“ガラッ”
「どうも、遅れちゃっ……?あれ?今日は先輩だけなんですか?」
「あら、お疲れ様、津田君。それがね、シノちゃんもスズちゃんも例のインフルエンザで今日はお休みなの」
「あ〜〜ウチのクラスでもぼちぼち流行始めてますけど、今は上の学年の方がひどいみたいですね」
「そうなのよ。でね、ちょっと悪いんだけど。急ぎのお仕事があるの。
シノちゃんとスズちゃんがいないから、手が足りないのよ。津田君、手伝ってくれないかしら?」
「あ、それは全然。OKですよ」
「ありがとう。悪いわね、津田君………」
普段は涼しい顔で仕事をこなしているアリアが手伝いを頼むのは、珍しいことだった。
それだけシノとスズの抜けた穴が大きいということなのだろう、とタカトシは思った。
「じゃ、こっちの書類ね。桜才祭の出店希望届けなんだけど、記入漏れが多くて。
ミスのある書類はこれを参考に直してあげてね」
「あ、はい、先輩」
アリアの言うとおり事務量はかなりのもので、ふたりは黙々と仕事に勤しむのであった。
(………そういや七条先輩とふたりだけって、初めてかな?)
仕事を始めたときは、忙しくてそんな気も無かったのだが。タカトシはふとその事実に気付き、
ついアリアを意識してしまっていた。たしかに、今この部屋はふたりっきりなわけで。
しかもその相手は容姿端麗、成績優秀、性格抜群、おまけにお嬢様で巨乳と、
四拍子も五拍子も揃った(ただし下ネタは重い)アリアである。
いつもはクールガイのタカトシも、ついチラ見してしてしまったりして。
「………?どうしたの、なにか分からないことでもある?津田君」
「!!いえ、な、なんでもないんです」
あたふたとするタカトシを可愛らしく小首を傾げて見つめていたアリアだが、
きゅっ、と口元に小さな微笑みをつくると、言った。
「うふ、もしかして私とふたりっきりなの、意識しちゃった?」
「!!!な、なな、そんなこと、あ、ありませんよ、からかわないで下さい」
思いっきり図星なだけになおさら慌ててしまうタカトシを、アリアは笑顔のまま見つめている。
「あら、全然意識もしてくれないのかしら?それはそれで寂しいかな?」
「いえ、それは、俺も先輩のことを意識してないなんて」
「うふふ、ほ・ら。結局意識してるんじゃない」
「それは、その」
「じょうだんよ〜〜〜♪ホント津田君たらまじめなんだから」
「いえ、俺は別にマジメとかじゃなく」
「でもそうじゃなきゃ生徒会にも入れなかったんだけどね。うふふふ♪」
「勘弁して下さいよ、マジで………」
くすくすと笑う仕草にもどこか気品が漂うアリアと、苦笑するタカトシ。
とりあえず仕事が一段落したせいもあるのだが、生徒会室にはほんわかとしたムードが漂っていた。
「それに俺は天草先輩に無理矢理生徒会に入らされたわけで、
ここにいるのも偶然みたいなもんなんですけどね」
「あら、本当に偶然だったと思ってる?」
それまでとちょっと違う笑みを浮かべると、じっとアリアが見つめてくる。
(あんまり、そういうの、なぁ………)
天然なのは、分っていた。それでも、改めてアリアの可愛さに参ってしまうタカトシであった。
「偶然………でしょう?俺があんとき校門で天草先輩にとっつかまって、
下手な受け答えをしたおかげでなぜか生徒会役員になるハメになったわけで」
「津田・タカトシ・く・ん」
「はい?」
「199×年、○月□日生まれ、家族構成はご両親に妹さんがひとり。
凸△中学校出身、成績はムラがあるもののそこそこ優秀。
社会と理科が得意、数学は苦手。中学時代はサッカー部に所属。
部活では三年生のときの県大会ベスト8が最高成績。
レギュラーのディフェンダーだったが最後の試合では怪我をして出場できず。
本人的にはそれをずっと後悔している模様。性格は良く言えば穏和、悪く言えば流されるタイプ」
