1 2006 6/9 19:10

 「…は?」
 あまりに唐突な小宮山のその発言は、ここは夢の世界かとアキに一瞬だけ錯覚を起こさせた。
「イク」という言葉と「合う」という言葉がどうしても頭の中でつながらない。
まさかここにいるみんなで体を重ねて、「世界で最も多くの人数が同時にイッた」などというとんでもないギネス記録でも作ろうというのか。
ありえない話ではなかった。授業中ですら男子生徒でさえひいてしまうほどの下ネタを抵抗なく披露し(小宮山ワールドなどという呼び名がついたほどだ)、
日常生活でも何かあれば周りの人間にセクハラまがいの行為をする。そんな小笠原高校が誇る変態女教師はあまりに訳の分からない事をさらりと言ってのけた。
 「もう一回言うわ。これからみなさんには…」
 「ふざけるのもたいがいにしてください」
 小宮山の言葉を遮って、マナカが声を上げた。下ネタ以外の冗談を言うことの少ないマナカの声が、怒りに満ちていた。
元々マナカは小宮山にいい印象を持っていないらしく、事あるごとに何かと突っかかる。小宮山もまた売り言葉に買い言葉で返すものだから、二人の間にはしょっちゅうただならぬ空気が漂う。
それをたまたまよく目にするアキはその場の空気に怯えてしまうほどだった。
 「はあー、黒田さんは相変わらず頭が固いわねえ。ついでに胸も固いのよね。まあいいわ。これからあなたたちにこれがおふざけでもなんでもない証拠を見せてあげる」
 余計な一言にマナカの目つきがより一層きつくなったが、小宮山はそれを気にすることなく自分の後ろに立っていた女に目配せをした。女はそれを受けて先ほど入ってきた出入り口のほうに移動をすると扉を開け、
「奥さーん、入ってきてもいいですよー」と呼びかけた。
次に飛び込んできたのは、目を疑う光景だった。小宮山より少し上の年の程と見受けられる女が彼女と親子ほど年の離れた老人を引きずるようにして現れた。
男の首にはカナミやアイに装着された首輪と同じ首輪がいやらしい輝きを放ちながら存在していた。いや、そんなことよりアキを驚かせたのは女が放った奥さんという言葉だった。
まさか、この二人は…。
「紹介をするわね。この方はひだまり幼稚園の園長先生の長渕ハジメ先生と奥さんのミナコさんよ。そりゃー、私も最初に知ったときは流石にびっくりしたわよ。
老人の夫だったら、夜の生活が勤まるか怪しいものね。じゃあ、早速だけどみんな長淵先生に注目して」
そういうと、小宮山は白衣のポケットから何かリモコンのようなものを取り出した。それを遠慮なくハジメの首輪に向けると、数回ボタンを押した。
聞きなれないピー、ピー、という電子音が辺りに響いた。10秒ほどの周期でその間隔は狭まっていて、それが3回繰り返される頃には全員がハジメの首輪に視線を向けていた。

その首輪の前方にあるライトが赤く点滅し、そこからまるで警告音のように電子音が発生されていたのだ。
「あと20秒ぐらいで首輪が作動するわ。みんなよく見ておくのよ」
その20秒はあっという間に訪れた。警告音の間隔がなくなり、そしてその2秒後にはハジメの全身が首輪から一瞬にして現れたロープに亀甲縛りの要領で縛られていた。
口がハンカチで塞がれるというオマケつきで。そして、ハジメの体が支えを失ったかのように崩れ落ちた。
「なっ…」
部屋が一瞬にしてざわついた。あまりの光景にシンジやマナカでさえもショックを受けていたし、アイに至っては小さく悲鳴を上げていたほどだ。
それをなんともおかしそうな表情で小宮山は眺めると、ずい、と一歩前に身を乗り出した。
「これからの皆さんも行動次第ではこうなるわ。これで分かったでしょ。自分がこれからどうなるか」
とりあえずうなずく事しかできなかった。シンジやアイは顔面蒼白になっていたし、マナカの表情も優れない。
ただ一人、シンジの友人である新井カズヤのみは股間を押さえ恍惚の表情を浮かべていたが。


