夏休みもお盆が過ぎて,2学期まであと1週間となった今日,オレは生徒会の仕事の為に,学校へやって来た。
 グランドでは,陸上部の生徒が汗水を垂らして必死に練習をしている。そういえば,もうすぐ記録会だったか。
 オレも野球やサッカーを小・中学校の時にやっていたが,ここでは男子の運動部はまだ出来ていないので,部活はやっていない。
 まあ,生徒会があるので,そんな事をする暇もないのだか。
 
 
………………
 
 
 仕事も午前中にカタがつき,他の3人もそれぞれ家路に着いた。オレも帰る準備を終えて,生徒会室の鍵を閉めようとした時,一人の女子生徒に声をかけられた。
 
「……おーい!タカトシ君じゃない!今日も生徒会の仕事だったの?」
 
 そう言って声をかけたのは,オレと同じクラスの三葉ムツミだった。
 
「そうだよ。二学期ももうすぐだし,行事も沢山あるからさ,『早目に準備をして,余裕をもって迎えないといけない』って会長が言っているんだ。………三葉も部活だったのか?」
「うん。大会も近いから,毎日練習の連続だよ!」
「今日は,練習はもう終わったのか?」
「みんな疲れも大分貯まってきてるからね,午前中までにしたんだよ」
「大変だな。オレ達,生徒会も応援しに行くから頑張れよ」
「うん!皆の期待に応えれるように,目指すは全国だよ!」
 
 まだ,創部して2〜3ヶ月しか経っていないのに,ムツミはまるで自信有り気に言う。
 
「じゃあ,オレ,もう帰るから」
 
 そう言って鍵をかけ,職員室に鍵を返しに生徒会室から離れようとすると,後ろから三葉がオレを呼び止める声がした。
 
「ねえ,タカトシ君まって!」
 
 無視して帰るわけにもいかないので,オレは三葉が近付いて来るのを待った。
 
「ありがとう,タカトシ君。
 あのね………ちょっと相談があるんだけど,話を聞いてもらってもいいかな?」
「オレが出来る範囲だったら,聞いてあげられるけど」
「……今度の日曜日,暇かな?」
 
日曜日といえば,ちょうど夏休み最後の日だ。課題も多く出されたとはいえ,なんとか終わらせている。
 だから暇と言われれば暇だった。
 
「……特にその日は何もする事は無いけど。」
「よかった。じゃあ,夏休み最後の日に,二人で試合を見に行かない?」
 
 急な相談に,オレは一つ疑問を抱く。
 
「何で,わざわざオレに聞いてくるんだ?
 同じクラスの女子でもよかったんじゃないか?」
「本当は,部活の仲間と一緒に行くことにしてたんだ。でも,用事が出来て行けなくなったって言われて。
 どうしようかなと考えていたら,タカトシ君を見かけて。タカトシ君なら,お願い聞いてくれそうだったから」
 
 なんだ,そう言う事だったのか。
 でも,せっかく誘ってくれる訳だし,三葉が二度も断られるのも可哀相だしな。付き合ってやるか。
 
「別にいいけど,大丈夫なのか?この学校は,校内恋愛禁止なんだから」
「もう頭が固いなぁ,タカトシ君は。『校内』でしょ?遊びに行くんだから関係ないじゃん。
 それに私達,付き合っている訳じゃ無いんだし」
 
 確かに,そう言われればそうだ。オレと三葉は付き合ってはいない。
 別に男女で遊びに行く事は,軽く注意はされても,処分されるまでは無いだろう。
 
「まぁ,そうだな」
「だよね〜」
「それはそうとして,何の試合に行くつもりなんだ?」
「あ,ごめんごめん。まだ話してなかったね。
 実はこれの事なんだ」
 
 そう言うと,三葉は二枚のチケットを取り出した。
 
「あれ?これって何?」
「実はね,プロレスのチケットなんだ〜」
 
 野球だろうか,サッカーだろうかと予想したが,違う結果が出たので,三葉に聞き返した。
 
「プロレスのチケット?」
「うん。知らない?福岡では有名だよ?」
 
 そう言われたので,オレは思い返してみる。
 確か,深夜に放送してた気がするな。名前が『ドラ…………』だった気がする。
《※さすがに,実名をエロパロに出す訳にはいかないので,抽象的ということで。》
 
