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「ほら、美希!こうやって滑れば良いんだよ」

スィーッと流れるように滑っていく真。
それとは対称に、リンクの端で壁に寄り掛かりながら生まれたての小鹿のように脚を震わせる美希。

「ま、真クン、待って、ミキはまだ滑りかたが良く分からないの!」
「コツはね、自転車に乗る時と同じように一度滑っちゃえばすぐに安定するんだよ」
そう言いながら美希に近づく真。
「う〜、その滑るのが難しいの……」
「じゃあボクにつかまって滑ってみる?」
「わーい、真クン大好きなのー♪」

フラフラしつついつものように真に抱き着こうとするが、ここはスケートリンク。
まともに進めずにバランスを崩してしまう。

「おっと!美希、大丈夫?」

真がぎりぎりのところで美希を抱き留める。
その体勢はまさに王子様とお姫様のそれのようになっていた。

「ま、真クン……♪」
「み、美希……?」
「真クン、ありがとうなの!やっぱり真クンはカッコイイの!」
「ははは……、カッコイイはボクにとってあまり褒め言葉じゃないよ……。
 それより美希、自分で立てる?そうしたらボクの手につかまって滑ってみようよ」
「う、うん……やってみるね」

真に言われおそるおそる自分で立とうとする美希。
しかし、やはりまだ生まれたての小鹿のようだった。

「よし、そうしたらゆっくり滑ってみようか」
「うん……!ミキ、がんばるの!」

真にエスコートされながらゆっくりと滑っていく。

「お!うまいうまい!やれば出来るじゃないか、美希!」
「えへへ、真クンのコーチのおかげなの♪」
「じゃあもうちょっとスピードを上げてみようか」

そういって真はさっきよりも強く蹴りだした。
美希も真につられるようにして強めに氷を蹴る。

「……!真クン、ミキ今一人で滑ってるかも!」
「お、もうコツを掴んだ?さすが美希だなぁ。
 じゃあ、向こうで待ってるからボクのところまで来てごらん」

先にスイスイ滑っていき、5m程先で振り返った。

「美希ー!ここまでこれたら抱き留めてあげるよー!」

美希を乗せるために普段は自分からは言わないような事を言ってみた。
すると……。

「任せてなの!ミキはもうさっきまでのミキとは違うの!」

美希も完全にコツをつかみ、スイスイ滑っていく。
そしてそのまま真のもとへ……、と思ったら真がその場から逃げ出した!

「ま、真クン!?なんで逃げるの!?」
「もう美希も完璧に滑られるみたいだからね、このまま追いかけっこしてみようよ!
 ボクが追いつかれたらさっき言ったように抱き留めてあげるよ!」
「むー、ミキ負けないもん!」

こうして真と美希の追いかけっこが始まった。
最初のうちは、滑られるようになったとはいえまだ慣れない美希をからかうように時々止まりながら、

「美希、こっちだよー!」

などと言っていたが、すぐにその余裕も無くなって本格的な追いかけっこになっていた。
二人ともスケートリンクにいる他の客を華麗に避けながら滑っていく。
そしてついに、

「真クン、捕まえたの〜!」
「うわぁぁぁっ!っとと!
 あちゃー……、捕まっちゃったかー」
「ゼーゼー……、これでミキの勝ちなのー……」

美希の方は全力疾走していたため息も切れ切れだったが、真はまだまだ余裕といった表情。

「やっぱり美希は飲み込みが早いね。
 初めてでこんなに滑られるなんて凄いよ」
「えへへ、そんな事ないの。やっぱり真クンの教え方がうまいからなの♪」
「へへーっ♪そんな褒めても何も出ないってー♪」
「それより、追いついたからご褒美タイムなの!」
「……あ、そうだった」

実は追いかけっこに夢中になっててすっかり忘れていたのであった。
それでも約束は約束。

「……まあ仕方ないか。美希、いいよ」
「えーい、なの!」
「っとと。次は追いつかれないからね」
「じゃあ、真クンを離さないの♪
 このままミキと一緒に滑ろ?」
「えぇ!?一緒にって、美希はもう普通に滑られるじゃないか……」
「だから、こうして腕を組みながら滑るの♪」

