鏡を見ながら、不慣れな手つきで淡いピンク色の口紅を塗っていく。
化粧は薄めのもの。しかし、それはナチュラルな魅力を十二分に引き出す。
次にムースを手に取り、髪型を決めていく。
昨日、学校帰りに美容院に行き、教えてもらったように、全体を調整する。
今度はクローゼットから洋服を取り出す。
最初に手に取ったのは水色のワンピース。体にあて、鏡の前に立つが、首をひねる。
どうもしっくり来ない。次の洋服を手に取る。

結局、服はお気に入りのTシャツに、Gパン、上着を羽織ったカジュアルなものに落ち着いた。
金城らしいといえば、らしい、男と間違われても無理ない格好だ。
ハンカチ、財布をポケットに入れ、腕時計をし、帽子をかぶり玄関を出る。

この日はシンジとデートの予定だ。
告白してから、シンジが金城を学校まで迎えにいったり、電話で毎日話していたが、
休日にも部活があるため、なかなか一緒に出かける事ができなかった。
しかし今日は試合の翌日ということで、部活はお疲れ休み。
初めて恋人らしいことができると、金城は意気込んでいた。

一方シンジは、いつもの休日のように朝遅く起きてきた。
カナミの用意した朝食を食べ、ちょっと忙しく出かける準備をする。
身支度をし、玄関で靴を履いていると、
「お兄ちゃん」
「ん〜?」
「今日カオルちゃんとデートでしょ。」
「ぶっ!」
思わずこけてしまった。カナミには金城と出かけるとは話してないはず。
「何で知ってんだよ!」
「だってカオルちゃん、この間やっとデートができる、ってうれしそうに話してたから。」
もともと金城はカナミの友達。すぐばれるわけだ。
「ということで、はい」
カナミから何か手渡された。見るとそれはいわゆるコンドームというものだ。
「ちゃんと避妊しなきゃだめだよ。それにお兄ちゃんが好きなアナル使うにしても大腸には・・・」
カナミがまだ話していたが、シンジは渡されたものをカナミに投げ返し、玄関を出た。

待ち合わせ場所である、駅前ターミナル変なオブジェ前。
見れば見るほど何を表現したかったわからなくなるような変な像。やたら目立つので待ち合わせ場所と使われる事が多い。
先に着いたのは金城だった。
そんな像の前で待ってること数分、やっとシンジが現れた。
「ごめん、待った?」
「い、いや、そんなことないよ。」
「?」
金城はなんかがっかりしたような表情を見せた。

彼女的には、男性が待っていて、女性が遅れてきて、
「ごめ〜ん、待った?」
「いや、俺も今来たとこ。」
「うそ、暑いところに立ってたから汗かいてるじゃない。はい。」
といってハンカチを渡す。こんなことがやりたかったらしい。

「それじゃ、行こうか」
そういい切符を買い、電車に乗り込む。
予定では午前、映画を見て、どこかで昼食をとり、午後は街をぶらついてウィンドウショッピングである。

映画館に着くと見たい映画のチケットを買う。
なぜ映画を見に来たかというと、チケットがあったから見に行こうというわけでない。
なんとなくカップルは映画を見に行くという金城の発想でそう決まった。

見る映画も金城が決めた。今話題の恋愛ものだ。金城は小説でよく読むほど、こういう話が好きである。
シンジとしては、話題としてより大きい「惑星戦争-第3話-」が見たかった。
このシリーズは6話で構成されている超大作である。今回は暗黒側に落ちたダーク・スモールの謎が解けるとあって、
とても期待していたが、シンジのやさしさか、金城の選択に文句をつけなかった。


館内に入り、かばんで席をキープする。始まる前に2人は飲み物を買いに行った。
売店に行き、一本300円するコーラを買い、金城はついでにパンフレットを買った。
パンフレットをぱらぱらとめくりながら、戻ろうとした。
「おい、ちゃんと前むいとかないとあぶないぞ。」
「うん、分かった」
と、言いつつもストーリー解説を読みふけってしまう。
シンジが扉を開け、金城が入ろうとしたとき、
「わっ!」
扉のところの微妙に段差になってるところにつまずいた。
「おっと」
すかさずシンジが抱きとめる。
「だから危ないっていったろ?」
「う、うん。ごめん。」
胸がドキドキする。つまずいたことにではなく、好きな人に抱きかかえられたことに。
パンフレットはくしゃくしゃになってしまったが、金城はパンフレット以上の物を手にした気がした。