「!?な、なんで、知ってるんですか?」
自分の正確なデータをすらすらと述べるアリアに驚くタカトシだが、彼女は鼻歌でも歌うように続ける。

「なお、中学生時代、何人かに告白されたものの本人はサッカーに夢中だったために断っている。
当然、童貞。妹さんが非常に可愛い娘のため、若干シスコンの気ありとの噂も………」
「ちょ、ちょっと、先輩?」
「こんなところだったかしら?まだまだ膨大な報告書だったんだけど、さすがに全部は、ね」
「ほ、報告書?」
「ねえ、津田君?君もウチの生徒だから知ってるでしょうけど、桜才は一応名門女子校なのね。
今年共学化するときもOG会から猛反対があったんですって。ふふ、でも、もう元・女子校だけどね」
「…………それは、はい」
「だからってわけでもないでしょうけど、生徒会にもそれなりに威厳があるの。
『男子生徒の意見も欲しい』なんて理由だけで君を入れたんじゃないの」
「はぁ…………」
「会長のシノちゃんには内緒の話なんだけどね。どこかの某前内閣と違って、
候補の生徒には厳正な“身体検査”をするの。本当ならそれは顧問の先生のお仕事なんだけど、
ホラ、横島先生があの調子でしょう?今回は私がお家の人にお願いして資料を集めて、
候補の生徒を検査したの。その中で男子唯一の候補が津田君だったってコ・ト」
「………?でも、なんで俺だったんですか?俺より成績が良い男子生徒なんて、いくらでも」
「ふふ、成績だけならね。津田君は気付いてるかもだけど、ああ見えてシノちゃんもスズちゃんも、
結構神経質な子なの。上下関係にキチンとしていて、気の使える子じゃないとダメだと思ったのね。
それに、ふたりとも女子校育ちだから男の子の扱いに不安があったし。今回は性格第一で選んだの。
君ならシノちゃんやスズちゃんとも合いそうだし、それに……うふふ、可愛かったのよ」
「へ?」
「サッカー部だった頃の、ユニフォーム姿の君の写真がね、とっても可愛かったの。女子校育ちだから、
シノちゃんもスズちゃんも、もちろん私も、超面食いなのね。君ならOKだって思ったの」
「……………どうも」
タカトシは、思い出していた。そう言えば、聞いた話だがアリアの家は。
(確か先輩の家って……七条財閥の本流じゃないけど結構近い分家だとかで、超セレブだったよな)
旧財閥系の、日本でも指折りの名家という話だった。
なおかつ、七条家は桜才学園にも毎年莫大な寄附をしているという噂で―――
実際に見たことがあるが、アリアの扱いは職員室でもVIP待遇だった。
そんな訳で、ともすれば妬みの対象にもなりかねない存在であるはずのアリアだが、
本人はそういう自分の立場に無頓着と言えるほどいつも自然体であり、
また彼女の優秀な成績と育ちの良さを感じさせるおっとりとした性格の良さは、
周囲に敵を作ることさえなかった。―――それは、ともかく。
そんな彼女の立場と力を利用すれば、個人情報保護法をあっさりと無視して
全生徒の素行や経歴を検査することなど、たやすいことだというのはタカトシにも想像できた。
「あとはシノちゃんにそれとなく吹き込んでおけば大丈夫だったわけなの。
『生徒会にも男っ気が無いとね………』とか、『男の子の意見も反映させないと』とか。
それと、君に関すること。うふ、具体的には新入生に津田君っていう、
とっても可愛くて素直そうな男の子がいるって。それを繰り返し、繰り返し言って聞かせれば、
シノちゃんはあのとおり単純な子だから。私の誘導どおりに君を生徒会に入れてくれたってわけ」
「………そうだったんですか」
(と、いうことはもしかして?)
楽しそうに事の顛末を話すアリアだが、ふと、タカトシは気付いた。
要するに自分をこの生徒会に入れるよう仕向け、ややこしい立場を押しつけた張本人は?
