1月7日編

「先輩七草全部言えますか?」
「あん? なによいきなり?」
「だって今日は一月七日ですよ」
「あ〜、七草の節句か。そーいやそうね」
「で、言えますか?七草全部」
「……そんなもん知らなくても生きていけるわよ」
「ダメですね〜先輩は。いいですか? 七草って言うのは、はぎ・おばな・くず・なでしこ……」
「アイ、それは秋の七草よ」
「今日食べるのは春の七草ですよ」
「ええ! 七草って春と秋があるんですか!?」
「「……」」
アイの天然にマサヒコとリョーコは顔を見合わせて、笑った。

今日は一月七日。
ここはマサヒコの部屋。
いるのはクリスマス以来住み着いたアイと、元旦以来入り浸っているリョーコの二人。
そして部屋の主たるマサヒコの三人だ。
冒頭の会話は「今日のご飯は何かしらね?」とのリョーコの言葉にアイが反応したものだ。
「しかし七草ねぇ。食べたことないけどおいしいものなのかしら?」
「正直言ってそんなにおいしいものじゃないですよ。要するに塩味の野菜粥ですから」
「そーよね」
「でも、七草粥を食べると健康になれるんですよ」
「迷信でしょ、そんなの」
リョーコの言うことにも一理ある。
「よーするに、七草粥ってのは正月に色々食べたり飲んだりして疲れた胃を労わるものなのよ。
だから健康になれるなんて保証は無いのよ」
「でも、だったら先輩には効果あるじゃないですか」
「あんでよ?」
「だって先輩、正月休み中ずっとマサヒコ君の家で食っちゃ寝飲んじゃ寝してたじゃないですか」
リョーコは「ふむ」と顎に手をやる。
「なるほど。一理あるわね。確かに最近ちょいと胃が疲れ気味だし、ちょうどいいかもね」
「あ、でも晩御飯が七草粥って決まったわけじゃあないんですよね」
「多分七草粥ですよ。母さんそういったイベント事結構好きですから」
「へ〜そうなんだ」
「アイも結構イベント事大切にするわよね。お母さまと相性いいのかも。ねえ、マサもそう思わない?」
「あ〜。そう言われてみると結構いいコンビですね。確かに」
原付免許の時のことを思い出しつつ、マサヒコが同意。
アイと3年、母とは生まれたときから一緒なマサヒコが言うんだから間違いないだろう。
「よかったじゃないのアイ。お義母さまと相性よくって」
「なっ! 何がですか先輩! ってゆーか今お母さまの発音がおかしく無かったですか!?」
「なんかおかしかったかしら?」
「まだ早いですよ!」
「あら「まだ」なのね?」
「はう!」
突っ込まれてアイが悶える。
そこをさらにリョーコが突っ込む。
「今から予習のつもりで言っておいていいんじゃないの? お・義・母・さ・まって」
「そ、そんな……あう、その……はうぅ……」
あうあうはうはう言い出したアイ。
やれやれとマサヒコが口を挟む。
「まあまあ、中村先生その辺で――」
「ソレよマサ」
「は? なんですか?」
唐突に言われ、疑問の声。
「あたしもう先生じゃないんだし。その先生ってのさ、やめにしない?」
言われてマサヒコは、
「……確かにそうですね」
納得する。

納得すると今度は別の疑問が出てくる。
「でも、じゃあなんて呼べばいいんですか?」
「あんたの好きに呼べばいいわよ」
「好きにって言われても……」
「あんたほんっとに現代っ子だねぇ。じゃああたしのことは「中村さん」でいいわよ。
アイのことは「アイさん」とでも呼んどきな」
「はあ……中村さんとアイさん……ですか?」
「そっ」
「ん〜……なんかちょっと違和感ありますね」
「なにいってんの。今は家庭教師と教え子って関係じゃないんだから先生なんて呼ぶほうが変なのよ」
「まあ確かにそうですけど」
「前までは教える教えられるの上下の関係。今は対等の関係でしょ?
これからもそれなりの関係を築いていきたいんなら呼び方は変えときなさい」
確かにリョーコの言うことには一理ある。
いまだに先生と呼ぶほうがおかしいのは確かなわけで。
「分かりました。中村さん、アイさん。これでいいですか?」
「ええ。アイもそれでいいわね?……アイ、ちょっとアイ!」
ポーっとしていたアイ、リョーコに肩を揺すられてはっとする。
「ふぇ!? あ、はい。なんですか?」
「なんですかって……まあいいわよ」
リョーコが苦笑していると、
「マサヒコ〜ちょっと〜」
「なんだろ? すいません、ちょっと行ってきます」
母親に呼ばれてマサヒコが下に下りていく。
「アイ」
「なんですか?」
「あんたさぁ、マサに名前で呼ばれたくらいでぽや〜んってのぼせ上がってどーすんのよ」
「な、なんのことですかぁ?」
「……まあいいけどね」
リョーコ、また苦笑。
「ま、がんばんなさい。マサは大分手強そうだけどね」
「……がんばります」
真っ赤になってうつむいてしまったアイの頭をリョーコはいい子いい子と撫でるのだった。

END

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