「ま、全く七条先輩は…………」
顔を赤くしてそう言うと、スズは"それ"を机の端へと押しのけた。
(なんで………なんで、生徒会室にこんなもん持ち込むのよ、あの人はッ!!)
その日三年生のシノとアリアのふたりは大学説明会に参加するために不在で、
タカトシも用事があるとかで遅くなるという話で――――
ただひとり生徒会室で黙々と仕事に励んでいたスズは、ふと机の上の"それ"に目をやったのだった。
(?…………誰かの、本?)
"それ"はいかにも女の子らしい、可愛らしいポップな柄のブックカバーに包まれていた。
気分転換がてら、スズはそれに手を伸ばして目を通したのだが。
(!!こ、これって)
途中で、気付いた。それが、アリアの持ち込んだ官能小説だということに。
(全く!本当に、あの人は!)
憤りつつも、なぜかスズは読書を中断することはしなかった。
それは官能小説ながら暴力描写や汚らしい描写が無く、彼女にも抵抗無く読めた。
そのうえセックスシーン以外は恋愛小説と言って良いほどライトなもので―――しかも、偶然ながら。
(主人公の名前が津末タカヨシで、恋人役の名前が荻野シズって………)
主人公ふたりの名が自分の名と、同級生であり副会長である津田タカトシの名に酷似していたのだった。

『荻野………俺、好きなんだ、お前のこと』
『私も、好き。タカヨシ、だから』
タカヨシはシズの小柄な肉体を抱き寄せると、彼女の唇を塞いだ。
『ん………ん、タカヨシぃ………』
貪るように、深いキスを交わすふたり。そうしながらタカヨシは、シズのショーツの中に指を入れた。
『あ、ん………』
シズの中は既にとろりと濡れ、そしてキスをしたまま吐息を漏す。

(……………)
無言で読み進めるスズ。頬を赤く染め、物語の中に耽溺していった。

(怒ってるかな〜〜〜)
そして、最悪のタイミングで生徒会室へと近づく男子生徒が一人。
(遅刻には特に厳しいからな、萩村。あ〜〜〜あ)
罪の意識から、つい音を立てぬよう忍び足で部屋のドアの前に立ったタカトシだったが―――
「…………んッ……………」
(?萩村?)
扉の向こうからは、なぜかスズの堪え忍ぶような声が聞こえてきた。いつもの嫌な予感を感じたからか、
タカトシは静かにドアに耳を近づけて生徒会室の物音を拾おうとする。

「は………ッ、ん………」
(あ………だ、め、誰もいないからって………こんなこと、しちゃ、ダメ)
理性ではそれが危険なことだと―――不躾なことだと、理解していながら。
スズは誘惑に勝てず、アリアの官能小説を読みながら自らの秘所に指を這わせていた。
(……………もう、湿ってる)
ショーツ越しにそこをくすぐるように撫でると、指先からでもはっきり分るほどそこは濡れ始めていた。

『あッ!あッ!タカヨシぃ!!』
『シズ、あ………シズの中、すごく良いよ、シズ!』
タカヨシはシズの中を激しく突き立て、掻き回しながらピンクの乳首を舐める。
『は。ぁああッ!!タカヨシッ!!』

(あ………あ、タカトシ………タカトシぃ)
いつの間にかスズは、主人公をタカトシに、ヒロインを自らに置き換え、ふたりの交わりを夢想し始めていた。
"くしゅ………す、しゅぅ"
最初はおずおずと触れるように撫でていた指の動きはやがて少しずつ早くなっていき、
そして無意識のうちにショーツの中に指を差し入れ、直接恥丘を擦り始めていた。
§
(…………?)
扉の向こうから聞こえるスズの荒い息遣いを怪訝に思って耳を澄ましていたタカトシは、
ほんの少し、気付かれぬようにドアの隙間を開けた。
(は、萩村?)
タカトシの目に飛び込んできたのは―――小柄な同級生がスカートの中と胸の中に手を入れ、
それを悩ましく動かしている光景だった。

「ふ………ん………ッ、はぁ………ン、や………」
もはや声を殺すこともできず、スズは自らを激しく慰めていた。左手の指先で小さな乳首を摘み、擦る。
そしてショーツを膝までずり下げ、右手の指先を裂け目の中に沈ませ、くりくり、と刺激して。
「あ    あ、ん。……………ふぁッ!!あ。…………た、タカトシぃ………」

(え?)
自分の名前がスズの口から漏れ、驚くタカトシ。しかし視線は彼女から外すことのできぬままだ。
(…………あれって、そうだよな)
いかに鈍い彼とて、スズがしている行為がなにかということくらいは理解できた。
しかし目を潤ませながらそれに没頭しているスズは、
普段の生真面目で幼い感じのする彼女と別人のようで――――
タカトシは声をかけることも忘れ、取り憑かれたように彼女の姿に魅入っていた。

"すッ、きゅ………こしゅッ、くにゅ………"
中指で自分の中をかき混ぜるようにしながら、スズは親指で肉の芽を擦った。
「あ、    ひわッ!はぁ…………、ひ、ん…………」
その瞬間、一際大きな快楽の波に呑まれて彼女はからだをくねらせる。
生徒会室という神聖な場所で禁忌を犯しているという罪の意識と、
それに相反する興奮の中で、スズの小さなからだはずぶずぶと快楽の沼に沈んでいく。
「ふぅッ!くぅん!!あッ、あ………あ、タカ、トシ!た、タカトシッ!!」
声を抑えることすら忘れ、スズはタカトシの名を二度三度と叫んで―――絶頂に、達した。
"くつ…………"
ショーツの中から指を引き抜き、それを目の前でかざしてぼんやりと見つめるスズ。
べっとりと、愛液が付着していた。
「………………」
達した後の気怠さの中で、スズは自らの指先を眺める。少しだけ、近づけてみた。
(…………へん、な、匂い…………)
匂いを嗅いで、ただそう思った。それ以外、なにも考えられなかった。
その行為をしたことは初めてではなかったが、こんなにも大きな快楽を得たのは初めてだった。
(…………ん。なんだか、眠い)
激しい行為を終え、疲れ切ったスズは思わず――――うとうととしてしまって。

