当wikiは年齢制限のあるページです。未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。

「はぁ……美希ってかわいいよなぁ……」
「真?いきなりどうしたの?」

真が唐突に美希の事をかわいいなどと言い出して驚いた。

「いや美希ってさ、ボクの欲しい物を全部持っててちょっとうらやましくって」

真の欲しい物、それは可愛さであり、豊満な体であり、そして何より男の子のファンの事である。
美希の豊満な体は私だってうらやましい。

「最近仕事で美希と一緒になる事が多くてさ、その度に美希の可愛さが気になってくるんだ」
「まさかあなたまで美希に惚れちゃった?」

冗談半分で聞いてみた。

「えっ……?ま、まさかぁ!だってボクは女の子だよ!?
 ボクが美希の事を?あはは、まさか!」
「そう……」

いつもなら強く否定して怒ってきそうなところなのに真は軽く笑い飛ばしていた。

「あっ、真くーん!」
「え?あっ、美希……」

美希がこちらを見つけ呼びかけてきた。

「千早さんも一緒だったんだね。二人で何話してたの?」
「えっ!?い、いや、別にどうって事無いよ、うん」

もう、相変わらず嘘が下手なんだから。

「今度一緒にレッスンをしないかって話をしていたのよ」
「ふ〜ん、千早さんも真くんもあんなにすごいのにさらにレッスンなんてすごいの」
「美希ももっとレッスンがんばりなさい」
「ミ、ミキもがんばってるの!うん」

美希ったら……。
ふと真の方を見るとちょっと驚いた顔をしつつ、ありがとうと言いたげな表情をしていた。
全く、本当にレッスンに付き合ってもらうわよ。

「ところで、美希は今レッスンから戻ってきたの?」
「そうなの。
 プロデューサーさんが『今日は時間がたっぷりあるからみっちりレッスンだー!』
 とか言っちゃってこんな時間になっちゃったの。
 こんな時は真くんに癒してもらうの!」

ガバッと真に抱き着く美希。

「うわぁ!?ってもう、美希ってばいつもいつもボクに抱き着いてきて」
「真くんに抱きしめてもらえるんだったら、ミキどんなレッスンでもがんばれるの!」
「もう、困ったなぁ……」

真、困ったと言いながらも顔がにやけてるわよ。
あなた、やっぱり……。

「えへへ、やっぱり真くんはかっこよくてしかも優しいの!」
「へへ、そうかな」

いつもならかっこいいなんて言われたら、その言葉はもう聞き飽きたよなんて言いながら嫌な顔を見せるのに。

「美希……」

真が美希をギュッと力を込めて抱きしめた。

「真くん?」
「へ!?あぁっ!ご、ごめん!」

どうやら無意識のうちに強く抱きしめていたみたい。
でも謝りながらもまだギュッと抱きしめていた。

「真?言ってる事とやってる事が矛盾してるわよ」

「うわぁっと!えへへ……」

真は私に言われてようやく美希から離れた。

「今日の真くんはなんか変なの。
 ……って、やば!プロデューサーさんがすごい顔でこっち見てるの!
 真くん、またあとでね!」
「あっ美希!行っちゃった……」
「残念そうね」
「べ、別に残念とかそんなんじゃ!」

全く、本当に嘘が下手なんだから。

「……ところでボクって、かわいい物を集めるのが趣味でさ。
 家にも父さんに内緒でかわいい人形とかぬいぐるみとかいっぱいあるんだ」
「今度は何?」

また真がいきなり別の話を振ってきた。

「うん、それでさ。
 さっき美希を抱きしめてる時にぬいぐるみを抱きしめてる時と同じような感じになったんだ」
「……」
「も、もしかしたら、美希をぬいぐるみみたいって思っちゃってるのかな……」
「そんな事私にはわからないわよ」
「あっ、うん、そうだよね……」

シュンとしてしまった。
ちょっと冷たかっただろうか。
その日はその後大した話もせずに別れた。
後日のレッスンの約束だけは取り付けたけど。


…………


「でね、その時に真くんが……」
「あ〜もう!真の話はもう良いわよ!
 惚気話ならよそでやりなさい!」
「むー、もうちょっとくらい聞いてくれても良いって思うな。
 律子はやっぱりケチなの」
「律子”さん”でしょ?」