「じゃー、さっそくルール説明をするわね。これから皆さんには最後の一人になるまでイカし合ってもらうの。
この場所を一人ずつ出発してもらって、試合が始まるわ。そして、出発するときには一つずつデイパックを受け取ってもらうんだけど、
その中には食料と、水と、ここの地図とかそんな必要なものが入ってるの。出発したらあとの行動は自由。どこに行っても構わないわ。
それで、ここからが重要よ。あなたたちの脱落条件なんだけど、男子と女子でそれぞれ違うから注意してね。男子は射精してしまったら、女子はアナルを奪われたらアウトよ。
もしそうなったらコンピューターが識別してあなたたちの首輪に電波を送るの。そうすると…」
小宮山がハジメの方を向いた。満面の笑みを称えた、嫌な表情だった。
「その場でこうなるわ」
また周囲がざわついた。小宮山の目を盗んで周囲を見渡すとほとんどの人間が呆然となっている。
ただ、カオルや最前列のメガネの少女だけが状況を理解していないようで、それが逆に冷静さを保っているように見えた。
「それで、この会場についての説明なんだけど…」

そこまで小宮山が口にした時、マリアが動き出した。
ホワイトボードの脇に丸めてあった大きな模造紙を中村と二人がかりでホワイトボードに貼り付けた。
「これが今回の会場よ。小笠原高校の近くにあるド○キホ○テが最近改装工事に入ったのはみんな知ってるわよね。
そこが改装した後どうなるかなんだけど、なんと、そのビル一つ丸々アダルトグッズショップになることになりました〜。
そこであなたたちには話題づくりも兼ねてここでイカし合いをしてもらいます。
店の準備はほとんど整ってるからアダルトグッズに囲まれてのイカし合いよ。あ〜羨ましいわ〜」
そんなに羨ましいならアンタが参加すればいいじゃないか。ここにいる約半分の者はそう思っているだろう。
アキは勝手にそれを代表して叫びたい衝動に駆られた。
「それで、そのルールなんだけど、出発したらどこに行ってもOKていうのはさっき言ったわよね。
けれど、それに例外があるわ。試合中に私達が1時間に1回流す放送で、それまでの脱落者と禁止エリアっていうのを放送するの。
もし指定された時間以降にエリアに残っていたり進入した場合には…」
そこから先の見当はもう付いていた。
「悪いけど、ルール違反としてやっぱり長渕先生と同じ目に遭ってもらうわ」
やっぱりな。こういう変なカンだけが当たるようになってしまった自分がアキは少しだけ嫌になった。
「禁止エリアは一度設定されたら試合が終わるまで解除されないから気をつけてね。
地図を見れば分かるんだけどエリアの数はビルが5階建てで各階3×3の全部で45エリアよ。
あと、この場所がある5階のB−1エリアは全員が出発して5分後に禁止エリアになるの。
それと首輪が発動する条件はもう一つ。もしもあなたたちがイカし合いを拒否して6時間誰も脱落しないなんて事になったら…」
ここから先の予測も出来ていた。
「全員の首輪が作動するわ。優勝者はなしよ」
やっぱり。
「ただし」
その言葉にアキは思わず顔を上げた。
「それを防ぐため、今回は特別ルールを採用したの。3時間脱落者が出なかった場合に限り、特別に私とマリア先生が参加するわ」
ひっ、と思わず小さく悲鳴を上げ、あとずさった。その様子に不信感を覚えた何人かがアキの方を向いたが、そんなのは気にならなかった。
マリアが、ペ○ちゃん人形のように舌を出し、嬉しそうな表情でこちらを見ていた。今にも襲い掛かってきそうなその表情に、恐怖を感じずにいられなかった。
間髪おかずに最初の一歩を踏み出したマリアを加藤が羽交い絞めにしてどうにか止めていた。
「じゃー、次は武器の説明なんだけど…」
そのときだった。中村の「そこ!私語をするな!」という怒声と共に音を立てず何か小さな物体が空気を切り裂き最前列の少年に向かって飛んでいった。
おそらくアイと何か話をしようとしていたのだろう。だが、アキの視線がそれを捕らえる頃には同じく最前列の金髪の少女が素早い動きでそれを一瞬にして受け止めていた。
「な、な、な…」
その「正体」を目にした少女が、口をパクパクさせその場に立ち尽くしていた。
何人かの者が何が飛んできたのかを確かめようと立ち上がり、同様に呆然となっていた。
「なんて物を投げるんですかー!!」
「先輩それ私のパクリじゃないですか!!」
甲高い少女の声とアイの声が重なった。アキも思わず立ち上がった。その物体には、白いチョークのような外見に紐が一本生えた、月に一度嫌でも訪れてしまう女特有の現象の際に多くの人間がお世話になるものだった。
そのあまりの光景にカオルですら絶句し一歩後ずさるようにして少しでも距離を置こうとしていた。だが、肝心のそれを投げた中村本人は至って冷静だった。
「だめよミサキ〜。いくら彼氏の前だってそんなもの受け取っちゃー。それに触れたら失格よ。だからアンタはもうここで失格ね。さすがに長渕先生のようにはしないけど」
中村のその言葉に少女はただただ立ち尽くしていた。しばらく間をおいて弱弱しい「…分かりました」という声と共に音もなく席に着き、その物体を誰の目にも触れないようにポケットの中へと閉まっていた。
その一部始終を目にしたはずの小宮山は顔を綻ばせ、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべていた。

