『よぉ、マサヒコ!!今日は俺も参加させてもらうぜ。』

そう声をかけてきたのは、ミサキの双子の兄であるマサキ。

『珍しいな、マサキがうちらに加わるなんて。』

マサヒコも当然知らない人物ではない。

マサヒコとミサキが疎遠になっていた期間も同じサッカークラブのメンバーとして同じ釜の飯を食った気心の知れたミサキと同じ、いやそれ以上の幼なじみなのである。

………………………………

マサキは、髪の色はミサキと同じで明るく、顔立ちもかなりミサキにそっくりである。
髪型はそこはやはり男の子、マサヒコより若干短めのミディアムヘア。
性格はサバサバしており、男女関係なく仲がよい、ミサキとは違ったタイプのクラスの人気者である。

もちろん、そんな人気者の彼がこうしてやって来たのには訳がある。

それは

【妹の恋愛をアシストすること。】

妹の思いを知ってか、知らずかそのフラグをことごとく倒しつづけるマサヒコ。
そんな二人の関係が進展して欲しいと一番思っているのは間近で二人を見てきたマサキに他ならないのである。

………………………………
『〜でさー、〜がさー』

『ほんとかよ、俺そんな事全く知らなかったぞ!?』

マサヒコとマサキは笑い合うようにいろんな話しをしている。

ミサキは二人の話しに耳を傾けながらも絶妙なタイミングで会話を挟んでくる。
三人の昔から変わらない一番互いに心地のよい距離感である。

『ところでさ、俺、同じクラスの鳥谷と付き合いだしたんだよね。』

『え!?本当お兄ちゃん?』

突然の話しに思わず反応するミサキ。
マサヒコも口こそ挟まなかったが驚きは隠しきれない。

『本当だよ、本当!!二人に嘘言ってどうするんだよ。』

マサミサコンビとマサキが互いの事を案外知らなかったりするのはマサキが未だにサッカー部さらには部長として、家庭教師があるからと放課後すぐに学校から帰ってしまう二人とは下校時刻がまるで違うが故である。

しかしながら、こうして3人で揃って改めて話しをしてみると、出てくる話しにそれぞれ驚いたり、笑ったりしながらも、そこに溝は一切無いのである。

………………………………

マサキの彼女出来ました宣言から話題は一気に恋愛の話しで盛り上がる。誰と誰が付き合ってるだの、あの二人が別れただの。

そんな会話の流れの中、マサキが切り出す。

『そういやさぁ、ミサキにも好きな奴がいるみたいでさぁ、最近妙に色気づいて、ファッション雑誌なんて読み耽ってるんだぜ。どうよ、マサヒコ?』

『いや、どうって…』

言い淀むマサヒコ。
別に心当たりが無い訳ではない。

ミサキはここ最近確実に変わってきている。

再び親交を持つようになりだした中学一年時に比べ、スカートの丈は短くなった気がするし、よくポーチを持って身嗜みを整えに行く姿も見かける。

何よりも幼い頃からいつも決まっていた髪の長さを少しずつミサキが伸ばしている事にもマサヒコは気づいているのだ。

なんだか、やましいことを考えてしまったようでマサヒコは突如として黙り込んでしまった。

『…』

会話が一行に続かない空気のなかで、マサキはトイレに行く事を宣言して部屋を出ていった。

………………………………

『『…………』』

二人きりになった部屋の中にも沈黙という空気が流れた。

そんな空気のなか、ミサキが口を開く。

『お兄ちゃんあんな事言ってたけど、マサ君はどう思う?』

嫌が応にも先ほどミサキを異性として意識がさせられた直後のこの質問にはかなりの破壊力があった。

一度異性として意識してしまえば、ミサキはかなり魅力的な女の子である。
幼なじみフィルターは正しく風前の灯だった。

『ねぇ、マサちゃん?』

なおも何も発しないマサヒコに痺れを切らしたのか、なおもミサキは問いかける。呼称を幼い頃のものへと変化させて。

さすがのマサヒコも観念したのかぶっきらぼうに

『綺麗になったと思う…』
一言だけ返す。正確にはそれだけ返すのが精一杯だった。

『マサちゃん…』

瞳を潤ませながらミサキは次の行動に移ろうと体を持ち上げる。

しかしそれは出来なかった。


ミサキは3人での話しが始まった当初よりずっと正座をしていた。痺れに痺れた足は、事ここに至って限界を迎えたのである。

そして、ミサキは尻餅を着くように後ろに座り込んだ。

ミサキを支えようと立ち上がったマサヒコだが、

『…………』

本日何度目かの沈黙とともに固まってしまう。
そして、響くのは

『きゃああ〜!!』

ミサキの悲鳴。

ミサキの今日の服装は先ほどマサヒコが心のなかで指摘したように丈の短くなったスカート。
つまり、ミサキの今の態勢ではスカートの中は丸見えである。

そして、その光景を目の当たりにした途端に固まったマサヒコ。

ミサキがその理由に気づくのに時間はいらなかった。

バタン

突然の扉の開く音。

油のきれた自転車のタイヤのような音を発しながらマサヒコが振り向いた先にいたのは、ミサキが怒ったときよろしく、オーラを纏ったマサキだった。

『マ・サ・ヒ・コ〜!』

そんなマサキから逃げようと後ずさるマサヒコの背後からもオーラの気配。そちらをみれば、こちらは本家本元オーラを身に纏ったミサキが佇んでいた。

『ちょっ、不可K』

『『問答無用ー!!』』

二人の声が重なり大津波となり自らに襲い来るのを、マサヒコは確かに感じた

………………………………

『はぁ、また夢か…』

もはや何度目なのかわからない。目を開けた先の光景にマサヒコは安堵する。

『しかし、マサキって…』
夢の内容を思い出し苦笑するマサヒコ。

夢の中とは言え、かなりのご都合主義がまかり通った世界だった。とマサヒコは思う。

(それもこれも、今までみた夢もすべて…)

そう思いながらマサヒコは時計を確認する。

翌日の用事のため起床するにはまだまだ早過ぎる時間である。

『まさか、あいつがなぁ…』

そうひとりごち、今の自分の環境が見させた一連の夢であったと自らを納得させ、マサヒコは再び眠りについた。

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