「!ち、ちょっと、ユーリちゃ」
「私、知ってるよ。おにいちゃんとカルナちゃんが付き合ってたの。
知ってるよ。最近……ふたりが、別れたの」
(そう言えば………最近)
ヒロキは、思い出していた。今日も含めてだが、それまで気分の浮き沈みの激しかったユーリが、
カルナと別れた半年ほど前から妙に機嫌良く仕事をするようになっていたことを。
そして、それまで以上に、自分にじゃれつくようになっていたことを。
「おにいちゃんとカルナちゃん、ふたりとも上手くごまかしてるつもりだったのかもしれないけど、
私はなんとなく分ってた。シホちゃんや三瀬さんや社長は気付いてなかったかもだけど。
ねえ、おにいちゃん?それってなんでだか、分る?」
「…………どうして?」
「おにいちゃんが好きだからだもん。ユーリは、お兄ちゃんが好きだからなんだもん」
「ユーリちゃん………」
(なんで俺は何度も何度も……こんな目に)
ユーリの告白を聞きながら、ヒロキはデジャヴにも似た感覚に襲われていた。
あの日―――カルナから告白を受けた日の夜が、脳裏に蘇っていた。
「おにいちゃん……ユーリじゃダメ?私……」
「あ、あのね、ユーリちゃん。君はウチの事務所の看板アイドルで、
俺は君のマネージャーでしかないんだから」
「でも、カルナちゃんとは付き合ってた」
「う……それは、ね、あの」
「ねえ、おにいちゃんは、ユーリが嫌い?私、もっとおにいちゃんと」
「ダメだよ、やっぱり。君はね、今じゃ知らない人はいないくらいのアイドルなんだよ?
君のファンでいてくれる人のためにも」
「嫌!」
ヒロキの言葉が終わらないうちに、ユーリは、叫んだ。
「おにいちゃんが好きになってくれないんなら、アイドルなんてもう嫌。やめる!
もう嫌、いや!うわぁぁぁぁぁん!!」
「ユーリちゃん……」
いつものユーリのワガママだと、思いたかった。すぐに機嫌を直すはずだと、思いたかった。
しかし、泣きじゃくる彼女の姿は―――あまりに、幼かった。
「うッ、うわぁん、お友達はみんな、好きな男の子とかいたりするのに、うッ、私はお仕事ばっかり。
ちっちゃい頃からなにも分らないうちに、うッ、この世界にいて、お仕事ばっかり。
好きになった人はカルナちゃんに取られちゃうし、ううッ、私……私、ずっとつまんなかった。
おにいちゃんとカルナちゃんが別れて、うッ、やっと、やっと……告白できたのにッ」
ユーリは、ただ、泣き続けていた。堪えてきた感情を、破裂させるように。
(そう言えば……ユーリちゃんは……)
物心付く頃にはこの仕事をしていて、芸能界以外はほとんど知らずに過ごしてきたはずだった。
ある意味では、同世代の女の子たちよりもむしろ禁欲的な生活を送ってきたはずであり――
恋愛に対しての憧れは、普通の女の子よりもずっと強いのかも知れない。
「ユーリちゃん……俺はね、君のこと、好きだよ。これは、嘘やゴマカシなんかじゃなく、本当に」
まだ、嗚咽を漏らしながらだが――ゆっくりと、ユーリが顔をあげる。
大きな瞳からは、ぽろぽろと大粒の涙が零れていた。
グラビアで見せる小悪魔っぽい感じはそこにはなく、年相応の――幼い、少女の顔だった。
「ただね、君と付き合うってのは、やっぱり違うと思うんだ。
カルナちゃんと俺が付き合ってたのは事実だ。そのことで……君を傷つけていたのなら、謝るよ。
でも、それと君のことは、別なんだ」
「なんで?カルナちゃんのことがまだ好きだから?私じゃ、ダメなの?」
「違う………本当のことを言うと、怖いんだ」
「………クビになることが?」
「それも、違う。カルナちゃんとのことは、この世界ではルール違反のことだったんだ。