さっきから延々と真くんがとか、真くんととかばっかりを聞かされていい加減うんざりしてきた。

「だって、今事務所には律子……さんしかいないんだもん」
「だからって、私は事務の仕事中なのよ?
 あんた、私の邪魔をしたいの?」
「むー、良いもん。律子なんか知らないんだから」
「だから”さん”を付けなさいっての……」

全くこの子の真好きにも呆れるわ。
真の事が好きと言えば雪歩も大概だけど、あの子はどっちかっていうと憧れみたいなものなのよね。
その点、この子はストレートに真の事が好きみたいなのよね。
最近では真も折れてきたみたいで事務所のあちこちで二人が一緒にいるのを見かけるようになったし。

「はぁ……早く真くん帰ってこないかな〜」
「真より、あんたのプロデューサーはどうしたのよ?」
「プロデューサーさんならミキのお仕事を探しに行ってるよ?」
「営業だったら、あんたも付いて行きなさいよ……」
「え〜、めんどくさいの。
 あっ、そういえば、この前真くんがね」

また真の話……。
もういいわ、向こうが話し尽きるまで聞いてやるんだから。

「今度は何?真の方から告白でもしてきたとか?」
「んっと、告白はされなかったんだけど、なんかギュッて抱きしめられちゃった」
「は?」
「だから、真くんがミキの事をギュッて抱きしめてきたの」

あの真が?美希を?
……へぇ〜。

「いつもだったら、ミキが抱き着いたら真くんはなでなでとかしながら
 ゆっくり離したりするのにあの日は違ったの」
「珍しいわね。そのうち雪でも降るんじゃない?」
「えぇ〜、寒いのは嫌なの……」

とは言ったものの真がこの子を抱きしめたというのはちょっと気になる。

「その時の真っていつもと同じだった?」
「?いつも通りかっこよかったよ?」
「……いや、そうじゃなくて。雰囲気とか、表情とか」
「雰囲気?ん〜、よくわかんないの」
「あっ、そう……」

でも、これはもしかしたらもしかするのかしら。
ということはこのまま行くと今まで以上に二人が……。
うわぁ、頭が痛くなってきた。

「でもやっぱり真くんはいつもと違ってなんか変だったかも」
「……そうね、美希。
 真の事を想うのも良いけどあまりしつこく追うのは良くないわ
 この際、少し真と離れてみたらどうかしら?」

これ以上二人に接近されて今以上にイチャイチャされでもしたら
見てるこっちがきついしそれとなく距離を置くように促してみた。

「えっ?離れるって真くんと?」
「そう、あんた真に対していつも押してばっかりだったでしょ?
 でも、駆け引きは時として引く事も重要なのよ」
「駆け引き……、分かったの!
 真くんと離れるのはつらいけど、真くんのためならミキ、がんばる!」

どうやら言い聞かせる事に成功したらしい。
……ただ、この助言をきっかけにあんな事になるなんて。
ちょっと迂闊だったわ。


…………


「……ふぅ、こんな感じでどうかな?」
「えぇ、大分良くなったんじゃないかしら。
 ふふっ、結局一緒にレッスンしてくれてありがとう、真」
「いや、千早と一緒にレッスンすると問題点の整理が出来るし、こっちも助かるよ」

あの時に取り付けた一緒にレッスンをするという他愛もない約束。
それでも私にとっては……。

「これがもし美希とだったら、
 『ダンスレッスンはめんどくさいの』とか言ってちっとも進まないんだもん」

また美希の話……。
最近真はよく美希の話をするようになった。

「でも、ちゃんと教えてあげると素直に聞いてくれるし、
 思いがけない発見があったりして楽しいんだけどね」

笑いながら美希の事を話す真は本当に楽しそうだった。

「美希の事が好きなのね」
「す、好きって!?違うよ、そんな事は!」
「べ、別に恋愛感情がどうとかじゃないわよ!
 あなたが美希の事を好きになる事は別に変な事ではないわ。
 真、あなたちょっと過敏になりすぎじゃない?」
「う……、そうかな。
 ……うん、確かにちょっと過敏だったかも」