「テレビでやってるやつだよな」
「そうだよ。タカトシ君も知ってたんだ」
「名前だけなんだけどね。でも三葉がプロレス好きだなんて知らなかったな」
 
 三葉にそんな趣味があるんだと思ったが,自分から柔道部を作ったぐらいだ。格闘技系がとても好きなんだろう。
 そう思うと,すごく納得できた。
 
「あ,ちょっと馬鹿にしてない?ここって女の子にも人気あるんだよ」
「ごめん。そういう意味で言った訳じゃないんだ。でも,少し興味はあるかな」
「じゃあ,一緒に行くって事で決まり?」
「構わないよ」
「よかった。時間や場所は後から電話するね?」
「うん。待ってるよ」
 
その夜,さっそく三葉から電話が来た。場所は近くの○○駅,時間は14時に集合との事だった。
 電話の向こう側で三葉が嬉々として話をしているのが分かった。
 
 それからオレと三葉は,生徒会と部活,それぞれの事をこなし,日曜日を迎える事となった。

 
――――――
 
 今,オレは○○駅の広場で三葉を待っている。時間は13時50分だ。約束の時間より,10分早く待ち合わせている。
 生徒会で,会長より『10分前行動は基本だぞ』と,言われて以来,遅刻する事はほとんど無くなっていた。
 ………5分くらい経った頃だろうか,道路の向こう側から「おーい!」と呼ぶ声がした。
 声の方向を見てみると,三葉が大きく手を振りながら呼んでいた。歩道橋を渡り,オレの方に近付く。
 
「タカトシ君,もう来てたんだ。早いんだね」
「生徒会で,早く行動するように言われてるから,慣れちゃったよ」
 
 三葉をよく見てみると,ボーイッシュな格好で来るんだろうと思っていたが,予想に反して,とても可愛らしい服装だったので,つい見取れてしまった。
 
「タカトシ君?どうしたの,ぼーっとして?」
 
 三葉の言葉にはっと気付く。
 
「……三葉の私服って初めて見たよ。とっても可愛いじゃん」
 
 三葉の顔が一瞬朱くなったような気がした。
 
「本当に?久し振りに遊びに行くから,気合い入れてオシャレしたんだけどよかった!」
 
 オレにほめられて,三葉はとても喜んでいるようだ。
 
「そろそろ,電車も来る頃だし,中に入ろうか?」
「そうだね。……あ,そういえば電車代,タカトシ君が出してくれるんだよね?ありがとう」
「そんな,お礼を言われるまでの程でも無いよ」
 
 電話の時に知ったんだか,あのチケットは特別リングサイドという席らしく,一席なんと7000円もするらしい。二人分だから,14000円もする。
 三葉にこんな大金を使わせているのに,割り勘って言うわけにもいかないので,それ以外はオレが全て払う事にした。男だったら当然だ。
 博多駅までの電車代二人分を払い,ホームに行くと,ちょうど電車が入って来た所だ。オレと三葉は、その電車に乗って博多に向かって行った。
……………
 
 電車に乗って,博多に着くまで約数十分。隣に座っている三葉がオレに話しかけて来た。
 
「タカトシ君,これ,今日見に行く団体のパンフレットなんだ。よかったら見てくれる?」
 
 そう言いながら,バッグからパンフレットを取り出した。結構大きい。
 中を見てみると,いろんな選手の紹介写真が載っている。マスクを被った選手や,コスプレ?みたいな選手もいた。
 ……あ,この選手は,バラエティ番組に出演していた選手だ。他にも,過去の試合などを振り返るページなどがあった。
 横から,三葉がオレに「この選手はね…………」といろいろ教えてくれる。結構楽しかった。
 ちょうど,話も終わった頃,電車が博多駅に到着した。パンフレットをカバンにしまい,準備をして,電車から降りる。
 三葉が言うには,会場は駅から近いらしい。三葉に連れられて,会場に向かう。
 駅を出て2〜3分経った頃,三葉が,
 
