私は畑ランコ。
好きな曜日は金曜日、趣味は脚色。

そんな私は今日に限って、早く登校して新聞部にて作業を行っている。

「こんな内容じゃ……新聞にはならないわね」

改めて、昨日撮った写真を確認する。
津田副会長と、会長が性を交わす場面。表現を緩めればよいかもしれないが、それは私のプライドが許さない。

そしてもう一つ気になったことがある。

「萩村さんからのメール……」

行為の最中に彼の携帯電話に届いた一通のEメール。証拠画像はバッチリ収めている。

もし彼女と事前に行為をしていたのであれば、会長との行為は浮気になる。
どちらに対してもの、深刻な裏切り。

私が告白シーンを収めることが出来たのは、生徒会顧問である横島先生のリークがあったからだ。
だとすれば、横島先生は事前に副会長が告白することを知っていたということになる。もしかしたら、浮気してることも……。
それだけじゃない。もし、彼が2人に留まらない行為を展開させているとすれば、そしてそれを先生が承知していたとしたら。

「私が調べるべきなのは、彼だけじゃない」

横島先生だって調べなければならない。
なぜ副会長が乱心をしているのか、どこまで進んでいくのか。そしてなぜ、先生は知っていながら傍観に徹するのか。

「時間は、まだ早いわね」

そう思って時計を見るも、時刻は8時前だ。今の時間は職員会議などで忙しく、とても隙がない。
行くならば生徒の側。私は津田副会長を引き続き追跡することに決め、昇降口へと向かった。


昇降口へ行くと、丁度よいタイミングで彼の姿を見ることが出来た。
左隣に、ポニーテールの凛とした女性を連れている。

「隣にいるのは……柔道部部長の三葉ムツミさんね」

彼女については以前取材したことがある。
彼に好意を抱いている感じはあった。だが見る限りでは、性を交わした様子ではない。

それより気になるのは、手紙だ。
双眼鏡で確認してみると、靴箱の中からラブレターらしき封筒が現れたのだ。

2人の口の動きを見てみる、『イッテミタラ』『ソウスル』と言っているように見える。
ズーム調節をし、手紙に記された文字を読み取る。『屋上』というキーワードがそこにはあった。
ここは先回りをすべきだと判断し、2人から離れて階段を上る。

「でも、本当に来るのかしら」

無意味な不安が頭を過る。いや、彼の性格なら行かないわけがない。
そう思い私は屋上のドア前に着く。ドア窓から外が見える。網に手をひっかける女子生徒がそこにいた。
幸いにも私の存在は知れていない、確信し音が鳴らないよう扉を開く。


扉を開くと同時に、秋風が吹き声が出そうになる。
私の位置からでは彼女の顔を知ることは出来ない。だが、いずれ知ることになる。

これは戦い、何度も脳裏に過らせて武器を握る。
事前に用意していたパチンコ玉サイズのカメラ&盗聴器だ。これを彼女の近くにまで転がせば、音を拾うことは容易だ。

彼女がこちらを振り向く前にと、死角に隠れてカメラ&盗聴器を転がせる。
振り向くなと願いながら即座に隠れる。だがその瞬間だった。

「誰だ!!」

大声と共に彼女は振り向いた。ドアの反対側で死角となっている私は見つからないが、カメラ&盗聴器はそのままだった。
沈黙の中で私は見つからないことを祈る。それと同じく、盗聴器とリンクしたイヤホンを装着する。

「……チッ、気のせいか」

それはイヤホンから聞こえていた。どうやら存在に気付くことはなかったのだ。
良かったと胸を撫でおろすと同時に、疑問をもってしまう。

「もしかして彼女が、告白を?」

だがあの威圧感は、恋する乙女の類ではない。
そう思っているとドアの開く音が突如響いた。

「副会長!?来るの早かったわね」

できればゆっくりと準備をしたかったが、仕方がない。
私はカバンからポータブルテレビを取り出し、盗撮カメラとリンクさせた。


そこにいたのは、やはり津田だった。
彼は一歩ずつ歩き、女性の背後へと立つ。

「手紙をくれたのは……キミ?」

彼女は何も答えずに、ゆっくりと振り向いた。

長い前髪に隠れた右眼、鋭い眼光をもつ左眼。お嬢様学校に不相応な乱れた服装。
こんな格好をしている女性は、学園広しど一人しかいない。

「時さん?」

トッキーこと時さんだ。
もし彼女が告白をするのだとすれば大穴だ。ワクワクが止まらない。
だがカメラ越しに見る彼女の表情は、恋する乙女ではなかった。敵と対峙するかのような。

