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オーディションというのは実は、ほとんど出来レースのようなものらしい。
体裁を整えるためにフリはするものの、審査される以前に勝者と敗者が決まっていて
割り振られればお遊戯みたいなダンスでも鼻歌みたいな歌でも勝者になれるんだとか。

「どうしたら、勝者の方になれるの? コネ? お金?」

そうミキが聞くと相手は、それもあるけど、ともったいぶった言い方をした。
別に面白くもなんともない話。
あくびが出るほどカンタンな『世の中の仕組み』。

「……あふぅ」
「こ、こら美希、立ったまま寝ないでよ〜」
「じゃあちょっと横になるの」
「だーめ! あともう少ししたら順番だから我慢して…」
「五番さん、次です」
「は、はい!」

どれだけ頑張ったって受かるのはミキたちじゃない。
初めから決まっていた人が、初めから決められた道を台本通りに進むだけ。
ミキと春香はさしずめ場を盛り上げる為の端役ってところかな。
おんなじことを三度も繰り返せば春香だって気付くはず。
頑張る意味なんてないのに。なのに。


「私、もうちょっと残ってくね」
決められた台本通りにオーディションに落ちた今日も、春香はへこんで、また立ち直った。
苦手なダンスレッスン、もう少し頑張っておけば受かったかもしれない。
そう言ってレッスン場にこもって何時間経ったんだろう。
どうしてミキは、ここから動けないんだろう。
レッスン室の扉を背に、床にうずくまったまま。
ここはよく室内の音が聞こえる。
春香の靴が滑る音、息遣いやため息だって分かってしまう。
ああ、また転んだ。これで七回目。新記録かも。

「駄目だなぁ、私ってば……」

弱々しい、震えた声。
泣き声だけは聞きたくなくて、痺れる足に鞭打って立ち上がった。

「…もっと、がんばんなきゃ……」

……わかんない。
ミキには、わかんないよ。
 
足音を立てないようにその場を後にする。
初めて流す悔し涙は、泥でも舐めてるみたいに、苦かった。



相手はミキから電話がかかってくるのが分かっていたみたいに、今日も受からなかったようね、と挨拶代わりに切り出した。

「……この前、言ってたこと……本当?」

だからミキも直球を返す。
決められたシナリオ。乗せられたレール。
選ばれる側じゃない、選ぶ側にしてあげると囁かれた甘い言葉。
頂点に立てば、少しはこの息苦しさも紛れるかな。
今自分が出て来たビルを見上げると、一室だけ灯りのついた部屋があった。
あんな薄暗い部屋じゃなくて、
こんな周りに埋もれた雑居ビルじゃなくて、
もっともっと、星に手が届くほどの高みへ。

ミキが、春香を連れていってあげる。

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