俺は、……俺たちは。ずっとそのことが気になってた。普通の恋愛じゃなかった。
カルナちゃんのことは好きだったし、楽しいことだってたくさんあったけど……
俺たちは、ずっと、恐怖感みたいなものをお互いに持ちながら付き合っていたんだ。
結局それが原因で、上手くいかなくなったんだと思う」
§

ヒロキは、決めていた。正直に全てを話そうと、決めていた。
「だから……怖いんだよ。また同じ事を繰り返すんじゃないかって。
カルナちゃんを傷つけたみたいに、君のことを傷つけてしまうんじゃないかって」
「おにいちゃん、私は大丈夫だよ。だって」
「ダメだよ、俺は、君に」
「私は、カルナちゃんと違う。私は、ユーリだから。だから、他の誰でもなくて、私を見て」
「俺も、もうあんな思いはしたくないし、君にもさせたくな」
「いいから………私を、見るのッ!」
ユーリが、叫ぶ。
「みんな……みんな、同じ。私のことなんて、本当は誰も見てない。
お願いだから、ユーリを見てよ。………私を……見てよッ!!」
ユーリは、再び、泣き出していた。
「ぐすッ、おにいちゃんだけは……私のことを、分っているって、思ってたのに。
だって、みんなみんな、全然私のことなんて、見てるけど見ていないんだ。
辛いときや、嫌なときでも、カメラの前だと無理に笑わなきゃいけないのに……
そういうときの惨めな気持ちなんて、誰も分ってくれない。
おにいちゃんは、おにいちゃんだけは、私のことを分ってくれているって、そう思ってたのに!」
「……ユーリちゃん」
ヒロキには、ユーリの言っていることが、痛いほど良く分った。
一見華やかに見える芸能界だが、実際の中身は弱肉強食の世界である。
つい数ヶ月前まで栄華を極めていたアイドルが、いつのまにか消えてしまうことも、
人気芸人が不祥事でタレント生命を絶たれてしまうことも、珍しいことではない。
胸の内を隠しながらも、皆表面だけは楽しげにしている――そこは正に、ガラスの遊園地だった。
幼い頃からその世界の中で暮らしてきたユーリが、
いつの間にかこの世界の『毒』にあてられて中毒症を起こしてしまうのも無理はなかった。
「…………」
机の上に顔を伏せて嗚咽を漏らしているユーリの後ろに回ると、
ヒロキは無言のまま彼女を抱きしめた。震えていた小さな肩が、一瞬、固まる。
「……恋人とかじゃない。だけど、君のことは、誰よりも好きだし、分っている。
俺は君の、お守りみたいなもので良いって、そう思ってる。それじゃ……ダメかい?」
「………おにいちゃん」
「昔、君に兄みたいな人だって言われたとき、ちょっと恥ずかしかったけど、嬉しかった。
君がそれだけ俺のことを信頼してくれてるって思って、本当に、嬉しかった。
だから、あのとき思ったんだよ。ユーリちゃんを、TBを、俺が売れっ子にしたい。
俺が、君を、君たちを守っていくって思ったんだ。君には……いつか、きっと相応しい男の子が」
「………守って、ユーリを」
「分った、約束するよ。だから」
「約束して。ユーリを、一生守るって」
「………それは」
「好き。おにいちゃん。だから、私を守って。ずっと、ずっと……」
「俺は」
"ちゅ"
ユーリが、ヒロキの正面に回ると、そのまま唇を押しつけてきた。
(ユーリちゃん………)
逃げようと思えば、かわそうと思えば、出来たはずだった。
しかし、ユーリを傷つけてしまうことを思って、ヒロキはそのままキスを受け入れた。
小さくて、熱い、唇だった。少し、塩辛かった。さっきまで食べていたミートソースと、涙の味がした。
「んっ……」
短くユーリが呟くと、ヒロキの背中に手を回す。ふたりのからだが、密着する。