周りが暗くなり、幕が上がり、映画が始まった。
話は愛し合ってた男女が、政治的の都合により国境を越えて離れ離れになってしまう。
しかもお互いどこの国へ行ったかが分からず、愛する人に会うためどっちも世界中を旅し、
何度もすれ違いながら、結局初めの国で再会するというもの。
ありきたりなストーリーだが、興味が無かったシンジですら、再会のシーンでは涙ぐんでしまうものだった。
「・・・・う、うっ・・」
ひときは大きな泣き声をあげているのは金城だった。

映画が終わり、周りが明るくなる。金城は涙をハンカチでぬぐった。
「いやー、本気で泣いちゃったよ。あの2人再会できてよかったな。」
「ああ、そうだな。今までこういうの見なかったけど結構おもしろいな。」
「じゃあ、この手の小説貸してあげよっか?」
そんなことを話しながら2人は映画館を出た。時間は11時をちょっと回ったところで、
ちょっと早いけど昼食にしようということになった。

映画館を出ると、かんかん照りの日差しが2人に降りかかる。
「うわっ、あっついな〜」
「ホント暑いなぁ、もう汗が出てきそうだよ。」
炎天下の中、2人は予定していたおいしいと評判のパスタ屋を目指した。
店に着くと、20人ほどが陽炎漂う日差しの中に行列を作っていた。
「・・・どうする?」
「今日はやめよっか・・・」
2人は再び歩き出し、近くにあったファミリーレストランに入った。

出てきたお絞りで手を拭き、水を一気に飲み干す。炎天下を歩いてきて火照った体に氷水はなんともおいしく感じる。
「「すいません、お水おかわりおねがいします。」」
さっきお絞りなどを置いたウェイトレスは「え、もう!」みたいな顔でこっちを見た。
そして水差しを持ってきてグラスへ注いだ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
ウェイトレスはシンジたちに尋ねた。しかしさっき店に入ったばっかだ。メニューすら開いてない。
「す、すいません、まだです。」
水を一気に飲み干し、そのうえおかわりまでしていて、注文が決まってない。
いや、さっき入ったばっかだとこのウェイトレスは知っているはずだ。わざとだろ。とシンジは思いつつも、
少々恥ずかしさを感じていた。金城もまた同様だった。
「それではご注文がお決まりでしたらそちらのボタンを押してください」
ウェイトレスが指すほうを見ると、「トリビアの湖」のへぇ〜ボタンみたいのがあった。
子供はぜったい「へぇ〜」といいながら押すであろうとシンジは思った。

メニューを開き注文を決める。
「カオルなんにする?」
「まだ決まってないなぁ、シンジは?」
「そうだなぁ、なんかパスタな気分。」
シンジはさっき行列であきらめたパスタに根を持っていた。
「じゃあ、あたしはペペロンチーノにしよ。」
「俺は・・・・」


メニューを見ていると黒いパスタが目に入った。
「・・・・イカ墨」
「えっ!」
金城が驚いた顔をした。
「イカ墨って、うまいの?」
「さぁ、食べたことないし、まずくても400円だし・・」
「じゃあ注文するよ。 へぇ〜、なんちゃって。」
子供がやるであろうと思ってたことを、目の前の高校生、
しかも自分の彼女がやってしまったことに、シンジはちょっとした悲しみとともにそういう無邪気な可愛さを感じた。
さっきのウェイトレスが来て、金城はペペロンチーノを、シンジはイカ墨スパを注文した。

料理が来るまでの数分間、2人はさっき見た映画の話をしだした。
「わたしもあんな恋愛したいなぁ、でも好きな人と離れ離れになるのは嫌だな。」
「・・・もしなっても俺が迎えに行くよ。」
「えっ・・・」
かっこよく決めたかったシンジだったがあらためて思うとものすっごく恥ずかしいことを言ったことに気付いた。
『やべ、すっげぇはずかし』
金城もシンジも顔を赤くし黙ってしまった。

「お待たせしました。ペペロンチーノとイカ墨スパです。」
客が多くなってきて忙しくなってきたのだろうか、ウェイトレスは料理とフォーク、スプーンを並べると足早に立ち去った。
「と、とりあえず食べようか。」
「そ、そうだね。」
そういい2人は食べだしたが、お互い恥ずかしく無言のままだった。
そして先に空気を打開しようと口を開いたのは金城だった。
「ね、ねえ。」
「な、なに。」
「イカ墨、どう?」
「へ?」
さっきから緊張状態が続いており、味なんて感じてなかった。
「なんていうか・・・ 食べてみれば分かるよ。」