「でも津田君は期待以上だったわ♪仕事も出来るし、シノちゃんやスズちゃんの相手も上手だし」
「ていうか………結構先輩酷くないすか?俺の意志とか、プライバシーとかは」
「あ〜〜ん、怒らないでよ、津田くん〜〜」
抗議の言葉を続けようとしたタカトシだが、甘えるような口調のアリアには勝てないわけで。
「ま、しょうがないっちゃしょうがないんですけど。でもせめて前もって言ってくれれば俺だって」
「だってね、津田君?前もってお願いしたら、君、生徒会に入ってくれたかしら?」
「それは………正直、微妙っすね」
「でしょう?津田君がすご〜〜く面倒くさがりだってのも報告書にあったのよね。
ウチとレベルの変わらない他の高校だって、君なら楽勝だったはずよね?なのに桜才を受けたのは、
ハーレム状態を夢見たとかじゃなく、家から近かったから。それだけなのよね?」
「ま、おっしゃるとおりですけど」

「いきなり君を呼びつけて、『生徒会に入ってくれない?』ってスカウトしても、怖がるか面倒くさがるか、
どっちかだと思ったのね。だから、今回はちょっと強引な手を使ったの。君には悪いと思ったんだけど」
「…………はぁ。つ〜〜か、全部先輩の絵図通りだったってことっすね」
「ふふ………あともうひとつ。君が絶対生徒会に入るっていう確信が私にはあったの」
にま〜〜〜っ、と悪戯っぽい笑みを浮かべながら、謎かけのように言うアリア。
なぜか特大級の悪い予感を覚えながらも、話の流れ上タカトシは尋ねるしかなかった。
「……?なんです、か?」
「うふ。さっきも言ったけど、津田君って………シスコンなのよね?」
「!お、俺はそんなこと」
「写真で見たんだけど、口惜しいくらいに可愛い子よね、妹さん?」
「いえ、あの………家だと、ケンカばっかだし、そんな、可愛いわけじゃ」
「しかも妹さん、桜才志望だって話だし。そうなるとお兄さんの立場として、良いところを見せたいだろうし。
生徒会を断ると、色々大変だって噂も聞いただろうから、津田君なら自分のことより妹さんのことを考えて、
結局生徒会に入るだろうな、って思ったの。ふふ、どう?図星でしょう?」
「…………勘弁して下さいよ、マジで」
完全にノーガード状態のところを立て続けにラッシュを喰らい、戦意無くダウンするタカトシ。
彼女の言うとおりだった。本当は、タカトシは生徒会入りを断ろうと思っていた。
しかし、生徒会役員に選ばれることは桜才ではこの上もなく名誉なことであり、
また、かつて一人だけいたという、生徒会役員入りを拒絶した生徒はその後学内で白眼視され、
凄まじいことに退学を余儀なくされたという噂を耳にするに及び、
タカトシとしては再考せざるをえなくなったのだ。――自分のことだけならば、断っても、良かった。
しかし、タカトシたちは男女共学化した桜才の、男子生徒一期生である。
もしここで生徒会入りを断れば、災いは男子生徒全員に及ぶかも知れず、
しかも厄介なことに妹は幼い頃から桜才に憧れを抱き、来年の合格を目指して頑張っている。
流されるタイプに見えて意外に責任感の強いタカトシの選択肢は、この時点で既に無くなっていた。
「うふ〜〜。そんな困ったような顔しないでよ、津田きゅん♪」
「困ったっていうか………参ったって感じですよ。あの、今気付いたんですけど。
もしかして、生徒会に入るのを断って退学したっていう生徒の噂、もしかしてアレも」
「んふふ〜〜♪正解♪そんな生徒なんて、い・ま・せ・ん。
私が前もって一年生たちの間に流しておいた、嘘の噂です♪」
「…………やっぱり」
そんな気が、していた。脱力しつつも少し腹の立ったタカトシは、
子供っぽい抵抗だとは思いながらも、ちょっとふてくされたように浅くイスに座り直した。
しかしアリアはまるでやんちゃな子供を優しく見守る保母さんのような目で、彼を見ていた。
「ふふ、でもそういう津田君も結構良いわね」
「………どういう俺が、ですか?」
「困ってる津田君も、怒ってる津田君も可愛いの♪やっぱり私の目に狂いは無かったって思ってます♪」
「………はぁ」