「着いたよ。タカトシ君」
 
 会場を見てみると,ここはボーリング場だった。……ここなのか?三葉に尋ねる事にした。
 
「なあ三葉?ここってボーリング場だよな?まさか,レーンの上で試合をするのか?」
 
 すると,三葉が
 
「まっさか〜,面白い事言うんだね,タカトシ君は。
 ここの2階に大きな広間があるから,そこで試合をするんだよ」
 
 確かにそう言われればそうだ。少し恥をかいた気だ。
 会場内の自販機は値段が高いので,近くのコンビニで飲み物を買った。
 
「もう開場しているから,中に入ろうか?はい,チケット」

 
 三葉からチケットを受け取り,会場の中に入ると,結構人が多かったので驚いた。
 
「こんなに人が来てるんだ」
「そうだよ〜。いつも満員なんだ。さらに今日はテレビ中継もあるしね。帰ってビデオ録らなきゃ」
 
 生で試合を見るのに,帰ってからも見る気なんだ。
 
「じゃあリングは2階だから,そこの階段を昇って行こうね」
 
 階段を昇り,チケットをスタッフの人に渡し,入場すると,1階以上の人数にただただ驚くしかなかった。
 
「なぁ三葉?何でこんなに人が詰まっているんだ?」
「ここはね,グッズ売り場なんだ。あ!新しいパンフレットが出てる!」
 
 何だかほしそうな顔をしてたので,買ってあげる事にした。
 
「じゃあ買ってあげようか?」
「そんな,悪いよタカトシ君。そこまでしてもらわなくても………」
「大丈夫だって,オレがそうしてあげたいんだから,遠慮なんかしないでよ」
「…………ありがとうタカトシ君。すみませーん!パンフレット一部くださーい!」
 
 喜びながら,売り子の人に声をかける三葉。
 一冊,2000円らしい。………高い。でも,三葉が喜んでくれるなら,まあいいや。
 オレは売り子にお金を払い,他にも見て回ると,ガラガラがあった。 どうやら,選手のお宝グッズが当たるらしい。一回500円だったので,三葉にさせてあげようと思った。
 
「なあ三葉?やってみる?」
「いいの?じゃあ,やってみようかな」
 
 マスクを被っている売り子にお金を払う。どうやら選手も売り子をするらしい。
 
 三葉がレバーを持って勢いよく回すと,球が出て来た。金色だった。
 すると,マスクマンの売り子が鐘を鳴らして,「大当りー!」と叫んだ。
 
「やったぁ!タカトシ君!大当りだよ!」
 
 三葉が喜んでいる。商品は選手のコスチュームらしい。陸上選手みたいなコスチュームだった。
 
 三葉を見てみると,マスクマンに記念撮影をされていた。
 後で聞いたら,ブログに載せるらしい。選手も色々と大変みたいだ。三葉は恥ずかしかったのか,手で目を隠すようにしていたが。
 とりあえず,一通り見終わったので席に向かう。
 中に入ると,レーザー光線と大音量の音楽が流れていた。野球やサッカーでは味わえない感覚だった。
 三葉に,座席の位置を確認してもらう。前から3番目の席だ。ただ段差があったので見ずらい感は無かった。座席に座ると三葉が,
 
「いや〜,まさか大当りが出るとは思わなかったよ,タカトシ君。今まで一度も大当りが出なかったのに。
 タカトシ君のおかげだね」
 
 そう言いながら三葉がオレに微笑みながら話しかけて来た。
 
 ……何だろう?三葉を見てたら,胸がドキってした気がした。他の女子と話をしてもこんな事無かったのに。
 
 それから,オレと三葉は二人で新しいパンフレットを見ながら時間を潰していった。
 時間も4時を回った頃,大きな音楽が流れ,リングアナとレフェリーの二人がリングインした。ボールを投げている。
 このボールを拾うと,何かプレゼントが貰えるらしい。………来なかった。
 どうやら,前説をしてるようだ。今日の対戦カードを発表してるみたいだ。
 その前説も終わり,照明が暗くなると,歌が流れて来た。この団体のテーマ曲らしい。
 明るくなると,試合の前に調印式なるものを行うらしい。
 今日はタイトルマッチが2試合あるみたいで,4人の選手がリングインした。その内,2人はベルトを持っている。
 サインも終わり,選手がマイクを持って言い争いをしている。
 一通り,言い終わった後,選手はそれぞれ控室に戻って行った。ようやく,第1試合が始まるみたいだ。
……………
 
