油断大敵なる言葉がある。
意味は……まあ、あえて言うまでもないだろう。




マサヒコの父方の両親がそろって風邪をひき、小久保家に助けを求めたのが昨日午前。
両親がそろって青森へ出かけたのが午後。
両親不在でもとくに困るような事もなくマサヒコは一日を終え、布団に入って就寝。
そして朝起きたら……起きたら……。
「げほっ!……ごほごほっ!……」
ああ、油断大敵………注意一秒毛は一生……なんか、ちがう??





(ヤバイ……これヤバイって……)
まとまらない思考で、マサヒコは自らの置かれた危機的状況を確認する。
(つーか喉痛いし、頭痛いし…最悪だ…)
完全に風邪の症状。
(とにかく……まず薬…)
ふらつく足取りでベッドから起きあがろうとして、
(ダメだ……関節も痛い…無理)
断念。
そのまま横になっていると、枕もとの携帯電話に着信。
重い腕を伸ばし、手にとる。
「も、しもし」
「マサヒコちゃんと起きてる?寝てるならそろそろ起きて学校行きなさいよ」
「学校?……ああ…学校か」
「…なんか、声変よあんた。どうかしたの?」
「ん…なんか……風邪ひいたっぽい……」
「なにやってんのよ。大丈夫?」
「多分……寝てりゃ治るよ…」
「そう。学校にはこっちから連絡しておくから、ゆっくり養生してなさい」
「わかった」
緩慢な動きで携帯を元の位置へ置こうとして……やめる。
それすらも億劫で、適当にベッドの端から床に落とした。



「なにやってんだかあの子は……もう!」
息子の迂闊さにあきれる。
しかしほっとくわけにもいかない。
なんだかんだ言ってかわいい一人息子なのだ。
「しょーがない。あの子に頼むか」





ノックの音でマサヒコは目を覚ます。
一瞬母が帰ってきたのか?と思ったが、
時計を見れば母と電話で話してからまだ30分も経っていない。
じゃあ誰?盗人?それはまずいって。
「マサヒコ君大丈夫?」
部屋に入ってきたのは家庭教師のアイ。
「な…んで……」
「マサヒコ君のお母さんから電話もらったの。
様子見てきてって。大丈夫?熱計った?」
「計ろうと思ったんですけど……起き上がれなくて」
「じゃあ計ってみようか。えっと…何処においてあるの?」
「えっと――」
マサヒコから場所を聞き、体温計を取ってくる。
早速熱を計ってみると、
「38度4分!?す、凄い熱だよマサヒコ君!」
「うわぁ……」
不調具合を改めて数字で示されぐったりするマサヒコ。
「だ、大丈夫マサヒコ君!?」
「………大丈夫です………多分」
「うわぁぁん!ちっとも大丈夫そうじゃないじゃないじゃない!!」
「”じゃない”が一個多いです」
「よかった……それだけツッコめればまだ大丈夫だね!」
「ツッコミで人のバロメーターを――げほげほっ!」
不意に咳き込むマサヒコ。
「だ、大丈夫!?」
「……あの、先生。薬持ってきてもらっていいですか?
体温計が置いてあったとこの隣にあるはずですから」
「わかった。ちょっと待っててね」
そう言って部屋から出ていく。

しかし。

5分たっても10分たってもアイは戻ってこない。
20分たち、さすがに様子を見に行こうかと思った頃、
「おまたせー!アイ先生特製おかゆ出来たよー!」
お盆に土鍋を乗せて入ってきた。
「……俺は確か薬を要求したはずなんですけど」
「空腹で薬飲むと身体に悪いよ。だからこれ食べて」
「……食欲ないからいいです」
「だめだよ。食べて体力つけないと」
「……遠慮します」
マサヒコの言葉にアイは「うーん…」と唸り、
「あ、そうだ!」
ピンっと頭の上に電球が灯る。
「食べさせてあげるよ」
「はぁ!?」
「はい、あーん♪」
楽しそうにレンゲを差し出すアイ。


「いや、ですから先生……俺食欲が…それに正直起きるのも億劫で」
「……そっか」
素直にレンゲを下げるアイの様子に安心したマサヒコだが、
「じゃあ……(パク)」
「??」
アイがパクリとおかゆを一口。
…………やな予感。
「ん〜…」
「OK、ストップです先生」
「んん??」
「何故に口におかゆを含んで顔を近づけるんです?」
「んっん、んんんんんんんんん?」
「とりあえず、口の中の物を飲み込んでください。なに言ってるかさっぱりです」
指摘され、ごくりと飲み込む。
「だって起きれないんでしょ?だったら…く、口移しで」
ポッと顔を赤らめる。
「と、いう訳で。リトライ!!」
マサヒコ、がばっと起きあがり、口に入れる寸前だったレンゲをアイから奪い取る。
「自分で食べます」
「……そう」
「な、なんでちょっと残念そうなんすか……あ、おいしい」
「でしょ?」
自慢げに胸を張るアイを横目におかゆを口に運ぶ。
食べ出してみると意外にするりと入っていく。
食欲はないが空腹ではあったらしい。
「ご馳走様でした」
「おそまつさまでした。じゃあ薬持ってくるから、横になってて」
そう言い残し、空になった土鍋を持ってアイは部屋から出ていく。
忠告通り横になってアイを待つ。

