とある日の放課後,今日も生徒会室ではいつもの四人が仕事を行っていた。
 そんな中,生徒会室のドアをコンコンと叩く音がした。
「どうぞ〜,鍵は開いていますよ〜」
 生徒会の一人,七条アリアはそう答えると,一人の生徒が入って来た。
「失礼します。新聞部の畑です」
「久しぶりだな,今日は何の用だ?」
 生徒会長の天草シノが畑に問い掛ける。
「急な話で申し訳ないですが,写真部の清掃を行っていたのですけど,
 私一人だけでは人手が足りなくて,それで生徒会なら手伝ってくれると思って訪れました」
 シノの問いに畑は淡々と答える。
「そうか大変だな,だがこちらも仕事中だからな…」
 どうしたものかとシノが悩んでいるところにタカトシが手を挙げる。
「あの…会長,なんなら俺が手伝いに行きましょうか?」
「私は構わないが仕事の方はまだ残ってるだろう?」
「あ…,そう言われればそうですね」
 タカトシは自分の目の前に置かれている資料を見渡す。まだ半分しか終わっていなさそうだ。すると前からアリアとスズが,
「シノちゃん。それなら大丈夫よ。私の分はほとんど終わったから,津田君の残りは私とスズちゃんで引き継ぐわ。
 それにね,力仕事もあるなら男の子の力が必要でしょう?」
「そうですよ,皆で手伝いに行っても逆に邪魔になるかもしれません」
 難色を示すシノに二人が提案する。
「そうしてくれたら有り難いが,大丈夫か二人共?」
「平気よ〜」
「私は問題ないです」
 四人で仕事の調整をしている所に畑が,
「すみません。皆さんのお仕事を邪魔してしまって」
「いや気にすることは無い。困っている人を助けるのも生徒会の仕事だからな」
「みんな有難うございます。それじゃあ,畑先輩行きましょうか」
 そう言って,タカトシと畑は生徒会室を後に新聞部へと行った。
 
………数分後
 
「着いたわ,ここが新聞部の部室よ」
「ここですか。そういえば,新聞部に来るのはオレは初めてですね」
「そうね,じゃあ先に中に入って」
「あ,すみません。失礼します」
 そう言ってタカトシは部屋の中に入っていった。それに続いて畑も入っていく。
 部屋の中に入ったタカトシ。たが,目の前の光景に違和感を感じた。
「あれ?特に散らかっているように見えないんですけど…」
 そんなタカトシの言葉を余所に後から入って来た畑が後ろ手に部屋の鍵を掛ける。
「畑先輩?片付ける所ってどこにあるんですか?」
 タカトシの問い掛けに対し畑は答える。
「ごめんね,掃除をするって言ったことは嘘なの」
「え?それってどういう事ですか?」
 畑はタカトシに近づきながら話を続ける。
「実はね,津田君に大事な話があるの。だからここに来てもらったの」
「話なら生徒会室で良かったんじゃないですか?わざわざ嘘までつかなくても…」
「言ったでしょ?大事な話って」
 そう話すと畑は机の引き出しから1枚の写真を取り出した。
「この写真を見てくれるかしら」
 そう言うと畑はタカトシに1枚の写真を見せる。
 それは雨の中をタカトシとシノが二人で相合い傘をしている写真でだった。
「これって確か会長の誕生日会の時の…って,いつ撮ったんですか?」
「ジャーナリストたる者,何時でもスクープを探しているものよ」
「まさか雨の中オレと会長を付け回してたんですか」
「その通りよ」
 冷静に畑は答える
「この写真を見る限り,とてもお似合いのカップルね。二人共いい笑顔をしているわ。
 実はこの写真を使って来週の校内新聞の記事にするつもりなの。
 『大スクープ!生徒会長・天草シノと副会長・津田タカトシ二人の熱愛発覚!』
 って所かしら」
「何考えているんですか!別に俺と会長は付き合っている訳じゃ無いんですよ」
「これが全校生徒に知れたら大変な事になりそうね。
 生徒会長と副会長が自ら校則違反をしているんだから」
「人の話聞いています?付き合ってないですって」
「あなたが付き合ってないと言っても,噂が広まれば嘘も事実と同じよ。
 もしこの件が職員会議とかになったら軽くて厳重注意,重ければ解任や停学もありえるかもね。
 知ってるでしょ?元々ここは伝統のある女子高だって。
 男子の受け入れを始めて,すぐに問題を起こしちゃったら,それなりの処罰が待っているのは当然でしょ。もちろん会長も処罰は免れないと思うわよ。
 それに会長のファンクラブの子達からも目をつけられるかもね。命の危険もあるかも知れないわよ」
 畑は矢継ぎ早に怖いことを言い続ける。
「…結局,何が言いたいんですか畑先輩?」
「まだ分からない?この事を記事にされたくなかったら,大人しく私の言う事を聞いてもらうわ」
「約束してくれるなら,写真のデータは津田君に渡してあげる」
 タカトシは畑の余りにも身勝手な発言に言葉を失っていた。
(この人は急に何を言い出すんだ?だけどもし逆らったらオレも会長も…)
 少しの沈黙が流れた後,タカトシは,
「…一日だけ待ってください。それまでに答えを出します」
「いいわよ。だけどこれはあなたにとって,決して損はしない話だと私は思っているの」
「えっ?損はしないって…?」
「…とりあえず今日はここまでね。あなたに私の携帯のメルアドと番号を教えてあげる。
 明日,時間を決めて呼び出すから確認をとれるようにしてね。
 もし来なかったら交渉は不成立と受け取るわよ」
 そう言われて,畑から番号の書かれた紙を受け取ると,タカトシは何も言わずに生徒会室へ戻っていった。
 
