1月成人式編

「毎年毎年懲りないっていうか……なに考えてるんですかね?」
テレビを見ながらマサヒコ。
「そうだよね。お前らいくつだ! って感じだよね」
「……いえ、みんな20歳ですよ。成人式ですから」
「あ……」


今日は1月の第二月曜、成人の日。
場所はといえばいつものマサヒコの部屋。
いるのはマサヒコと、本格的に小久保家に住み着き始めたアイの二人だ。
冒頭の会話はテレビを見ながらの一幕だ。
「しかし荒れてますね」
「でもこんなのは極一部だよ。私達のときは特に何にも無かったしね」
「ああ、そーいえばアイさんはもう成人式終えたんでしたね」
「……それ、どーいう意味かな?」
なんだか地雷っぽいものを踏んだようだ。
マサヒコ、ちょっと慌てる。
「あ、いえ。特に他意はないんですけど」
「確かに私は童顔だけど……でも酷いよ」
「……すいません」
本格的に頭を深深と下げるマサヒコの様子に、逆にアイが慌てる。
「あ、べ、べつにそこまで本気で怒ってるわけじゃないから。
そんな本気で謝ってくれなくてもいいんだよ。ごめんね、気を使わせちゃったね」
あわあわおろおろとマサヒコのまわりをちょろちょろと動き回る。
そんな行動が幼さに拍車をかけているのだろうが……まあそれはよしとしよう。
気を取り直したマサヒコがアイに話しかける。
「ところで、アイさんは成人式にどんな服で出たんですか? やっぱり晴れ着で?」
「ううん。私はスーツだったな。だって晴れ着って大変なんだよ?
着つけとか、ちょっと動くと着崩れちゃうしね。だからスーツで十分だよ」
そう言って笑うアイだが、
「……晴れ着、着たいとは思ったんですね」
「……」
マサヒコには通じない。
あっさりと本心を見破られて黙り込んでしまう。
「そりゃ、着たかったけど……」
しばらくして、ポツリともらす。
「実家ならともかく、こっちじゃそうもいかないよ。さっきも言ったけど、着物って色々面倒だから」
「そうですか」
「うん……」
そのまま、重い空気が流れる………かと思われた。
「OK。その願いかなえてあげましょう」
「母さん?」
グレートマザー参上。
「は〜い、アイちゃんこっちいらっしゃい」
「え? ええ? えええっ!? マ、マサヒコく〜ん……」
助けを求める目でマサヒコを見る。
「ちょ、母さん! 何する気だよ!?」
「悪いようにはしないわよ」
そのままアイは母親に引きずられていってしまった。
マサヒコ一人その場に取り残される。


少しばかりの後、アイは母と共に戻ってきた。
「えっと……どうかな?」
「……」
振袖を着て。
「あの……マサヒコ君?」
色鮮やかな着物。
うっすらと化粧もしているのだろう、いつもの、どこか幼さを感じさせるアイとは雰囲気が違う。
アップにされた髪からのぞくうなじかなんともかんとも……。
正直、たまりません。
「変、かな?」
ちょっとがっかりした様子で、しゅんとしてしまったアイの言葉に、マサヒコはぶんぶんと首を振り。
「変じゃないっす。すっごい……似合ってますよ。アイさん」
マサヒコの言葉にアイは顔を輝かせる。
「えへへ……ありがと。お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないですよ。ホントに……キレイです。そのまま飾っておきたいくらいですよ」
真摯な目で見つめられ、甘い言葉を投げかけられ、アイは顔に血が上るのを意識する。
いや、意識なんてレベルじゃない。
カーッと一気に首から上に血が集まった結果。
「ふにゅ〜……」
「おわぁ! せ、先生! じゃない。ア、アイさん!」
「ちょっ! どうしたのよアイちゃん! しっかり!? マサヒコ! 冷凍庫からアイスノン持ってきて」
「わ、わかった!」
倒れたアイを前に右往左往する小久保母子だった。

END

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