シンジは自分のフォークに麺を巻きつけ、金城へと向けた。
そして自分また恥ずかしさの墓穴を掘ってることに気付いた。
金城もドキッとしたが口を開いて食べさせてもらうような状態になってる。
シンジはゆっくりとフォークを金城の口へ運び、スパゲティを食べさせた。
「ど、どう?」
口がもごもごと動き、中のものを飲み込んだ。
「なんか・・・、微妙・・・」
金城の口にはイカ墨は合わなかったようだ。
しかもその微妙なものがはじめて異性に「はい、あーん」で食べさせてもらったものだったから、
金城はこの日2度目の落胆をした。
その後食事中、2人の会話が弾むことは無かった。

「ふぅ、ごちそうさま。」
「ごちそうさま。」
シンジは伝票を見た。2人あわせて950円。このぐらいなら払えると思った
「じゃあ、ここは俺が払っとくよ。」
「そんな、悪いよ。私のほうが高いの食べてるし。」
「いいから、いいから。」
シンジは伝票をレジへと持って行き、お金を払った。
金城はこうやって男性が払ってくれるのを「あぁ、恋人同士っぽい」っとトリップしていた。

ファミレスを出た2人は、その辺をぶらついていると、小さな雑貨店を見つけた。
最近できたばかりであろうか、店の中は明るく、いかにも若者向け、という感じだ。
早速入ってみると、なかなか面白い品揃えに、見て回るだけでも十分楽しめる。
アクセサリーコーナーを見ているとき、金城の目に1つのネックレスが目に留まった。
「これかわいいな。」
4つばのクローバーのようなデザインをしたのがついているネックレス。
金城は試しに付けてみたら、そのネックレスはシンジの中の金城のイメージにぴったり合っていた。



「・・・買ってあげようか?」
「え、でもこれ高いよ。」
値札を見ると9800円。
これを買うと来週発売のエロ本×3が買えなくなり、入荷予定の新作AV×5が借りれなくなってしまう。
シンジは少し悩んだが、
「でも次こうして出かけれるのいつになるかわかんないし、昨日の試合がんばってたからご褒美だ。」
シンジは昨日の金城の試合を見に行っていた。そしてそのがんばる姿は強く印象に残っていた。
「でも・・・」
値段が値段だけに、金城も遠慮する。しかし
「すいませーん!」
「はい、いらっしゃいませ。」
シンジが店員を呼んだ。
「これほしいんですけど。」
「はい、9800円になります。」
「じゃあ、はい。」
財布から福沢諭吉を1人取り出す。
「じゃあ、おつり200円になります。」
シンジはおつりを受け取った。そして質量的には重くなったが、中身的に軽くなった財布をポケットにしまった。
そして2人は店を出た。
「ありがとう!これ大切にする!」
「喜んでもらえてうれしいよ。」
シンジは笑顔を見せたが、エロ本が買えなくなり、心では泣いていた。

「あら、奇遇ね」
「あ、先生、こんにちは」
服屋のウィンドウを見ながら歩いていると、小宮山とあってしまった。
「あ、この人うちの学校の先生ね。」
紹介したくは無いが、シンジは一応金城に紹介しておいた。
「なに、この子あなたの彼女?」
「はい、一応。」
「名前は?」
教えたくなかった。言えば必ずこの人は学校でおちょくってくる。シンジはそう思ったが、
「金城カオルです。」
自分で自己紹介してしまった。
「カオルちゃんね。 あ、城島君、心配しないで、別に学校でネタにしようとは思ってないから。」
この人はそういっても絶対ネタにする。しかもエロの。
シンジは明日から学校へ行くのが鬱になった。



「それより、はい。」
シンジは小宮山からなにか受け取った。朝カナミから渡されたものとメーカーは違うが、コンドームだ。
「ちゃんと避妊しなさいよ。それにあなたが好きなアナルを使うにしても大腸には・・・」
「いりません。」
シンジは小宮山につき返した。
「なに?いきなり膣出し?それともぎりぎりで抜けばいいと思ってるの?まったく最近の子は、って私も初めてのとき・・・」
まだ何か話していたが、シンジは無視して金城とどこかへ消えてた。

