「おはようございます。ご主人様。」
朝、枕元から聞き慣れない響きの言葉で俺は目を醒ました。
「学園に遅刻してしまいますよ?」
目を醒まし、そちらに目を向けると、そこにいる人物はそう言って柔らかく微笑む。
前髪と後ろの髪に、それぞれ独特に跳ねたところのある黒髪。
そこにはメイド服に身を包んだ、我等が会長の姿。
ヘッドドレスなどの小物も完璧で、プロのメイドさんと見間違うたたずまいでそこに存在している。
「なに、やってるんすか?会長?」
そう問うと、会長は首をふるふると左右に振る。
「私が、メイドとしてご主人様にお仕え申し上げてる時は、シノとお呼びくださいと昨晩申し上げたはずです。」
「ええと、じゃあ、シノ…」
実際こうして呼んでみると妙に気恥ずかしくて必然的に頬が火照る。
「はい。ご主人様。」
「どうして、ここに…?」
ここは俺の部屋に間違いない。
部屋にある家具、机の上の荷物、その他何をとっても完膚なきまでに俺の部屋だ。
そんななか、唯一のおかしいものといえばメイド服に身を包んだ会長の存在。
「まだ、寝ぼけていらっしゃるのですか?お食事のご用意はもうできてますので、お先に顔を洗われてから下りていらしてください。」
そんなことを宣うと慇懃に一礼。
会長は部屋から出ていった。

………………………………

とにかく、今日はおかしな一日だった。
「な、な、な、な、なんで、なんで、なんで!?津田が会長と一緒?ねぇ、何で?」
と、小さい身体を、ともかく大きく動かし、パニクった萩村とうちの前で出会った所から始まった一日。
普段のツンツンした萩村のそんな姿はとにかく微笑ましかった。
だが、まだまだ、そんなのは可愛い方で…
「オーホッホッホッ、なんで、この階段は自由に動かないのかしら?使えないわね。」
七条先輩が縦巻きロールで現れた事には閉口モノだった。
しかも、なんか、テンプレ通りの傲慢発言。
「ねぇ、出島?私の家のお金で学校の階段をすべてエレベーターにすることは出来なくて?」
「お嬢様…それは、難しいかと思われます。あと、エスカレーターの間違いではないかと。」
何故かお付きとして付き添う出島さんは、しれっと七条先輩にツッコミをいれながら、当たり前のように横にいるし。
かと、思えば…
「……………………」
カメラを構えた畑先輩。しかし、なぜか、喋らない。
一切無口なまま、
"パシャッ"
「……………………」
写真を撮るとどこかへ行ってしまう。
他にも、
「あうっ……はきゅ〜〜」
俺と出くわすなり、急にこけて小動物ライクな呻き声をあげ、逃げ去る五十嵐先輩。
「やだなぁ、タカトシ君!!」
言葉は普段通りなんだけど…
"バシン、バシン"
豪快に笑いながら俺の背中を叩く三葉は、なんつーか、姐御肌だし、
それから、横島先生は…
ん、まぁ、普段通りだったから良いや。


「それでは、夜伽を勤めさせていただきます。」
三つ指をつく会長。
そんなこんなで学校から帰宅して今は夜。
っつーか、寝る前。
しっかりとメイド装備な会長。
っつーか、何なんだ、今日は?
本気で意味がわからん。
錯乱する頭。
そんな俺を余所に会長が俺のズボンに手をかける…

………………………………

「何も変わらないと思っていた日常。気づいてみればこの時から、俺達の運命は変わり始めたのかもしれない。」
目を開ける。そこには見慣れた天井。
どうやら、夢だったらしい。
ホッと胸を撫で下ろす。
今日は1月2日。
パラレルワールドに迷い込んでいなければ、これが、いわゆる初夢。
なんつー夢を見ちまったんだ。
いっそ、頭を抱え込んで布団の上で悶え回りたくなる。
だが、その前に…
「なぁ、コトミ?」
「あ、おはよう。タカ兄。」
「何してるの?」
「いや、タカ兄が悪い夢を見てるみたいだったから、良い夢になるようにギャルゲっぽいナレーションを。」
「そうか。ありがと……」
ニコニコと満足そうな顔を浮かべるコトミ。
「何て言うと思ったか!!」
そんなコトミに心の叫びもこめてツッコミを入れる。
急な大声にコトミが顔をしかめる。
「あうー。初夢が悪夢じゃ、可哀相だからって思ったのに。」
「余計なお世話だ!!」
どうやら、パラレルワールドでは無かったらしい現実に俺は安堵する。だが…
2度とこんな夢は勘弁してほしい…
俺は心の中でぼやいた。

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