残暑もまだまだ厳しい九月半ばの休日。
とあるテラス付きのカフェ・レストラン、時間はティータイムに丁度良い午後の三時過ぎ
いつものようにいつものメンバーが集合して、いつもの如くリョーコのペースで会話は弾む―――

「先週辺りから朝や夕方は涼しくなったなーと思ってましたけど、やっぱりまだまだ日中は暑いですね」
「十月くらいまでは続くかも」
 天野ミサキ、若田部アヤナ、的山リンコ、濱中アイ、そして中村リョーコ。
前三人が高校二年、後の二人が社会人という構成で、側から見れば若干奇妙な取り合わせに思えなくもないグループである。
ただし、それはあくまで輪の外から見た話。
彼女らにしてみれば、かれこれ三年近くの付き合いで、
歳の差による壁は皆無ではないものの、それを置いても充分に仲の良い関係を築いている。
「それであんたら、露出度高いわけね」
 差があるというのなら、それは知識や経験にこそあてはまるだろうか。
面子の中でただ一人、特別な方面に突出した人物がいる。
「高い、ですか?」
「そう、かなりのもんじゃない?」
「……それ程でもないと思いますけど」
「んー、でも明治大正時代の人が見たらフシダラだって怒りだすかもよ」
「今は平成で二十一世紀なんですが」
 中村リョーコ、現在二十四歳。
聖光女学院から東栄大学を経て業界大手のいつつば銀行に就職という、実にご立派な人生行路を歩んでいる。
さらにスレンダーな身体に充分豊かと言える胸、艶のある長い髪、メガネが似合う知的な顔立ちと容姿まで抜群であり、
これだけ見れば、まず八割はバラ色の成功者の部類と言って差し支えあるまい。
「アヤナとアイなんかエロいね、ラインがわかるサマーセーターにムーディな薄目のブラウスでさ」
「うえっ!?」
「お、おかしな意図はないですよ」
「リンコは三段フリルのキャミソール、ミサキはチェーンベルトのミニスカートでアピール抜群だし」
「えへへー、かわいいでしょ? 先生」
「ア、アピールってそんな」
 あるまい、が。
この女の最大の問題点は内面にある。
イタズラ大好き、ペースを握りたがる、他人を弄ぶ、強引に物事を進める……等々。
ドラマに出てくるような『悪女』とはまた違った意味で、『悪い女』なのだ。
おまけに豊富な男性経験と性知識を武器にして、いたいけな年下連中をイジクリ倒す傾向もある。
「な、中村先生だって腕をほりだしてるじゃないですか」
 リョーコのトップスは黒いハイネックのノースリーブカットソーで、ミサキが言うように、肩口が丸見えの状態。
なおボトムスはスラリとしたジーンズで、この組み合わせは背が高いリョーコによく実によく似合っている。
「だって暑いもん」
「私たちも暑いから、それ相応の服装をしているだけですけど。先輩と同じじゃないですか」
「ん、そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれなかったりなんかしちゃったりして」
「……なんですか、その曖昧な言い方は」
「広川太一郎」
「知りませんよ!」
「いやまあ、あんたら全員なかなかやるじゃん、ってことよ」
 アイスティーのグラスと手に取ると、リョーコはふふんと意味深な笑みを見せる。
ミサキたちが年頃の女の子である以上、ファッションに気を使うのは当然と言えば当然のこと。
歳と気候と流行りに合わせた格好になるのは確かなのだが、リョーコはその裏に隠れているもう一つの理由をピピッと感づいている。
「オトコが見たら、結構クラッとくるかも……ね?」
 それは、この場まだ来ていない少年がキーになっている。
「と、ほら来たわよ、オトコ……遅刻野郎がさ」
 すなわち、小久保マサヒコ。

 中学時代のマサヒコは、特別輝いて見えるような男ではなかった。
母の血を色濃く継いだと思われる繊細な目鼻立ちは、確かに将来性を感じさせたが、
本格的な成長期に入る前の段階では、特別なアピールポイントになり得なかった。
それこそ、幼馴染のフィルターがかかっているミサキ以外の同年代の少女からすれば、「まあまあかな」といったレベル止まりだったのだ。
「遅れてごめん、みんな」
「マサちゃん、遅ーい」
「こんにちわ、マサヒコ君」
「まったく、男のくせにのんびりしてるんだから。もっとシャキシャキしなさいよね」
「えへへ、遅かったね小久保君」
 だがしかし、成長期を迎え、背が伸び、雰囲気が大人っぽくなってくるとコロリと評価は変わってくる。
本来持ち合わせている魅力が開花してきたというべきか、男らしさが加味されたマサヒコは、
周囲から見ても十分に美男子の範疇に入っていた。

「おやおや、マサが来た途端にみんなニコニコしだしちゃってさ」
「な、な、何を言うんですか先輩!」
「そ、そ、そうです! 別に小久保君が来たからとか関係ないです!」
「えー、私、小久保君に会えて嬉しいよ」
「……リ、リンちゃん?」
「え? 俺が何か?」
 ミサキは言うに及ばず、アイもアヤナもリンコも、とっくに今のマサヒコのトリコ。
おそらくミサキ以外は自覚がないだろうが、ほぼ九割九分間違いないとリョーコは踏んでいる。
「まあまあ、そんなにテレなさんな」
「わ、わ、私とマサヒコ君じゃ歳の差が!」
「テレてなんか絶対いませんっ!」
「私の顔、赤いですかあ?」
「み、み、みんな?」
「え? え? 俺が何か?」
 
 残暑もまだまだ厳しい九月半ばの休日。
とあるテラス付きのカフェ・レストラン、時間はティータイムに丁度良い午後の三時過ぎ
いつものようにいつものメンバーが集合して、いつもの如く―――

      F   I   N

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