アリアの天然悪女ぶりに、溜息をつくしかなかった。悪気がないことは、良く分っていた。
彼女にしてみればタカトシを生徒会に入れることは、お気に入りの服を手に取るような、
その程度の気持ちでしかなかったのだろう。
(だからって、なあ………)
「でも、怒らないでね?本当に感謝はしてるの、津田君に。仕事も良くやってくれているし」
「先輩にそう言ってもらえるのは、嬉しいっすけど、でも、なんだか」
「それとも………そんなに嫌?私たちと一緒にいるの」
「!い、いえ、それはその」
アリアが顔をぐっと近づけ、タカトシをのぞきこんでくる。いきなりの、至近距離。
それまではふてくされ気味だったタカトシだが、根は単なる小心者である。
間近で見る、アリアのフランス人形のような端正な顔。心臓が、ヘビメタのドラムをバタバタと奏でる。
「ねえ……嫌なの?津田君。シノちゃんや、スズちゃんや………私と、一緒にいるのが」
「それは、嫌なんかじゃ」
「うふ〜〜〜、なら、ずっと一緒にいてくれる?」
「あのですねえ、先輩……」
それまでの真剣な表情が一転、ほわん、としたいつもの笑顔になるアリア。
あっさりと彼女のペースに乗せられてしまい、タカトシは苦笑するしかなかった。

「と言うわけで、不満無しってことでOKね?」
「不満が無いってわけじゃ、ないっすけど」
「なに?言ってくれたら、私たちも努力するから」
「あの、先輩達に不満ってわけでも、ないんすけどね。今日もそうでしたけど生徒会って、
結構仕事があるじゃないっすか?見返りとかじゃなくて、せめてなんか良いことがありゃあとか」
「そ・れ・は・ダ・メ〜〜〜よ?津田君」
口調こそちょっと軽い感じだが、表情はいたって真面目に、アリアが言った。
「生徒会はね、生徒のみんなに有意義な学生生活を送って欲しいって願う、黒子さんなのよ?
私たちが、見返りや報酬を求めたら、ダメなの!生徒会は、真の意味で誇り高いボランティアなの。
困ってる生徒がいたら、黙って手をさしのべる、そんな存在じゃないと、いけないの!」
「………はぁ」
アリアの言っていることは、もっともだった。それくらいは、タカトシにも分っているのだ。
ただなんとなく納得しがたいのは、自分が結果ハメられてここに入ることになったということである。
「分ってくれたかしら?津田君?」
「はい。分ったっていうか……あの………ていうか、俺が言いたいのは、そういうことじゃなくて」
「ふふ〜〜ん♪でも、津田君はやっぱりご褒美とか、欲しいのね?」
「ご褒美って………そんな、ガキじゃあるまいし」
「そうだよね、男の子だもんね、津田君も………じゃ、はい」
「……?先輩」
にっこりと微笑むと、アリアが再び顔を近づけてきて―――目を閉じて小さく、唇を突き出してきた。
「あのですねぇ………」
アリアの表情にドキッとするところがなくも無かったのだが。
またも自分がからかわれていると思ったタカトシは、冷静さを取り戻して、苦笑する。
「だ・か・ら。ご・ほ・う・び」
「だから、そういう意味じゃ」
「………焦れったい」
「え?」
“ぐッ”
いきなり、強く顔の両側をつかまれた。アリアが、細い首を伸ばして、迫ってきた。
(あ…………)
上品なバニラにも似たアリアの薫りが、タカトシの鼻腔を満たす。そして。
“ちゅッ”
(!&@鵝??ψ)
唇と、唇とが、触れる。柔らかに、押しつけられる。リップの、艶だろうか?少しだけ、つるんとした。
「ん…………」
アリアが、切なげな息を漏らす。いつもは白い肌が、ほんのりと朱に染まっていた。
“つ…………”
1分、3分、5分、10分?どれだけの間そうしていたのか―――時間感覚が、完全に狂っていた。
それからゆっくり、アリアが唇を離す。細く長い糸が、ふたりの唇の間に繋がって、弧を描いて、切れる。
「!せ、せんぱい、な、なにを」
「どうだった?ご褒美」
「ど、どうだったって………」
すっかり我を失ったタカトシは、言葉に詰まるが――そんな彼を横目に、
アリアはまた悪戯っ子な笑顔を浮かべて、鼻歌みたいに、呟いた。
「ね、え?つ〜〜だ〜〜きゅん♪もしかして、初めて?キスするの」
「…………」
