最終更新:ID:Pp1tQmDH2g 2008年06月07日(土) 20:08:06履歴
以下、ある大学構内での4人の女子大生の会話。
「つがいが増える時期が来たわね」
「ちょっ……つがいって、もうちょっと言い方が」
「つがいはつがいよ! 生でヤッて出来ちゃった結婚でもなんでもすればいいのよ!」
「な、なんで今日はそんなにもアグレッシブなんですか?」
「…昨日振られたそうよ」
「あ〜……それで」
「振られたんじゃないわ! 振ってやったのよあんな男! なにさ!
ケチだし! 顔だってそんなにだし! あっちのほうは下手もいいとこだし」
「あっちって?」
「あっちはあっちよ!」
「??」
「…『あ』を『え』に変えなさいな」
「あ。あは……あはははは! そっかそっか、そーいうことか」
「ちくしょー! こうなったらやけ食いよ! やけ食いしてやるわ」
「私も付き合いますよ」
「…しょうがない子ね、まったく」
「よし、食べに行こう食べに行こう。割り勘で食べに行こう」
「………」
「………」
「………」
「はれ? みんなどうしたの? 早く食べに行こうよ。割り勘で」
「「「あんた帰れ」」」
「なんてこと言われちゃったよ〜」
小久保家まで「うえ〜ん」と泣きながらやってきたアイ。
応対に出たマサヒコにぐずりながら友人達からの仕打ちを話す。
「ね! ね!! せっかくのクリスマスに酷いと思わない!?」
「いえ、その人達の気持ちが痛いほど分かります」
「マサヒコ君まで……」
「だって先生ハンパ無く食べるじゃないですか。大学生の懐具合は知りませんけど結構厳しいのでは?」
「う〜……確かにこの時期もうアルバイトしてないから厳しいかもしれないけど」
不満げに頬を膨らませる。
「まあこれ以上玄関で長話するのもあれなんで、あがってください」
「あ、うん。お邪魔します」
とててっと家に上がりこみ、家の中の雰囲気が妙なことに気づく。
日曜日ならば父親だって家に居そうなのに、やけに閑散としている。
「ねえマサヒコ君、お父さんとお母さんは?」
「昨日から2泊の旅行に行ってます」
「そうなの!?」
「ええ。今年はイブが日曜じゃないですか。それで父さんが月曜にも休み取れたから、
ちょうどいいって温泉に行ってるんですよ」
言いながらアイを自室でなく、キッチンに案内する。
「そうなんだ……あれ? でもじゃあ何でマサヒコ君はいかなかったの?」
「まあ、たまには夫婦でゆっくりしてもらおうかなぁと、辞退しました」
コンロにヤカンを置き、火をつける。
「へ〜…えらいねぇ」
いい子いい子とマサヒコの頭を撫でる。
するとマサヒコはなんとも居心地悪そうにする。
「――って言うのは建前でして。実際には家で一人でのんびりしたいってのが少々」
「まっ! せっかく頭撫でてあげたのに!」
ぷんぷんと怒り出す。
「で、残りがもっと現実的な問題で、二人分しか確保できなかったんですよね、宿が」
「へっ!?」
「時期が時期ですから。キャンセルが二人分あっただけでもラッキーだったんですよ」
沸いたヤカンからお湯をティーポットへ。
「まあそーいったわけで明日まで俺一人です」
「ふ〜ん……あ、でも、今日はミサキちゃん達とクリスマスパーティーとかするのかな?」
「ミサキは学校の友達とするって言ってましたよ。結構な金持ちがいるとか、アイドルがいるとか何とか」
「リンちゃんは?」
「的山は家族でレストランだよ〜って、犬のハナコも大丈夫なとこみたいです」
「……じゃあマサヒコ君、ホントに今日一人なの」
「まあ、そーなりますね」
ティーポットからカップに紅茶を注ぐ。
茶葉もよく広がっていたようで、ふわっといい香りが広がる。
「先生、砂糖は?」
「ん、このままでいいや」
アイは紅茶を一口。
「ねえ、マサヒコ君」
「なんですか?」
「友達いないの?」
「は?」
マサヒコの動きが止まる。
「だってクリスマスに一人だなんてそうとしか思えないよ!」
「いや、そーいうわけでは……この紅茶も知り合いからの土産ですし。
それなりの交友関係を構築してるとの自負はあるんですけど」
