マサヒコの言葉を遮った。
「はい?」
「……お、大きくしても……い、いいから……」
 アヤナは声を上ずらせながら、マサヒコの勃起をお尻でこねまわす。それでマサヒコには、ようやくアヤナの言葉の意味が呑みこめた。
 (大きくしていい……って、そ、それはつまり、まぁその……いやでも……でもなぁ……)
「……小久保くん」
 煮え切らない思考の堂々巡りをくり返すマサヒコは、切なそうな声に呼ばれてハッと顔を上げる。ガラスのアヤナと目が合った。
「お願いだから……おっきくして……」

“プツンッ……”
 そんな音が聞こえるわけはない。でも、確かにマサヒコは自分の中で、なにかが切れる音を聴いた。
「あ……」
 アヤナの腰をつかむと、マサヒコは強引に勃起へと引き寄せる。
 自分で誘っておきながらなんだが、アヤナは初めて見るマサヒコのワイルドな一面に、怯えたように身体を震わせた。
 そして、そんなオドオドしたアヤナを見たのはマサヒコも初めてで、牡を意識したばかりの少年の蒼い劣情を激しく煽る。
 荒い息遣いでアヤナのうなじに顔を埋めた。
「んふぅッ……」
“すぅ――ッ”
 息を一杯に吸い込むと、ふわりと髪から漂う仄かなシャンプーの匂いが、微かにする少女の体臭と混ざって少年の鼻孔をくすぐる。
 熱い吐息を後れ毛に感じて、アヤナは可愛らしく首を捻ると、指を噛みながら鼻に掛かったうめきを漏らした。
 マサヒコは肩口から窓ガラスに映るアヤナを覗き込む。
 なにかを堪えるかのような同級生の少女に、ゾクリとしたものを感じたとき、
“ぐにゅんッ……”
「んぁッ!」
 制服の胸元を待ち上げる中学生にしては発育の良すぎる双球を、マサヒコは両の手でわしづかみにしていた。
 反射的にアヤナはその手をつかむが、抵抗は形だけのもので振り払おうとはしない。
 乳房は童貞少年に、好き放題に弄り回されていた。
 未成熟の乳房は強く掴まれるとまだ痛みが走るのだが、マサヒコの好奇心を満たすかのような触り方にアヤナは喜びも覚えている。
 (小久保くん……女の子に全然慣れてない……私が初めてだったら……嬉しい…………かな……)
 そうやって乙女チックなことを考えながらも、アヤナのお尻はくねくねと右に左に揺れて、まるでマサヒコの益々昂ぶる勃起を
焦らしているかのようだ。
 中村がこの場にいたなら『将来有望』と褒めてくれるかもしれない。
 うなじに掛かるマサヒコの荒く熱い息遣いと、アヤナのお尻を執拗に追い回す勃起の硬さもそれを証明していた。
 ただ、いくらアヤナの身体が魅力的でも、電車内ではマサヒコはこれ以上の刺激は得られそうもない。

(気持ちいいんだけど……これじゃ…これだけじゃダメだ)
 これでは生殺しである。そんなマサヒコを神が哀れに……は思ってないだろうが目の前のドアが開いた。
「わぁ!?」
「きゃ!?」ッ
 二人は前のめりに倒れそうになりながら、もつれ合って外に出る。
その様子は周りの人達からは、微笑ましい中学生のカップルに見えただろう。
「委員長、ここで降りよ」
「あ!? ちょ、小久保くん!?」
 この駅の近辺にはペットショップはないかもしれない。それでも……マサヒコはアヤナの手を握って引っ張るように歩き出す。
「早く……早く二人っきりになりたい」
「あ……」
 これがいまのマサヒコの、偽らざる気持ちだった。

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