ユーリの小さなからだから、体温が伝わる。久しぶりに感じる、柔らかい感触。
「おにいちゃん……」
「ユーリちゃん、俺」
「好き。だから……」
ぎゅっ、とユーリがヒロキを抱きしめる。戸惑いながらも、優しく抱きしめ返す。
ユーリの匂いが、ヒロキの鼻腔をくすぐる。
§

(………子供だとばっかり……思ってたけど)
笑ったり、怒ったり――くるくると表情が変わるのが、可愛いと思っていた。
わがままな顔を見せることはあるが、本当は努力家で、そのことを誰よりも知っているつもりだった。
マネージャーとしてだけでなく、本当の妹のように――大切に、思っていた。
しかし今目の前にいるのは、あまりにも脆くて儚げな、一人の女の子だった。
「おにいちゃん……」
潤んだ目で、ヒロキを見つめるユーリ。そして――ブラウスのボタンを外していく。
「!ゆ、ユーリちゃん、ダメだよ。それは……」
「……カルナちゃんと……したことと、同じことを、私にも、して、おにいちゃん」
「ダメだって、そんなことは」
「嫌。もう、嫌なの。私を見て。私だけを、見てよぉッ!」
引きちぎるように、上着を、スカートを、ユーリが脱いでいく。
慌てて彼女を止めようとするヒロキだが、ユーリはあっという間に下着姿になると、ブラを外した。
(あ………)
目を逸らすこともできず、ヒロキはユーリを凝視してしまっていた。
ほっそりとした肩、まだ大きくはないものの熟れ始めた果実のような乳房の上にのる、
小さな薄桃色の乳首。くびれた腰から下を包む、ピンクのショーツ。
今までに何度も仕事でユーリの水着姿を見てきたヒロキだが――
半裸の姿はあまりに扇情的で、息をのむほどに、美しかった。
「おにいちゃん……私と、エッチして」
「俺……俺、でも」
「おにいちゃん……私の、初めてのひとになって。もう、嫌なの。
水着とかを着て、いやらしい目で見られるのも、本当は嫌なの。
本当は、おにいちゃんにだけ、見て欲しいの。お願い、見て……私を」
そう言いながら、ゆっくりと、ユーリは、ストッキングとショーツを、脱ぐ。
(!……………)
白く細い脚の間に、黒々とした茂みが見えた。
ひりひりとするくらい、喉が、渇いて、言葉を発することが、出来なかった。
「見て……おにいちゃん。私、おにいちゃんに、見て欲しいの。触って、欲しいの」
「ユーリ……ちゃん……」
目の前で全裸の姿を隠そうともせずに佇むのは、
今や時の人になりつつある美少女アイドルである。
必死で理性を働かそうとするヒロキだが、既にそれは限界をとっくに超えてしまっていた。
くっ……
ユーリがヒロキの手を取ると、自分の胸の上へとそれを導く。
ふるり、とした柔らかな弾力と、とくッ、とくッと脈打つ少女の鼓動が、手のひらから伝わる。
ユーリが、熱を帯びた視線でヒロキを見つめる。
「好き……好きだから、全部、して欲しいの。全部……おにいちゃんに」
"ちゅッ……"
背伸びをして、ユーリが唇を重ねてきた。もう、ヒロキはそれを避けることすら、できなかった。
――ふと、ヒロキは思い出していた。
「………仕方がないですよね、井戸田さん。なるようにしかならないって言うか、
結局、流されるしかないって言うか……」
レイ・プリンセス事務所所属で最近人気が急上昇しつつある、とある男性タレントの言葉だった。
それを聞いたときは、いつもながら冷めたことを言うというか、大人びたことを言うものだと、
ヒロキ自身もTBに振り回されっぱなしの立場だけに苦笑しながら聞いていたのだが。
今、彼の言葉はなによりも切実に、ヒロキの心に響いていた。
(そうだね………マサヒコ君。なるようにしか、ならないんだね)
覚悟を、決めた。なるようにしか、ならないのだ。