(寝ちゃったのかな?)
ドアの隙間から中を窺っていたタカトシは、スズが机の上に頭を預けて動かなくなったのを見てそう思った。
(………荻村も、女の子なんだ)
声に出さず、そう呟くタカトシ。エロボケを連発するシノやアリアと違い、
スズは謹直そのものといった性格で、そのせいかいつも怒っているような表情の印象が強かった。
しかし彼女のあのような行為を結果的に盗み見てしまったタカトシは――――
かつてないほどはっきりと、スズから異性を感じてしまっていた。
"す…………"
起こさないよう、慎重にドアを引いた。幸いほとんど音は立たず、スズはぐったりと熟睡している。
(………………)
寝息を立てているスズの顔を無言で見つめた。同級生の男子生徒からは
『美人揃いの生徒会の中に一人子供が混じっている』などと揶揄されるスズだが、
こうして間近で見れば彼女とて十分すぎるほど整った顔立ちをしていると、タカトシは思った。
全体に輪郭は細面だが、赤く血色の良い唇は少しぽっりとしていて熟れかける直前の果実を思わせた。
すっと通った鼻筋が少しだけ上を向いているのと、眉尻がきれいなアーチを描いているのが
彼女の意志の強さとプライドの高さを表しているようで―――それでいて、同時にどこか幼さを感じさせた。
§
(…………荻村)
スズを起こさないようにと初めは遠巻きに見ていたタカトシだが、
やがてそんな気遣いも忘れ、彼女に近づいていった。よほど疲れたのか、
彼女はすうすうと寝息を立てたまま、眠りの中だった。少しだけ、スズの頬に赤みがさしていた。
それが先程の激しい自慰行為の名残かと思うと、今更のようにひどく淫らな気持ちになって。
"ごくッ"
大きく一度、生唾を呑み込んだ。タカトシは、自分が欲情しつつあることを自覚していた。
(…………?あ!)
気付いた。スズが、ショーツを膝の先まで下げていたことを。その光景は、タカトシにはあまりに刺激的で。
(や、やべ!)
"くッ"
あくまで、勃起しかけた前を抑えようとしただけだった。その、つもりだった。しかし。
"すッ、すッ、くくッ"
気が付くとタカトシは制服の上から、往復させるようにそこを擦り始めていた。
(う…………んん…………)
机の端にあったティッシュボックスからティッシュを引き抜いて、トランクスの中のそこにあてがった。
(う………うむッ………やべえって、バレたら、俺)
それが露見する恐怖と恍惚に怯えながら、タカトシは自慰行為に溺れる。
目の前の少女の寝顔を見下ろしながら、強く、激しく、ペニスの先端を擦る。
(ん、う………うぅ)
淫した後の興奮のまま眠りから覚めないスズの横顔は、あどけないと同時にどこか扇情的で―――
タカトシは、彼女が自慰に耽っていた鮮烈な光景を思い起こしながら。
(う………うぅ、うッ………う!!!!)
"ぴゅッ!!ずぷッ!!!"
そしてタカトシも、絶頂に達した。
ティッシュで抑えていたペニスの先から、ぬるい精液が勢いよく放出されるのを掌に感じて。

「………………ん?む、あ、アレ?つ、津田、来てたの?」
「!!!!!!!!!!!!!あ、は、はははは、萩村、う、うん、その、ついさっき」
「あ、ああ、そうなの?」
(な、なによ、津田ったらそんなに慌てて?)
不審に思うスズだが、思い出した。
(あ!わ、私ったら!!!)
そう、他ならぬ自分が、この部屋で激しい自慰行為に及んでいたことを。
「ああああ、あのね、つつつつつ、津田?あの、その」
「あ、わりい、萩村、お、俺、教室に鞄忘れてきたから!!!」
ダッシュで生徒会室を走り去るタカトシ。スズはそんな彼の後ろ姿を呆然と見ていた。
(だ、大丈夫だよね?津田は、見てなかったと思うし………)
ふう、と溜息を漏したその瞬間、とある事実に気付いて青ざめた。
(!!私ったら、下着を!!嘘、まさか、津田がさっき慌ててたのって……やだ、やだぁ…………)
慌ててショーツを引き上げた後、恥ずかしさから泣き出しそうになってしまうスズだったが―――

(うわぁ〜〜〜〜、気持ちわりい、やっちゃったな、俺)
男子トイレの個室に駆け込み、トランクスの中のティッシュを投げ捨てた。
大量の精液はティッシュの中で納まらず、下着まで汚してしまっていた。
(ば、バレてねーよな?アイツ、いきなり起きるから)
しかし全ての処理を終えてもまだタカトシの頭に思い浮かぶのは、
スズが自慰に耽っていた光景と、彼女のあどけない寝顔だった。
(わ!って、やべえよ、また俺!)
またも勃起しかけてきたペニスに慌てたタカトシは抑えるつもりでそこに手を伸ばすが、
なぜかまたも指先は往復運動を。

(うわぁ〜〜〜ん、どうしよう、どうしよう。津田に見られちゃった)
そして生徒会室では―――やはり同じように、恥ずかしさに身悶えながら、
またもショーツに手を伸ばして二度目の自慰行為に及んでいるスズがいた。

スズと、タカトシ。さてそんなふたりの行く末は――――

END

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