最終更新:ID:BnR2Wm8y6g 2008年06月08日(日) 12:11:42履歴
場所は東京某所のマンション。
作家やタレントが多く入居している建物で、部外者は入ることすら出来ない。
そのマンションの最上階の一室、窓のひとつから、カーテンの隙間をぬってうっすらと灯りが漏れている。
芸能界の事情に詳しい人なら、その部屋の使用者が誰であるか知っているだろう。
いまや日本を代表する国民的アイドル・ユニット、トリプルブッキングの『居城』こそがここなのだ。。
そして今、その部屋には二人の人間がいる。
一人は、TBのメンバーである飯田シホ。
もう一人は―――TBのマネージャー、井戸田ヒロキ。
遠くて近きは男女の仲。
飯田シホと井戸田ヒロキは、アイドルとマネージャーの間にある垣根を越えた関係になっていた。
「ヒロくぅん……」
「シホちゃん……」
シホとヒロキ、二人は互いの名前をいとおしそうに呼ぶと、ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねた。
舌は絡めず、さえずるようにあわせては離し、離してはあわせる。
「ヒロ君……ぎゅって、して……」
「……ああ」
ヒロキは両手を広げると、シホの細い体を包み込むように抱き締めた。
シホの心臓の鼓動が、ヒロキの腕にトクントクンと伝わってくる。
同時に、ヒロキはシホの身体の小ささを改めて実感する。
その小さな身体の中には、情熱と夢が詰まっている。
アイドルはただ微笑んでいるだけでは勤まらない。
歌や舞台のために発声練習は欠かせないし、スタイルを保つためにトレーニングもしなければならない。
「ヒロ君、あったかいね」
自らが望んで飛び込んだ世界とはいえ、明らかに芸能界は一般の十代の生活からはかけ離れている。
シホだけではなく、カルナやユーリにも言えることだが、
アイドルとして華々しくスポットを浴びるその代償を払わなければならない。
スケジュールに拘束され、自由な時間を無くし、学校行事には参加出来ず、
友達と遊ぶ機会も減り、家族とゆったり過ごす時間も削られていく。
「ああ、シホちゃんもな」
そういった過酷な毎日に耐えられた者が、最終的に大スターへの道を歩めるのだろう。
だが、そこに至るまでに挫折していった人間もまた、数多い。
くじけず、耐え続けるためには、支えが必要になってくる。
例えば、今のシホに対するヒロキのような存在が。
「今日もすっごく疲れたよ……」
「シホちゃんはよく頑張ってるよ」
頑張っている、という自分の台詞に、ヒロキは少し罪悪感を覚えた。
マネージャーの自分が取ってきた仕事が、シホたちを消耗させているのではないか、という思いがあるからだ。
その考えがプロのアイドルのマネージャーとして「甘すぎる」というのを、ヒロキは理解している。
しかし、理解はしていても、納得しきれないことはあるのだ。
「ヒロ君……」
「うん……」
ヒロキはシホの身体をひょいと抱え上げた。
ヒロキにしてみれば、シホの身体は羽毛のようにとはいかないまでも、軽い。
その態勢のまま、二人はまたキスをした。
そして、ヒロキはシホを抱えたまま、奥のベッドルームへと歩き出した。
二人の胸の奥にある、恋と性欲の炎は、もはや制止出来ないほどに燃え盛っていた。
◆ ◆
薄暗い光の中、二人は生まれたままの姿になって、ベッドで抱き締めあっている。
肌が密着し、二滴の汗が混じって一滴の汗になる。
「シホちゃん……」
ヒロキは右手の人差し指をシホの唇に含ませると、唾液をまぶした。
右手に続いて、左手の人差し指も濡らす。
そして、その人差し指をシホの両の乳首に押し当て、転がすように回転させる。
「ひゃ、あ……んんっ!」
シホが「いやいや」をするように首を左右に振るが、表情は決して嫌悪に彩られてはいない。
快楽のあまりに大きすぎて、それを受けきれていないのだ。
「シホちゃん、固くなってきたよ」
「あ、ああ……」
ヒロキの言葉通り、シホの胸の桜色の突起は、腫れあがるかのようにだんだんとその大きくなっていく。