………
 
「…ただいま戻りました」
「ご苦労だったな。ん?どうした?私の顔を見つめて」
「あらあら〜?津田君,まさかシノちゃんを相手にHな妄想してるのかしら?」
「何考えているの津田!イヤラしいわね!」
「いえ別に…,別に何もないです…」
「そうか?それならいいが…,ちょうど私達もいま仕事が終わった所だ。
 そろそろ暗くなって来るし,ここで終わりにするか」
「じゃあ帰りましょうか〜」
「そうですね。明日も頑張りましょう」
「お疲れ様でした…」
 そう言って4人は生徒会室を後にし,それぞれの家路に着いた。
 
 その夜,タカトシは畑の言った最後の一言に疑問を感じていた。
「…どうしようもないよな。皆に迷惑かけられないし。
 でも,損はしないってどういう事なんだろう?」
 
次の日…
 
タカトシの携帯に一つの着信メールがあった。そこには…
 
『今日の午後5時に写真部に来てちょうだい 畑』
 
 
その頃2−Bの教室では…
「シノちゃん。昨日のタカトシ君,新聞部から戻って来た時,何が様子がおかしくなかった?」
「そうだったか?私は別に変な風には感じなかったが」
「もしかしてシノちゃんの事を好きだったりして」
「そうなのか?いくら私の事が好きでも校内恋愛禁止だからな…」
 生徒会長として真面目な事を言いながらも,顔を朱くするシノ。
(あらあら,顔を朱く染めちゃって。可愛いわよシノちゃん。
でもタカトシ君の方は気になるわね。後で様子でも見に行ってこようかしら)