「でもクリスマスに一人なんでしょ?」
「そりゃそうですけど、先生人のこと言えないじゃないですか」
「はうぅ!」
痛いところを突かれて悶える。
「そ、そーいえばそうだった……でも、マサヒコ君ホントに――」
「心配無いですって」
まいったなぁといった感じでマサヒコは笑みを浮かべる。
「23日が終業式で、その後クラスの連中とファミレス、カラオケと行ってきましたから。
クリスマスパーティーも兼ねて」
「あ、そうなんだ」
「また集まるってのも面倒でしたからまとめてやっちゃったんですよ。
だから安心してください。ちゃんと友達いますから。つーか俺なんかの事そんなに心配してくれなくても」
「するよ!!」
急に大きな声を出したアイの様子に目をぱちくりさせる。
「だって、私は君の先生なんだよ?……って、そりゃまあ、もう契約も終わっちゃったけど」
後半、ゴニョゴニョとごまかす。
「でも! 先生とかそーいう事抜きにしたって……その、心配だよ……」
「……」
「あ! それと! 自分のことを『なんか』とかいっちゃだめ! 謙遜と卑下は違うんだからね」
びしっと指を突きつける。
「いい? もう『俺なんか』なんて言っちゃだめだよ」
「……わかりました」
「うん、よろしい」
アイはにこっと笑みを浮かべる。
その様子にマサヒコも相好を崩す。
「あ、そうだ。先生イチゴ食べますか? もらい物ですけど」
「食べる食べる! イチゴ大好き!」
マサヒコが冷蔵庫からイチゴを取り出し机に置く。
「あ、コンデンスミルクとか――」
「ふぇ?」
「いえ何でも無いです」
すでに口一杯にイチゴをほお張っているアイを見て途中で言うのをやめた。
「んぐんぐ……ところでマサヒコ君」
「なんすか?」
「お母さん居ないならご飯どうしてるの?」
「軍資金を貰ってますから大丈夫です」
そう言ってイチゴを一つ口に入れる。
甘味と、程よい酸味が口の中に広がる。
「やっぱり俺一人置いていくのが心苦しかったんですかね。結構な額を置いていってくれましたよ。
ケーキだって注文してくれたみたいで。今日配達してくれるらしいです」
「ケーキ……ん? お母さんはクリスマスケーキを注文したんだよね?」
「そりゃそうですよ」
「……クリスマスケーキって、普通ホールだよね?」
「あ……」
アイの言葉の意味に気づく。
同時に、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「完膚なきまでにホールケーキだ。こんな量の物一人で食べさせようってのか、母さんは」
「うわ〜おいしそ〜」
「しかもアイスケーキ。となると保存するなら冷凍庫。入るかな?」
「生クリームもたっぷりだ」
「あ、でも冷凍庫入るスペースありそうだなそうだな」
「……」
「じゃあ一切れだけ食べて残りは明日以降に……すいません、先生。ちょっとおふざけが過ぎました。
だからそんな台所の隅っこでいじけないでください。一緒に食べましょう」
「……それはマサヒコくんのなんだから、一人で食べたらいいじゃない」
いかん、拗ねた。
「さっきのは冗談ですから」
「……食べていいの?」
「もちろんです。ほら、イスに座って。溶けちゃうから食べましょう」
「うん♪」
マサヒコが取り分けてくれたアイスケーキを嬉しそうに口に運ぶ。
「あま〜い♪つめた〜い♪おいし〜♪」
幸せそうな、満面の笑み。
マサヒコも一口食べる。
「ねっ! ねっ!? おいしいでしょマサヒコ君」
「そうですね」
すでに二つ目を食べ始めたアイに軽く頭を下げる。
「これも先生のおかげですね」
「ふえ?」
きょとんとした表情で、フォークを咥えたまま首をかしげる。
なんとも子供っぽい仕草だが、童顔のアイの外見とは妙にマッチしていて微笑ましい。
「私のおかげって……なんで? 私なんにもしてないよ?」
「一人で食べるよりも二人で食べたほうがおいしいですから。
だから、先生のおかげです。まあ、なんて言うか……」
照れているのか、ちょっと頬を赤くするマサヒコ。
「正直、一人ってのはちょっと寂しかったところですから。