シホの乳房は決して豊かなほうではない。
むしろ同年代の女の子に比べると小さい方だろう。
だが、巨乳がアイドルの絶対条件というわけでもない。
要は全体のバランスであって、シホの場合、スレンダーな身体にやや小振りな乳房がマッチしており、
グラビアなどで水着になった時、セクシーさは確かに足りないかもしれないが、
それを問題としないくらいの、健康的で明るい印象を見る者に与えるのだった。
「ひうっ!」
シホはビクリと身体を震わせた。
固くなり、敏感になった乳首に、ヒロキが舌を這わせたからだ。
しかも、より感じやすい右の乳首に。
もちろん、ヒロキはどちらがシホにとって大きな快感を与えるか、知っていてしゃぶりついたのだ。
自らの唾液が付着した指によって起たされ、今度は男の唾液によってどろどろに塗れる、ピンクの突起。
そのことが、さらにシホの陶酔に加速をかけていく。
「ヒロくぅん……!」
シホは両の掌で、ヒロキの頭を抱え込んだ。
その際、ヒロキの顔がさらに胸に沈み、歯がカリカリと乳首を擦る。
「ふあ、ああうっ」
シホの体中全体を、ピリピリとした痺れが襲った。
軽くだが、イッたのだ。
「……シホちゃん、イッたの?」
「ふ……うん、ちょっとらけ……」
シホの舌は普段以上に回らなくなっている。
それが、シホが感じている証拠なのだということもまた、ヒロキは知っていた。
というより、シホの身体のことで知らないことの方が少ないだろう。
どこをどのようにいじればシホは悦ぶか、どのように触れば乱れるか、感じるか……。
マネージャーの分を超えた範囲で、ヒロキはシホの全て(に近い)を知っている。
「あ……!」
ヒロキは頭に当てられたシホの手を解くと、顔を上げた。
同時に、フリーになっていた右手をシホの太股へと持っていく。
「シホちゃん、触るよ……」
シホを横向きにさせると、大きく脚を開かせ、人間として最も隠すべきところを露わにする。
シホは抵抗しない。むしろ、ヒロキがやりやすいように進んで身体を開いているかのように見える。
今のシホの頭の中には、仕事のこと、ユーリやカルナのこと、両親のこと、友達のこと……それらは欠片も存在しない。
ただ、ヒロキへの愛と快楽への欲求のみで占められている
「……っ!」
シホの身体が、乳首と同じような桜色にすぅっと染まり始める。
ヒロキが身体の中で一番敏感な秘所の突起をいじり、シホのさらなる快感を引き出していく。
「あ……あ……!」
シホは最早、身体を小刻みに震わせることしか出来ない。
ヒロキの指によって間断なく与えられる極上の悦楽。
「あ……!」
シホの唇がさざなみのように揺れ、その僅かな隙間から熱い息が漏れ出る。
再度、軽い頂点を迎えたのだ。
「……はぁ……あ」
カクリ、と首を折、頬をシーツに密着させるシホ。
彼女が達したのを見て、ヒロキはシホの秘部から指を離し、お腹の辺りまでもっていき、
おへその周囲を優しく、子猫の頭を包むようにそっと優しく、撫で擦った。
ヒロキの手はシホが分泌した淫らな液体でべっとりと濡れており、
彼の指が円を描く度に、シホのお腹にそれが塗りつけられていく。
薄暗い部屋の中で、その円の部分が、鈍く、そしていやらしく光った。
「シホちゃん……」
ヒロキはシホの耳元に口を寄せると、低い声でささやきかけた。
ヒロキの分身は、もはや限界に近い状態で屹立しており、今すぐにでも柔らかい肉壁に突入したがっているようだった。
ヒロキ自身も、引き絞られた性欲の弓を放ちたい気持ちになっている。
シホが欲しい、シホをメチャクチャにしてやりたい、と。
「……ヒロ君……」
ヒロキの問いかけから数十秒経って、やっとシホが言葉を紡いだ。
すぐに反応出来なかったのは、軽くとはいえ、イッてしまっていたからだ。
「……シホちゃん」
「ヒ、ロ……くぅん……」
二人はどちらからともなく、顔を近づけた。
貪るでもなく、ゆったりでもなく、ただ静かに、二人の唇が重なる。
挿入の確認を、言葉にする必要はなかった。
そのキスだけで、ヒロキとシホには充分だった。