それは端から見ればカップルにしか見えない行為だった。

「ちょ、ちょっと美希!これは恥ずかしいよ!」
「え〜?これがダメだったら、じゃあ……!ねぇ、真クン。
 ミキね、この前テレビでオリンピックやってる時にフィギュアスケートとか見てたの」
「……?うん、ボクも見てたよ。トリプルアクセルとか凄かったよね」
「それでフィギュアスケートの中に男の人と女の人が二人で滑るのがあったの♪」
「……まさか、それをやろうとか言わないよね?」

美希の思惑はまさにそのまさかだった。

「分かってるなら話は早いの!
 もちろん真クンは男の人役ね♪」
「やだよ!ボクは女の子なんだからそういうのはやりたくないの!」
「むー、真クンのケチー!
 いつもの王子様みたいにミキをエスコートして欲しいって思うな!」
「……分かったよ、じゃあまた追いかけっこで決めよう。
 またボクは逃げるから美希はボクを追いかけて。
 それでまた捕まったら王子様になって美希とペアで滑ってあげるよ」
「望むところなの!」

そして追いかけっこ第二戦目が始まった。
最初から全力で真を追いかける美希。
しかし、さっきとは違い追いつくどころか突き放されていく一方だった。

「悪いけど今回はボクも本気で滑るよ!」
「真クン……!ミキだって負けないもん!」

と言っても全く追いつく事が出来ない。
二人の間にはまだまだ技術に大きな差があったのだった。

「へへー!美希、そんなんじゃボクにはまだまだ追いつけないよー!」
「うー、真クンは速過ぎるの……」

この勝負は真の一方的な勝利になるかと思われたその時だった。
真の前に他の客が突然現れた。

「……うわぁ!」

運よく衝突は避けられたものの、大きくバランスを崩し思いっきりコケてしまった。

「っててー……。ふぅ、危なかったぁ……」
「ま・こ・と・クン♪大丈夫?」
「え?あぁうん、ありがとう、美希」

美希が差し出した手をとり立ち上がる真。

「えへへ、捕まえたの♪」
「へ?」

何がなんだか理解してない真。
がっちり手をつかまれてる状況を見て……。

「うわぁぁぁ……しまったぁぁぁ……」

思いっきり落ち込んだ。

「ね、真クン。やっぱり追いかけっこは危ないからゆっくり滑ろ?
 今回のは無しでも良いから」
「え?美希、良いの?」

美希からのちょっと意外な提案にキョトンとしてしまう。

「真王子と滑りたいとは思うけど、さっきみたいに他の人に迷惑をかけるのはダメかなって思って。
 ミキはやっぱり真クンと一緒に滑られるだけで満足なの♪」
「美希……。うん、じゃあ一緒に滑ろっか!」

美希の手をとり、先に滑り出す真。
時に美希の肩を抱き寄せたりしたり、美希の体をクルッと回してみたりと、本人は意識してないつもりだがその滑りは完全に王子様だった。
単純に真の女の子相手では自然と王子様になってしまう悲しい性分が出てしまったのであった。
意図してかせずかは知らないが思い通りになった美希はその後も満面の笑みで滑っていたという。

「真クン、大好きなの♪」
「っと、美希ってばまた抱き着いてきたりして……」
「また滑りに来ようね♪」
「うん、じゃあ今度はプロデューサーも誘おうか」
「ん〜、やっぱり次も真クンと二人っきりが良いの♪
 あっ、次はスキーとかも良いかも知れないって思うな!」
「あっ、スキーも良いね!じゃあ今度はスキーにしよう!
スキーならプロデューサーが結構うまいからきっと教えてくれるよ」

しかし、その言葉に美希の表情は少し曇った。

「……ミキは真クンから教えてもらいたいな〜」
「うーん、スキーの方はボクもそんなに自信がある訳じゃないからなぁ……。
 でも美希がそうして欲しいなら教えられるところだけだけど教えてあげるよ」

真自身、プロデューサーから教わったくらいでそんなに自信がある訳ではなかったが美希からの信頼が嬉しくてそのままOKした。

「次のオフが楽しみになって来たの!」
「え!?次のオフ!?
……まあ早めに行かないとシーズンも終わっちゃいそうだしその方が良いか」
「じゃあ、このままスキーのウェアとか帽子とか見に行こ!
 可愛いのが見つかると良いな♪」
「って、今から!?ま、待ってよ美希!」

後日、二人はスキーを滑りに行くけどその話はまた別の機会に。

終わり

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