なにより――ここでユーリを拒絶してしまえば、彼女の心には、癒えることのない傷が残るだろう。
それだけは、避けたかった。たとえ、自分がクビになったとしても。
「ユーリちゃん……いいのか?俺みたいな奴で」
「ダメなの。おにいちゃんじゃないと。私、決めてたの。初めてのときは、おにいちゃんだって」
「後悔………しないね?」
「ウン。絶対、しない」
§

"ちゅ"
ヒロキから、キスをした。ユーリは、夢見るように瞳を閉じて、それを受け入れる。
"くちゅ……ちゅっ"
舌が、入ってくる。瞬間、身体を固くするユーリだが、
すぐに頬を紅潮させてうっとりとした表情になる。
"くちゅッ、ちゅくッ、ぷち……ちゅう〜〜"
舌と舌をねっとりと絡ませた後、頬の裏側を、歯茎を、舐める。
唾液を、混ぜるように、吸う。くちゅくちゅと、音をたてながら、掬う。
「んッ……ふぅ………あぁ」
ヒロキの舌戯に、たっぷりと浸ったユーリは、やがて、感極まったように小さく震えた。
かくん、と彼女の小さな体から、力が抜けるのが分った。
「………キスは、初めて?」
「………シホちゃんと、ふざけてしたことは、あるけど。
男の人とするのは、おにいちゃんのために、取っておいたの」
(シホの奴…………)
苦笑しながら思うヒロキ。彼の心の中を予想したのだろう、ユーリも小さく、笑った。
「あんまりシホちゃんのこと、悪く思わないで。あれで結構友達思いなんだから」
「いや……悪い子じゃないのは、分ってるんだけどさ」
互いに抱く思いは一緒だった。なんとなく、和やかな空気になった。
緊張していた空気もときほぐれたふたりは、くすくすと笑いながらキスを続けた。
"くつ……ぷ、ちゅ"
「あ……ン、おにいちゃん」
「ユーリちゃん……可愛いよ」
舌が、熔けそうだった。ぐしゅぐしゅになったそれが、味覚にも似た体温を伝える。
唾液を、交換するような、キス。唇が、舌が、腫れぼったくなったように、熱い。
ヒロキは、その熱に冒されるまま、ユーリの胸を揉む。
"くに……"
「ん……ああぁ……」
手のひらにすっぽりとおさまる、まん丸の乳房を、ぐにゅり、と揉む。
(……すべすべで、ぷるっぷるっで……吸いつくみたいだ)
巨乳派を自認していたヒロキだが、形良く膨らみ、
ぷるん、とした弾力を持つユーリの乳房の新鮮さに感動していた。
「ユーリちゃん……いい?」
「?!きゃ?」
ヒロキはキスをいったん中断すると、ユーリのからだを抱きかかえた。
「あのさ、ずっとここでってわけにもいかないし、ベッドで……」
「う、ウン。だけど、ユーリだけ裸なの、恥ずかしいよ、おにいちゃん」
「あ、そうだね。ゴメン」
ユーリをベッドに横たえ、そそくさとヒロキも裸になる。その様子を、ユーリはじっと見つめている。
「………おにいちゃんって、痩せてるよね」
「ん?ああ、そうだね。学生時代からあんま体重の増減は無いな」
「カッコイイし、背も高いし」
「それは、どうかな?」
「マネージャーじゃなくて、モデルとかタレントさんにもなれたんじゃない、おにいちゃんなら?」
「ははは、実はさ、ちょびっとだけやってたんだよね、モデル」
「え!」
「つっても遊びみたいなもんだよ。俺、服飾関係の専門学校行ってたんだけど、
そんときに見習いで撮影補助のバイトとかしてたんだよね。
で、モデルさんが間に合わなかったり、穴が空いたときは俺が代打でモデルしてたわけ」
「じゃあ、そのままモデルになる可能性もあったの?」
「はは、ないない。俺、あがり性だったしさ。とても本職にする気はなかったよ。
でもそのバイトしてて裏方さんの面白さに目覚めて、この仕事を選んだっていうか」