「ああっ、んっ、ヒロ君……っ!」
「シホちゃん……!」
欲望のままに、ヒロキは腰を突き出す。
シホの細い体が、純白のシーツの上で妖しく左右に揺れ動く。
「くぅ、ううん……やぁ……っ、す……ごい、よぉ」
ヒロキの額に滲んだ汗の一滴が、ポトリとシホの頬に落ち、唇へと流れていく。
「はぁ、ああ……ヒ、ロ、くぅ……」
「シホちゃん、シホ……!」
異様なまでの興奮が、ヒロキの背筋を貫いていく。
自分がマネージャーとしてついている売れっ子のアイドル、十歳も下の少女。
それを、こうして貫いている。
背徳感にも似た、黒い快感。
「あぅ……!」
シホもまた、ヒロキと似たような思いを抱いていた。
マネージャー云々ではなく、ヒロキのことは普通に男性として好きだ。
年の差や立場なんて関係ない。
だが一方で、後ろめたく感じるのもまた事実。
ユーリとカルナが、異性としてヒロキを好きかどうかはわからない。
だが、ひとりの人間として好意を、信頼を寄せているのは確かだ。
TBのマネージャーとして常に頑張ってくれているヒロキを、こうして独占している嬉しさと罪の意識。
「あ……ぅ!」
「くぅ!」
腰と尻とがぶつかりあう渇いた音、秘部同士が擦れあう湿った音、そしてベッドが軋む濁った音。
それに加え、二人の口から漏れる熱い息の音と、自然に出てくる快楽の声。
五つが混じりあい、淫らな楽曲となって、二人を上へ上へと押し上げていく。
「……っ!」
ヒロキの挿入のスピードが増した。
絡み合った音もともに、アップテンポになっていく。
「い……ぃ……あ……!」
ヒロキの背中に回されていたシホの手が、パタリとシーツの上に落ちた。
閉じられた目蓋からは涙がとめどなくあふれ、また、唇の端から、唾液が一条の細い滝となって零れ落ちていく。
顎の下から鎖骨一帯にかけ、肌の赤みがぐっと鮮やかになる。
それは、シホが快楽の深遠に到達しようとしている予兆だった。
「シ、ホ……ッ!」
ヒロキもまた、爆発の時が近いのを感じていた。
そこにたどり着こうと、さらに腰を繰り出す速度を上げる。
「あ……ああ……」
シホが身体を硬直させた。
続いて、その身体中に小さな汗の珠を浮かび上がらせる。
山の頂点を通り越え、その上にある快楽の極致に、シホは放り上げられた。
「くうっ!」
ヒロキも我慢の限界に達していた。
ほとばしる直前、ヒロキは自分のモノをシホの中から抜き去った。
そして、達したままの状態であるシホの顔に、それを近づけた。
「う……」
びゅ、びゅっと物凄い勢いでシホの顔に叩きつけられるヒロキの欲望の証。
頬にぶつかったそれは、唇、鼻、そして閉じられた目と、色々な方向にドロリと広がっていく。
その光景の、何と淫靡なことか。
「……ああ」
ヒロキは放出してからも十数秒程、自分の征服欲によって汚されたシホの顔をぼうっと見ていた。
自分より十も下の女の子。
国民的アイドルになりつつあるアイドルユニットのメンバー。
マネージャーとして面倒を見てあげる存在。
今だ発達しきらぬ、青い果実と呼ぶにふさわしい、スレンダーなその身体。
コロコロと変わる愛くるしい顔。
周囲の全てを笑顔にさせてしまう、明るい性格。
それを、ヒロキは完全に自分のものにしているのだ。
「シホちゃん……」
ヒロキは何かを振り払うように顔を数度左右に振った。
そして、シホの顔に飛び散った自分の精液を拭うべく、ベッドの下からウェットティッシュを取り出した。
明日は幸い、シホに仕事はない。
ユーリとカルナがともにインフルエンザに罹って療養のため自宅に帰っており、まるまる一週間仕事をキャンセルしたのだ。
当然、スケジュールに皺寄せが来るが、それはマネージャーであるヒロキの腕の見せ所だ。
彼もまた、TBと一緒に成長している。
レイコに怒られまくっていた三年前とは違う。
「……」
ヒロキは濡れティッシュをゴミ箱に放ると、ベッドから立ち上がり、毛布を二枚取り出して、シホの身体にかけた。
そして、次に浴室へと向かった。
熱いお湯をシャワーから出し、タオルを濡らして、それで身体を拭く。