しかし。

5分たっても10分たってもアイは戻ってこない。
デジャブ。
(今度は何をやってるんだ?)
そんな事を思っていると、
「おまたせー!アイ先生特製玉子酒ー!!」
お盆に湯のみとコップを乗せて入ってきた。
「……薬持ってくるって言いませんでしたか?」
「だいじょうぶ。ちゃんと薬も持ってきてるから。でもその前に」
湯のみを渡される。
「薬はこれを飲んでからね」
「はあ……」
勧められるままとりあえず飲んでみる。
「結構飲みやすいですね」
「砂糖入ってるしね。身体にもいいんだよ。
卵は完全栄養食品だし、お酒は体温上昇させてくれるからぽかぽか暖まるし」
ニコニコと笑顔で説明してくれる。


全部飲み終わった所で白い錠剤を渡される。
ようやく大本命の風邪薬。
コップの水で飲み、横になる。
すぐに効き目が出るわけではないが、
それでも薬を飲んだと言うことで精神的に楽になった気がする。
「ふ〜……」
「他になにかして欲しい事あったら遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます先生。でももう大丈夫ですから。
大学行ってください。授業あるんでしょ?」
「友達に電話したら休講だって言ってた。教授も風邪ひいたみたい」
実はウソ。
午後からもニ限あるのだが……まあ、優先順位というヤツだ。
アイは笑顔で言う。
「だから、マサヒコ君はなにも心配しなくていいから」
「……そうですか」
「薬も飲んだし、少し眠ったほうがいいよ」
「そうします」
促されるまま目を閉じると、アイが部屋から出ていく気配。
なんだろうと思っているとすぐに戻ってきた。
手には水の張った桶とタオル。
アイはタオルを水に浸し、絞る。
そしてそれをマサヒコの額へ。
「ひんやりして気持ちいいでしょ?」
「はい……」
再び目を閉じる。
「先生」
「ん?」
「すいません。大学サボらせちゃって」
「な、なんのことかなぁ?」
ぎくっとしながらしらばっくれるが、
「先生嘘つくと顔に出るんですよ。すぐにわかりますって」
「う……」
「この埋め合わせはいつかしますから」
申し訳なさそうな顔をするマサヒコ。
アイはくすっと笑って、頬を軽くつねる。
「ひぇ、ひぇんひぇい?」
「病人さんはそんなこと気にしなくていいの」
そう言って頬から手を離し、ポンポンと頭を叩く。
「さ、眠って。ぐっすり眠れば少しはよくなるよ」
「……」
「どうしたの?」
「いえその……姉ができたみたいだなって……」
言ってから照れたのだろう、視線を逸らす。
「そうだね。私も弟ができたみたいだよ。風邪を引いちゃう出来の悪い弟が」
「う……」
一本取られたマサヒコはもぞもぞと布団に潜り込んだ。
そんなマサヒコをアイは慈愛に満ちた目で眺めていた。





「ん……」
マサヒコが寝返りをうつ気配にアイは本から顔を上げる。
布団を派手に蹴っ飛ばし、身体の大部分が出てしまっている。
「暑くなったのかな?でも我慢我慢。汗かいた分だけ熱も下がるから」
言ってからふと気づく。
「汗?」
マサヒコのパジャマに触れるとじっとりと湿っている。
汗をかくのはいいが、そのままでは逆に身体が冷えてしまう。
マサヒコに布団をかけたアイは洗面所からタオルと、ぬるま湯の入った桶を持ってくる。
「汗かいたら拭いてあげないとね」
マサヒコの上着を脱がす。
まだまだ発育途上の上半身。
それでも子供ではない上半身に見とれそうになりながら汗を拭う。
「ふう……これでよし。次は……」
アイの視線は下半身へ。
しばし躊躇うが、
「だめだめ。汗かいたままじゃ身体に悪いんだから」
マサヒコには悪いと思いながらズボンを脱がす。
「しつれいしま〜す……ってあれ?なんか引っかかって……」
クイクイと引っ張るが上手く脱がせない。
「ん〜えいっ!」
ちょっと力を入れたら脱がせることができた。
パンツごと。
「!!!!!???」
ずざざざざざあっ!!っと部屋の隅まで後退する。
そして、なにが引っかかっていたかを理解する。
何がひっかかてたかって……ナニだ、ナニ。
鎌首をもたげたマサヒコのナニが引っかかってたわけだ。
それをごーいんに脱がせた(しかもパンツごと)もんだからあんた。
えらいこっちゃ。
処女のアイ先生の前に見たことない物体ががおーっとばかりに登場。
別に噛みつきも食いつきも……むしろアイが食べる方(中村的ジョーク)なのだが。
初見のアイにとってはUMA並にデンジャラスで、そして興味深い。
「こ、これが男の人の……」
ごくりと唾を飲み込み、改めてまじまじと鑑賞。
「ん……」
「ひゃっ!?」
していたらマサヒコがモゾッと動いたので、後ろめたいところがあるアイ先生。
再び部屋の隅まで高速移動。
「おちついて…落ち付くのよ濱中アイ。これは医療行為……そう、マサヒコ君のためなんだから。
風邪をひいちゃったマサヒコ君のために。汗で体温が下がらない様に……ああ!」
体温が下がらない様にと汗を拭く。
じゃあ汗を拭こうとして服脱がせっぱなしだったらどうなる?
「ううう……」
「わ!わ!!わぁ!!!」
身震いして身体を丸めるマサヒコを見てアイは慌てて布団をかける。
「こ、こんな事してる場合じゃなかったわ。マサヒコ君風邪ひいてるのよ!
私のバカ!しっかりしないと!」
と、いう訳で。


