最終更新:ID:4byHUWhc2w 2010年02月19日(金) 10:02:08履歴
「真も雪歩も美希も青春してるねー」
なんて、どこか拗ねた口調で、愚痴るボクを評す。
今やアイドルの代名詞みたいな存在にまでなった春香だけど、目の前にいるのは以前とどこも変わらない、ちょっと疲れ気味な女の子だった。
終電を逃して事務所で仮眠をとっていたらしい春香は、ボクの空気を読まない朝の挨拶にソファから転げ落ちたあげくテーブルの足に頭をぶつけ、更にその衝撃で落ちたペットボトルが後頭部にクリティカルヒットするという、芸人顔負けの三段オチを披露してくれた。
狙ってやっているわけじゃないというのがすごい。
起こしてしまって悪いとは思っているけど、うん、いいものを見たなー。
「で、真は美希と雪歩のどっちが好きなの?」
そんなわけですっかり眠気を飛ばした春香と、事務所に来たものの空き時間を持て余していたボク。
女の子が二人揃ってすることと言ったら当然恋バナでしょう。
そのはずなんだけど、なぜか話題にのぼるのは同じ事務所のアイドルであり友達である、雪歩と美希のこと。
春香には、ボクと雪歩と美希の関係はひと昔前のドラマみたいなベタな三角関係に見えるらしい。いやいや、全員女の子じゃないか。
「ちょっと、なんでその二人が出てくるのさ。ボクはちゃんと『久しぶりだね、春香。最近どう? 恋とかしてる?』って聞いたよね?」
「うん。だから私も『フラグは折られるもの。だったら最初っから期待しないっ。さようなら、恋に恋する私!』って答えたよ」
「そしてボクが『なんでそんなに悟っちゃってるのさ!?』って問いつめたら」
「『そんなことより真って少年マンガに出てくる主人公みたいだよね。このラッキースケベ!』」
「どう考えても春香のその答えがおかしいよ! 大体なんだよ、ラッキースケベって!?」
「そのまんまの意味だけど。いいなー真は、雪歩にも美希にもモテモテで。すごいなーあこがれちゃうなー」
ああ、春香がやさぐれている……。
友人の涸れっぷりにボクは目頭を押さえずにはいられなかった。
「春香はボクたちのこと誤解してるよ。確かに二人ともボクに、その、好意を投げかけてくれるけど、雪歩はユニットを組んでいるパートナーだからであって、美希だって冗談半分っていうか、そこに友情以上の感情はないと思うし」
「はー……鈍感って一番罪だよねー」
「聞いてよ春香!」
「聞いてるよー。聞いた端から右から左に流れていってるけど」
「それは聞き流すって言うんだよ!」
再びソファに倒れ込んだ春香は、毛布にくるまってフテ寝を決め込んだ。
言われぱなしのこの状況。
思わず言いかけた台詞に、慌てて脳内レフェリーからストップが掛かる。
――それに美希はボクじゃなくて、
春香の不思議そうな顔。と同時に近付いてくる聞き慣れた二つの話し声。噂していた張本人が二人。
「あ、おはよう、真ちゃん。……と、春香ちゃん?」
最初に現れたのはボクのユニットの相方である雪歩、その後ろからいかにも寝起きです、と言った顔の美希が続いて入ってきた。
「真クン、おはよーなの……。あれ、春香がいる。はるかー、寝てるの?」
「……春が来るまで冬眠してるの。放っといて……」
「真クン、春香が熊みたいなこと言ってるの」
「ボクに意見を求められても……」
やさぐれてる春香は美希に任せることにして、ボクは雪歩に話しかける。
今日はオーディションの日だ。最近は雪歩も少しずつ自信を持ちはじめている。
デビューは春香の方が早かったから、今はちょっと差を付けられてるけど、すぐに追いついてみせる。
二人でなら春香にだって負けないはず。
「真ちゃん、今日のオーディション、頑張ろうね」
「そうだね、ランクアップも近いし、ぜっったい負けられないよ。頑張ろう!」
「はるかー、どっかいくの?」
美希にいじられるままになっていた春香が、ソファから起き上がり上着を羽織っていた。
「ん、コンビニでごはん買ってくる。何か買ってこようか?」
「ミキも行くのー! 春香、おにぎり買っておにぎり!」
「はいはい」
「ねーねー、寝癖ついてるよ。なおしてあげよっか?」
「いいのいいの。どうせ帽子かぶるんだから」
「もー、そんなんじゃいつまで経っても春なんか来ないよ?」
どこか浮かれた美希の声が、春香の鼻歌と共に遠ざかっていく。
乙女よ、大志を抱け。恋して綺麗になれ。
鈍感だのラッキースケベだの言われたい放題だったけど、今は少しだけ優越感に浸っておく。
「……まったく、鈍感なのは春香の方じゃないか」
周りはよく見えてるくせに、自分に向けられる好意には疎いんだから。
「案外近くに春はあるかもしれないよ」と教えてあげなかったのは、さっきの仕返しじゃなくて、春香と美希に対する友情ゆえに、だ。
「真ちゃん? どうしたの?」
「なんでもないよ。じゃ、雪歩。早速オーディション会場に行こうか!」
「うん!」
ボクたちの戦いはまだ始まったばかりだ!