先生が来てくれて……その……嬉しかったです」
「そ、そっか。うん、そーいってもらえると私も嬉しいよ。あは、あはは」
照れを隠そうとパクパクとケーキを食べる。
「な、なんなら夕ご飯も一緒に食べてあげよっか? な〜んて、あはははは」
「いいんですか?」
「ふぇ!?」
「さっきも言いましたけど、やっぱり一人より二人のほうがおいしいですからね。
先生さえよければぜひお願いしたいところです」
「えっと……でも、いいの? 私で? 今日はクリスマスだよ? 一緒に居るのが私でいいの?」
「先生がいいです」
「はうぅ!」
撃沈。
「う〜さむ。さっさと夕飯の材料買って帰りましょうね」
表に出てすぐ、マサヒコは外気の冷たさに首を竦める。
「マサヒコ君は相変わらず寒がりだねえ」
ご機嫌な様子のアイとは対照的だ。
マサヒコはさらに首を竦め、着込んだコートに鼻まで埋まる。
「今日は特にですよ。アイスケーキ食べた直後だし。先生は寒くないんですか?」
「私は大丈夫かな。それより……ねえ、マサヒコ君」
「なんすか?」
「手、つなごっか」
アイの言葉にきょとんとしたマサヒコだったが、
「ええ、いいですよ」
手袋をはずして、アイに差し出す。
アイはマサヒコの手をぎゅっと握り、マサヒコのポケットに突っ込む。
「先生……」
「えへへ」
「先生もアイスケーキの食べ過ぎで寒かったんですね」
「……は?」
「だって寒いから手を繋ぎたかったんでしょ? あ、この手袋そっちの手に使っていいですよ」
「えっと……マサヒコ君」
「はい?」
「これは当然の行為だと思うの。一応謝っとくから。ごめんね」
「は? あれ? 先生、何で拳握ってるんですか? って、うお!?」
「え〜いっ!」
マサヒコの頭に乙女の『何か』が色々詰まった拳が振り下ろされた。
フラグクラッシャーマサヒコはどこまでも健在だ。
END
追記
「ところで先生、日曜日だってのに大学に行ってたんですか?」
「レポートの提出があったからね! ほんとだよ! うっかり行っちゃったわけじゃないのよ」
「……そうですか」
「つがいが増える時期が来たわね」
「ちょっ……つがいって、もうちょっと言い方が」
「つがいはつがいよ! 生でヤッて出来ちゃった結婚でもなんでもすればいいのよ!」
「な、なんで今日はそんなにもアグレッシブなんですか?」
「…昨日振られたそうよ」
「あ〜……それで」
「振られたんじゃないわ! 振ってやったのよあんな男! なにさ!
ケチだし! 顔だってそんなにだし! あっちのほうは下手もいいとこだし」
「あっちって?」
「あっちはあっちよ!」
「??」
「…『あ』を『え』に変えなさいな」
「あ。あは……あはははは! そっかそっか、そーいうことか」
「ちくしょー! こうなったらやけ食いよ! やけ食いしてやるわ」
「私も付き合いますよ」
「…しょうがない子ね、まったく」
「よし、食べに行こう食べに行こう。割り勘で食べに行こう」
「………」
「………」
「………」
「はれ? みんなどうしたの? 早く食べに行こうよ。割り勘で」
「「「あんた帰れ」」」
「なんてこと言われちゃったよ〜」
小久保家まで「うえ〜ん」と泣きながらやってきたアイ。
応対に出たマサヒコにぐずりながら友人達からの仕打ちを話す。
「ね! ね!! せっかくのクリスマスに酷いと思わない!?」
「いえ、その人達の気持ちが痛いほど分かります」
「マサヒコ君まで……」
「だって先生ハンパ無く食べるじゃないですか。大学生の懐具合は知りませんけど結構厳しいのでは?」
「う〜……確かにこの時期もうアルバイトしてないから厳しいかもしれないけど」
不満げに頬を膨らませる。
「まあこれ以上玄関で長話するのもあれなんで、あがってください」
「あ、うん。お邪魔します」
とててっと家に上がりこみ、家の中の雰囲気が妙なことに気づく。
日曜日ならば父親だって家に居そうなのに、やけに閑散としている。
「ねえマサヒコ君、お父さんとお母さんは?」
「昨日から2泊の旅行に行ってます」
「そうなの!?」
「ええ。今年はイブが日曜じゃないですか。それで父さんが月曜にも休み取れたから、