シャワーを使わないのは、水音でシホが目覚めてしまうかもしれないと思ったからだ。
一通り身体を拭き終えると、服を身につけ、ヒロキはシホの部屋へと戻った。
シホは幸せそうな表情で寝息を立てているが、その息がまだ少し荒い。
身体が快楽の頂からまだ完全に戻ってきていないのだろう。
「お休み……」
ヒロキはシホの身体に毛布をかけなおした。
さらに、エアコンを操作して、部屋の温度を一定に保つようにセットした。
彼女の身体は大切だ。
アイドルとしても、ヒロキの恋人としても。
「ふわ……あ」
大きくひとつ、ヒロキは欠伸をした。
ポケットから携帯電話を取り出し、時間の確認をする。
表示は、2:30となっていた。
「着信は……社長と、それから……」
履歴を確かめつつ、ヒロキはシホの部屋から出ると、玄関へと足を進めた。
そして扉から顔を出すと、周囲をチェックする。
マンションの通路は、静まり返っていた。遠くから、監視カメラの機械音が僅かにヒロキの耳に届いてくる。
「よ……っと」
足音をたてないよう、ヒロキは通路へと身体を滑り出させた。
ヒロキの背後で、ガチャリと自動ロックシステムが働く。
「さて……」
ヒロキはもう一度携帯を取り出すと、緊急性が高いと思われる相手を探した。
足は監視カメラがあるエレベーターではなく、ほとんど誰も使わない非常用階段へと向けられる。
「あ、もしもし、社長ですか? 井戸田です……」
響かないよう、だが確実に相手に聞こえるよう、ギリギリまで小さく低くした声で、ヒロキは電話の向こうにいる相手に話しかけた。
「はい、いや、ちょっと所用で電話に出れなくて……。や、やだなあ、女じゃないっすよ、女じゃ」
真っ暗に近い非常階段を、ヒロキは降りていく。
「はい、シホちゃんは大丈夫ですよ。ええ、明日早朝、講談企画に言って話を詰めてきます……」
シホは明日休み。
だが、ヒロキは休みではない。
「ふう……」
レイコとの話が終わると、ヒロキは階段途中で立ち止まり、溜め息をついた。
白い息が、ほわりと薄暗闇の中に広がっていく。
ヒロキは、携帯電話をコートのポケットにしまいながら、後ろを振り向いた。いや、上を見上げた。
階段のずっと上にある部屋では、シホが、彼の恋人が眠っている。
「……」
ヒロキは顔を前に向けた。
そして、慎重に、しかし危険ではない最大の速度で、階段を再び降り始めた。
彼の幸せは天上にあるが、やるべきことは地上にある。
トリプルブッキングをスターにするため。
そして、シホとの愛を守るため。
彼は働く。
明日も、これからも。
飯田シホ、有銘ユーリ、如月カルナの三人によるアイドル・ユニット、トリプルブッキング。略称TB。
TBは結成三年目を迎えて、三人は順調にステップアップを果たしていた。
芸能界とは生存競争が激しく、生き馬の目を抜くという表現がピッタリだ。
同時に、運も大きく関わってくるところでもある。
下積みに下積みを重ねてもまったく売れない芸能人もいれば、ひょんなことがキッカケであっさりとブームに乗ったりする。
不断の努力が結果に直結しないことが多々ある一方、
オーバーナイト・サクセスという言葉もあるように、「一日経ってみれば売れっ子」になる可能性も充分に秘めた世界なのだ。
幸いにも、TBは「売れっ子になる」ことが出来た。
三人にアイドルとしての素養があったからだが、多くのラッキーに背中を押されたのも事実だ。
事務所の社長柏木レイコや、マネージャーの井戸田ヒロキの支援も大きい。
何にせよ、TBは成功しつつあるし、未来は明るい日差しに満ちているように思える。
大きなスキャンダルが無ければ、このまま無事に成長していくことだろう。
売れっ子の三人に声をかける男性は多いが、社長の柏木レイコが目を光らせているため、
まだ誰ひとりとして「お友達」以上の関係に進んだ者はいない。
本当に彼女らを好きではなく、その名声に擦り寄ろうとする者もいるが、
とにかく外部からの不埒者は全てシャットアウトされている。
そう、外部から……は。