「お・し・え・てよぉ〜〜♪ね?」
「…………そうですけど」
「わ〜〜い、もらっちゃった♪津田君のファーストキス。わ〜〜い♪」
「あ、あの、先輩?マジで恥ずかしいし、人に聞かれるとマズいんで」
「んふふふ〜〜〜。じゃ、コレは、ふたりだけの秘密ってこと?」
「そりゃ、秘密にしますよ!こんなの、天草先輩たちにバレたら」
「そうだよね〜〜?バレたら、津田君、みんなになんて言われるのかな?うふふ」
「あ………」
自爆だった。逆に、アリアに弱味を握られたことに、気付いた。

「あの………先輩、えっと」
「うふ〜〜、心配しなくても良いのよ?でもね、もし津田君が生徒会やめたいとか言ったら、
私、どうなるか分らないな〜〜、お口がすべっちゃうかもだな〜〜〜♪」
「………分りましたよ、先輩」
はぁぁぁぁぁ、と限りなく盛大に溜息を吐くタカトシ。満面の笑みで彼を見つめるアリアだが―――
突然、真顔になると、言った。
「ねえ、津田君?最後に確認、良いかしら?」
「なんですか?」
「君、妹さんにしか興味が無いとかじゃないわよね?」
「だから、俺は別にシスコンとかじゃ」
「実は妹さんを女として見ていて、『義妹だったら良いのに』って秘かに思ってるとか?
毎日あの可愛い妹さんに迫られて、限界だとか?インセスト寸前だとか?」
「どこの思春期マンガっすか、ソレ。何度も言いますけど、そんな気ありませんて。
妹が桜才志望なんで、兄貴として色々心配なのは確かですけど………」
「ふぅ〜〜ん、そうなの?良いお兄さんなんだね?」
(桜才に入って先輩たちみたいなヘンな人らに染まるらないか心配って意味なんですけど)
本音はそう思うタカトシだが、勿論口にすることが出来るわけもなく。
それはともかく、アリアはまた笑顔に戻ると、じっとタカトシを見て言った。
「なら、津田君はノーマルなんだよね?」
「自分としては、そう思ってますけど」
「年下と年上はどっちが好き?」
「まあ、好きになったら関係ないんじゃないですか?」
「年上、OKね?」
「あの、先輩?なにを言いたいん」
「さっきの、私は本気だから」
「へ?」
「私と、ずっと一緒にいてくれる?って聞いたじゃない」
「………先輩そんなこと言いましたっけ?」
「言ったの。一緒にいて欲しいって。あれね、本気なの。ずっと一緒にいて欲しいの。私と」
「………あのですね、そんなこと言わなくても、仕事はきちんとやりますから」
誘いの軽いジャブに、必死でガードを固めるタカトシだが。
「そしたら………もっと、いっぱいごほうび、あげるから」
「?&!!∪?わぁぁぁぁぁぁ!」
おもむろに、アリアが胸もとのボタンを外し、そこを広げて見せた。
いかにも高価そうな、白いレースのブラに包まれた豊かなふたつの膨らみが視界を直撃し、
タカトシは思わず叫び声を上げる。なにしろ、それはあまりに大きくて、胸の谷間というよりは。
(!!!!な、なっ、なっ、しり?コレ、おしり?)
「えへへへ〜〜〜、エッチな目になってるよ、つだきゅん♪」
「え、エッチって、先輩、とにかくそれ、早くしまって下さい!」
「うふ〜〜、ねえ、ごほうびの、続きしたい?津田君」
「つ、続きって」
「津田君次第だからね?」
「は?」
「これ以上のごほうびは、津田君次第♪うふ〜〜、じゃ、津田君?
お仕事も一段落したみたいだし、帰ろっか?」
「………はい」
全面降伏。タカトシは、アリアの言うとおり帰り支度を始めた。とてつもなく、気が重いままで。
―――疲れていた。とてつもなく。ただ、疲れていた。
(ご褒美、ねえ………)
期待するところがないではない。しかし、それ以上に。
(厄介だよな、しかし)
冗談なのか本気なのか分らない、アリアの天然ぶりに今後も振り回されるのは確実である。
おまけに彼女に弱味を握られていることをシノやスズに悟られぬよう、過ごさなければならない。
(はぁぁぁぁぁ……………)
溜息をつくしかないタカトシ。彼の受難の日々は、続くのであった―――

END

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