「ふ〜〜ん。でも、そこで私たちと出会えたんだから、運命だよね!」
嬉しそうにそう言うと、ユーリがヒロキに抱きついてくる。ヒロキも、笑顔で彼女を抱きしめた。
半身を起こした体勢で、抱き合う。身体が、絡み合って体温を感じる。
§

"ちゅッ"
唇を重ねて、触れる。互いの裸の感触を、確かめ合う。
ユーリはヒロキの肉体の硬さを感じ、ヒロキはユーリの身体の柔らかさを感じていた。
「ん……ん………」
「は……ふぅ……」
ふたりの呼吸が、シンクロする。ヒロキが、ユーリの肩をさする。ぷにぷにと柔らかいお尻を、撫でる。
ユーリの気持ちが、高ぶるのが分る。長いキスの間に、少しずつ、息が荒くなる。
"ちゅぷッ"
唇を、離した。無言で、彼女を、押し倒した。
ほんのり赤く色づいた肌には、玉の汗が浮き出るように滲み、蛍光灯に反射していた。
"きゅッ"
ヒロキはユーリの左手を一回強く握ると、再び唇を重ねた。
「んッ………」
すぐに唇から離して清々しいほどに白いうなじに、キスをする。
「あ……ふ」
くすぐったさそうな声を漏らすユーリに構わず、首筋に舌を這い回らす。
「ふ………んッ、ひゃん、ふ―――、くっ」
舐める場所によって、ユーリの声が変わる。何回も舐め回した後、小さな乳首に舌先をつける。
"る……る〜〜〜"
舐めるというよりも、口内にたっぷりと溜めた唾液で浸すように口づけして、舌先で転がす。
小さな可愛い果実が、唾液にまみれててらてらと光る。
「ふぁ、ふぅ―――ッ、はぁ……んッ!」
"ちゅ、る、ちろッ……くぅちゅうッ、れろッ、れろッ"
乳首の縁に沿って円を描くように、舌先で弾くように、ねぶる。
しつこいくらいに口撫を繰り返すと、やがて果実は、ぷっくりと、膨らむように起きあがった。
"れろッ……かにッ、くん!"
「あ!や……噛むの、だめ……」
「ユーリちゃん?噛まれるの、気持ち悪い?」
「気持ち悪くは無いけど………ぞくぞくっ、てきちゃった。ダメだよ……わかんない」
「嫌な感じとかは、する?」
「おにいちゃんだから……嫌じゃ、ない。でも、他の人にされるのは、恥ずかしい」
「あんまり他の人としてもらったら、困るんだけどね」
苦笑するヒロキだが、ユーリは初めての快楽にただ目をとろん、とさせている。
「ユーリちゃん……じゃ、もっと恥ずかしいかもしれないけど、もう少し我慢して……」
「あ……ふ、うン」
肉の丘に、手のひらをのせた。豊かに生い茂った恥毛が、ふわふわと優しく反発する。
"つ……くちゅッ"
固く閉じられた裂け目に、中指を沿わせる。ゆっくりと、沈めていく。体温と違う温もりが、伝わる。
「あ……ッ。おにいちゃん」
「痛い?ユーリちゃん」
「う、ううん、違うの。あの……あのね、おにいちゃん。優しく……して」
「うん……優しく、するよ」
「…………萌えた?」
「                                          は?」
「あのね、シホちゃんが初めてのときはこれを言うのがお約束で、
男の人が萌える必殺のフレーズだから」
「ストップ」
(しかし……シホの奴、いったいどこまで仕込んでるんだ……)
ふと、特大級の嫌な予感に襲われたヒロキは恐る恐る尋ねた。
「ねえ、ユーリちゃん?まさか、俺とのこと、シホに相談したりとかは……」
「え〜〜、さすがにそれは、してないよぉ〜〜」
ぷん、と可愛らしく頬を膨らませて抗議するユーリだが、
ヒロキの脳裏からはシホの顔がなかなか消えないわけで。
(アイツ、普段は鈍いくせに妙〜〜に鋭いところがあるしな。まさかとは思うが、
ユーリちゃんの気持ちを知ったシホが面白がって焚きつけたっていう可能性も……)
§

「ダメ!おにいちゃん!」