F I N
作家やタレントが多く入居している建物で、部外者は入ることすら出来ない。
そのマンションの最上階の一室、窓のひとつから、カーテンの隙間をぬってうっすらと灯りが漏れている。
芸能界の事情に詳しい人なら、その部屋の使用者が誰であるか知っているだろう。
いまや日本を代表する国民的アイドル・ユニット、トリプルブッキングの『居城』こそがここなのだ。。
そして今、その部屋には二人の人間がいる。
一人は、TBのメンバーである飯田シホ。
もう一人は―――TBのマネージャー、井戸田ヒロキ。
遠くて近きは男女の仲。
飯田シホと井戸田ヒロキは、アイドルとマネージャーの間にある垣根を越えた関係になっていた。
「ヒロくぅん……」
「シホちゃん……」
シホとヒロキ、二人は互いの名前をいとおしそうに呼ぶと、ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねた。
舌は絡めず、さえずるようにあわせては離し、離してはあわせる。
「ヒロ君……ぎゅって、して……」
「……ああ」
ヒロキは両手を広げると、シホの細い体を包み込むように抱き締めた。
シホの心臓の鼓動が、ヒロキの腕にトクントクンと伝わってくる。
同時に、ヒロキはシホの身体の小ささを改めて実感する。
その小さな身体の中には、情熱と夢が詰まっている。
アイドルはただ微笑んでいるだけでは勤まらない。
歌や舞台のために発声練習は欠かせないし、スタイルを保つためにトレーニングもしなければならない。
「ヒロ君、あったかいね」
自らが望んで飛び込んだ世界とはいえ、明らかに芸能界は一般の十代の生活からはかけ離れている。
シホだけではなく、カルナやユーリにも言えることだが、
アイドルとして華々しくスポットを浴びるその代償を払わなければならない。
スケジュールに拘束され、自由な時間を無くし、学校行事には参加出来ず、
友達と遊ぶ機会も減り、家族とゆったり過ごす時間も削られていく。
「ああ、シホちゃんもな」
そういった過酷な毎日に耐えられた者が、最終的に大スターへの道を歩めるのだろう。
だが、そこに至るまでに挫折していった人間もまた、数多い。
くじけず、耐え続けるためには、支えが必要になってくる。
例えば、今のシホに対するヒロキのような存在が。
「今日もすっごく疲れたよ……」
「シホちゃんはよく頑張ってるよ」
頑張っている、という自分の台詞に、ヒロキは少し罪悪感を覚えた。
マネージャーの自分が取ってきた仕事が、シホたちを消耗させているのではないか、という思いがあるからだ。
その考えがプロのアイドルのマネージャーとして「甘すぎる」というのを、ヒロキは理解している。
しかし、理解はしていても、納得しきれないことはあるのだ。
「ヒロ君……」
「うん……」
ヒロキはシホの身体をひょいと抱え上げた。
ヒロキにしてみれば、シホの身体は羽毛のようにとはいかないまでも、軽い。
その態勢のまま、二人はまたキスをした。
そして、ヒロキはシホを抱えたまま、奥のベッドルームへと歩き出した。
二人の胸の奥にある、恋と性欲の炎は、もはや制止出来ないほどに燃え盛っていた。
◆ ◆
薄暗い光の中、二人は生まれたままの姿になって、ベッドで抱き締めあっている。
肌が密着し、二滴の汗が混じって一滴の汗になる。
「シホちゃん……」
ヒロキは右手の人差し指をシホの唇に含ませると、唾液をまぶした。
右手に続いて、左手の人差し指も濡らす。
そして、その人差し指をシホの両の乳首に押し当て、転がすように回転させる。
「ひゃ、あ……んんっ!」
シホが「いやいや」をするように首を左右に振るが、表情は決して嫌悪に彩られてはいない。
快楽のあまりに大きすぎて、それを受けきれていないのだ。
「シホちゃん、固くなってきたよ」
「あ、ああ……」
ヒロキの言葉通り、シホの胸の桜色の突起は、腫れあがるかのようにだんだんとその大きくなっていく。
シホの乳房は決して豊かなほうではない。
むしろ同年代の女の子に比べると小さい方だろう。