 
……………
 
 畑から,呼び出しのメールを貰ったタカトシ。幸い今日は,生徒会の仕事も無かっので放課後は適当に時間を潰し,新聞部へと向かって行った。
 新聞部の前に着いたタカトシは,不安に駆られながらも,観念したかのようにドアを叩いた。
「…津田ですけど,畑先輩いますか?」
「――――待ってたわよ,中にどうぞ」
「…失礼します」
「いらっしゃい。あ,ちゃんと鍵を閉めてね」
 そう言われるとタカトシは部室の鍵を掛ける
「そこの椅子でいいから座ってくれる?」
 タカトシは言われるがままに椅子に座る。
 タカトシの前に立った畑は写真を片手に話を始めた。
「約束通り来てくれたという事は,私の言う事を聞くと受け取って構わないわね?」
「…はい。皆には迷惑をかけられないです。オレ一人が我慢すればいい事ですから…」
「正しい判断よ。じゃあ早速,一つ聞いてもらいましょうか」
「…分かりました。何をすればいいんですか?」
「まず目をつぶって。そのあと,手を膝に当てて,軽くかがんで」
「…これでいいですか」
 軽く中腰になるタカトシ。
「そうよ。そのままじっとしてて」
 畑の言われたままにするタカトシ。すると抱き付かれた感触があった。
「ん……ちゅっ………ちゅっ…んふっ…」
 さらに口元に何が柔らかい物が当たっている。
 タカトシは薄目になると,目の前の光景に驚く。畑の唇が自分の唇と触れ合っていたのだから。

(畑先輩がオレにキスをしている!)
 タカトシは思わず目を見開く。
 それに気付いた畑は,そっと唇を離して,
「駄目よ。目を閉じてなきゃ。ばらされてもいいの?」
 畑にそう言われると,タカトシは頭の中が混乱しながらもゆっくりと目を閉じた。
(急にキスをするなんて…何で?畑先輩は何でオレに……?)
「んっ……ちゅ……ちゅっ,……ん……んふっ……」
 優しく唇が触れ合うだけのキスをする畑。
「…ちゅっ……ちゅっ……んふっ……んふぅん………」
 暫くすると,畑は舌を入れてタカトシの口の中を無理矢理こじ開けていく。
「ちゅっ……ちゅるっ,じゅじゅ……ちゅぱっ……はふっ,んふっ……れろれろっ…」
(……!?…舌が入って来た!)
 更に予想もつかない行動に,思わずタカトシは口を離して距離をあける。
「ぷはっ…はー,はーっ………嫌っ,離れないで。……お願い,このまま続けて」
「…でも,急にこんな事…」
「……約束でしょ?」
 タカトシよりも背の低い畑は上目使いでそう答える。
 
………ぷつっ
 
 普段は一度も見せた事の無い畑の行動に,タカトシは理性が弾け飛んでしまった。
 今度は自らキスをして,舌を口の中に挿し入れていく。
「…ちゅっ,ちゅっ…………じゅるっ……ちゅぱっ……ちゅぱっ…………」
「…ちゅぱっ……ん,んんっ……じゅじゅっ……ちゅっ,ちゅっ………」
 舌と舌を絡ませる程,激しいキスをする二人。お互いの唾液が相手の喉を通っていく。息をするのも忘れたかのように二人はキスを続けていた。
 やがて息が続かなくなったのか,二人は同時に離れて大きく息を吸った。
「ふー,ふーっ………ふぅ……ふぅ…」
「はぁはぁはぁっ……はーっ……はー……はぁ……」
 すると互いに目があった二人。息を整えているのにも関わらず,二人は再び口づける。
「……ちゅっ…ちゅっ,じゅじゅじゅっ……ちゅぱっ,ちゅっ……ちゅっ………」
「………じゅっ…じゅるじゅるっ……れろっ……れろれろれろっ……ちゅぱっ…」
 