「そう、アンタを呼んだのは私だ」

両手で網を掴み、彼女は答えた。
時さんの頬には紅潮が見えず、声にも振るえが見られなかった。おそらく告白ではない、別のことを話すために呼んだのだろう。

回りくどいことではない、確信し。
私は彼女の声を聞き逃すことのないよう、イヤホンの音量を一段階上げる。

「昨日一緒に歩いてた、萩村先輩とは付き合ってんのか?」

時さんの質問は、私の想像を超えるものであった。
メールでしか知ることのできなかったこと、知らなかった場面を彼女は知っているのか。

「ああ、付き合ってる」

返す津田も、また意外であった。
ここに私が立てた二股説は、事実だということが判明した。
だが喜ばしいことではない。時さんがタイルを見てふと笑った。


「そーか、それならよかった――」

彼女の笑みと共に、津田の表情が緩んだその瞬間だった。
私も――おそらく津田すらも思い描くことのない事態が起こったのだ。


盗聴器が鈍い音を微かに捉えた。
その音は、時さんと津田の間から聞こえていた。

信じられない状況が、私にはスローモーションで見えていた。
時さんの拳が津田の鳩尾へと突き刺さっていた。ブローを食らっていたのだ。

「ぐっ……!!」

悲鳴にならない声を出し、津田は膝をつく。
唐突なる攻撃に体が対応できていない。息すらも整えられなかった。

「それなら何の抵抗もなく、アンタを潰すことが出来る」

津田は息を整えるのに精一杯で前が見えていない。
だからこそ時さんは追撃した。腰に目掛けて踵落としを放ったのだ。

声も無く、津田は横たわる。
いかに危険であろうが、理解する意識がなかった。苦痛に耐えるだけで、逃げる余裕が無いのだ。
突如現れた状況を知るには、私の情報ではあまりにも少なすぎる。
瞬間、津田がゆっくりと立ち上がり時さんと対峙する。

「な……んで、こん……――」

返事を待たずに、追撃が襲いかかる。
顎に右ストレートが直撃し、仰向けに倒れた。

「心当たりが無いなんて言わせねーぞ、テメエが昨晩何したか頭捻って思い出せ!!」

そこで、初めて時さんは自らの感情を顕わにする。
カメラ越しだと分かっていても、鳥膚がたってしまう。恐怖を感じてしまう。
彼女の怒りの矛先が、津田の暴走する先にあった。
時さんの指す『昨晩』を、私は知る由がない。2人だけが知る真実がそこにあったのだ。
津田の襟を掴み、無理矢理立たせて顔を近づける。

「まさかテメエが妹に手を出すクソ野郎とは思わなかった」

前髪に隠れた右目から涙が流れていた。
盗聴器から聞こえた事実を、私は聞き逃さず捉える。
全ての怒りは、『友情』だったのだ。


時さんの話が事実だとすれば、津田は萩村さんと付き合っている上で、会長に告白・セックスをし、その晩に妹を犯したことになる。
その行動は常識を超えたものであり、沸点を超越する事件であると容易に納得できる。

「アンタも所詮、他の男と一緒かよ」

放たれた拳は、強いタメをもったものだった。攻撃は鼻にあたり、双穴は多量の血を垂れ流す。
凄惨な現場は見るに堪えないものへと変化していた。

「コトミに手を出すクソッタレは私が潰す」

あらゆる場所から流血し反撃すら出来ない津田を、時さんは決して許すことはしなかった。
そして彼女の攻撃は、最もの生死に関わる頸へと移る。
彼女はそのまま、頸を締め出したのだ。