だが、巨乳がアイドルの絶対条件というわけでもない。
要は全体のバランスであって、シホの場合、スレンダーな身体にやや小振りな乳房がマッチしており、
グラビアなどで水着になった時、セクシーさは確かに足りないかもしれないが、
それを問題としないくらいの、健康的で明るい印象を見る者に与えるのだった。
「ひうっ!」
シホはビクリと身体を震わせた。
固くなり、敏感になった乳首に、ヒロキが舌を這わせたからだ。
しかも、より感じやすい右の乳首に。
もちろん、ヒロキはどちらがシホにとって大きな快感を与えるか、知っていてしゃぶりついたのだ。
自らの唾液が付着した指によって起たされ、今度は男の唾液によってどろどろに塗れる、ピンクの突起。
そのことが、さらにシホの陶酔に加速をかけていく。
「ヒロくぅん……!」
シホは両の掌で、ヒロキの頭を抱え込んだ。
その際、ヒロキの顔がさらに胸に沈み、歯がカリカリと乳首を擦る。
「ふあ、ああうっ」
シホの体中全体を、ピリピリとした痺れが襲った。
軽くだが、イッたのだ。
「……シホちゃん、イッたの?」
「ふ……うん、ちょっとらけ……」
シホの舌は普段以上に回らなくなっている。
それが、シホが感じている証拠なのだということもまた、ヒロキは知っていた。
というより、シホの身体のことで知らないことの方が少ないだろう。
どこをどのようにいじればシホは悦ぶか、どのように触れば乱れるか、感じるか……。
マネージャーの分を超えた範囲で、ヒロキはシホの全て(に近い)を知っている。
「あ……!」
ヒロキは頭に当てられたシホの手を解くと、顔を上げた。
同時に、フリーになっていた右手をシホの太股へと持っていく。
「シホちゃん、触るよ……」
シホを横向きにさせると、大きく脚を開かせ、人間として最も隠すべきところを露わにする。
シホは抵抗しない。むしろ、ヒロキがやりやすいように進んで身体を開いているかのように見える。
今のシホの頭の中には、仕事のこと、ユーリやカルナのこと、両親のこと、友達のこと……それらは欠片も存在しない。
ただ、ヒロキへの愛と快楽への欲求のみで占められている
「……っ!」
シホの身体が、乳首と同じような桜色にすぅっと染まり始める。
ヒロキが身体の中で一番敏感な秘所の突起をいじり、シホのさらなる快感を引き出していく。
「あ……あ……!」
シホは最早、身体を小刻みに震わせることしか出来ない。
ヒロキの指によって間断なく与えられる極上の悦楽。
「あ……!」
シホの唇がさざなみのように揺れ、その僅かな隙間から熱い息が漏れ出る。
再度、軽い頂点を迎えたのだ。
「……はぁ……あ」
カクリ、と首を折、頬をシーツに密着させるシホ。
彼女が達したのを見て、ヒロキはシホの秘部から指を離し、お腹の辺りまでもっていき、
おへその周囲を優しく、子猫の頭を包むようにそっと優しく、撫で擦った。
ヒロキの手はシホが分泌した淫らな液体でべっとりと濡れており、
彼の指が円を描く度に、シホのお腹にそれが塗りつけられていく。
薄暗い部屋の中で、その円の部分が、鈍く、そしていやらしく光った。
「シホちゃん……」
ヒロキはシホの耳元に口を寄せると、低い声でささやきかけた。
ヒロキの分身は、もはや限界に近い状態で屹立しており、今すぐにでも柔らかい肉壁に突入したがっているようだった。
ヒロキ自身も、引き絞られた性欲の弓を放ちたい気持ちになっている。
シホが欲しい、シホをメチャクチャにしてやりたい、と。
「……ヒロ君……」
ヒロキの問いかけから数十秒経って、やっとシホが言葉を紡いだ。
すぐに反応出来なかったのは、軽くとはいえ、イッてしまっていたからだ。
「……シホちゃん」
「ヒ、ロ……くぅん……」
二人はどちらからともなく、顔を近づけた。
貪るでもなく、ゆったりでもなく、ただ静かに、二人の唇が重なる。
挿入の確認を、言葉にする必要はなかった。
そのキスだけで、ヒロキとシホには充分だった。
「ああっ、んっ、ヒロ君……っ!」
「シホちゃん……!」
欲望のままに、ヒロキは腰を突き出す。