6/9 19:14 天野ミサキ 脱落

【残り15人】

2 2006 6/9 19:15

 「じゃあルール説明の続きよ。みんなには出発する時にデイパック渡すっていうのはさっき説明したわね。
その中にはあなたたちの戦いをサポートする武器も入っているの。
もちろん武器といってもナイフとかじゃなくてアダルトグッズよ。
会場内で調達してもいいけど、基本的には支給された武器で戦ってね」
 満足そうな様子で小宮山が武器の説明をする。
「さて、これから出発だけど、何か質問はあるかしら?」
 小宮山が全員を見渡すのと同時に、ある一角ですっと手が伸びていた。マナカだった。
マナカは相変わらず不機嫌な様子を隠そうともせず小宮山を睨み、
小宮山は小宮山で嫌味なぐらいの余裕をマナカに見せ付けている。
だが、そのマナカの口から発せられた言葉は、ある意味とんでもない言葉だった。
 「私の貞操帯は、どこにやったんですか?」
 その言葉はむしろ加藤や坪井といった教師陣に衝撃を与えていた
(マリアも驚いたような表情をしていたが、彼女が受けているショックはまた違った類のものだろう)。
いつも通りのおだやかな口調で、それでいて怒りのこもった声。
それは普段小宮山に喧嘩を売られたときの声そのものだった。
 「あー、あなたの貞操帯ね。あれはゲームを進めるのに有利になりすぎちゃうから、悪いけど外させてもらったわ。
それで、皆さんに朗報です。その黒田さんの貞操帯はこれから支給される武器の中に混ぜました。
まあ、それを黒田さんが引いてしまう可能性もあるけどね」
 小宮山が誇らしげにデイパックを一つ掲げ、マナカの方を嫌みったらしく見た。
両者のにらみ合いはマナカが渋々席に着いたことで終わりを告げ、再度小宮山によるルール説明が始まった。

 「最初の出発者は私がくじを引いて決めるわ。選ばれた人から名前のあいうえお順で2分感覚の出発よ。
そして、最初の人に出発してもらう時間は、覚えやすいようにシックスナインでイクイクよ。
今日は6月9日。今の時刻は午後7時17分。あとちょうど2分で
最初の人の出発ね」
 その2分はあっという間に過ぎた。小宮山は時間を確認すると、
テーブルの下から茶封筒を取り出した。
慣れた手つきで上の部分をハサミで切り取り、しばらく中をまさぐってから一枚の紙を取り出した。
 「じゃあ、最初の出発者は9番の城島シンジ君に決定。
そこから先は2分感覚で番号順に1人ずつよ。
早速だけど城島、デイパックを受け取って出発してね」
 アキの隣でいささか大げさな音を立てて城島シンジは立ち上がった。
一歩一歩前に進むその足取りはアキの、そして何よりシンジ自身の緊張のせいか震えているように見えた。
参加人数とほぼ同数だけ存在するデイパックの山までシンジが歩み寄ると、マリアがそれを手渡した。
 「あっ、出発する前にここでみんなに誓いを立ててから行くのよ」
 思い出したようにそう発言した小宮山の言葉を聞き、部屋から出て行こうとしていたシンジの足が止まった。
小宮山はそれを確認すると改めてマイクを取り、スイッチを確認して声を上げた。
 「私達はイカし合いをする。入れなきゃ入れられる」
 シンジや、アイの表情が引きつるのが見えた。当然だ。
アイは知らないが、シンジはまだ初体験を済ませていないと以前カナミが言っていた。
まさか、こんなゲームで童貞を失う可能性が出てしまうなんてシンジは思ってもいなかっただろう。
 「俺達はイカし合いをする。入れなきゃ入れられる」
 羞恥プレイ級の言葉を何十人の前で言わされ、シンジの顔が赤く染まっていた。
普段自分が家に遊びに来ている時ですらAVを見ているある意味とんでもない男であるシンジですら、この言葉には抵抗があるようだった。
そしてみんなから目を逸らすようにして部屋の出入り口の方を向き、ようやく出て行こうとしたまさにその時、またもや小宮山が彼を呼び止めた。
 「そうそう、さっきの『入れなきゃ入れられる』って言葉だけど、男子だから関係ないって訳じゃないのよー。
私が過去に受け持った奴でも…。おっと失敬。余計な事を喋っちゃったわ」
 「アンタ前からこんなことやってたんか!」
 アキとシンジの見事な突っ込みのハーモニー。
シンジはそのツッコミの余韻を少しだけ残しつつ部屋を後にした。