「あっ……があっ……」

津田は抵抗しようとするが無駄だった。
時さんは馬乗りとなり右腕を抑えているため、四肢が全く機能しないのだ。

これは盗撮どころでない。最低限度の常識を弁える私は、この所業を止めようと立ち上がった。
バレたって構わない。こんな場所で、事件が起きてはならないのだ。


「やめてェッ!!」

だが時さんの暴走を止めたのは、私ではなかった。
純黒のツインテール、呆れるまでに実直な瞳。それは先程に昇降口で見た彼女だった。

「みつ……ば?」

そこにいたのは柔道部部長の三葉ムツミ。
津田とはクラスメイト、時さんとは柔道部での先・後輩関係にあたる。

「トッキー、何してんの!?」

穢れを知らない底抜けまでにピュアな彼女を、ここまで頼もしく思ったことは無かった。
ゆっくりと歩を踏みしめながら、時さんのもとへと迫っていく。

「チッ……部外者は下がれ――」

感情のままに拳を突き出す。だがそれは衝撃を起こすことはなかった。
本来なら胸に当たる筈の攻撃を三葉は避け、視界から姿を消したのだ。
時さんの動きが止まる。正拳を外した疑念からか、それとも消失したことから来る隙なのか。
兎に角も、彼女には大きな隙が出来ていた。喧嘩と格闘技の違いか、対象を見失うことがここまで影響するのか。

三葉は、時さんの左側へと回っていた。
彼女の目は芯が宿っていた。決して私闘を行う目ではない、正義なる格闘家――否、柔道家の目だ。

「破アッ!!」

時さんの左手にふと触れた、その瞬間だった。
三葉は右で袖を掴み、自らの肩へと引っ掛ける。そして時さんの足が宙へと浮かぶ。

「グッ……」

まさに一瞬の出来事だった。
時さんの攻撃をかわし、あっという間に反撃の一本背負いを極めてしまったのだ。
インターハイ二回戦出場の経歴は伊達じゃなかった。

勝負は決した。


投げられた後、時さんは立ち上がろうとしなかった。
負けを認めたのだろうか。

「タカトシ君、大丈夫?」

三葉は彼女が動かなくなったのを確認すると、ボロ布と化した津田の頬を叩いて意識を確認する。
当然ながら息はあるらしく、彼女はふと微笑みかけると肩を使って起き上がらせた。

「保健室……行こっか?」

こうして2人は屋上から離れて、階段を下りて行った。
哀しみの感情を伝える手段も持たずに、タイルを叩く時さんを残して……。


そして私も、気付いたら保健室の前にいた。
津田がいなくなった以上、時さんを観察し続ける理由などない。
だが彼女の存在も無駄ではなかった。津田の所業を知ることが出来たのは何よりも大きかった。

「それを考えると、彼女も危ないわね」

自分で言っていて冗談とは思えなくなる。
保健室という密室で、思春期男女が二人きり。何も無いことなどありえるだろうか、いやない。
三葉は自分から彼を押し倒したりはしないだろう、だが津田はどうだ。

人間、瀕死状態であると性欲が滾るという話は聞いたことがある。
まさに今の津田は瀕死状態だと言える。だとしたら、三葉は拒むであろうか……。

私はもう一度深呼吸をし、保健室を覗くことにした。


「あれ……ここは?」

起き上がった津田は上半身裸だった。彼女が脱がせたのだろうか?
殴られた痕なのか、体のあちこちに内出血や脹れが目立つ。

「保健室。ケガ酷いから寝てていいよ」

そんな津田の額に、濡れタオルをあてているのは三葉ムツミだ。
怪我の介抱をしていてとても立派に見えるが、彼の裏の顔を知ってしまえばそんなことは到底出来ないであろう。