シホの細い体が、純白のシーツの上で妖しく左右に揺れ動く。
「くぅ、ううん……やぁ……っ、す……ごい、よぉ」
ヒロキの額に滲んだ汗の一滴が、ポトリとシホの頬に落ち、唇へと流れていく。
「はぁ、ああ……ヒ、ロ、くぅ……」
「シホちゃん、シホ……!」
異様なまでの興奮が、ヒロキの背筋を貫いていく。
自分がマネージャーとしてついている売れっ子のアイドル、十歳も下の少女。
それを、こうして貫いている。
背徳感にも似た、黒い快感。
「あぅ……!」
シホもまた、ヒロキと似たような思いを抱いていた。
マネージャー云々ではなく、ヒロキのことは普通に男性として好きだ。
年の差や立場なんて関係ない。
だが一方で、後ろめたく感じるのもまた事実。
ユーリとカルナが、異性としてヒロキを好きかどうかはわからない。
だが、ひとりの人間として好意を、信頼を寄せているのは確かだ。
TBのマネージャーとして常に頑張ってくれているヒロキを、こうして独占している嬉しさと罪の意識。
「あ……ぅ!」
「くぅ!」
腰と尻とがぶつかりあう渇いた音、秘部同士が擦れあう湿った音、そしてベッドが軋む濁った音。
それに加え、二人の口から漏れる熱い息の音と、自然に出てくる快楽の声。
五つが混じりあい、淫らな楽曲となって、二人を上へ上へと押し上げていく。
「……っ!」
ヒロキの挿入のスピードが増した。
絡み合った音もともに、アップテンポになっていく。
「い……ぃ……あ……!」
ヒロキの背中に回されていたシホの手が、パタリとシーツの上に落ちた。
閉じられた目蓋からは涙がとめどなくあふれ、また、唇の端から、唾液が一条の細い滝となって零れ落ちていく。
顎の下から鎖骨一帯にかけ、肌の赤みがぐっと鮮やかになる。
それは、シホが快楽の深遠に到達しようとしている予兆だった。
「シ、ホ……ッ!」
ヒロキもまた、爆発の時が近いのを感じていた。
そこにたどり着こうと、さらに腰を繰り出す速度を上げる。
「あ……ああ……」
シホが身体を硬直させた。
続いて、その身体中に小さな汗の珠を浮かび上がらせる。
山の頂点を通り越え、その上にある快楽の極致に、シホは放り上げられた。
「くうっ!」
ヒロキも我慢の限界に達していた。
ほとばしる直前、ヒロキは自分のモノをシホの中から抜き去った。
そして、達したままの状態であるシホの顔に、それを近づけた。
「う……」
びゅ、びゅっと物凄い勢いでシホの顔に叩きつけられるヒロキの欲望の証。
頬にぶつかったそれは、唇、鼻、そして閉じられた目と、色々な方向にドロリと広がっていく。
その光景の、何と淫靡なことか。
「……ああ」
ヒロキは放出してからも十数秒程、自分の征服欲によって汚されたシホの顔をぼうっと見ていた。
自分より十も下の女の子。
国民的アイドルになりつつあるアイドルユニットのメンバー。
マネージャーとして面倒を見てあげる存在。
今だ発達しきらぬ、青い果実と呼ぶにふさわしい、スレンダーなその身体。
コロコロと変わる愛くるしい顔。
周囲の全てを笑顔にさせてしまう、明るい性格。
それを、ヒロキは完全に自分のものにしているのだ。
「シホちゃん……」
ヒロキは何かを振り払うように顔を数度左右に振った。
そして、シホの顔に飛び散った自分の精液を拭うべく、ベッドの下からウェットティッシュを取り出した。
明日は幸い、シホに仕事はない。
ユーリとカルナがともにインフルエンザに罹って療養のため自宅に帰っており、まるまる一週間仕事をキャンセルしたのだ。
当然、スケジュールに皺寄せが来るが、それはマネージャーであるヒロキの腕の見せ所だ。
彼もまた、TBと一緒に成長している。
レイコに怒られまくっていた三年前とは違う。
「……」
ヒロキは濡れティッシュをゴミ箱に放ると、ベッドから立ち上がり、毛布を二枚取り出して、シホの身体にかけた。
そして、次に浴室へと向かった。
熱いお湯をシャワーから出し、タオルを濡らして、それで身体を拭く。
シャワーを使わないのは、水音でシホが目覚めてしまうかもしれないと思ったからだ。