 試合が始まった。いろんなコスチュームを身にまとったレスラー達が戦っている。
 第4試合の時,レスラーの1人が,さっきのガラガラで当たった色違いのコスチュームを着ている。
 どうやら,このレスラーのコスチュームだったらしい。
 
 第5試合だ。タイトルマッチらしい。結果は,悪者,つまりヒールのレスラーが,反則をしまくって勝ったみたいだ。
 隣で,三葉が残念そうにしていた。負けた方を応援していたみたいだ。慰めてやるか。
 
「残念だったな,三葉」
 
「うん,そうだね。次,戦う時はきっと勝つはずだよ」
 
 休憩に入ったので,飲み物を買うために,一旦,会場から離れてさっきのコンビニに寄る。もちろん,オレの奢りだ。
 再び座席に戻り,少し時間が経つと,後半戦の開始の音楽が流れた。
 
 第6試合も白熱した試合が終わり,いよいよメインイベントだ。この試合は,団体No.1を決めるタイトルマッチらしい。
 選手が入場し,リングアナウンサーがそれぞれコールする。
 チャンピオンの番になると,三葉が立ち上がってバッグから紙テープか取り出す。
 名前を言うのと同時に,手にした紙テープをリングに向かって投げ付けた。他の方向からもたくさんの紙テープが舞っている。
 
 試合が始まり,少し経過した頃,場外乱闘が始まった。オレ達が座っている方向にやって来た。
 レスラーの大声とともに,近くの客が荷物を持って,その場から一斉に離れていく。オレ達も離れることにした。
 ヒールレスラーがチャンピオンを,椅子の列に投げ飛ばしていく。かなり痛そうだ。
 さらに椅子を持って背中に振り下ろしていった。そんな乱闘が目の前で繰り広げられている。

 ヒールレスラーが落ちていたペットボトルを,チャンピオンに向かって投げ付けた。
 その時,ペットボトルが弾んで,近くにいた三葉の頭に当たってしまった。
「痛っ!!」
「大丈夫か,三葉!?どこか怪我はしていないか」
 
 痛そうにしている三葉を,オレは庇うようにして様子を見る。
 
「…うん,平気。そんなに強くは当たらなかったから……」
 よかった,怪我はなさそうだ。
 その時,ヒールレスラーのセコンドに付いていた別のヒールレスラーが,オレを強烈に睨み付けてる。
「いちゃついてんじゃねぇぞ!」と叫んでいるらしい。
 どうやら,三葉を庇った行為が,抱き着いているように見えたんだろう。まだ睨み続ける。
 正直,オレは怖かった。でも,なぜか視線は避けなかった。逆に睨み返す。
 そうしたら,レスラーはオレの態度に根負けしたのか,その場から離れて行った。
 回りの人がオレ達を見ている。すると,なぜか拍手の音が聞こえた。………かなり恥ずかしかった。
 
 試合はチャンピオンが勝ち,驚きあり,笑いありのマイクパフォーマンスがあり,最後は記念撮影で幕を閉じた。
 これで今日の試合は全て終わりだ。客も各々出口に向かっている。
 オレ達も,帰ろうかと思ったところ,三葉が,
 
「ねぇ,帰る前にサイン会に寄っていいかな?」
 
 そう言われたので,最後だしいいかと思って列に並ぶことにした。
 サインをしてもらうにはTシャツを買わないといけないらしい。高かったが三葉が喜んでくれるなら,それは別によかった。
 
 
……………
 
 
 駅までの帰り道……
 
「タカトシ君!今日はすっごく楽しかったよ!一緒に来てもらってよかった。
 それにいろいろ買ってくれてありがとう!」
 
 よかった,喜んでくれてる。
 
「三葉が喜んでくれたのなら,オレも付き添った甲斐があるよ」
「………あのね,タカトシ君。実はその事なんだけど………」
 
 三葉が立ち止まって,オレに話し掛ける。
 
「どうしたんだ,急に?」
「………私が誘った時の事なんだけど,友達が来れなくなったって言ってたじゃない?」
「確か,そう言ってた」
「実はね,あれって嘘なんだよ………。本当は,最初からタカトシ君を誘うつもりだったの。
 あの時も,タカトシ君が生徒会室からずっと出て来るのを待っていたの。………嘘をついてごめんなさい」
 
