最終更新:ID:20x1Y7WtJw 2013年01月31日(木) 22:25:19履歴
君へと続く赤い糸の続き。
体が重い。熱い。
知らず知らずのうちに吐き出していた息は、なんだかおもっていた以上に苦しげだ。
これって、もしかして。
「あー」
風邪って奴かもしれない。
とりあえず両親にそう報告して、事務所にも電話した。
幸い大きな仕事もとっていなかったので(写真撮影は明後日に移してもらった)すんなりとOKがでる。
体が酷く重い。水の中を歩いているみたいだ。あるいは空の上かもしれない。こんなにふわふわしてるんだから。
「……」
当然かも。昨日の夜あんなに寒い中外に出て、しかも長い間泣いていたのだから。
雪歩は風邪引いていないかな。
「ゆき、ほ」
出した声は驚くほどかすれていて、弱々しくて。
嫌われた。すきって言ってしまった。ボクにこんな趣味あったなんて、って思われた。
風邪を引いて逆によかったのかもしれない。会わない口実ができたのだから。
「うー、」
昨日までは会いたくて会いたくて堪らなかったのに今は。
『すみません、』
扉の向こうから声がして、ボクは目を開けた。
毛布に包まっているのに寒い。冬なのに、暑い。
『いいのよ、ゆっくりしていって。昨日もすごくさびしそうに帰ってきててね』
『……そう、なんですか』
母さんの声はどこかとおく。返事をする雪歩の声はやけに近く。
……って、雪歩?
「し、しつれいしますぅ」
このちょっと自信なさ気で、でもかわいらしい、まさに女の子、って感じの声は。
もぞもぞと寝返りを打って顔を拝んでやろう。
……やっぱり。
「ゆき、ほ」
「あの、ええっと、……真ちゃん、大丈夫ですか」
雪歩はなんともいえない顔をしていたけれど、ボクの声を聞いて心配そうな顔をしていた。
そんなに酷い声をしていただろうか。……していたな。
「その、真ちゃん。私、真ちゃんに、」
いいたいことがあって。それで。
本当は聞きたくもない。のだけれど、あいにくからだの調子がすこぶる悪くて、逃げるにも逃げられない状況。
周りのぬいぐるみたちはボクを励まそうとにっこり笑っているけれど。
「私、真ちゃんのこと」
嫌いになりました。
「すきでした。ずっと」
……え?
嘘だと体を起こそうとするがすぐに世界が回りだしたのでベットに逆戻りする。
ああ、ボクはついに雪歩のことが好きすぎて夢を見るようになってしまったのですね。
「……ねえ、真ちゃん」
「な、に……?」
でも。
喉の痛みはこれを現実だと教えてくれるし、顔を伝った一滴の汗は妙にリアルな感触だし。
これってもしかするのだろうか。女の子である雪歩のことが好きなボク、を好きでいてくれる雪歩。
「真ちゃんは、わ、私のこと、すき、ですか……?」
好きだよ。大好きだよ。
心の中で叫ぶ。でもこれっていいのだろうか。
きっと普段の僕の頭ならスキャンダルとかを気にしていたのだろう。
今更な気もするけれど。
二人の間に気まずい沈黙が漂う。雪歩は僕の言葉を待っているけれど、やっぱりどこかさびしげで、悲しげで、もしかして雪歩も怖かったのかなって思った。
「すき、……すき」
雪歩の目を見てはっきりと。
「昨日の言葉は、嘘じゃない。嘘じゃない、よ。ずっと好きだった。ねえ、」
「真ちゃん、」
「こんなボクを、雪歩は、気持ち悪いって思う?」
気持ち悪いって思ってよ。お願いだから。そしたらこれは失恋したボクの最後の悪あがきってことにするから。
雪歩の驚いた顔がかすむ。ついに現実世界に旅立つのか。
もう少しだけ夢の中に浸っていたいな。そうしたらきっと。
「いいえ。真ちゃんは誰より素敵な人だから」
「え」
顔が近い。顔が近いよ雪歩。
「だから」
……キス、ってやつだ。
雪歩の柔らかい唇と、ボクの熱のせいで熱い唇が触れ合う。
えええ、うそ、え、嘘。ゆ、ゆゆゆ、雪歩さん?
「真ちゃんが前言っていた「やさしくて、でも、決めるところは決める人」って、もしかして、」
「……ゆ、きほ。雪歩の、こと」
あれ、これってもしかして。
「……まえ、雪歩が、すきっていってたひと、って」
「……わたし、ずっと前から真ちゃんのことが好きで、でも」
いえなかったの。だって。
ボクは雪歩のことが好き。雪歩は、ボクのことが好き。
ボクに片思いしていた雪歩に片思いしていたボク。火照る頭は、酷く単純な答えをはじき出す。
両思い。
……この数日間の(あるいはもっと前からの)葛藤は何だったんだ。こんなことってあるんだ。
「雪歩」
「なに?」
「好き。ずっと好き。最初に会ったときからかわいいなって思ってたけど」
「……もう、真ちゃん」
幸せそうにふわありと笑う雪歩に、ああ、もうだめ、ノックアウト。
それはそれはきっと幸せそうなんだろう、と自ら思うほどの暖かさのなか、ボクは意識を飛ばした。
やっぱり、幸せすぎて夢だったのかもしれない、という最後の儚さを置いて。
夢なら覚めないで、いて。
ライブで歌ったこの歌詞が、今なら気持ちが痛いほど分かるようだ。
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