「台風0721号は依然として勢力を強め、日本列島を横断する模様です。ご家庭でも停電などに備え・・・」
城島の家のテレビでニュースキャスターがそんな事を言っていた。シンジは外を見る。
窓がガタガタと音を立て、近くの木の枝も風に吹かれて大きく揺らいでいる。柳などは根元からポキッと
いってしまいそうだ。
「こりゃ凄いな・・・うちも停電に備えて懐中電灯か蝋燭用意しとかないとな・・・」
シンジはソファーから立ち上がりリビング周りをゴソゴソとあさっていた。
「あれ、お兄ちゃん何か探し物?」
洗い物を終えたのだろうか、エプロンで濡れた手を拭いながらカナミがリビングやってきた。
「うん・・・ああ、蝋燭とかないかなってさ。」
シンジは振り向かず相変わらずゴソゴソと探しながら言う。
「なぁんだ、それなら私持ってるよ。持って来るね!」
カナミはエプロンを外すと自分の部屋に向かっていく。
「しっかりしてるよなぁ、あいつは・・・俺とは大違いだ。」
しっかり者の妹に感心する兄。しかし、その感心も数秒しか持たなかった。
「はい!お兄ちゃんコレ!」
笑顔でカナミが差し出したのは蝋燭。間違いなく蝋燭だ。ただ・・・・何か赤い。しかもデカイ。
「なぁ、妹。コレは何だ?」
「え?蝋燭だよ?」
何言ってるのお兄ちゃん?とでも言いたげなカナミ。シンジはハァと溜息をつく。
「あのなぁ。俺が何で蝋燭探してるのか分からないのか?」
「ん?垂らすためじゃないの?お兄ちゃんアナルに飽きて新境地を開発しようとしてるのかと。」
「そうそう、アナルもそろそろさぁ・・・って!違うわー!」
シンジはノリツッコミでカナミのボケを返す。その時だった。窓の外に雷光が煌いた。そして、その数秒後
ドゴーンと爆音が鳴り響いた。
「ひゃっ!」
その音と共にカナミが短く悲鳴に似た声を発し、身を縮めた。




「大丈夫か、カナミ?」
カナミはブルブル震えていた。そういえば、カナミは何だかんだで結構怖がりだったりする。
「う、うん・・・大丈夫・・・だよ?」
大丈夫とは言ってるが、あまり大丈夫には見えなかった。
「ふぅ・・・まぁいいや。これも蝋燭っちゃあ蝋燭だし・・・停電したらこいつ使うか。えっと、マッチマッチ・・・」
シンジは蝋燭をリビングのテーブルに置くと、マッチも近くに置いておく。これで停電もばっちりだ。
「よし、それじゃあシャワーでも浴びてくるかな。カナミ先に入ってもいいぞ?」
「・・ううん、お兄ちゃんからでいいよ・・・」
カナミの顔は何故かどこか浮かない。シンジはそれに少し違和感を感じながらも浴室に入り、シャワーを浴びた。
そして、十数分後、リビングに戻るとそこは少しおかしな光景だった。
「カナミさん、コレハナンデスカ?」
思わず片言になるシンジ。そう、リビングのフローリングには布団が一つ敷いてあったのだった。枕は二つ。
一つはカナミの。そして・・・もう一つは当然シンジのだった。
「えっとね、えっとね・・・その・・・お兄ちゃん、今日一緒に寝て欲しいの・・・」
布団をギュッと掴みながら子供が親にねだるように上目遣いでシンジを見るカナミ。それは、普段のアレな
カナミと違って、随分子供っぽく、頼りなかった。
「おまえなぁ・・・高校生にもなって何言ってー」
「どうしても・・・ダメ?」
カナミがシンジの言葉を遮って哀願する。そこまで言われたらシンジも邪険にできない。
「はぁ・・・理由は?カナミさん。」
「うん・・・あのね・・・怖いの・・・雷も怖いし・・・停電で暗くなるのも怖い・・・窓の音も怖いの。」
カナミの理由はいたってシンプルだった。それは台風という自然災害が起こす副産物のようなものだ。
シンジはまだカナミも子供だなぁと思うと共に、それがどこか可愛らしく感じもした。そのせいだろう。
「しゃあないな。今日だけだぞ?」
シンジがそう言うと、カナミの顔はみるみる嬉しそうになっていく。
「やったぁ!ありがとう、お兄ちゃん!じゃあ、私もシャワー浴びてくるね。先に寝てたら・・・ヤダよ?」
ルンルンとカナミは浴室へ向かっていった。シンジはその間にある程度の戸締りを済まし、カナミを待った。