 帰路に付いている客が何事かとオレ達の方を見る。それでも三葉は話を続けた。
 
「でも…,今日はすごく楽しかった。……今まで男の子と遊びに行った事はあったけど,タカトシ君と遊びに行った今日が1番よかった。
 一日中タカトシ君といて,すごくドキドキしたの。最初は何でだろうと思っていたけど,時間が経つ度に,分かった気がする。
 タカトシ君の事が,友達としてじゃなく一人の男の子として『好き』になったんだって」
 
 オレも今,やっと分かった。オレが胸に抱いていたドキドキ感が。三葉と同じ事を感じていたんだ。
 回りには沢山の人がいる,でも言いたい事を今言うしかない!
 
「………オレも三葉と来れてとても良かった。今の言葉を聞いてオレも分かったんだ,同じ想いをしていたんだって。
 ………三葉に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」
「うん。私も改めて伝えたいことがあるの。聞いてちょうだい?」

 時間の流れが緩やかになった気がした。お互いタイミングを見計らったかのように叫び出す。
 
「オレは!」
「私は!」
 
「三葉の事が!!
「タカトシ君の事が!!」
 
「大好きだ!!!」
「大好き!!!」
 
 通行人がいきなりの叫び声に一斉にこちらを向いた。
 しばらくの間,オレ達は無言のままだったが,
 
「………あは,あはははは!」
「………えへっ,えへへ」
 
 二人して笑い出す。
 
「よかった。オレ達,同じ想いで」
「私達,今から恋人同士だね」
「そうだな,じゃあ帰ろうか?三葉………いや,ムツミ」
「………初めてタカトシ君に名前で呼んでもらった……私,この日を忘れない!」
「………オレも,忘れないよ。……ムツミ,手を繋ごう」
 
 オレはそう言って,ムツミに左手を差し延べた。
 
「………うん!」
 
 ムツミも右手を出して,一緒に手を繋ぐ。
 こうして,オレ達は家に帰る事にした。

 
……………
 
 
 ○○駅に帰り着いたオレ達は,この暗い中,ムツミを一人で帰らせるわけにもいかないので,家まで送る事にした。もちろん,手を繋いで。
 ムツミの家の玄関で,
 
「タカトシ君,今日は楽しかったよ。恋人になれて,とても嬉しい。
 ………また明日,学校で会おうね。じゃあ,お休みなさい」
 そう言って,ムツミはドアを開け家の中に入って行った。
 オレも家に帰ろう。
 ムツミの家から近い所にオレの家があるので,徒歩で帰ることにした。
 帰り道で,今日の事を思い出す。夏休みの間,生徒会の仕事で大変だったが,最後の1日で,すべての苦労が報われた気がした。

 
……………

 
 10分ほど歩いたところでオレの家が見えた。玄関を開けると,妹のコトミが出迎えてくれた。
 
「お帰り〜,タカ兄」
「ただいま」
「ねぇ,タカ兄?今日,一緒にいた女の人ってタカ兄の彼女?」
 
 コトミの言葉に,オレは驚く。
 
「ちょっと待て。何でコトミがそれを知っているんだ?」
「否定しないって事は本当なんだ。だってタカ兄,結構オシャレして出掛けたじゃない。
 だから気になってタカ兄の後を付けてみたの。そしたら,駅で女の人と一緒に電車に乗っていったから」
 