「ふぅ、ちょっとどこかで休憩しようか。」
「うん、疲れたね。」
ファミレスを出て3時間、座ることすらなく、歩き続けた。
あたりを見渡すと、ちょっと寂れた喫茶店を見つけた。
店に入り、案内された席につきメニューを開く。
何にしようか迷っているとき、
「シンジ、これ」
金城がさしているところをみると、
「クリーム愛スコーヒー クリームのように甘い愛があるカップルへ」
似たようなのに紅茶版があった。ネーミングセンスがオヤジくさい。
「ねぇ、これにしよ。」
ネーミングもネーミングだが、これを頼もうとする金城っていったい・・・とシンジは思った。
「すいませーん。」
「はい」
「このクリームアイスコーヒーください。」
「は、はい。」
伝票に注文品の名を書き込む。明らかに笑いをこらえている感じだ。
数分後、この店のマスターであろうオヤジがクリームアイスコーヒーを持ってきた。
「はいはーい、お二人さん、初々しいねぇ。」
なるほど、このオヤジならこのネーミンズセンスも納得だとシンジは直感した。



コーヒーが置かれ、ストローが2本、スプーンが1本。
「すいません。スプーンが1本しかないんですけど・・・」
「あぁ、これで相手に食べさせてあげるってわけよ、だから一本。」
このオヤジ、いつかセクハラで捕まるなとシンジは確信した。
とりあえずひとつのグラスにストローを2本立てる。
そして一緒にコーヒーを飲む。
金城は頬を赤らめ、恥じらいながらも飲むが、シンジは金城からは見えない位置からこっちを見ているオヤジが気になってしかたがない。
金城はつぎにスプーンを持ち、コーヒーの上に乗っているソフトクリームをすくい、
「はい、あーん」
恥じらいながらもこんなことをしてくれる金城が可愛くて仕方が無く、本当なら(2つの意味で)すぐにでも食べたいが、
こっちを見てニタニタしているオヤジが気持ち悪い。
「食べないの?」
金城が悲しげな顔をする。
シンジはもういいやという気になり一気に口に入れた。
「うまい?」
「うん、すっげぇうまい。」
味なんて感じてない。ただ金城が食べさせてくれたということだけで満足だった。
シンジは金城からスプーンをとり、今度は金城に食べさせた。

金城は今日1番甘い時間に満足だったが、シンジは休むどころか、どっと疲れた。
「じゃあお会計はお兄さんに払ってもらおうかな。」
突然オヤジがそう言い出した。
「やっぱりここは男が払っとかなきゃ、ねぇお姉さん。」
「え、えぇ」
このオヤジの押しの強さに金城はそう答えてしまった。
シンジは仕方が無く550円支払った。
「どうも、またきてね。」
二度と来るか、シンジはそう決心した。



日も傾き、すこし涼しくなり、2人はもう少し一緒にぶらついた。
喫茶店で不快な気分になってしまったシンジだが、好きな人といっしょに居る楽しい時間はあっという間に過ぎ、
日も沈んであたりは暗くなりだした。
「そろそろ帰ろうか。」
本当はまだ帰りたくない。一緒に居たい。しかしあまり遅いと金城の親も心配する。そう思いシンジは「帰ろう」と言った。
「うん・・・そうだね・・・」
金城も本当は帰りたくなさそうだった。

帰りの電車の中。疲れたのか金城は寝てしまいうつらうつらとシンジに寄りかかる。
その寝顔はなんともかわいらしく、起こしたくない。しかし降りる駅は近づいてきてしまう。
「カオル、カオル。」
やさしく揺り起こす。金城は目を擦りながら起きる。
「んっ、あ、ごめん、寝ちゃった。」
次の駅で二人は降り、改札を出た。
「あの、これ、本当にありがとう。」
金城は首にかけてる、今日買ったネックレスを握った。
「で、これのお礼なんだけど・・・」
金城はシンジをかがませ顔を近づけた。そしてシンジの唇に自分の唇を重ねた。
時間にすれば本当に一瞬だったが、シンジは金城のぬくもりを感じた。
「そ、それじゃ!」
金城は顔を真っ赤にし、その場をダッシュで去っていった。

駅からそう遠くない自分の家に、金城はすぐついた。
そして帰るなり自分の部屋に閉じこもった。
「わ、私からキスしちゃった〜!」
思い出すだけで顔から火が出そう。今日一日のことを思い出し、金城は一人、トリップしていた。

シンジは突然のことに頭の整理が追いつかず、数分間、その場に立ち尽くしていた。
そして家を目指し歩き始めた。

半そででは肌寒い風が吹き抜ける、夏も終わりの一日だった。


                 END

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