「さぁ、日頃の顔射を込めて、精一杯奉仕しましょう」
「わざとらしい言い間違いはやめろ」
 光陰矢の如しとはよく言うが、今年もあっという間に過ぎ、はや師走。
学生も社会人も、何かと忙しい時期である。
自然、体も心も緊張の度合いが増してくる頃であるが、
ここ小久保邸に集まった面々は、ちょっと違った意味で緊張をしていた。
「何よ、照れなくてもいいじゃない」
「照れてねーよ」
「やれやれ、マサは本当、強張りだねえ」
「それを言うなら強がりだろ。つーかマジで照れてないから」
「ふうん、五人揃った美女が無償でその身を捧げようってのに、アンタやっぱりED?」
「その胡散臭い笑顔と胡散臭い台詞、とりあえずやめてくれ」
 小久保マサヒコ、天野ミサキ、濱中アイ、的山リンコ、中村リョーコ、若田部アヤナの六人は、またぞろ小久保邸に集っている。
例の如く、中村リョーコの強引過ぎる計画発動によって。

 いつも無理を聞いて貰っているマサに何かしてあげましょう―――と、中村リョーコが皆に呼びかけたのが数日前のこと。
無理も何も、それを押し付けているのはほとんどがリョーコなのだが、そんなことをいちいち気にする彼女ではない。
正味の話、皆で集まって騒げりゃそれで彼女はいいのだ。
大手のいつつば銀行に勤務するこの眼鏡痴女、もとい眼鏡美女は、とにかく周囲を巻き込んでガヤガヤとするのが好きなのだった。
 で、十二月の最初の日曜日、召集をかけられたいつもの面子は、そこでリョーコの持ってきた荷物を見て絶句した。
大きなダンボール箱、その中には、一体何処で手に入れてきたのやら、五人分のサンタルックが収められていたのだ。
しかもただのサンタルックではない。
どこのキャバレーで使うんじゃこりゃあ、と言わんばかりの際どいミニスカのサンタルックである。
ちなみに、リョーコ単独で持ってきたのではない。
彼女の奴隷……兼恋人(一応)の豊田セイジをアッシーにして持ってきたのだ。
なお、彼は休日出勤であり、半分涙目だったことを付記しておく。
「まぁとにかく、アンタに悦んでもらうためにこうして集まったわけよ、自発的に」
「強制的に集めたんだろ。それにヨロコブの発音が妙におかしいぞ」
「気にしない気にしない」
 今日、小久保邸にマサヒコの父母の姿はない。
小久保父は出張で遠出、母は婦人会の日帰り旅行で不在なのだ。
何だか小久保邸に皆が集まる時は決まってこの二人がいないが、
逆に言えばそういう時を狙ってリョーコが召集をかけているのである。
で、何でマサヒコ両親の外出情報をリョーコが知っているのかと言うと、
まぁ裏で小久保母とリョーコが連絡を取り合っているからに他ならない。
今のところ、マサヒコの将来の嫁候補には現彼女であるミサキをプッシュしている小久保母であるが、
それはそれと脇に置いておいて、外見が異様に若いこの御母堂様、
一人息子が女性に囲まれて引きずりまわされるのがもう楽しくて仕方がないタチなのだ。
色んな意味で息子の成長を期待しているともとれて、何とも微笑ましい母の愛……とは、いささか皮肉過ぎか。
「さぁ、マサのために料理を作りましょう」
「でも先輩、いくらなんでも五人も揃えばキッチンがおしくらまんじゅうですよ?」
「材料も買い過ぎだと思います、お姉様」
「わーい、パーティみたいですね」
「……」

