最終更新:ID:kVmmA7G3iQ 2008年06月03日(火) 21:08:23履歴
「いい景色」
彼女は絶壁に佇み、絶景を望む。
一面の青。
海の藍色。
空の蒼色。
融けて、交じり合って、白い雲。
頬をなでる風を感じながら、彼女はつぶやく。
「若田部さんにも見せてあげたいな」
つぶやいて、彼女は悲しく微笑んだ。
「ダメだな、私ったら……若田部さんは、もう…いないのに」
そう。
彼女の友は。
若田部アヤナは、もういない。
この世界から、消えた。
ほんの先日まで確かに存在したのに。
もう……いない。
若田部アヤナは、もういない。
「こんなとこでなにしてるんだ?」
声をかけられ、振り返る。
「海を眺めてたの」
「ふ〜ん」
彼も彼女の横に並び、海を見つめる。
彼女はそんな彼の手を握る。
「お、おい」
彼は驚いた様子で彼女を見る。
彼女が何も言わず、悲しそうに微笑んだので、彼も何も言わず、また海を見た。
「若田部さん」
彼女はまた、つぶやいた。
「あなたの分まで、二人で幸せになるね」
言葉は風に乗って――
「ちょっと天野さん! 人のこと死んだみたいに言わないでもらえるかしら!」
すぐ後ろに来ていた彼女の耳に届いたようだ。
「それに! なんでマサヒコと手を繋いでるのよ!」
「いいじゃない、手を繋ぐくらい」
「だめよ! マサヒコはもう私のだんな様なのよ! 私のなの!!」
つい先日苗字が若田部改め、小久保になったアヤナが真っ赤になって二人の間に割ってはいる。
「そもそも! 何で新婚旅行に天野さんがついてくるのかしら?」
「私は一人で旅行をしてるだけ。偶然マサちゃんと行き先が一緒だっただけよ」
「天野さん……まだマサヒコのこと諦めてなかったのね」
「失楽園って知ってる?」
平然と言い放つミサキの様子にアヤナ、プッツン。
「そんなのダメよ!! 私達の関係は法律で守られているのよ!」
「離婚は立派な権利だし」
「双方の合意がないとダメでしょ!」
「そんなものいくらでもやりようがあるわよ。愛人に子供が出来て離婚ってね」
「既成事実!? そんなことさせない! マサヒコは私が守ってみせるわ!」
「無駄よ。なんとしてもマサちゃんは貰い受ける!」
乙女二人が熱いバトルを繰り広げる。
「海って広いなぁ……」
海に比肩するほど懐の広い男、小久保マサヒコ。
彼の苦労は終わらない。
END
コメントをかく