はぁ、真はこういうところでややこしいのよね。

「ボクは美希の事が好き……。へへ、なんか照れるな。
 って、照れるのは変か」

真は自分でも知らないうちに美希の事をすごく意識してるようね。
……少し複雑な気分。

「ん?あれって、美希だよね?
 おーい、美希ー!」

噂をすればなんとやらなのか、確かに向こうを歩いているのは美希だった。
でも、一瞬こちらを見たかと思うと足早に去ってしまった。

「あれ……?おかしいな、いつもだったらこっちに来そうなのに。
 もしかして別人だったのかな」

まさか。あの目立つ金髪を持つ人が何人もいる訳がない。
あれは間違いなく美希よ。

「きっとこっちに気づかなかったのよ」
「そう、なのかな」

こっちを見たのはきっと気のせいだと自分にも真にも言い聞かせた。
ただ、この日から同じような事が何度か続いた。

「……もしかしてボク、美希に避けられてる?」
「さぁ……、本人じゃないからなんとも言えないわ」
「美希に嫌われちゃったのかなぁ……」

美希は真を避けているのは誰の目にも明らかだった。
美希が何を考えているのかはわからないけれど、
そのおかげで真はよくため息をつくようになった。

「美希、どうしたんだろ……。ボク、何かしたかな?」
「別にあなたは何もしてないでしょう。
 あまり思いつめても良くないわよ」

落ち込む真を見ているのはこっちが辛かった。
ただ、今回の件で一つ確定した事がある。

「……真、あなたやっぱり美希の事が好きなんでしょう?」
「へ?な、何言ってるんだよ。そりゃ美希の事は好きに決まってるさ」
「そうじゃなくて、あなたはもう美希に対して恋愛感情を持ってるのよ」
「な、違……」
「違わないわ!
 あなたは自分で気づいてないのかも知れないけど、会う度に美希の事ばかり話してるのよ!?
 まるで彼氏か彼女の事を話すように!」
「……!」

……あっ、つい熱くなってしまった。
真は俯いてしまった。

「……ごめんなさい、少し言い過ぎたわ。
 でも、あなたが美希に対して特別な感情を抱いているのは確かよ」
「ボクが、美希を……」
「あなたが女の子に対してそういう感情を抱く事に抵抗があるのは知ってるわ。
 でも、あなたは……」
「……やっぱり、そうだよね」
「真……?」
「自分でも薄々感じていたんだ。
 もしかしたらいつの間にか美希の事が大好きになってたんじゃないかって。
 でも、ボクは女の子なんだからってずっと言い聞かせて気持ちを押し殺してた」
「……」
「でも、そうやって気持ちを押し殺すほど胸が締め付けられるようで……。
 やっぱり、ボクは美希の事が好きなんだよね。
 ボクは美希の事を好きになっちゃったんだよね……」

真は目に薄ら涙を浮かべながら、今まで押し殺していた感情を吐露した安堵から微かに笑っていた。

「真……、あなたは今まですごく苦しかったんだと思う。
 でも、もうそうやって苦しむ必要はないわ。
 あなたの気持ちを美希に伝えなさい。
 美希ならきっとあなたに応えてくれるわ……」
「千早ぁ……。うぅ、うわぁぁぁぁ!」
「真……!?」

真は私の胸に飛び込んできて、思い切り泣きはじめた。

「真、私の胸で良ければいくらでも貸すわ」
「千早ぁ、あり、がとう。ひっく、……うぅっ」

泣きつづける真をしばらく宥める。
このまま真が私の胸で泣きつづけてくれたなら……、なんて考えてしまう自分に嫌悪感を抱く。
そう、真が好きなのは私ではなく……。
しばらくして真が落ち着くと、真は私から離れてしまった。

「千早、ありがとう。おかげでちょっとすっきりしたよ」
「そう……。それなら良かったわ」
「……ボク、美希に今の気持ち伝えてくるよ。
 今の美希がボクの事をどう思ってるのかはわからないけど、
 とにかくボクの方から前に進んでみるよ」
「……」
「それじゃ、ボクはこれで。
 ……千早、本当にありがとう」
「さっさと、行きなさいよ……!」
「……ゴメン」

どうしてだろう。
さっきから涙が止まらない。
私は自分で思っていた以上に真の事が好きだったのかも知れない。
美希、真を幸せにしなさい。
もし真を不幸にしたら私が許さないわよ。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます

メンバー募集!