 小久保邸は決して狭くはない。
むしろ、父一人が収入源のこの家庭にして、結構なお家であると言える。
もっとも、いくら父が働きバチでもポンと家一軒を買えるわけではない。
もともと、この家は彼の両親、すなわちマサヒコの祖父母のもの。
マサヒコが産まれる少し前、仕事を辞めた祖父母は故郷である青森に移った(戻った)というわけだ。
「ん? ミサキちゃん、何か元気ないみたいだけど、どうしたの?」
「え、え? ううん、別になにもないよ、リンちゃん」
 さっきからミサキはほとんど言葉を発していない。
たまに口を開いたかと思えば、小さく溜め息ばかりをついている。
それもそのはずで、本来なら今日、ミサキ一人でこの家にやってくる予定だったのだ。
マサヒコの御近所さんにして恋人であるミサキは、当然小久保両親が今日不在であることを知っていた。
そこで、押しかけてご飯を作ってあげよう、上達した腕を見せてあげよう……と考えていたのだが、
リョーコの邪魔がタイミングバッチシで入り、儚くも甘い夢は雲散霧消してしまったという次第なのである。
ちなみに、こういった「二人っきりになれる機会」は、結構な確率でリョーコによって潰されている。
「さて、精力のつくものをババンと作ってやりましょう! 連続発射してもなお萎えないような料理を!」
「お姉様、卑猥です……」
「まあ、何にしてもいっぱい作ればいいですよね」
 食うことに関しては妥協しないアイは、結構乗り気になっている。
ダイエットには気を使っていると言いつつ、ご飯を三杯食う彼女である。
スーパーのビニール袋からゴトゴトと取り出す食材はゆうに十人前はあろうかという量だが、
おそらくこの半分は彼女の胃袋に収納されることになるだろう。
「よし、じゃあ私とアイは煮込みハンバーグを作るとするか。アヤナは付け合わせのサラダを任せたわ」
「……ふうん」
「ん、何よマサ、その一言ありそうな顔は」
「いや、今日の朝に見てた情報番組の料理コーナー、確か煮込みハンバーグだったなと思って」
「あらあらおほほ、偶然ねえ」
「結局アンタが食べたかっただけなんじゃないのか、おい」
「さあて、何のことやら」
 マサヒコのツッコミをわざとらしい微笑みで回避するリョーコ。
この程度のやりとりでボロを出すような可愛らしい性格の女ではない。
「で、ミサキはお米をといで」
「え?」
「アンタはとりあえずご飯担当。それなら失敗しないでしょ」
「ひ、ひどいです。私だってちゃんと色んな料理が作れます」
 マサヒコのために日々腕を磨いているミサキである。
お前は白飯炊いてりゃいい、と言わんばかりのリョーコの役割分担には、納得出来ようはずもない。
そもそもが、今日は彼女がマサヒコに手料理をふるまうつもりだったのだから。
「手順の問題よ手順。他にも色々とこさえる予定だから、ほれ、ちゃっちゃと年長者の言うことを聞いた聞いた!」
「ううう……」
 ミサキ、リョーコにあっさり寄り切りで押し出され負け。
ここでガッと強気になって抵抗すればマサヒコのカノジョとして面目躍如なのだが、
それがここで出来るような女なら、事が起こる前にリョーコの召集をはねつけてマサヒコをかっさらい、
どっかに連れ立って外出でもしていたであろう。
「中村先生、私はどうすればいいんですかあ」
「あーリンはね、えーと、居間でマサに茶でも淹れといて」
「えー、お料理は……」
「いや、やっぱりさすがに五人もいると手狭だから。必要になったら呼ぶわ」
「はぁい」
 トテトテ、とスリッパの音をたてて、リンコは棚からきゅうすを取り出す。
どこに何があるかを知っている辺り、この小久保邸にどれだけ入り浸っていたかがわかると言える。
中学時代からこっち、何かあるとこうしてこの家に集まってきたのだ。
その回数を数えれば、さて、両手両足の指が何本必要になることか。
「おっと、その前に着替えないとね」
「やっぱり着るんですか、あれ」
「当たり前でしょミサキ、何のために持ってきたと思ってるの」
「わ、先輩、これ私にサイズがピッタリですよ」
「本当だあ、私にもピッタリだあ」
「お姉様、私のサイズをどこで知ったんですか」
「じゃーん、ちゃんとエプロンまで用意してあるわけよ……ん、マサ、着替えを見る?」
「見ねーよ」
 並の思春期少年ならちょっぴり目を輝かせてしまうリョーコの提案を、あっさりとマサヒコは蹴り飛ばした。
伊達に何年も彼女のエロボケ攻撃を受けてきたわけではない。
こういったところのかわし方は、脊椎反射出来るくらいに体が覚えている。