「真ちゃんも人のこと言えないくらい鈍感だよぅ……」
「何か言った雪歩?」
〜完〜
なんて、どこか拗ねた口調で、愚痴るボクを評す。
今やアイドルの代名詞みたいな存在にまでなった春香だけど、目の前にいるのは以前とどこも変わらない、ちょっと疲れ気味な女の子だった。
終電を逃して事務所で仮眠をとっていたらしい春香は、ボクの空気を読まない朝の挨拶にソファから転げ落ちたあげくテーブルの足に頭をぶつけ、更にその衝撃で落ちたペットボトルが後頭部にクリティカルヒットするという、芸人顔負けの三段オチを披露してくれた。
狙ってやっているわけじゃないというのがすごい。
起こしてしまって悪いとは思っているけど、うん、いいものを見たなー。
「で、真は美希と雪歩のどっちが好きなの?」
そんなわけですっかり眠気を飛ばした春香と、事務所に来たものの空き時間を持て余していたボク。
女の子が二人揃ってすることと言ったら当然恋バナでしょう。
そのはずなんだけど、なぜか話題にのぼるのは同じ事務所のアイドルであり友達である、雪歩と美希のこと。
春香には、ボクと雪歩と美希の関係はひと昔前のドラマみたいなベタな三角関係に見えるらしい。いやいや、全員女の子じゃないか。
「ちょっと、なんでその二人が出てくるのさ。ボクはちゃんと『久しぶりだね、春香。最近どう? 恋とかしてる?』って聞いたよね?」
「うん。だから私も『フラグは折られるもの。だったら最初っから期待しないっ。さようなら、恋に恋する私!』って答えたよ」
「そしてボクが『なんでそんなに悟っちゃってるのさ!?』って問いつめたら」
「『そんなことより真って少年マンガに出てくる主人公みたいだよね。このラッキースケベ!』」
「どう考えても春香のその答えがおかしいよ! 大体なんだよ、ラッキースケベって!?」
「そのまんまの意味だけど。いいなー真は、雪歩にも美希にもモテモテで。すごいなーあこがれちゃうなー」
ああ、春香がやさぐれている……。
友人の涸れっぷりにボクは目頭を押さえずにはいられなかった。
「春香はボクたちのこと誤解してるよ。確かに二人ともボクに、その、好意を投げかけてくれるけど、雪歩はユニットを組んでいるパートナーだからであって、美希だって冗談半分っていうか、そこに友情以上の感情はないと思うし」
「はー……鈍感って一番罪だよねー」
「聞いてよ春香!」
「聞いてるよー。聞いた端から右から左に流れていってるけど」
「それは聞き流すって言うんだよ!」
再びソファに倒れ込んだ春香は、毛布にくるまってフテ寝を決め込んだ。
言われぱなしのこの状況。
思わず言いかけた台詞に、慌てて脳内レフェリーからストップが掛かる。
――それに美希はボクじゃなくて、
春香の不思議そうな顔。と同時に近付いてくる聞き慣れた二つの話し声。噂していた張本人が二人。
「あ、おはよう、真ちゃん。……と、春香ちゃん?」
最初に現れたのはボクのユニットの相方である雪歩、その後ろからいかにも寝起きです、と言った顔の美希が続いて入ってきた。
「真クン、おはよーなの……。あれ、春香がいる。はるかー、寝てるの?」
「……春が来るまで冬眠してるの。放っといて……」
「真クン、春香が熊みたいなこと言ってるの」
「ボクに意見を求められても……」
やさぐれてる春香は美希に任せることにして、ボクは雪歩に話しかける。
今日はオーディションの日だ。最近は雪歩も少しずつ自信を持ちはじめている。
デビューは春香の方が早かったから、今はちょっと差を付けられてるけど、すぐに追いついてみせる。
二人でなら春香にだって負けないはず。
「真ちゃん、今日のオーディション、頑張ろうね」
「そうだね、ランクアップも近いし、ぜっったい負けられないよ。頑張ろう!」
「はるかー、どっかいくの?」
美希にいじられるままになっていた春香が、ソファから起き上がり上着を羽織っていた。
「ん、コンビニでごはん買ってくる。何か買ってこようか?」
「ミキも行くのー! 春香、おにぎり買っておにぎり!」
「はいはい」
「ねーねー、寝癖ついてるよ。なおしてあげよっか?」
「いいのいいの。どうせ帽子かぶるんだから」
「もー、そんなんじゃいつまで経っても春なんか来ないよ?」
どこか浮かれた美希の声が、春香の鼻歌と共に遠ざかっていく。
乙女よ、大志を抱け。恋して綺麗になれ。
鈍感だのラッキースケベだの言われたい放題だったけど、今は少しだけ優越感に浸っておく。
「……まったく、鈍感なのは春香の方じゃないか」
周りはよく見えてるくせに、自分に向けられる好意には疎いんだから。
「案外近くに春はあるかもしれないよ」と教えてあげなかったのは、さっきの仕返しじゃなくて、春香と美希に対する友情ゆえに、だ。
「真ちゃん? どうしたの?」
「なんでもないよ。じゃ、雪歩。早速オーディション会場に行こうか!」
「うん!」
ボクたちの戦いはまだ始まったばかりだ!
「真ちゃんも人のこと言えないくらい鈍感だよぅ……」
「何か言った雪歩?」
〜完〜
タグ
コメントをかく