「!?な、なんだよ、いきなりおっきな声出して」
「また思い出してる……ひどい。またカルナちゃんのこと」
「ち、違うって。カルナちゃんのことじゃなくて」
「?」
(そうは言っても、シホのこと考えてたなんてのも言えねーよな……)
なんとなく情けない表情になってしまうヒロキだが、ユーリはそんな彼のことをじっと見つめた後――
"ちゅっ"
「え?」
不意打ちに、キスをしてきた。
「ゴメンね、おにいちゃん」
「?いや、謝られても」
「おにいちゃんがせっかくしてくれたのに、変なこと言っちゃったよね、ユーリ。ごめんなさい」
「それは、大丈夫だよ、ユーリちゃん。えっと……俺の方こそ、ゴメン」
見つめ合うふたり。ユーリの真剣な瞳を見ていると、
心配している自分が馬鹿らしくなってくるのも事実だった。
(今は……ユーリちゃんのことを)
大切に―――愛さなければならない、と思った。
ガラスのように脆く壊れやすい、少女の心とからだを、愛そうと、思った。
"ちゅッ……つっりゅ"
ヒロキの方からもキスをした後、再び裂け目に指を沿わせる。
「ん………」
ユーリが、低い吐息を漏らす。入り口の周りをほぐすように、こちょこちょ、とくすぐる。
"くちゅ……く〜〜〜っ、ちゅうッ"
「あ……はぁッ!!ふやっ」
乳首にも、また口をつける。かにかに、と甘く噛む。ユーリの汗の匂いと、酸味が口の中に広がる。
「まだ、痛かったりする?」
「う、ううん。だ、大丈夫」
「じゃ……」
"くぷッ"
「あ!」
入り口から、少し中へと指を沈める。ぐにぐに、と狭い肉が締めつけてくる。
襞がみっちりと指先に絡んでくる。肉の壁が、優しく挟んでくる。
"ちゅぷッ……にゅるうぅ……"
小さく、指を動かす。細かな振動を伝えるような、丁寧な愛撫。
「あ………あ、はぁッ………」
ぎゅっ、とユーリが抱きついてくる。ヒロキの腕に、爪が、めり込む。
ユーリの目尻に、小さな涙が粒になって浮かんでいるのを、ヒロキは、見た。
「好きだよ……ユーリちゃん」
「私も……あ……うン……好き。おにいちゃん」
快感に溺れながら、必死にユーリが答える。
彼女のことが一層愛おしくなったヒロキは、夢中になって指でユーリの裂け目を、愛した。
"くッ……くにッ、くりッ、くちゅ"
「あ!」
少しずつほぐれてきたそこを、軽く広げる。親指で、まだ包皮にくるまれたクリトリスを、擦る。
「にゃ………ふぃやあ……」
ユーリが、惚けたような声を漏らす。ふるふる、と肉体が、震える。
「コレ……好き?ユーリちゃん」
「分かんない……でも、気持いい……」
「もっと、気持ち良くしてあげるから……少し、我慢できる?」
「うん………」
興奮と恐れが混じった表情でいるユーリの、脚を広げた。
固かったそこが、とろとろになってしまっているのが分る。
ベッドのマットレスの下にしまい込んでいた、コンドームを取り出してペニスにつける。
「おにいちゃん……来て。ぎゅっと、して」
§

ユーリが、小さく手を広げてヒロキを迎える。その言葉のまま、ヒロキは彼女を抱きしめる。
ゆっくりと、狙いを定めて膣口にペニスを押し当てた。ユーリのからだが、びくッ、と大きく震えた。
ペニスの先端に、彼女の肉の感触を感じた。何度か、擦りつけるように入り口で往復させる。
"ちゅッ……ちるッ"
からだを固くしてヒロキの侵入を待つユーリと唇を重ね、舌と舌をねっとりと絡める。
緊張をほどくように、ユーリの幼い性感を刺激するように、乳首をこりこり、と摘む。
"ぐ……ぬ……く……くッ"
「あ!あ―――ッ、あ……」
狭いユーリの入り口に、ペニスの先端がめり込むように入っていった。―――幻聴だろうか?