ちょうどいいって温泉に行ってるんですよ」
言いながらアイを自室でなく、キッチンに案内する。
「そうなんだ……あれ? でもじゃあ何でマサヒコ君はいかなかったの?」
「まあ、たまには夫婦でゆっくりしてもらおうかなぁと、辞退しました」
コンロにヤカンを置き、火をつける。
「へ〜…えらいねぇ」
いい子いい子とマサヒコの頭を撫でる。
するとマサヒコはなんとも居心地悪そうにする。
「――って言うのは建前でして。実際には家で一人でのんびりしたいってのが少々」
「まっ! せっかく頭撫でてあげたのに!」
ぷんぷんと怒り出す。
「で、残りがもっと現実的な問題で、二人分しか確保できなかったんですよね、宿が」
「へっ!?」
「時期が時期ですから。キャンセルが二人分あっただけでもラッキーだったんですよ」
沸いたヤカンからお湯をティーポットへ。
「まあそーいったわけで明日まで俺一人です」
「ふ〜ん……あ、でも、今日はミサキちゃん達とクリスマスパーティーとかするのかな?」
「ミサキは学校の友達とするって言ってましたよ。結構な金持ちがいるとか、アイドルがいるとか何とか」
「リンちゃんは?」
「的山は家族でレストランだよ〜って、犬のハナコも大丈夫なとこみたいです」
「……じゃあマサヒコ君、ホントに今日一人なの」
「まあ、そーなりますね」
ティーポットからカップに紅茶を注ぐ。
茶葉もよく広がっていたようで、ふわっといい香りが広がる。
「先生、砂糖は?」
「ん、このままでいいや」
アイは紅茶を一口。
「ねえ、マサヒコ君」
「なんですか?」
「友達いないの?」
「は?」
マサヒコの動きが止まる。
「だってクリスマスに一人だなんてそうとしか思えないよ!」
「いや、そーいうわけでは……この紅茶も知り合いからの土産ですし。
それなりの交友関係を構築してるとの自負はあるんですけど」
「でもクリスマスに一人なんでしょ?」
「そりゃそうですけど、先生人のこと言えないじゃないですか」
「はうぅ!」
痛いところを突かれて悶える。
「そ、そーいえばそうだった……でも、マサヒコ君ホントに――」
「心配無いですって」
まいったなぁといった感じでマサヒコは笑みを浮かべる。
「23日が終業式で、その後クラスの連中とファミレス、カラオケと行ってきましたから。
クリスマスパーティーも兼ねて」
「あ、そうなんだ」
「また集まるってのも面倒でしたからまとめてやっちゃったんですよ。
だから安心してください。ちゃんと友達いますから。つーか俺なんかの事そんなに心配してくれなくても」
「するよ!!」
急に大きな声を出したアイの様子に目をぱちくりさせる。
「だって、私は君の先生なんだよ?……って、そりゃまあ、もう契約も終わっちゃったけど」
後半、ゴニョゴニョとごまかす。
「でも! 先生とかそーいう事抜きにしたって……その、心配だよ……」
「……」
「あ! それと! 自分のことを『なんか』とかいっちゃだめ! 謙遜と卑下は違うんだからね」
びしっと指を突きつける。
「いい? もう『俺なんか』なんて言っちゃだめだよ」
「……わかりました」
「うん、よろしい」
アイはにこっと笑みを浮かべる。
その様子にマサヒコも相好を崩す。
「あ、そうだ。先生イチゴ食べますか? もらい物ですけど」
「食べる食べる! イチゴ大好き!」
マサヒコが冷蔵庫からイチゴを取り出し机に置く。
「あ、コンデンスミルクとか――」
「ふぇ?」
「いえ何でも無いです」
すでに口一杯にイチゴをほお張っているアイを見て途中で言うのをやめた。
「んぐんぐ……ところでマサヒコ君」
「なんすか?」
「お母さん居ないならご飯どうしてるの?」
「軍資金を貰ってますから大丈夫です」
そう言ってイチゴを一つ口に入れる。
甘味と、程よい酸味が口の中に広がる。
「やっぱり俺一人置いていくのが心苦しかったんですかね。結構な額を置いていってくれましたよ。
ケーキだって注文してくれたみたいで。今日配達してくれるらしいです」
「ケーキ……ん? お母さんはクリスマスケーキを注文したんだよね?」