「えへへ、お待たせ。」
シャワーを浴び終わったカナミは、湯気で頬を紅潮させ、髪は濡れてしなやかだった。カナミはトスンと布団に
腰を下ろす。
「んじゃま、やる事もないし・・・寝るかぁ。」
シンジがそう言って蛍光灯を豆電球だけにしようとする。その時だった。さっき以上の光が窓を覆う。
そして、今度は間髪いれずに落雷の音がした。それと同時に、一斉に電気が消えた。
「きゃああ!!」
カナミが思わずシンジに抱きつく。シャンプーとボディソープのいい匂いがシンジを包んだ。
「あーあ・・・こりゃ完璧停電だな・・・まぁいっか。後は寝るだけだし。」
一応この時の為に蝋燭を用意したのだが、後は寝るだけだ。必要ない。
「ほら、カナミもさ・・・抱きついてないで寝るぞ。あんまり抱きついてると暑いぞ?クーラーも消えたしな。」
「う・・・うん・・・でも・・・やっぱりもうちょっと怖い・・・」
カナミがシンジのパジャマをギュッと掴む。人はクーラーに慣れすぎると、少しクーラーが消えただけで
こんなに暑く感じるのだろうか・・・台風のせいで窓を閉ざし、完全に空気を遮断した密室は
一気に蒸し暑くなり、シンジもカナミもダラダラと汗を流し始めた。
「うお、あちぃ・・・なぁカナミ。離れないか?」
この暑さではとてもじゃないが寝れそうにない。そして、離れれば少しはマシになる。だが・・・
「・・・やだ・・・今日はずっとこうしてる・・・今日はお兄ちゃん一緒に寝てくれるんでしょ?」
そう言われるとさっきそう宣言した手前、拒否できないシンジ。ダラダラと流れ出る二人の汗が絡み合う。
「いつから・・・二人で寝なくなったんだっけ・・・」
ふと、カナミがポツリといった。
「さぁな・・・俺は男でお前は女・・・普通はいずれそうなるもんだろ。兄妹でもな。」
「うん・・・それでも私は、ここが大好き・・・お兄ちゃんの胸の中はとっても落ち着くんだぁ・・・」
エヘへと笑いながらカナミはより一層体をシンジに寄せる。まだまだ発展途上の胸がシンジの胸に当たる。
ほのかに柔らかく、カナミの体全体も女性らしく柔らかかった。
「カナミさん、胸が当たってる。」
「当ててるんだよ。なぁんてね・・・ヘヘ・・・」
カナミはどこか嬉しそうに腕をシンジの首に回し、お互いの顔を近づけた。
「大好きだよ、お兄ちゃん・・・・」




次の瞬間、シンジの頬の何やら生暖かいモノがツツッと触れた。
「!?な、なんだぁ!?」
暗くてよく分からない。と言うか、正直な所は・・・・
「えへ、キスかと思った?お兄ちゃん?残念、私の舌でしたぁ。」
シンジはキスだと思ってた。しかし、妹の手前それを認めるわけにはいかない。
「うるせぇ・・・もう寝るぞ。多分明日は学校だからな。」
シンジは目を瞑る。すると、再びシンジの頬をカナミの舌が撫で回した。
「んっ・・・ちょっとしょっぱいけど・・・お兄ちゃんの味・・・えへへ・・・お休み、お兄ちゃん。」
カナミはシンジの首に回していた腕を体に回し、兄を抱き枕に夢の中へ入っていった。
「ったく・・・しょうがない奴だな・・・・」
シンジもそれに合わせる様に、カナミのか細い体を抱きしめて、眠りに入った。

「おはよう、お兄ちゃん。朝だよ〜!」
そして、朝方。昨日の台風が嘘のように外は晴天だった、若干巻き返しの風は強そうだが。
「ふぁ・・・うわ、クーラー動かなかったんだな・・・汗ビッショリだよ・・・朝飯の前に浴びてくるわ。」
シンジはバスタオルとTシャツを片手に浴室へ向かっていく。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。」
後ろからカナミが呼び止める声。そして、背中に温かい感触が伝わった。
「ありがとう・・・」
そして、そういう声が聞こえた。シンジは一人で小さく笑うと再び歩き始める。
「お礼にお兄ちゃんの汗をすっきり流してあげましょうか!」
次の瞬間には服を脱ごうとしているカナミ。
「全力で断る!!」
シンジはそのカナミを見ないようにダッシュで浴室に入り、鍵をかける。
そして、少しだけ後悔した。まぁ・・・それでもよかったかな・・・と。
END

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