…………
 
 それから何分経っただろうか?5分ぐらいだろうか?だけど二人にしてみれば時間の流れはとても緩やかに感じただろう。
 
…………
 
「…気持ち良かった?」
「…はい,でも何で急にこんな…」
「まだ気付かないの?意外と鈍い所があるのね。実はね,私………あなたの事が好きなの」
「はい……………………はいっ!?」
「好きになったのは,あなたに初めて出会った時からよ。
 あなたの事を考えてたら,胸が張り裂けそうなほど好き。
この写真だって本当はあなたの写真を撮ろうとしたの。でも会長と二人で傘を差してるなんて思わなかった。気付いたらシャッターを押していたわ。………見て」
 そう言うと,畑は机から写真の束を取り出した。その数は裕に百枚以上はある。それらは全てタカトシの写っていた写真だった。
「軽蔑した?私が隠し撮りするような人だって」
「…知らなかったです。先輩がオレの事を好きだったなんて。
 本当の事を言うとオレも先輩の事が気になっていました。最初に会った時は正直変な人だなと思っていました。
 けど,先輩が生徒会に来る度にだんだん好きになってしまって。告白しようと考えていた時もありました。
 だけど副会長として校則を破る訳にはいかなかったから,それが出来なかったんです…」
「…嬉しい。お互いそう想っていたなんて。……校則の事は分かっているわ,でも一緒にいたいの。ただ,津田君の側に居たいの。それだけでいいの」
「…こんなオレなんかでいいんですか?」
「うん…」
「分かりました。オレも一緒に居たいです……これから宜しくお願いします,畑先輩」
「ありがとう津田君。…ねぇ,もう一つお願いがあるの。二人でいる時は下の名前で…『タカトシ君』って呼んでいいかしら?」
「…構いませんよ」
「…ありがとう。嬉しい」
 そう言うと二人はお互い顔を見合わせたまま,口を近づけて行き,再び濃厚なキスを始めた。
「……ちゅっ,ちゅぱっ……じゅじゅっ……ちゅっ………んふっ,………んんっ………」
「……ちゅるっ……ちゅっちゅっ……じゅるっ……じゅじゅじゅっ……んふっ……ちゅぱっ………」
 
…………
 
 新聞部の中をずっと見続けている人がいた。七条アリアだった。その手には部室の鍵が握られている。
 タカトシの様子が気になったのか後を付けていると,新聞部の中に入っていく様子が見えたので,生徒会室から鍵を取りに行き,再び戻って鍵を開け,ドアを数センチ開くと,まさに濃厚なキスの真っ最中だった。
(あらあら〜こんな事になっていたなんて。…本当はいけない事なんだけど,二人の為にもシノちゃんには黙っておきましょう)
 そう心に思うと,そっと鍵を掛けて新聞部から離れて行った。
 
…………
 
「ごめんね,脅したりして」
「………いえ,オレを脅して下さい。一緒に居ないと写真の事をばらすぞって」
「……………ふふっ,うふふっ」
「…………ははっ,あはははっ」
 お互いに笑い出す。
「ねえタカトシ君,もう一つお願いがあるの」
「何ですか?先輩」
「写真を撮ってもいいかしら?今まで,あなた一人の写真しか撮ってこなかったから,今度は二人で一緒に写りたいの」
「…もちろんですよ先輩」
 
 そう言って畑は写真の準備をする。
 タイマーをセットしてタカトシの側に近づいていく――――
 
………………………
 
 畑は一枚の写真を見ていた。
「先輩〜,柔道部の取材に行くんでしょ〜,先に行ってますよ〜」
「ごめんね,今行くから」
 新聞部の後輩が急がすように畑を呼んでいる。
 畑はその写真を自分の机の中にそっと入れて部室を出て行った。
 
 片やタカトシも一枚の写真を見ていた。すると,
「津田,ぼっとするな。早く柔道部の応援に行くぞ」
「すみません,会長。今行きますから」
 シノに怒られたタカトシは慌てて準備をして出て行く。もちろんその写真は大切にカバンの中に入れている。
 その横でアリアが優しく微笑んでいる。
 スズは呆れたような顔をしていた。
 
…………………………
 
 二人が見ていたその写真は,タカトシと畑が仲良く寄り添っている写真だった。
 
 この先,二人の関係はばれるかもしれない。
 だけど,二人にとってそんな事は関係なかった。
 この写真のように,どんな事があっても二人仲良く居続けようと心に誓うタカトシと畑だった。
 
FIN.

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