暫し2人の間に、沈黙が流れた。
彼女の頬が微かに桃色がついていたが、あまり気にしないことにしよう。


「三葉……」

その沈黙を打ち破ったのは、津田だった。
三葉は体を以前として拭きながら答える。

「なあに?タカトシ君」

「訊かないんだな、オレが殴られてたこと」

確かに彼女の行動は狂気じみていた。だがスイッチを入れたのは間違いなく津田なのだ。
それでも三葉は表情を変えることはしない。

「言いたくないんなら言わなくていいよ。それより私、謝りたいの」

「えっ……なんで?」

彼女の言葉に驚いたのは、私も津田も同じだった。
いつにもない笑顔で、三葉は答える。

「何も考えずに、『行ってみたら?』なんて言っちゃって……タカトシ君も傷ついちゃったし」

私も津田も、三葉の性格は承知している。
天真爛漫で、恋愛を前面に押し出さないことも。ラブレターを見つけたからといって嫉妬に狂うこともないということを。

「謝りたいのはオレだよ。それより……助けてくれてありがと――な」

津田はゆっくりと起き上がり、三葉の項を掴んで引き寄せた。
それは目を疑う光景だった。なんとキスを交わしたのだ。

「タカトシ…君……」

唇が離れると、三葉は現状を飲み込んだのか紅潮する。
2人の光景はさながらラブストーリーのよう。勿論、津田のしてきたことを知らなければだ。

「ムツミ、愛してる……」

2人を止めるものはなかった。
時さんから受けた傷跡は未だ引かず、脹れたままである。
だがそれすらも、彼の膨張を促進させるものだったのだ。

抱擁しながら、ディープキスをしながら。
様々な方法を用いて、二人の愛は固いものになっていく。


いつの間にか2人は全裸になり、攻勢も逆転していた。
津田が攻め、三葉が毛布を銜えながら襲ってくる快楽に耐えているのだ。

「ムツミ、我慢しなくたっていいよ」

「だって……恥ずかしいもん」

声がしなくたって、私は分かってる。
彼女が充分すぎるほどの快楽を受けているということ、そしてもう限界が近付いているということも。

秘所を舐める力が、徐々に変わっていく。
それに応えるかのごとく、気持ちも抗えなくなっていく。

「――っあ……んん――っ!!」

そして津田がもう一段階と舌を進めた瞬間、三葉は津田の頭を掴み奥へと押しやる。
歯型が残りそうな程に毛布を噛んだかと思ったら、背をピンとして痙攣を起こしたのだ。

ピュアの代名詞のような三葉ムツミが、一番エロから遠かった彼女が。
誰よりも官能的な表情を晒していた。自らの深淵を知ってしまったのだ。

「タカトシ君……はや……く」

そして今や、自ら悦楽を求めて捩るようになったのだ。
私が知る、誰よりも艶やかだった。自分に正直なところは、濡れ場と呼ばれるものでは変わりはしなかった。

「じゃあ……力抜いてな」

三葉が求め、津田は自らの凶器を示した。
これを見るのは二回目だが、恋愛対象でない異性のモノを見るのはやはり慣れない。
やはり避妊具の類を装着することはしない。
どこまでも自分に正直なのは、彼も同じなのだ。

「うんっ、でも……タカトシ君がするなら痛くても平気だよ」

その言葉は肯定を示していた。
どこまでも彼女はピュアで、だからこそ扇情的だった。
津田は彼女の示す言葉通り、分身を一気に挿し入れたのだ。

「痛いか……ムツミ?」

「平気って――言ったじゃん。気持ちよくして……」

三葉は、既に私の知る彼女像を超える別人へと成り果てていた。
だが決して堕ちた女ではない、清純と艶の混じった特有の――大人の女性になっていたのだ。
彼女の笑顔が、津田を狂気に変える。
津田は無心で腰を打ち続ける。それが彼女の望んでいることなのだと知っていたから。


だがその一方で、保健室外から覗きこむのはあまりよい気分ではなかった。
津田の人間像が、悪い意味で大きく変わってしまったのだから。

幾多の浮気、重ねていく情欲。

無論ここまで知った彼のことを放り出すわけにはいかない。
津田の進む先、堕ちる先を見届けなければならない。私には微かに、でも確かに感情が揺らめいているのだ。


「ごきげんよう、畑さん」

私が考え事をしながら情事を覗く横側から、突如女生徒が話しかけてくる。
彼女は私が知る人物であった。

「あら五十嵐さん。会うの久々ですね」

栗色の三つ網ヘアーに、風紀委員の腕章。
風紀委員長の五十嵐カエデさんだ。
男性恐怖症を除けば、まあまあのスタイルに博識と、意外とセールスポイントの高い女性だ。

「まあね。何を見ているの?」

だが彼女は私が覗いていた保健室に、興味津々の御様子だった。
ここでどうたら垂れて罪を見逃してもらおうとは思わない。彼女の検視を容認したのだ。
えっ…五十嵐さんの反応を見る為にわざと見せているのかって?
何をふざけたことを言っているのか。

「いっ…淫猥!風紀が乱れてるわあーっ!!」

当然だ。当たり前に決まってる。
異性恐怖の典型的マジメ人間が、情事の場面を見て正常でいられるわけがなかった。

「期待通りの反応……88点だわ」

津田の暴走を頭の隅におき、私は彼女の反応の清純さに心を落ち着けていた。
それが現実逃避であることを知りながらも……。

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