ヒロキは自分のペニスの先端から、ぷちぷちと弾ける音が聞こえたような気がした。
ぷっちりと、ペニスが両側から締めつけられる。ぬるり、と心地よい圧迫感がヒロキを襲う。
「は……い……入った……の?おにいちゃん……」
「まだ……全部じゃないけど、入ったよ、ユーリちゃん。ユーリちゃんの中に、俺のが」
「……きもち、いい?おにいちゃん」
「うん。ちっちゃくて、あったかくて、すごく気持良いよ。………ユーリちゃんは、痛いよね?」
「……大丈夫。おにいちゃんが、いっぱいさわってくれたから。痛いの、最初だけだったよ。
おにいちゃん……ちょうだい、もっといっぱい、おにいちゃんを」
「………分った。じゃあ、いくよ?ユーリちゃん」
"く……くち、くち、くぐッ!"
「あ!は―――――ぁッ!!!」
細い腰に手を回し、一気に奥までペニスを突き立てた。
ユーリが、甲高い叫び声を上げた。小さなからだが、一回、釣り上げられた魚のように、跳ねた。
ペニスが抜けないよう、ヒロキはしっかりと彼女のからだを抱きしめる。
「は……はぁ………」
「ふ……ふぅ―――」
ふたりは、荒い息を吐きながらしばらく絡み合っていた。
ヒロキは、吹き出すように汗をかいてペニスを埋め込んだまま。
ユーリは、目を閉じて白いからだを赤く染めたまま。
ふたりは、そのまま動かずに―――ただ動かずに、抱き合っていた。
「おにいちゃん……」
「ユーリちゃん……」
どれくらい、そうしていたのだろう。ふたりにとって、永い――永い、時間が過ぎた頃。
ユーリとヒロキは、ほぼ同時にお互いの名を呼びあっていた。
またも無言に戻って見つめ合った後―――
"ちゅ……"
小さな、キスをした。それだけで、ふたりには通じていた。空白の時間を埋めるように、ヒロキは。
"ぬぷッ、ちぷっ、くちゃ!くぷッ、ちるっく!"
腰を、強く動かし始めた。ユーリの、中まで。ユーリの、奥まで。ユーリの、深くまで。届くように。
「あ………ああ……はぁ……おにいちゃん」
ユーリは、ただ切なげな声でそれに応える。痛みが完全に消えたのでは、無かった。
それでも、ユーリはヒロキの動きにあわせて幼い反応を、返す。
"きゅ……くうぅ"
「あ……ユーリちゃん……」
ユーリの中が、急速に収縮する。ヒロキを、包むように。柔らかく、温めるように。
「ぅ……ぅくっ、好き……おにいちゃん……ずっと、好きだったの」
自分の中を、引っ掻かれるような、掻き回されるような、初めての感覚。
痛みにも似ていたが、しかしそれは確かに痛みでは、無かった。不思議な、感覚だった。
ヒロキに突かれるたび、ユーリは、自分の身体の奥底から熱くなっていくのを感じた。
今までに感じたことのない、なにか―――感情ではない、思考ではない、感覚ですらない、
なにかが―――ユーリの中から、迸って、溢れてきた。
"ぐっ!ぐにゅっ!ぬぷっち!"
(あ……ユーリちゃんの、中、気持良い)
一方ヒロキは、ユーリの身体を気遣う余裕すら、無くなりつつあった。
両側の肉壁から、ぬるぬると挟み込まれ、奥の方から熱くとろけたように包み込まれ、
ペニスが、腰が、下腹が、冒されたように、熱かった。限界が、近づきつつあった。
§

「ゆ……ユーリちゃん、俺……もう」
「はッ……!おにいちゃん、私も、わかんないけど、ね、くぅッ、はッ……あ……」
"く……どくっ!びゅッ!びゅるぅ!"