改めて下半身の汗を拭き取りにかかる。
ぬるま湯にひたしたタオルで丁寧に身体を拭っていく。
右足、左足、そして最後に……股間。
「こ、こここ、ここもちゃんと拭かないと……」
タオルで、マサヒコのブツを拭う。
「んッ!……」
「ひゃっ!う、動いた……」
刺激にマサヒコはストレートに反応。
アイの手の中でビクリと蠢く。
「こ、これじゃだめだよね。もっとちゃんと拭かないと……」
さらに手を動かす。
シャフトの部分を上下に、包みこむ様にして。
それはもはや愛撫なのだが、アイはそのことに気付かない。
或いは気付いていない振りをする。
「くっ……うぁっ!……」
マサヒコの反応に息が荒くなる。
顔が熱くなる。
激しく手を動かす。
手の中のモノは固く、熱くなっていく。
マサヒコのためという免罪符を手に入れているアイの行為はエスカレートしていく。
竿だけでなく、袋の部分も刺激する。
「うぁぁ!……ふっ……くぅ!」
「気持ちいい?……気持ちいいのマサヒコ君?」
「あぅ……くっ!」
既にそれはある種のレイプだ。
アイは右手でマサヒコのモノをしごき、開いた左手を自らの股間に這わせる。
じっとりと濡れている。
今までそこを自分でいじった事も何度かあるが……。
今まで一番濡れていた。
意識のない教え子のモノをいじりながら興奮する自分。
背徳感にどんどん昂ぶり、どんどん濡れていく。
「ああ……マ、マサヒコ君…あ、たし……もう…ああ!」
「ふっ!」
「うあ!」
マサヒコの身体が跳ねあがる。
ビクビクとアイの手の中のモノが脈動し、タオルを熱い液体が濡らす。
同時に。
アイもまたショーツを大量の愛液で濡らしていた。
「イッちゃった……マサヒコ君のモノいじりながら……イッちゃったよぉ……」
茫然自失で。
なんとかマサヒコのモノを綺麗に拭い、服を整えさせ。
ぱたりと床に倒れこんだ。
刺激が強すぎた。






目を覚ましてみれば既に午後。
薬のおかげか看病のおかげか、マサヒコの身体は復調の兆しを見せていた。
「大丈夫マサヒコ君?」
「ええ。だいぶいいです。これも先生のおかげですね」
「……そんなことないよ」
マサヒコが寝てる間に実はトンでもないことをしでかしちゃってるアイ。
とてもじゃないがマサヒコと顔を合わせられない。
目を宙に泳がせる。
普段のマサヒコならそれに気付いたろうが、今の彼は万全でなく、気付かない。
「ホントにありがとうございます」
「……うん」
流石にアイの様子がおかしいことに気付いたが、このあとすぐ母が帰宅。
アイも帰ってしまったためそれ以上マサヒコがツッコむ事はなかった。


「はあ……」
家に帰ったアイは、自分のやってしまったことを思い出し、ちょっと落ち込む。
「マサヒコ君にひどいコトしちゃった…」
手にはまだあの感触が残っている。
タオル越しとはいえ、熱く、固い肉棒の感触。
「っ!」
思い出すと、下半身が濡れてくる。
「……」
アイはベットに倒れこみ、下着を脱ぎさる。
「ごめんね、マサヒコ君」
そう言って。
マサヒコの感触を思い出しながら。
一人自慰に耽った。


そのせいでアイは風邪をひく事になるのだが。
その話はまた次回の講釈にて。


END

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