 ◆ ◆ ◆

「さて、タマネギはこれくらいでいいか……アイ、ちゃんとハンバーグを練ってる?」
「はい、練ってます」
「優しい手つきでね。ほれ、こんなくらいの力で」
「きゃあっ!? お、お姉様、む、胸を触らないで下さいっ!」
 女数人寄ればかしましい、とはよく言われることである。
が、それも料理を作っている間となると、さらに倍率ドンで騒がしくなるのはどうしてなのだろうか。
古今東西、女だけの厨房でシーンと静まり返っている状況はまずない。
一方、逆に男だけが集まって料理を作る際、妙に誰も口をきかなくなる場面が往々にしてある。
この違いは何なのか、誰か謎を解いてもらいたいものである。
「んー、また大きくなったんじゃないの、アヤナ」
「な、なってませ……ああんっ!」
 タマネギを炒めるフライパンの火を弱火にし、リョーコはアヤナの背後に立つと、
その脇の下から手を差しこんで、そっと胸を揉みしだいた。
「あっ、あん」
「ほうほう、いい声で泣くじゃない?」
「や……んっ、ん……!」
「ほれほれ、フーッ」
「ひゃあああっ!」
 さらに、アヤナの一番の弱点である耳元も攻撃。
言葉と息のダブル責めだ。

「この大きな胸で擦ってあげたら……ふふふ」
「こ、す……? やっ、も、もうやめて下さいお姉様ぁ」
「サンタルックの前をはだけて、マサの前に跪いて……」
「あ、はぁ……っ!」
「挟んで、上下に、左右に、ズッ、ズッと。そう、こんな感じで」
「や、ああん!」
「マサ、悦ぶわよ。……きっと」
「はぁぁ……こ、小久保君が……?」
「ちょ、ちょっと中村先生っ! ストップですっ!」
 リョーコの暴走行為に、ミサキは待ったをかけた。
百合的な悪ノリを止めるためだが、一方でマサヒコのことを囁かれた瞬間、
アヤナの目が一瞬にしてトロンとなったのをミサキは見逃さなかった。
前々からアヤナのマサヒコに対する感情に不透明さを覚えている彼女である。
若田部アヤナは大切な友達だが、それでも恋と友情は別モノなのだ。
「んー、こっからがおもしろいところなのに」
「お、おもしろいとかおもしろくないとかじゃないですっ」
「ふふふ、そんなに不安? アヤナの気持ちのことが」
「え、えっ?」
 リョーコはそんなミサキの心底なぞお見通し。
何せ、恋愛と性の色んな部分を見てきた経験が山のようにある。
「アンタもやっぱり恋する乙女だねえ」
「え?」
「ほいほい、と。まったく、腹立たしいくらいに……えいっ」
「!? も、もがもがもが」
 リョーコはテーブルの上からデザート用に買っておいたバナナをひとつつまむと、
手早く皮を剥き(手慣れている)、その先っぽをミサキの口にぐいっと押し込んだ。
「ほれほれ、マサにもこういうことをしてあげてるんでしょ?」
「も、もがもがもが」
「付き合い始めてから一年以上経つのに、フェラもまだやってないってことはないわよねー」
「もがが、ぷ、ぷあっ」
「料理以上に舌の技術を磨いてるかってことよ、うりうり」
 左手でアヤナの胸を揉みつつ、右手でミサキの口にバナナを突っ込む。
恐るべし中村リョーコ、と言ってしまっていいものやら。
だが、この場合はやられる方の二人の迂闊さを指摘するより、
彼女のおかしいまでの手際の良さに注目するべきであろう。

「あむむっ、や、やぁ、やめてくださあい!」
「舐めたり吸ったり咥えたり、ってのは基本なわけよ。ほれ、やってるんでしょ?」
「やっ、んんっ……! そ、そんなにやってませんっ!」
「ほうほほう、そんなに、ねえ」
「先輩……オヤジです」
 年少二人組をもてあそぶリョーコを見つつ、ツッコミを入れるアイ。
どうして止めないのかと言うと、その両の手はハンバーグを練ることに使われているから。
「んー、アイ」
「はい、何です?」
「アンタがどうしてまだ処女なのが、何となくわかるわ」
「ナンですかそれは」
「食い気優先……」
 ミサキとアヤナを解放すると、リョーコは小さく首を左右に振った。
やれやれ、という風に。

 ◆ ◆ ◆

「……おい、あんまりくっつくなよ。このコタツ、そんなに広くないんだから」
「えー、でもこの位置じゃないとテレビがよく見えないし」
「でも無理に足を押しこまなくても、別のところから入れば」
「んー、えへへへへへ」
「何がおかしいんだか……」
 そして、居間では伏兵が。
「ねえ小久保君、ちょっとこのコタツ、熱くない?」
「そうか?」
「脱いでいいかなあ」
「敢えて聞く。何をだ」
 何気にマサヒコといい感じになっていたりするのであった。


 小久保マサヒコへの、サンタルックの女五人のご奉仕は、まだまだ始まったばかり―――


 F   I   N

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