一通り身体を拭き終えると、服を身につけ、ヒロキはシホの部屋へと戻った。
シホは幸せそうな表情で寝息を立てているが、その息がまだ少し荒い。
身体が快楽の頂からまだ完全に戻ってきていないのだろう。
「お休み……」
ヒロキはシホの身体に毛布をかけなおした。
さらに、エアコンを操作して、部屋の温度を一定に保つようにセットした。
彼女の身体は大切だ。
アイドルとしても、ヒロキの恋人としても。
「ふわ……あ」
大きくひとつ、ヒロキは欠伸をした。
ポケットから携帯電話を取り出し、時間の確認をする。
表示は、2:30となっていた。
「着信は……社長と、それから……」
履歴を確かめつつ、ヒロキはシホの部屋から出ると、玄関へと足を進めた。
そして扉から顔を出すと、周囲をチェックする。
マンションの通路は、静まり返っていた。遠くから、監視カメラの機械音が僅かにヒロキの耳に届いてくる。
「よ……っと」
足音をたてないよう、ヒロキは通路へと身体を滑り出させた。
ヒロキの背後で、ガチャリと自動ロックシステムが働く。
「さて……」
ヒロキはもう一度携帯を取り出すと、緊急性が高いと思われる相手を探した。
足は監視カメラがあるエレベーターではなく、ほとんど誰も使わない非常用階段へと向けられる。
「あ、もしもし、社長ですか? 井戸田です……」
響かないよう、だが確実に相手に聞こえるよう、ギリギリまで小さく低くした声で、ヒロキは電話の向こうにいる相手に話しかけた。
「はい、いや、ちょっと所用で電話に出れなくて……。や、やだなあ、女じゃないっすよ、女じゃ」
真っ暗に近い非常階段を、ヒロキは降りていく。
「はい、シホちゃんは大丈夫ですよ。ええ、明日早朝、講談企画に言って話を詰めてきます……」
シホは明日休み。
だが、ヒロキは休みではない。
「ふう……」
レイコとの話が終わると、ヒロキは階段途中で立ち止まり、溜め息をついた。
白い息が、ほわりと薄暗闇の中に広がっていく。
ヒロキは、携帯電話をコートのポケットにしまいながら、後ろを振り向いた。いや、上を見上げた。
階段のずっと上にある部屋では、シホが、彼の恋人が眠っている。
「……」
ヒロキは顔を前に向けた。
そして、慎重に、しかし危険ではない最大の速度で、階段を再び降り始めた。
彼の幸せは天上にあるが、やるべきことは地上にある。
トリプルブッキングをスターにするため。
そして、シホとの愛を守るため。
彼は働く。
明日も、これからも。
飯田シホ、有銘ユーリ、如月カルナの三人によるアイドル・ユニット、トリプルブッキング。略称TB。
TBは結成三年目を迎えて、三人は順調にステップアップを果たしていた。
芸能界とは生存競争が激しく、生き馬の目を抜くという表現がピッタリだ。
同時に、運も大きく関わってくるところでもある。
下積みに下積みを重ねてもまったく売れない芸能人もいれば、ひょんなことがキッカケであっさりとブームに乗ったりする。
不断の努力が結果に直結しないことが多々ある一方、
オーバーナイト・サクセスという言葉もあるように、「一日経ってみれば売れっ子」になる可能性も充分に秘めた世界なのだ。
幸いにも、TBは「売れっ子になる」ことが出来た。
三人にアイドルとしての素養があったからだが、多くのラッキーに背中を押されたのも事実だ。
事務所の社長柏木レイコや、マネージャーの井戸田ヒロキの支援も大きい。
何にせよ、TBは成功しつつあるし、未来は明るい日差しに満ちているように思える。
大きなスキャンダルが無ければ、このまま無事に成長していくことだろう。
売れっ子の三人に声をかける男性は多いが、社長の柏木レイコが目を光らせているため、
まだ誰ひとりとして「お友達」以上の関係に進んだ者はいない。
本当に彼女らを好きではなく、その名声に擦り寄ろうとする者もいるが、
とにかく外部からの不埒者は全てシャットアウトされている。
そう、外部から……は。
F I N
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