 まさか,コトミがストーキングしていたとは思わなかった。隠していても仕方がないので,
 
「そうだよ。その人がオレの付き合う事になった彼女だよ。今度お前にも紹介してやるから」
「そっか〜,あの人が将来私の義姉になるんだね」

 コトミがぶっ飛んだ事を言う。

「あ,タカ兄。ちょっとまってて」
 
 そう言うと,コトミは自分の部屋に戻って行った。30秒ほどすると,コトミが出て来て,

「はい,タカ兄。突き合うのはいいけど,ちゃんと避妊しなきゃだめだよ」
 
  オレに何故かコンドームを手渡してくる。なんで,そんな発想になるんだ?字が違うんだよ。まさに,妹は思春期だ。
 
 疲れたので,風呂に入ってすぐ寝ることにした。明日は始業式だ。生徒会の仕事があるから早く行かなきゃいけない。ベッドに入るとすぐに眠りについた………
 

……………

 
 翌日。
 オレは校門の前に立っていた。服装チェックをするためだ。
 すると,遠くから一人の女子生徒の声が聞こえる。
 
「お〜〜〜い!タカトシ君!おはよう!!」
 
 オレの方に向かって来る。昨日,オレの彼女になった子だ。
 
 その子の名は,三葉ムツミ――――。




おまけ。
 
 服装チェックも終わり,教室に帰ろうとすると,会長が,
 
「津田,ちょっといいか?」
 
 そう言われたので,オレは立ち止まる。
 
「何ですか,会長?」
「昨日の事だが,お前,柔道部部長の三葉ムツミと付き合っているのか?」
 
 何で,会長まで知っているんだ?
 
「どうしたんですか?いきなり」
「昨日,博多駅でお前と三葉が二人でどこかに行くのを目撃したからな。………そんな事よりも付き合っているのか?」
 
 ………十分,注意はしたはずなのにバレバレじゃないか。正直に言おう。
 
「………はい。付き合っているというか,昨日から付き合い始めました」
「そうか,だがウチの校則は知っているな?」
 
 確かに,ウチは校内恋愛禁止だ。
 
「しかし,私だって鬼ではない。津田,場所をわきまえて行動するんだぞ。別に,付き合うなと言っているわけじゃないからな」
 
 そう言って,会長は自分の教室へ戻っていった。よかった,別に怒っているわけじゃないんだ。
 オレも教室に戻ろう。ムツミの顔を見るのが楽しみだ。  
 
……………
 
 時間は過ぎて,放課後。
 生徒会室には会長のシノと書記のアリアがいた。
 
「はぁ………」
 
 シノがため息をついている。
 
「………はぁ………」
 
 その様子を見ていたアリアが,
 
「シノちゃん,ため息ばかりついていると幸せが逃げちゃうよ?」
「………幸せが逃げる,か……。今の私にはもう逃げられているけどな………」
「どうしたのシノちゃん?」
 
 シノは事のいきさつをアリアに伝える。
 
「………そうなんだ。タカトシ君,あの子と付き合う事にしたんだ………だから,ため息をついていたんだね。
 でも,そっか〜,シノちゃんもタカトシ君の事が好きだったんだね?」
 
「な,何を!?………………うん」
 
 シノは顔を真っ赤にして答える。
 
「会長としての立場もあるし,何より先を越されたということもあってな。
 だから,ため息が止まらなかったんだ」
「シノちゃん?タカトシ君が自分で選んだ人なんだから,ちゃんと見守ってあげようね。
 ……………それに,シノちゃんには,私がいるじゃない?」
 
 アリアの最後の一言にシノは顔を見上げる。すると,アリアの目が怪しく光ったような気がした。
 アリアがシノに近づいて,制服を脱がそうとする。
 
「おい,アリア!
 なんで,私の服に手をかけるんだ?それに顔を近づけているんだ?」

 しかし,アリアはその言葉を無視して,自分も服を脱ぎだした。

 「おい!聞いているのか!……やめろ!やめろーーー!!!」
 
……………
 
 クラスの掃除を終え,オレは生徒会室に入ると会長と七条先輩が先に来ていた。
 ………なぜか,会長はぐったりしていて,七条先輩の肌がつやつやしている。
 
「………すみません,遅れました」
「大丈夫よ津田君。もうすぐ始まるところだから」
 
 笑顔で七条先輩が答える。
 会長はいまだぐったりしている。
 
「………会長はどうかしたんですか?」
「何でもないのよ,津田君」
 
 ………何が起こったか聞かない方が良さそうだ………
 
おまけ……終わり。

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