ヒロキの動きが止まり、青白い精が、何度も何度もコンドームの中に吐き出された。
「……ユーリちゃん……」
「あ!あはぁぁぁああッ!おに……おにいちゃんッ!」
一瞬遅れて、ユーリの肉体がぶるるっ、と震えた。
泣きながら叫び声を上げると、強く、強く、ヒロキの体にしがみついてきた。
(きゅ………きゅちゅぅぅぅッ)
ユーリのそこは、しかし、固さを失おうとするペニスを離そうとせず―――
それどころか、搾り取るように熱く、締めつけてきた。
「!あ……あぁあ……ユーリちゃん……ああ……」
体中から精気を吸い取られるような錯覚を感じながら、ヒロキもユーリを抱きしめ返す。
ふたりは、全てを解き放ってしっかりと抱き合ったまま―――深い、深い眠りについた―――

「それは、ともかくさ。大丈夫なの?ユーリちゃん。その……」
「ふふぅ〜〜〜♪はい、おにいちゃん!」
「へ?」
ユーリが、突然掛け布団をばさり、とまくった。そこには―――
「…………あ」
「おにいちゃんが、私の初めてのひとだって証拠!えへ、でも思ったより出なかったね!」
シーツの上には、小さな鮮血の痕があった。時間が経ち、赤黒く乾いた、破瓜の痕が。
「ひょっとして………これを俺に見せようとして」
「うん!おにいちゃんが起きるの、待ってたの。うふ、ありがとう、おにいちゃん」
嬉しそうに笑うと、ユーリがヒロキに抱きついてきた。昨晩の記憶の中にあるとおりの、
柔らかい肉体がヒロキの裸の胸に触れる。長い黒髪が、ふわり、と顔にかかってくすぐったかった。
「ねえユーリちゃん……ひとつ、聞いて良いかな?」
「なに?おにいちゃん」
「君さっき、デビューしたての頃から俺のことを好きだったとか言ってたけど……
なんか、きっかけとかあったの?一人っ子で、お兄ちゃんができたみたいで嬉しい、
とか言ってたけど。それだけで10歳以上年上の俺のことを好きになったわけじゃないんだろ?」
「ふふ、きっかけ、かあ………」
ユーリが顔を上げ、悪戯っぽく微笑む。多くのファンを魅了してやまない、
小悪魔チックなスマイルに、またもどきり、とするヒロキ。
「絶対、おにいちゃんは覚えてないだろうけど……ココ」
「え?」
ユーリが、人差し指を眉毛のうえに乗せた。訳が分らず、呆然とするヒロキ。
「うふ、やっぱり覚えてないね?あのね、私、眉毛が濃いのがすっごく嫌で。
おにいちゃんにね、もっと眉を細くしたい、って言ったの。でも、おにいちゃん、
『もったいないよ。ユーリちゃんの眉毛はそのままでも凄く可愛いよ』って言ってくれて。
私ね、すごく、すごく、嬉しかったの。そのときからおにいちゃんのこと、本当に好きになったの!」
「はあ………」
意外だった。もっと劇的な何かがあったのでは、とヒロキは思っていたのだが。
「ふふ〜〜♪やっぱり覚えてない。そういうところも、やっぱり好き♪」
子猫がじゃれるように、ユーリがまた抱きついてきた。
ヒロキは呆然としながらも、白く小さな彼女の背中を撫でるしかなかった。
(しかし………結局)
カルナに続いて、ユーリとも関係を結んでしまった。確かに後悔は、していた。
しかしそれ以上に心配なのが、二人の今後だった。マネージャーと、人気絶頂のアイドルの恋愛。
それがどれだけ困難なものなのか、ヒロキはカルナとの経験を思い出して途方に暮れていた。
(はぁぁぁ………本当にね、マサヒコ君)
「………結局、流されるしかないって言うか……」
自分も、運命に流されるしかないのだろう。
そして、流されながらも、ユーリを守るしかないのだろう。そう思って、力無く笑うヒロキだった。

END

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