「そりゃそうですよ」
「……クリスマスケーキって、普通ホールだよね?」
「あ……」
アイの言葉の意味に気づく。
同時に、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「完膚なきまでにホールケーキだ。こんな量の物一人で食べさせようってのか、母さんは」
「うわ〜おいしそ〜」
「しかもアイスケーキ。となると保存するなら冷凍庫。入るかな?」
「生クリームもたっぷりだ」
「あ、でも冷凍庫入るスペースありそうだなそうだな」
「……」
「じゃあ一切れだけ食べて残りは明日以降に……すいません、先生。ちょっとおふざけが過ぎました。
だからそんな台所の隅っこでいじけないでください。一緒に食べましょう」
「……それはマサヒコくんのなんだから、一人で食べたらいいじゃない」
いかん、拗ねた。
「さっきのは冗談ですから」
「……食べていいの?」
「もちろんです。ほら、イスに座って。溶けちゃうから食べましょう」
「うん♪」
マサヒコが取り分けてくれたアイスケーキを嬉しそうに口に運ぶ。
「あま〜い♪つめた〜い♪おいし〜♪」
幸せそうな、満面の笑み。
マサヒコも一口食べる。
「ねっ! ねっ!? おいしいでしょマサヒコ君」
「そうですね」
すでに二つ目を食べ始めたアイに軽く頭を下げる。
「これも先生のおかげですね」
「ふえ?」
きょとんとした表情で、フォークを咥えたまま首をかしげる。
なんとも子供っぽい仕草だが、童顔のアイの外見とは妙にマッチしていて微笑ましい。
「私のおかげって……なんで? 私なんにもしてないよ?」
「一人で食べるよりも二人で食べたほうがおいしいですから。
だから、先生のおかげです。まあ、なんて言うか……」
照れているのか、ちょっと頬を赤くするマサヒコ。
「正直、一人ってのはちょっと寂しかったところですから。
先生が来てくれて……その……嬉しかったです」
「そ、そっか。うん、そーいってもらえると私も嬉しいよ。あは、あはは」
照れを隠そうとパクパクとケーキを食べる。
「な、なんなら夕ご飯も一緒に食べてあげよっか? な〜んて、あはははは」
「いいんですか?」
「ふぇ!?」
「さっきも言いましたけど、やっぱり一人より二人のほうがおいしいですからね。
先生さえよければぜひお願いしたいところです」
「えっと……でも、いいの? 私で? 今日はクリスマスだよ? 一緒に居るのが私でいいの?」
「先生がいいです」
「はうぅ!」
撃沈。
「う〜さむ。さっさと夕飯の材料買って帰りましょうね」
表に出てすぐ、マサヒコは外気の冷たさに首を竦める。
「マサヒコ君は相変わらず寒がりだねえ」
ご機嫌な様子のアイとは対照的だ。
マサヒコはさらに首を竦め、着込んだコートに鼻まで埋まる。
「今日は特にですよ。アイスケーキ食べた直後だし。先生は寒くないんですか?」
「私は大丈夫かな。それより……ねえ、マサヒコ君」
「なんすか?」
「手、つなごっか」
アイの言葉にきょとんとしたマサヒコだったが、
「ええ、いいですよ」
手袋をはずして、アイに差し出す。
アイはマサヒコの手をぎゅっと握り、マサヒコのポケットに突っ込む。
「先生……」
「えへへ」
「先生もアイスケーキの食べ過ぎで寒かったんですね」
「……は?」
「だって寒いから手を繋ぎたかったんでしょ? あ、この手袋そっちの手に使っていいですよ」
「えっと……マサヒコ君」
「はい?」
「これは当然の行為だと思うの。一応謝っとくから。ごめんね」
「は? あれ? 先生、何で拳握ってるんですか? って、うお!?」
「え〜いっ!」
マサヒコの頭に乙女の『何か』が色々詰まった拳が振り下ろされた。
フラグクラッシャーマサヒコはどこまでも健在だ。
END
追記
「ところで先生、日曜日だってのに大学に行ってたんですか?」
「レポートの提出があったからね! ほんとだよ! うっかり行っちゃったわけじゃないのよ」
「……そうですか」
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