ある晴れた休日。
春先のぽかぽか陽気に誘われてふらりと散歩をしていたマサヒコ。
「ん?」
前方から物凄い勢いで走ってくる影。
「犬…柴犬か?」
茶色っぽいので柴犬だろうと見当をつけたマサヒコ。
安直だ。
その犬はしっぽを振りながらマサヒコ目掛け走ってきて、
「おおう!?」
そのままの勢いでダイブ。
尻餅をついたマサヒコの顔をぺろぺろ舐める。
「おお!?な、なんだよお前。人懐っこいなぁ」
「わんっ!」
「おいおい、そんなに舐めるなよ」
引き剥がそうとすると案外あっさりマサヒコから離れ、
今度はマサヒコの回りをくるくると回り出す。
その間尻尾はパタパタと振りっぱなしだ。
「飼い犬か?あ、でも首輪してないな、お前」
顔をくしゃくしゃっとしてやるとさらに嬉しそうに尻尾をフリフリ。
尻尾とれないだろうか?と心配になった頃、
「ハナコ〜どこ行っちゃったの〜」
「……」
聞き覚えのある声。
妙な間延びで。
泣きそうだった。
誰か考えるまでもない。
「あ〜…的山〜!」
とりあえず呼んでみた。

パタパタとこちらに向かってくる足音。
ズベッ!
「うぅ〜…」
「…転んだか」
しょうがなくこちらから迎えに行くマサヒコ。
犬もついてくる。
すぐそこの角を曲がった所で的山は派手に転んでいた。
これぞズッコケ!!と言わんばかりに。
盗塁王赤星もビックリのヘッドスライディング。
まあ、別にスチールがしたかったわけじゃないだろうけど。
「大丈夫か的山?」
「いたいぃ〜…」
半泣きで顔を起こしたリンコの頬を犬がぺろぺろと舐める。
「わっ!なに!?…ってハナコ!も〜!」
「なんだ、こいつ的山んちの犬か。そーいや前写真で見たな」
「うん。ハナコって言うんだよ。ほらハナコ、挨拶」
「わんっ!」
「うおぅ!!?」
胸に手を掛けられ、顔を舐められる。
「わわわ!それはもういいって!」
「ハナコ、おすわり」
リンコの言葉にハナコはストンと腰をおろす。
「よ〜し、いい子いい子」
「へ〜…よく躾てるんだなぁ」
「うん」
「で、そんなに躾てる犬をなんで探すハメに?首輪もしてないみたいだし」
「う…」
痛い所を突かれたのか、リンコが言葉に詰まる。

「それが、その…首輪が古くなっちゃって…」
「まさか切れたなんてオチか?」
「ううん。古くなってたから新しいの買ったんだけど…」
「だけど?」
「サイズが合わないの」
「は?」
「ほら」
そう言ってリンコは大事そうに持っていたリード、その先につく真新しい首輪をマサヒコに見せる。
首輪はサイズ調整が効く物で、一番小さいサイズに設定されている様だが…明らかにでかい。
「的山、これって大型犬用なんじゃ…」
「ええ!?そ、そうなのかな?」
「いや、明らかにそうだろ。もうちょい小さいやつ買った方がいいぞ」
「ううう…今月ピンチなのに…」
じょ〜、と滝のような涙を流しながらリンコはペットショップへと向かう。
マサヒコもついていった。
いや、だって心配だし。


ペットショップで無事中型犬用の首輪を購入。
ちなみに。
リンコはうっかり小型犬用の首輪を買おうとしていた。
付いて来てよかったと心から思うマサヒコ。
「ありがとう小久保君。私一人だったらまた間違えちゃう所だったよ」
「いや、間違えるなよ。ちゃんと書いてあるんだし」
「そうだね。今度から気をつけるよ」
そう言ってニコニコとご機嫌な様子のリンコ。
首輪を買ったらリードをおまけでくれたのだ。
リードも古くなっていたので正に渡りに船。
「まあ…よかったな」
「うん!あ、でもこれどうしよう?」

そう言って右手の大型犬用の首輪と、それについている古いリードを見る。
「捨てるしかないんじゃないか?」
「でも勿体無いし」
「じゃあ大型犬飼ってる人にあげたらどうだ?」
「ん〜…」
リードをクルンクルンと回すリンコ。
首輪も一緒に回る。
その様子を見ていたリンコ。
「あ!」
何事か思いついたようで明るい顔になる。
「小久保君!」
「なんだ?」
「えいっ!!」
リンコ、首輪をマサヒコ目掛けて投げる。
流石は大型犬用。
スポッと、マサヒコの頭を通り、肩で引っかかる。
「小久保君ゲット〜♪」
「…お〜い」
天然炸裂。
嬉しそうな様子のリンコにつっこむマサヒコ。
「ほら!こうやって投げ縄みたいにして遊べるよ」
「おいおい…」
やれやれとため息をつくマサヒコ。
と。
不意に前方から見なれた女性が二人。
「あっ!中村先生とアイ先生!」
「こんちは」
満面の笑みで手を振るリンコと軽く頭を下げるマサヒコ。
一方のアイと中村は…かなり驚いている様子。

「あの…どうしたんすか?」
マサヒコが声を掛けると、
「わんわんプレイ!!?」
「ご主人様と奴隷ね」
「あ〜…」
なるほどとマサヒコ納得。
どうやら首にかかっている首輪に反応した様だ。
「マ、マサヒコ君!リンちゃんといつのまにそんな関係に!?」
「や〜…マサがMとは思わなかったわ」
好き勝手なことをいう家庭教師二人。
どうしたものかと思ったマサヒコだが…
「うわぁ…空青いなぁ」
ほっとくことにした。
つっこむのにもいい加減疲れたマサヒコの早春の一日はこうして過ぎていった。


END

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