 2006 6/9 19:19 試合開始


3 2006 6/9 19:29

 「次ー、矢野アキさん」
 もうすでに参加者の半分以上の名前を呼んだその声についにアキの名前が乗せられた。アキはなるべくこれから自分の身に起こるであろう事態を想像しないようにしつつ席を立った。
もうすでに出発した全員がそうしたように小宮山の脇に立ちデイパックを受け取る。一瞬だけカナミの方を見ると、彼女は普段と変わらない表情で、いや、むしろ嬉しそうにアキを見ていた。それはやたらと膨らんでいる割に妙に軽かった。
そして、これまた全員がそうした例の羞恥プレイのような台詞を言い、部屋を出て行った。
 部屋の外には先ほどアイと一緒に見て回ったのと同じ景色が広がっていた。人二人が通れば塞がってしまう狭い通路に、その脇にこれでもかと詰まれた商品。
その商品がアダルトグッズでさえなければ本当にドン○ホーテの光景だった。
今アキがいる5階の売り場は本来なら貴金属や宝石類が置いてあるはずのコーナーで、アキもよく学校帰りや休日に寄っていたのだが、今このコーナーに鎮座しているのは宝石類はほとんどが真珠、
お宝はお宝でも滅多に手に入らないある意味お宝物の有名女優のAV出演時代のビデオや本とこれまた無駄にシャレが利いたものだった。
それらの商品はとりあえず無視し、アキはエスカレーターに乗った。小宮山の説明によると最初の禁止エリアの本部のある場所は5階のみらしいので、とにかく5階から離れれば禁止エリアに引っかからずに済むはずだった。
そうしてエスカレーターから降り、ふと思い出したようにアキはデイパックを開けた。とにかく軽い割にはやたらとかさばっていて、少し正体が気になっていたのだ。
アダルトグッズが入っているかもしれないデイパックを開けるのは抵抗があったが、自分の身を守る重要なものが入っているかもしれなかった。
アキの目に飛び込んできたのは、最近流行りだというメイド喫茶の制服だった。
「は・・・?」
とりあえず取り出してみると、今度は婦人警官の制服が入っていた。それも取り出すと、今度は見慣れたセーラー服。
そしてその次は水着。SM用のボンテージ、センスを疑うほどの赤や青、紫の下着とだんだんアキには刺激が強くなっていくたくさんの服が入っていた。

「う、うわああああ!!」
中身を片付けることもせずデイパックだけをひったくってアキはその場から逃げ出した。放置されたたくさんの服が何かのプレイの跡を連想させたが、そんなことはもうアキの頭から抜け落ちていた。
冗談じゃない。こんなものまで武器に入っているなんて。まさかわざとか?いや、あの教師ならやりかねなかった。おそらくマリアと図ったのだろう。そういえばデイパックを渡すマリアの表情が何故かとても嬉しそうだった。

「あれ、何だろ・・・?」
アキの次に出発した吉見チカは、何気なく近づいたその光景を見て思わず腰を抜かしそうになった。床に散らばるド派手な下着やコスプレ服、それらはあまりその手のものに免疫のないチカには刺激が強すぎた。
つい最近ようやく一人で下着売り場に出入りできるようになった程度のチカにとって、赤や青の下着、何に使うのかが何となく見当がつく程度のコスプレ用品は異世界の服だった。
「ひっ」
思わず悲鳴をあげのけぞり、その異様な光景から少し距離を置いた。二十秒ほどそうしていたが、
チカはふいに立ち上がると恐る恐るといった手つきでそれらの衣装を自分のデイパックに納め始めた。
チカの支給武器はワセリン。年の割に半端じゃなく下ネタ好きの友人のおかげでいらぬ性知識がついていたチカはそれの使い方はそれなりに心得ていた。
また、自分が好意を寄せる男がアナルプレイ好きだとも聞いていた。そんなわけでチカはアナルプレイのノウハウを勉強し、処女でありながらアナルプレイの知識を会得しているという稀有な存在になっていた。
だが、ルールの存在しないこのゲームではそれだけでは自分の身を守ることは出来ない。その好意を寄せる男と会う前に脱落してしまう可能性だってある。
だからというわけではないが、少しでも装備を強化しておきたかった。

 このチャンスを逃すわけにはいかないわ。これを逃してしまったら、一生シンジさんと結ばれることはないかもしれない。

妙な決意を秘め、デイパックを膨らませたチカはその場を後にした。

【残り15人】

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